2006.03.02.

黒 い 館
02
けいもく



■ 2.ハーレム

 目が覚めると、そこは、確かに見覚えのないところでした。いつの間にこんなところに来たのか不思議な気がしました。

 近くに建物がありました。黒いレンガ造りのアンチークさを感じさせる洋館でした。屋根まで黒く塗られていました。山ののどかな風景に異様な建物が聳え、魔物の巣窟といった様相を呈していると思いました。

 わたしは空腹でした。周囲は薄暗くなって道もわかりませんでした。人がいるなら助けを求めなければなりませんでした。気味の悪さを感じながら扉をたたきました。

 そして、中からあらわれた男にある種の眩暈を覚えました。その男こそ、夢の中でわたしの身体を蹂躙した男だったのです。

 もし、わたしに十分な体力が残されていれば、そのまま逃げ出していたかもしれません。しかし男は、夢とはちがい、優しげでした。笑顔でわたしを部屋にいざないました。

「道に迷ったのですか、怪我もされているようだ。夜の山道は危険だから、一晩ここで泊まって、明日、帰ればいい。駅までおくりますよ」

 そして「裕美」と大きめの声で呼びました。

 隣室からあらわれた裕美さんは三十代半ばくらいでしょうか、背が高く、すっきりした目鼻立ちは、どこか西洋的な雰囲気を漂わせる女性でした。

 白いシンプルなブラウスにミニスカートをはいていました。ブラジャーは着けていないようで、豊満な乳房の線と乳首が透けて見えていました。

「あまり見つめないで」
 裕美さんは、笑いました。
「ここにいる女の制服みたいなものなの」

 男は、「ハハハ」と何事もないように笑いながら、「こちらのお客さん、恵子さんでしたね。夕食をお出しして、俺と同じものだ」

 裕美さんは、「ハイ」と返事をして別の部屋に消えていきました。

 男は、私をソファーに座らせ、自分もゆっくり腰を下ろしました。古びた、それでいて清潔感だけは、たもたれたソファーでした。

「最初にことわっておきたいのだが、君がこれから見ること、体験すること、すべてが異常だと思うかもしれない。でも、ここではそれが普通の生活だということをわかってほしい」
 男は涼しげな眼をしていました。

「ここではね、おれを含めて、全部で六人が生活している。男はおれひとりで、あとはすべて女だ。いってみれば、ハーレムみたいなものかな」
 男は笑って見せました。

 私に恐怖心を抱かせないようにと配慮しているのだと思いました。

「でも君はお客様だ。君には何もしない」

 いつの間にか、裕美さんはまた戻ってきていました。「あうん」の呼吸というものでしょうか。

「第一、おれは女に飢えていないのでね。君は疲れているし、空腹でもあるようだ。ゆっくり、ここで休んでいけばいい」

 それだけ言うと、男は、傍らに立っている裕美さんを振り返りました。

 そしてブラウスの前ボタンをはずし、手を差し入れ、豊かな乳房をわしづかみにしました。

 突然だったので、裕美さんは少し驚いたようでしたが、拒みはしませんでした。わたしにはむしろ乳房を前に突き出したように思われました。

 男は、ブラウスを肩からはずし、裕美さんの上半身をあらわにしました。そして、今度は、乳首に口をつけて吸い始めました。始めはおいしそうにすっていたのですが、やがて大きく口を開けて、乳房ごと飲み込むようにしたとき、

「ウーッ」

 じっと立って、されるままになっていた裕美さんの低いうめき声が聞こえました。表情も苦しそうでした。どうやら、男は歯を立てているようでした。

 やがて、男の口が離れた乳房に歯形のようなものが残されているのがわかりました。

「裕美はね、ちょっと年増だが、なぜか、この胸を吸っていると、気が安らぐんだ。母性を感じるような気がしてね」

 男は裕美さんの乳首を指先ではじきました。裕美さんの全身が、少し震えたようでした。そして、男は、裕美さんの腰を抱き寄せるように自分のひざに乗せ、あごをつかみ、唇を吸いました。

「すると、ちょっといじめてみたくなる。子どもが母親を困らせているようなものかな。もっとも、同じ歳なのだが」

 話しながらも、男は指先で乳首を挟んだり、乳房の歯形のついた部分に爪を当てたりしていました。

 裕美さんの身体を好きなように弄んでいる男も、好きなようにされている裕美さんも、平然としていました。それは、ここでは日常的にこういうことが行われているということの証でしかありませんでした。

「痛いか」男は、裕美さんの頬や耳たぶをなめながら聞きました。

「痛いわよ、そりゃぁね」
 でも、裕美さんの顔は、怒っていませんでした。悲鳴を押し殺したように、じっと、耐えていました。

「だけど、最近はあまり裕美を抱かないことにしているんだ」

 男は、ポツリと言いました。半裸の裕美さんを抱きしめながら、何を言っているのだと思いました。でも、なぜか寂しそうな言い方でした。

「裕美、スカートをたくし上げて、明日香さんに見せてごらん」

 裕美さんは、軽くうなずき、「ごめんね、明日香さん」といってから、両手でスカートの裾をつかみ、上にあげました。

 裕美さんは、パンティをはいていませんでした。黒い恥毛に男が指を絡めました。

「ここでは、女は下着をつけてはいけないことになっているんだ」

「明日香さんは別よ、お客様なのだから」

「ハハハ、当たり前だ。君がそんなに怖い顔をすることはない。君にはパンツを脱げなんてことは言わない」

 異様な雰囲気に不安げな表情を見せたわたしに、男は笑顔で言いました。

「君は、明日になれば、約束どおり、駅までおくる」

 裕美さんの股間から抜き取った恥毛を口にくわえ、裕美さんが取り戻そうとすると、あわてて飲み込んでしまったようでした。裕美さんは、苦笑いするしかありませんでした。

「裕美はここでは一番の古参だ。わからないことは、裕美に聞けばいい」

「明日香さん、案内するわ」と言い、ブラウスのボタンを留めて、立ち上がりました。

「驚いたでしょう」
 部屋を出ると裕美さんは言いました。

「ええ」
 わたしは、頷きました。

「これから、もっと驚くことがあると思うわ。わたしたちは、どんなことでもお館様に逆らってはいけないの」

「お館様?」

「さっきの人のこと。古風な呼び方でしょ。時代錯誤もいいとこ」
 裕美さんは続けました。
「お館様は、わたしたちの支配者なの。でも、この建物の所有者ではないの」

 その意味は、それからしばらく、わたしにはわかりませんでした。そのときは、単に借家なのかな、くらいに思っていました。

「ここはね、倒錯した性の館ね」

 言われるまでもなく、お館様の裕美さんに接する態度は、十分に怪しいものでした。

「でも、お館様は、約束は守る人よ」

 裕美さんは、立ち止まり「ここよ、みんなに紹介するわ」といって、ドアを開けました。



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