優等生の秘密
アサト:作

■ 17

 自らが吐き出した精と、夏美の蜜のぬめりで、硬さを失った貢太のものは、夏美の中からゆっくりと滑るように外へ出た。精液の白と、夏美が処女を失った証の赤が混じったものを見て、貢太は初めて自らのしでかした事の重大さに気づいた。
「夏美……お、俺……っ……」
 何か言おうとする貢太を半ば無視し、夏美はよろよろと服をかき集めると、それを身につけた。そして、乱れた服装のまま、教室の外へと駆け出した。
「夏美……っ!」
「女子トイレまで追いかけるの?」
 聡子の冷静な声が、貢太の背中に投げかけられた。言葉の意味が分からない、そう言いたげな貢太に、聡子は妖艶な笑みを見せた。かすかに潤んだ瞳と、紅潮した頬、しっとりと汗ばんだ肌が、その色気を増大させていた。
「中に、全部出したからな……」
「それ、結構きついのよ? お腹痛くなって……」
 バツが悪そうに苦笑する加藤を、聡子はにらみつけるフリをした。そして、汗を拭いながら、緩やかな動作で、下着を身につけ始めた。それが合図であったかのように、京介と加藤も服を身につけ始めた。慌てて貢太も服を着る。
 全員が服装を整えても、夏美は戻ってこなかった。心配になって、落ち着きなくその場をうろうろと歩く貢太に、聡子は小さくため息をついた。
「そんなに心配なら、迎えにいってあげたら?」
「どの面下げて、行けって言うんだ? 俺は……」
「あら、いいじゃない。あなたは夏美ちゃんより成績良かったのよ? ルール上は、何の問題も無いわ。」
 そう言い捨てる聡子に、貢太は胸の奥から怒りがこみ上げてくるのを感じた。
「……じゃあ、辻野も、俺が辻野よりいい成績取ったら、何の問題も無い、そう言ってヤらせてくれるんだな?」
「……えぇ。」
 一瞬躊躇ったものの、聡子は笑みを崩さずにそう言った。京介が背後で眉をひそめているのも、気配で分かった。貢太は、聡子が少し動揺しているのを見抜いていた。絶対に負けるはずは無い。それは聡子の中で、あまりにも脆い自信だった。最下位だから、そう侮っていた貢太の実力は、このクラスで4位のものだ。もしかしたら、自分を超えるかもしれない。むしろ、そっちの方が可能性としては大きい。
「聡子。大丈夫だ。こいつが俺を超えることはありえない。」
 聡子の不安を見抜いたかのように、京介は他の者に聞こえないよう声を潜めて言った。そう、たとえ貢太が聡子の成績を上回ったとしても、京介がそれを許さなければいいのだ。

 教室のドアが静かに開き、夏美が姿を現した。ずっと泣いていたのか、その目は赤く腫れていた。
「……全員そろった所で、今日の勉強会は終わりだ。来週も、同じ時間にここで勉強会を行う。」
 京介はそう言って、荷物をまとめると、聡子の肩に手を回して抱き寄せた。そして、そのまま静かに教室から出た。加藤も何も言わずに教室を出た。
 荷物をまとめ終わっていたものの、貢太は教室から出られずにいた。夏美は何も言わず、のろのろとした動作で荷物をまとめている。
「夏美……ごめん。」
 一瞬、夏美の手が止まったが、すぐに先程までの動作を繰り返し始めた。
「……謝っても、許してもらえないぐらいひどい事したってのは分かってる……けど……」
「好きだったんだよ、貢太の事。」
 ふいに発せられた言葉に、貢太の表情が強張る。ゆっくりと振り返る夏美の顔には、この勉強会に来る前の、快活な少女の顔は無かった。絶望し、すっかり生気を失った目が、真っ直ぐに貢太を見つめていた。
「夏美……」
「……同情なんて、欲しくない。私、絶対特進クラス入るから。」
 そういい捨てて、夏美は荷物を手に、そそくさと教室を出て行った。貢太は、しばらくの間その場に呆然と立ち尽くすしかなかった。

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