2010.05.08.

百花繚乱
02
百合ひろし



■ 第一章 亜湖とさくら2

引退が出来る―――というのは大きかった。さっき社長がいった『あの男についていくよりは遥かにまとも』といったのを思い出した。
風俗業界は一度足を踏みいれると使い物にならなくなるまでは、やめさせてはくれないのである。

それから社長はルールを説明した。

1, ガチンコで闘う。ブック等は存在しない。
2, 1,ではあるがプロレスの醍醐味である、『相手の攻撃を受けて、それに耐え、そして返す』というのは鉄則。
3, 相手の技を受けるか、よけるか、返すかはお互いの技量の問題。2,の範囲内で、あくまで耐えて返す。
分かりやすく言うとショルダースルーのように如何にも待ってるから的な技や、コーナーに振っておきながらモタモタ攻撃してくるようなら避けるなり返すなりする事。
4, ハンマースルーは積極的に、ロープにコーナーに振りまくれ。そして振ったら直ぐ攻撃に移る事。
5, 観客席は無いが場外乱闘用の椅子はある。また試合の様子は専用の有料サイトで配信される。ここで言う観客とは、有料サイトを見ている人達の事を指す。
6, 技を掛けられた時に声を出す出さないは自由。声を出した方が観客には展開が分かりやすいが。
7, 凶器の使用は禁止、厳しくチェックする。場外の椅子で我慢する事。また、レフリーは審判であり、審判への攻撃は論外。
8, 3カウントで勝負を決めるようにする事。フィニッシュ技以外で気絶したらレフリーが起こす。ギブアップ狙いもあまりやらないこと。
9, KOを防ぐため、顔面攻撃を制限する。顔面は掴み技と平手のみ。
10, 服装は自由
11, 観客は試合でどちらが勝つかを賭け、当然賭けに勝てば配当が手に入る。そして勝利者にはファイトマネーが入る。一応少ないながらも基本給はあるので一勝も出来なかったとしても食いっパグれる事はない。

普段の亜湖なら説明を聞いたら、そこで帰らせて貰おうとしただろう。しかし、住む場所金も無い今は、食べていく為に何でもいいから仕事が欲しかった。
更にこれはプロレスであり東南アジアに売り飛ばされる訳でも売春でも無いし、しかも過去、生徒会長はしっかり引退している。その為、ここで暫く生活費を稼ぐのもいいと思った。
亜湖自身も、そしてさくらも体はそれなりに大きい上に運動はお互いに得意なため何とかなるのでは、とプラスに考える事にした。
いや、プラスにでも考えなければやっていられない、と言うのが今の自分達の置かれた状況だという事を、亜湖もさくらも良く理解していた。


「で、どうかしら? やるの? やらないの?」
社長は少し二人に近付いて聞いた。亜湖には、やらねばここを出た途端にさっきの男のようなスカウトマンに今度こそ連れて行かれてしまうだろう。その為、
「……やります」
と答えた。考える時間は必要無かった。しかし、その次の質問には直ぐには答えられなかった。
「コスチュームは何がいいかしら? 一応ここに居る人のコスチュームを教えておくと、変形のミリタリー、体操服、ゴスロリ、普通のレスリングスーツも居ればビキニもいるわ―――。自由とは言ったけど、本当に何でも有りよ。レフリーはメイドとゴスロリの二人ですしね」
と言った。亜湖とさくらはお互い顔を見合わせていた。要は、戦う格好なんて分からないからだった。二人とも何かしら格闘技の経験があれば、その格闘技で使ってた衣装でやれば済んだのだが生憎経験が無い。ならば体操服とかも思ったが、既に体操服姿の人と廊下ですれ違っているから二番煎じになってしまう感じがしたから―――。まあ尤も、相生高校の体操服はブルマでは無いのだが―――。

二人の服が入っているタンスは孤児院に戻ればまだ置いてある筈―――、落ち着いて考えて社長に時間を貰えばそういう選択が出来たのだった。そう、タンスを開けて、闘うのに相応しいコスチュームをゆっくりと考えれば良かったのだった。しかし二人にはそこまで心の余裕は無かったのである。


さくらはゴクリと唾を飲み込み一回自分に言い聞かせるように頷いた後、意を決した様にキッと前を見据えて亜湖の前に一歩進み出た。
「私は―――」
そう言い、ブレザーのボタンに手を掛けてボタンを外して脱いだ。更にネクタイを外し、ワイシャツとミニスカート姿になったが今度はスカートのベルトに手を掛けてバックルを外しベルトを引き抜いた。そしてスカートのボタンを一つ外すと簡単に、ストン、と床に落ちた。そして足元に落ちたスカートをまたいだ後、ワイシャツのボタンに手を掛け一つずつボタンを外した。
「さ……さくら……??」
亜湖は、今迄―――、そう、取り壊され行く孤児院を見てからさくらはずっと絶望的な表情を見せたり、亜湖の後ろでおびえた表情を見せていたのに―――、突然の変貌に驚いた。
さくらは最後のボタンを外すとワイシャツを両腕から抜き取り足元に落とした。そして社長に、
「私はコスチューム持ってないので、下着姿で闘います……。今の私には何も無いのでピッタリじゃないかと―――」
と言った。さくらは自分が今、物凄く大胆な事を言っている事に気付き、内心恥ずかしかった。社長は、かわいいピンクのブラジャーとパンティ、そして革靴と靴下のみの姿になったさくらの顎を人差し指でクイッと持ち上げ、
「あなた面白い娘ね。さっきまでとは顔付きが違うわよ。それに、下着姿で闘おうなんて娘は初めてよ」
と言った。さくらは、顎に指を当てられた事でさらに気恥ずかしくなり、社長を見据えた状態のままながらも顔が段々赤くなっていくのを感じていた。そしてそのままの状態で、
「ここで私たちがモタモタしていたら、社長さんの気が変わるんじゃないかと……」
と答えた。さくらはそれだけは防ぎたかったのだった。
今迄亜湖に沢山教えてもらい、そして沢山助けて貰った。そして亜湖の友達も亜湖が居たからこそさくらに良く接してくれたのである。もし、ここでモタモタした事により社長の気が変わり、追い出されてしまっては―――。
またさっきのようにスカウトマンに捕まりそうになった時に亜湖は自分を犠牲にしてさくらを助けようとするだろう―――。それだけは防ぎたかった。その為に今の自分に出来る事と言ったらこれ位しか思い付かなかったのである。
亜湖はそのさくらの覚悟を見て一息ついてから、
「さくらがそれで行くなら……」
と言ってさくらと同じ様に服を脱ぎ始めた。ブレザーとネクタイを脱ぎ、そしてさくらとは逆にワイシャツを先に脱ぎ、最後にスカートを落とした。
「私にももう何もありません。そんな私でも折角、ここで闘えるんだから……今闘える格好はこれしかありません。だから私も下着姿で闘います……」
亜湖も下着姿―――薄い水色のブラジャーとパンティ姿になり、今言った事に偽りは無い事を証明する為に腕を後ろで組んだ。胸を突き出す格好になり、逆に後ろは背中が凹んだ為にブラジャーのホックの部分が少しだけ浮く形になった。
「二人とも下着姿―――か。ならば一つ注意しておくわ。まああなた達だけに当てはまる事ではないんですけどね」
と社長はさくらの顎から指を離し、先程までの制服姿から下着姿に変わった二人を見ながら言った。その内容は、
「ここはあくまでもプロレスだから、モザイクが掛かる事は禁止って事よ。パンティーは脱いではいけないし、脱がすのも禁止よ。まあ、椅子攻撃や鉄柵鉄柱、コーナー攻撃がある以上、ブラジャーが取れてしまう事は考えられますけどね」
という事だった。亜湖とさくらはここまで来たら後には引けない、という思いから社長のその説明に対して何も言わずに頷いた。もう覚悟を決めるしかない―――、いや、服を脱いだ時点で後には引けない覚悟は決めていたのだ。


「覚悟は決まったようね―――尤も決めずに勝てる程甘くないのでそのつもりで」
社長はそう言い、亜湖とさくらを見据えた。そう―――、先程スカウトマンを追い返したその視線だった。亜湖もさくらも何とも言えない恐怖心に襲われた。さっきは社長は帽子を被っていたので亜湖やさくらからはその視線は見えなかったが今度ははっきりと亜湖とさくらを見据えていた。社長はその場を動かずにただ二人を見ているだけで、襲ってくる訳でもなんでもない。しかし、亜湖とさくらにはなにやら巨大な化け物が今にも襲い掛かってくるように見えた。
「亜……湖……センパ……イ。こ、怖い……」
「私……も、でも、でも逃げちゃ駄目」
亜湖とさくらはお互い手を握り合い歯を食いしばって体を寄せ合い、社長から自分達も目を逸らさずにその視線に耐えていた。お互い足が一歩ずつ下がりそうになったが、亜湖は、自分が下がったらさくらを助ける者が居ない、もう自分以外に誰がさくらを助けるんだ、と思い、またさくらは、自分が下がったらまた亜湖センパイが大変な目に合う、と思いお互いに下がらなかった。
「二人共大した度胸ね。先が楽しみだわ―――」
社長は、そう言って先程の視線を解き、普段の、今迄の表情に戻った。そして銀蔵を呼びある事を言った。


「ここが練習室です。実際の練習も出来るしトレーニングも出来ます。使用する時はこの札が使用中になっていないか確認するように」
二人は銀蔵に場内を案内された―――。下着姿の状態で。銀蔵の足音と、亜湖とさくらの足音が廊下に響き渡った。練習室は合計で4つあった。その内の2つが使用中になっていた。練習室の他に更衣室を案内された。
「ここでコスチューム姿になってください。あなた達の場合は、服をロッカーにしまって下さい」
銀蔵はビジネスライクに、決して下着姿の二人に対していやらしい視線を送ったり、この説明の時もいやらしく”服脱いじゃってね”等言ったりしなかった。あくまでも亜湖やさくらが服を脱ぐ事を『着替え』として説明をし、先程二人が脱いだ制服をいつのまにか纏めていたのか―――そう、社長の視線に二人が耐えている間に銀蔵が纏めていたのである―――、制服の入った袋を亜湖とさくら、それぞれに鍵と一緒に渡した。
亜湖とさくらはそれぞれ自分に割り当てられたロッカーに制服の入った袋をしまい、鍵を掛けた。

その後、控え室を紹介された。
「試合のある人は着替えた後ここに入って待機しています。大体20〜30分前に入ればいいでしょう」
亜湖とさくらは頷いていた。控え室に入った後でロッカーの鍵を所定の位置のフックに掛けて置くのである。実際に亜湖とさくらを控え室に入れ、鍵をフックに掛けさせた。
「今日の試合はあと1試合しかない。そろそろ来る筈だから廊下で待っていようか。先輩への挨拶も含めてな」
と言って二人を廊下に出し、自分も出た。

その時、一人の女の人が来た。
「あら、こんにちは。新人なの?」
と言った。身長は亜湖よりは低くさくらとほぼ同じ位、165cm程で、ロングのストレートの髪を背中まで伸ばし、メガネを掛けていた。メガネの下の表情は少しだけ冷たそうな目をしていたが美人といっていい顔だった。上はジャケットを着て下は膝の辺りまであるスカートを履いていて、なんと表現すればいいのだろうか?
ベランダで椅子に座りながら読書をしている姿が非常に似合いそうな感じの人だった。そんな人が何で今ここにいるのか分からないというのが正直な所だった。
「今日入りました。長崎亜湖です。宜しくお願いします」
亜湖はその人に頭を下げて挨拶した。さくらも亜湖に続いて挨拶し頭を下げた。女の人は、
「そう―――宜しくね」
と答えた。その時彼女のメガネの奥の目がどす黒く輝いた事に亜湖もさくらも気が付かなかった。
「では、私は急ぎますので―――」
笑顔でそう言って、その女の人は更衣室に入って行った。



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