2004.03.20.

亜樹と亜美
03
木暮香瑠



■ 出会い系サイトの罠3

 その日、亜樹は遊び歩くことも無く自分の部屋で『レイプ魔』と名乗る彼とメールをしていた。土曜日の夕方のことだった。お互いに名前こそ明かさないが、日々の出来事や勉強の話をメールでしていた。彼が友達と出かけるということで、メールのやり取りは一時休止ということになった。亜樹の心に、また暇な空間が出来ていた。なぜか虚無感を感じる。そして、身体の奥が疼いた。
(どうしたんだろ? 昼間から……)
 身体を捩ると乳首がブラジャーに擦れ、疼きを感じる。
(いやっ、どうして? どうしてこんなに……)
 スカートの中に手を忍ばすと、淫芽がしこり始めていた。
「ああっ、ううっ……」
 指が触れた途端、背筋がピクンッと仰け反り声が漏れた。

 亜樹は、理性を抑えきれずに指を亀裂に這わせていった。
「ああん、あん……、どうして……? どうなっちゃったの? わたしの身体……感じちゃう……。まだ、昼間だというのに……」
 昼間からオナニーにふける自分が、とてもイヤらしく感じてしまう。しかし、動かす指を止められない。
「あん、だめ……。まだお昼よ、亜樹……」
 亜樹は、甘美な刺激を求めパンツの中に指を忍ばせていった。



 官能の渦から開放され、嫌悪感の中、亜樹はぼんやりとタバコを吹かしていた。どうして昼間から感じてしまったのだろう。そんな疑問を抱きながら、窓の外に煙を吐き出していた。

 ふと、亜樹が窓の外を覗くと、前の道に見覚えのある二人を見つけた。夕闇の薄暗い中、俯く亜美と、亜美の肩に手を置く健吾だった。通りには、二人以外誰もいない。いつもとは違う緊迫感が、二人を包んでいる。緊張した二人は、二階からの亜樹の視線にも気付かないようだ。健吾が何か喋っているようだが、小声で呟いているのだろう。亜樹の所までは聞こえてこない。俯いていた亜美が、瞳を閉じたままゆっくりと顔を上げた。上を向いた唇に、健吾の唇が重なっていく。数秒のキスが、亜樹には何分にも感じられた。

 二人の唇が離れ、亜美は再び俯いた。亜美の頬が赤く染まり、口元が嬉しそうに微笑む。遠目からでもその幸せそうな表情が見て取れた。何かに満ち足りた至福の表情に思えた。
「亜美……」
 亜樹は、窓から顔を背け部屋の壁に目をやった。なぜだか判らないが、大粒の涙が頬を伝った。



《 レイプされてもいいよ。つまらないの。めちゃくちゃにされたいの。めちゃくちゃにして…… 》

 メールを打つ手が震える。しかし、携帯の画面には、綺麗な整った文字が並んでいく。亜樹の心の乱れなんか読み取れない。

《 レイプごっこだから、わたしも思いっきり嫌がるからね……。そのほうがいいでしょ。あなたも、思いっきりレイプして。めちゃくちゃにして……。服も、もういらない服着ていくから、破いてもかまわないよ。何をされてもかまわない、安全日だから。志野川神社で九時に待ってる 》

 亜樹が指定した志野川神社は、家に程近い裏山にある。子供の頃よく遊んだところだ。しかし最近では、そこで遊ぶ子供たちを見ることはなくなっていた。森に囲まれた境内は、祭りの日でもない限り人が訪れることも無い。住宅街と神社のある森の間には幹線道路があり、悲鳴を上げても声は車の音に掻き消されるだろう。レイプごっこには、最適の場所と思われた。

 亜樹は、携帯で自分の顔を撮影しメールに添付した。

《 他の人と間違えたら犯罪になっちゃうね。顔写真も送っておくね…… 》

 メールを送信したあと亜樹は、昂ぶった気持ちを押さえるように、ふうっと大きな溜息を尽いた。

 最後のメールを送った後、亜樹は外出した。出かけ際に、母親の声がする。
「亜樹、もうすぐ夕食よ。食べないの?」
 亜樹は、答えることなく夕闇の中、出ていく。
「もう……、返事くらいしなさい」
 亜樹の背中に小さく母の声が聞こえたが、振り返ることもしないで出かけた。

 少し歩けば繁華街に出る。すでに日は落ち、群青色の空を西の方だけ茜に染めていたが、街はネオンや商店街の看板の明かりで昼間のようだ。ゲームセンターや人込みの雑踏がうるさく響いている。しかし、亜樹には静寂の中を歩いているように感じた。これから遭遇する危険な遊びが、亜樹に多大な緊張感を与えていた。

 緊張感から逃れようと、いつもの遊び場所である繁華街をぶらぶらと歩いた。しかし、何にも興味を惹くものが無く、虚ろな視線のままただ歩くだけだった。どのくらい時間が経っただろう。携帯に目をやると、画面にはデジタル表示で八時を示している。ここから志野川神社まで、歩いてちょうど三十分である。自宅からなら、志野川神社まで十五分もかからない。

 亜樹は、少し早いが待ち合せ場所の志野川神社に向かって歩き出した。ほどなく、住宅街と志野川神社のある森を分ける幹線道路を渡る。大きな鳥居の前から、ふと夜空を見上げると雲ひとつ無い空に満月が浮かんでいた。静寂の森が、群青色の空に黒く佇んでいる。その真中を二つに割るかのように参道が森の中に続き、その先には境内がぽっかりと白く浮かび上がっていた。

 亜樹は参道に入り、鳥居の影から人目を避けるようにして携帯を取り出した。八時三十分……。時間を確認し、亜美の携帯にメールを送った。

《 亜美、相談したいことがあるの。九時に志野川神社まで来て……。秘密の相談だから、誰にも言わずに来て……。亜樹 》



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