2004.10.15.

国取物語
03
しろくま



■ 3

一方城では。
クリス「父さん、私はレオナを・・・洞窟に向かった部隊を救出に向かいます!」
クリスの叫び声が聞こえる。
アレク「しかし、第2騎士団は今や13名。お前達が向かったところで・・・」
クリス「しかし! まだ死んだと決まったわけではありません! どうか、兵をお貸しください!! お願いします。」
今のクリスには冷静な判断が出来ていない。精鋭揃いの騎士団でさえオークを倒すことは困難である。一般の兵士を何人連れて行ったところで、結果は見えている。
アレク「分かっている。何もわしとて、みすみす見殺しになどしたくない。しかし・・・」
そこへ1人の男が部屋に入ってきた。
その男「アレク様。彼らの救出には我々第1騎士団をお使いください。」
彼は第1騎士団の団長のボルス。第1騎士団はちょうど今しがた、任務を終えて帰還したばかりだった。
アレク「・・・そうだな。ただ、討伐隊隊長のクリスの下についてもらう。いいな?」
ボルス「はっ!」
クリス「・・・・・」
クリスは何も言わず頭を下げた。

ボルスは第1騎士団の団長にして、全騎士団の団長の総大将であった。
ちなみに、第1〜第3騎士団は城や都市及び都市周辺の警護を勤める。そして第4、第5騎士団が国境、特にスーザン帝国の行動を監視する。第6騎士団は情報収集など特殊な任務を担当する。
第1騎士団は、先ほどまで第2騎士団の代わりに、町の中で暴れていたオークを1匹始末していた。メインの討伐隊は第2騎士団ではあるが、臨機応変に対応させている。
アレク「しかし、一時的にとはいえ町の守りが薄くなることになる。これ以上兵を就けることは出来ない。」
確かに、兵は足りなくはないが、余っているわけでもない。
クリス「構いません・・・感謝します。」
そしてボルスとクリスは部屋を出た。
クリス「ボルスおじさん。ありがと!」
クリスは親しげに話しかける。仕事の時の態度とはまるで違う。
ボルス「何言ってるんだよ! 水臭いじゃねーか。」
2人は非常に仲が良かった。そしてボルスは、クリスのかつての上司でもあった。
ボルスの年齢は40歳、ベテラン騎士である。クリスが入団する時に世話になって以来、年は離れているものの、友達のような関係が続いている。第2の父とも呼べる存在である。
彼は、クリスに剣の指導も施しており、彼女が騎士団において《王女》としてではなく、1人の《騎士》として接しられてきたのも、このボルスの協力あったからこそであった。
そのため、アレクからの信頼も厚く、彼も安心してクリスを任せられたのである。
ボルス「ではクリス隊長! さっさとレオナちゃん達を助けに行くぞ!!」
クリス「うん!」
相当ボルスになついているようである。普段の冷静な雰囲気は感じられない。いや、これが本当のクリスの性格であろう。普段の冷静さは、団長という仕事の重圧と、周囲からの期待に応えるべく、緊張していたからだと考えられる。
第1と第2騎士団、総勢63名の部隊で洞窟に向かうことになった。
出発の準備を整えているクリスに、ある科学者が声をかける。
科学者「クリス様! これをお持ちください。」
クリス「これは?」
科学者「まだ試作段階なのですが・・・そのピンを抜くと、3秒後に爆発を起こす、そんな代物です。ぜひ、お使いください。」
いわゆる手榴弾なのだが、恐らくこれほど精密な作りの兵器は、世界中探してもどこにも存在しないであろう。
クリス「すまない。ありがたく頂戴する。」
そして第1と第2の連合騎士団は城を後にした。

ボルス「ここに間違いあるまい・・・」
クリス「では、中にはいるぞ!!」
彼らは洞窟の内部に足を進める。そして、レオナ達が戦闘をした地点にまでたどり着く。
クリス「!!!!」
ボルス「・・・これは・・・ひでぇ・・・」
そこで彼らが目にしたものは、第2騎士団の団員たちの屍の山であった。
クリス「そ・・・そんな・・・みんな・・・」
異常な光景を前に、皆ショックを受けていた。
そんな彼らの前に、5匹のオークと、新手の化け物が姿を現す。まだ知られてはいないが、もちろんその化け物は《オーガ》である。
奥の方には女性が4名、裸にされて縛られた状態で倒れている。
クリス「レオナ!!!」
クリスが飛び出そうとするが、ボルスに止められる。
ボルス「クリス・・・奴らを殲滅するのが先だ・・・」
そう言われ、クリスも冷静になる。そして、団員たちはジリジリと距離を詰めていく。
先に攻撃を仕掛けてきたのはオークであった。しかし、ボルスがその攻撃を盾で受け止め、大斧でオークの頭を叩き潰す。
恐らく、オークの怪力に、曲りなりにも対抗できるのは、この国において、ボルス以外に存在しまい。
当初、戦況は騎士団のほうが圧倒的に優勢で、5匹のオークは瞬く間に倒された。
しかし、オーガだけは別である。その、オーク以上の圧倒的な怪力と速さで、団員たちは次々に倒されていく。騎士団の中で、彼に何とか対抗できるのはクリスとボルスの2人だけであった。
ボルス「クリス! 先ほどの爆薬を俺に貸せ!!! このままでは・・・」
クリス「う、うん。でも、あのスピードでは・・・」
ボルス「いいから早く!!」
そう言われ、クリスは爆薬を手渡す。この時、すでに団員の半数が殺されていた。
ボルス「うおぉぉぉぉ!!!」
ボルスが無謀にもオーガに向かって突進する。するとオーガは、抜き手でボルスの身体を貫いた。
ボルス「がはっ!!!・・・畜生・・・」
クリス「ぼ・・ボルス!!!」
しかしボルスは、先ほどの爆薬のピンを抜き、オーガの口の中にねじ込む。捕まえるためにわざと接敵したのであろうか。
オーガ「むがっ・・・・き、貴様!!!」
ボルス「3・2・1・・・死ね!!!」
オーガの口の中で大爆発が起こる。普通の人間ならば粉々になるほどの爆発だ。強靭な身体を持つオーガは原型こそ留めていたが・・・
この戦いで生き残った者は25人・・・ボルスもその後、息絶えた。
クリスはレオナたちを救出する。レオナはその後も、相当な暴行を受けたのであろう、意識が朦朧としている。
レオナ「あ・・・く・・りす・・・」
クリス「レオナ!!! ごめんね・・・でも、もう大丈夫だから・・・」
そして4名を救出した騎士団は洞窟を後にする。辛くも勝利したが、失ったものは大きい。クリスは泣きながら城へと向かった。



アレク「そうか。ボルスが・・・・」
アレクも悲しい顔をしている。もちろん騎士団の総大将を失い、実際問題として、厳しい状況におかれてはいる。しかしそれ以上に、1人の友人を失ったことへの悲しみが大きかった。
クリスもまだ、ボルスを失ったショックから立ち直ってはいない。
そして翌日、あの洞窟では葬儀が行われた・・・
ちなみに被害にあった女性はレオナを含め8名。最初にさらわれた2人は、いまだ発見されていない。オークたちも、一枚岩ではないようだ。
レオナの心の傷はまだ浅く、翌日からクリスと話しをすることが出来た。しかし、他の女性は心を病み・・・・・
レオナが一番心配していたことは、自分が妊娠したのかどうか、それだけであった。仮に、交配が可能であっても妊娠したかどうかは分からない。
医者は「きっと大丈夫だから」と励ましていたものの、それは気休めである。あれだけ大量の精液を、それも何度も何度も流し込まれては・・・
あのような化け物に犯される、ただそれだけでも相当ショックであろう。しかし、化け物の子をその身に宿すなど、あってはならないこと。もし、妊娠してしまうようなことになったら彼女は・・・
しかし、クリス達に心を落ち着かせる暇などなかった。

兵士「アレク様!!!」
突然、ある兵士が王の部屋に飛び込んでくる。
アレク「どうした? 血相を変えて。」
何も知らないアレクは、まだ落ち着いていた。
兵士「スーザンが・・・スーザンが侵攻を始めました!! 先ほど軍を動かし始めたのです!」
アレク「何だと!? 和平協定を結んだばかりなのだぞ? それに、スーザンはまだ軍を出せるほど兵が残っていまい?」
たしかに先の戦争で、スーザンの軍は壊滅的な打撃を受けた。今は最低限度の人数しかいないはずである。
兵士「そ、それが・・・スーザンの軍は・・・人間ではないのです!!」
そう、今侵攻を始めた軍は、そのほぼ総てがオークで結成されていた。中にはオーガの姿も見える。恐らく、オーガが指揮を出しているのであろう。
アレク「まさか・・・オークは・・・スーザンが!?」
スーザンは生物科学が進んだ国ではあった。オークが出没し始めたのは終戦の1年後。もはや疑う余地はなかった。
実際、知られてはいないが生物兵器の実験は5年以上前から進んでいたらしい。しかし、ロマリアのような、即戦力に繋がる兵器とは違い、戦争には間に合わなかったようである。
アレク「おのれ・・・しかし、応戦するしかあるまい!」
アレク「第2、第3、騎士団の団長をここへ集めろ!! そして、大砲の準備も進めておけ!!!」
兵士「はっ!!」
そうしてクリス達は呼び出された。
クリス「なんですって!? スーザンが?・・・こんな時に・・・」
アレク「いや、こんな時だからこそ攻めてきたのだ・・・ここ最近の、一連の事件は恐らくスーザンの手によるもの・・・」
クリス「そ、そう言えば・・・オーガが、自分のことは何も分からないって、レオナが言っていたわ!」
そう、オーガ自身には、なぜ自分がロマリアで暴れているのかを、まるで理解していない。
アレク「ふむ・・・ロマリアを混乱させるために、オーガどもを利用したとも考えられる。」
クリス「しかし、あのオーガが、強靭な肉体を持つオーガが、素直に人間の命令を聞くとも思えないわ?」
クリスは、オーガの恐るべき戦闘能力を、身をもって思い知らされた。そのため、スーザンがあのオーガを操っているなど信じられない。あのオーガを操れるはずなどない、と・・・
アレク「しかし、現実にオークの軍は侵攻を始めている!!」
アレク「よし! 全兵力をもって応戦する! 各騎士団は兵士団を引き連れ、第4、第5騎士団と合流! その後攻撃を仕掛けろ!!」
また、戦争が始まってしまった・・・



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