■ ロマンチック街道2
市庁舎前のマルクト広場で車を停め、辺りを見渡す。
南面ファサードの壁に人形仕掛時計を見つけボーと眺めていたら警官がやってきた。
「ここは駄目!」といいながら指を指して「向こうに停めろ」と言う。
龍太は舌打ちして車をターンさせ広場の端に行く。
そして縁石に片輪を乗り上げて車を停め、どうしたものかと考える。
(俺一人で食べるのも虚しいしなー)
少し考えてから少女の手を取って揺さぶる、少女はアッとした顔で起きあがった。
「君…ソーセージ食べないか?」
「うーん、お兄ちゃんさっき食べたじゃない」と返す。
「少しだけならいいだろ?」
「う…うん…」
おばあさんはまだ寝ている、起こそうかと思ったが、それを感じたのか少女が目で遮った。
二人して車を降り、そっと音をたてないようにドアを閉め少女と顔を見合わせる。
そしてどちらからともなく微笑み合う。
少女がすっと手を繋いできた、その自然さに龍太は手が解けず逆に握り替えしてしまう。
少女が安心したようにこちらを見上げ明るく微笑んだ。
(なんて可愛い子なんだろう…)改めて少女を明るい陽光に照らして見た、その品の有る愛くるしさと可憐さに感嘆し、龍太は正直ドギマギしてしまう。
肉屋の軒先に幾本ものソーセージを吊した店に入る。
龍太の友人が以前勧めてくれた血のソーセージと、聞いたこともない名のソーセージもメニューから選んで注文した。
すぐに焼き上がったソーセージが運ばれる、その多さに龍太はビックリ。
少女はませた顔で…肩を上げ、「お兄ちゃん、こんなに注文して」とあきれ顔で苦笑した。
龍太は「お婆ちゃんに持ってけばいいよ」と嘯き、血の入ったソーセージを頬張った。
(ゲッ…臭いしなんてマズイの)
一口で食べるのをやめ、隣のソーセージを切って口に運ぶ。
(オッ! これならいける)
ふと見ると少女は旨そうに血のソーセージを頬張っていた。
(やっぱり俺の味覚がおかしいのかなー)
半分以上のソーセージを残し、勿体ないからと店員に袋に詰めてもらい店を出る。
途中、市庁舎の壁に変な看板を見つけた
(拷問博物館…?)龍太は興味をそそられ、少女の手を引いて地下に降る。
ここは昔、監獄として使われていたらしく中世の陰残な処刑・拷問の器具が展示してあった。
(日本じゃこんな博物館、絶対あり得ないよなー)と思いつつ見て歩く。
少女は途中から気持ち悪いと言い、少し怒った顔で「外で待ってる」と言って引き返してしまった。
あるコーナーで奇妙な器具に興味が湧く、どうも女性用の拷問器具らしい…
それは棒状の器具で根本を廻すと棒の周囲から針のようなものが出る仕掛け。
(痛そー、しかしよくもまーこんな陰湿なものを考えるもんだ)
(実際…これは使われたんだろうか?)龍太は手に取ろうとしたが係員の視線を感じ、出しかけた手を思わず引っ込めた。
龍太は器具を見ながら貴族女性が恥ずかしいところに無理矢理この棒をねじ込まれ、針の痛みにのたうち回る光景を想像してみた。
妙にペニスが硬くなってくるのを覚える(俺って…Sなのかなー)。
外で何気ない顔で佇む少女、陽光が後ろから射し、金髪というより淡いベージュに近い長い髪が風に揺らいでいた。
それはハッとするほどの美しさであり、龍太の胸は鋭く高鳴った。
見るたびに美しさが変化する少女…龍太はその美に神秘的なものを感じた。
「ゴメンネ待たせちゃって」
「お兄ちゃんたら…あんなもの見るなんて」
少し怒ったような顔で龍太を見る。
(怒った顔も可愛いい…)
「せっかく立ち寄ったんだからもう少し街を見て歩こうか」
「うん…」
「私たち…いつもここは素通りするの、だから一度は寄ってみたいと前から思ってたの」
二人は中世のロマンチックな建物郡を見ながら、たわいもない会話を囁きゆっくりと歩く、握り合う手は次第に汗ばみ互いの鼓動が甘く伝わってきた。
城壁内の旧市街に再現された中世の街並みを歩き…ブルグ公園の塔に立ち寄り、歩く人にカメラを渡して写真を数枚撮って貰った。
そして城壁の西に突き出た公園に行き、ブラジュウス礼拝堂からタウバー川を望んだ。
眺望の素晴らしさに暫し二人は酔いしれ、時折顔を見合わせては共感の想いを微笑みあった。
この時…龍太の心に奇妙な感覚が芽吹く
(この少女とは以前に出会ったような…?)
(この感覚って…)
西日を背にし、公園を振り返りながら龍太はまた少女の横顔を見つめた。
少女は視線を感じたのか…可愛くはにかむ。
刹那、少女の目の奥に自分と同様の感覚を少女もこの時感じたんだと…何故か思った。
「それで君たちはこれから何処にいくの?」
「お婆ちゃんはここで降りてね」
「バスでアルトミュール川沿いのアンスバハっていう小さな町に行くの」
「そこで1ヶ月ほど行商するのよ」
「私はミュンヘンからビンペルクの家に帰るの」
「ビンペルク…聞いたことがないけど何処にあるの?」
「チェヒの森」
「チェヒ…?って」
「ええーと…ドイツ語だったらベーメンかな」
「ベーメンって言ったら…ボヘミア?、エエーそんなに遠くまで一人で帰れるの?」
「お兄ちゃんたら…ウフフ、私もう17ですよ」
「ええー17才だったの、俺はてっきり13〜4と思ってたよー」
「…私ってそんなに子供ぽく見えるのかなー?」
「でもヒッチハイクでチェコまで行くなんて…どう考えても危ないんじゃないの?」
「もう慣れてるもん」
「しかし…」龍太は心配になる。
こんな美少女がヒッチハイク…それも一人で。
(まるで小羊が食べて下さいと、言ってるようなものじゃないか)
「お婆ちゃんが目を覚ます頃、お兄ちゃんもう車に戻らないと…」
少女は龍太の手を取って快活に歩き出した。
龍太は手を引っ張られて歩き出すが少女の一人旅を思うと、何故か暗い気分に沈んでいった。
ローテンブルクの町はずれのバス停で婆さんを降ろす。
婆さんは少女のことを頼みますといつまでも手を振っていた。
龍太と少女は一路ミュンヘンを目指した。
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