2006.10.27.

女麻薬捜査官和美
02
若光



■ 拷問編2

アイマスクが外された。久しぶりに視覚が取り戻された。暗闇から目が光に慣れるのに、いくばくかの時が要った。
 和美は足元にキーボードが置かれているのに気付いた。
「質問にはキーボードを足の指で、叩いて答えろ。お前の名前は?」
 敵の方が上だった。当然、轡が外されると和美は思ったのに。
「どうした、キーボードを叩けお前の名前だ。」
 和美はうなだれた。頭が下に下がり、唾液が鼻に入った。和美は鼻に入る唾液にはもう耐性ができていた。さほどむせもしなかった。軽く開いた足の間から拷問者の足だけが見えた。敵の顔を確かめようとした和美の捜査官としての任務を和美自身の性器と尻の肉が妨げた。陰毛の先からは五・六秒ごとに汗が滴り落ちていた。
「口を自由にするとでも思ったか。舌を噛もうとでも考えたのか? 我々が、そんな甘いと思ったか? ナメるな」
 鞭が和美の尻に走った。今度の鞭は乗馬用の鞭だった。男の怒りも加わったよりハードな打撃だった。和美の身体から汗が飛び散り、和美はつかの間の失神の忘我に逃避した。僅かな糞塊が和美の肛門から吹いた。小水はおそらくもう出る量がなく、出なかったろう。仮に出たとしても滴り落ちる汗との区別は困難だった。

 再び軽い電流を感知し、和美は意識を取り戻した。床上に大の字に四肢が、縛り拡げられていた。首の後ろに当たる何かがあり頭だけが下に下がった。両手は左右真っ直ぐに横に伸ばされ縛られていた。足は九十度に開脚されて縛り拡げられていた。どうやら机のような物に仰向けにされて頭だけが机から出ているのだろうと和美は想像した。さっきの逆さ吊りの鞭打ちが前菜で、これからが本当の拷問なのだと和美は覚悟した。
「殺してよ」
 和美は叫んだ。ギャグに潰れた声になった。アイマスクもそのままだった。
「殺して、と言ったか? それなら全て吐け。もう意地は通したろう。このあたりで、諦めろ。」
 和美は首を横に小さく振った。死ぬ自由も、視覚も、奪われた。和美の残された自由はギャグに押し潰された苦悶の悲鳴を上げる自由のみだった。和美は轡を噛み締めた。せめて轡を噛み締める事で、これから加わるだろう苦悶に耐えようと思った。腹から性器そして肛門から尻の肉が震えた。太股の肉がひきつる。絶望と恐怖にまだ何もされていないのにも拘わらず和美は自分ですら意味不明な大声を上げた。叫び、わめき立てるしか心の正常を保ち得ない和美だ。和美の絶叫など構う事もなく、男は次の拷問の支度に掛かった。左右の大陰唇にクリップが、それぞれ噛まされた。小陰唇に同様に二つの小さめのクリップが嵌められる。男の指先が陰核を探り当てようとする。しかしながら、性的興奮とは、全くの対極にある和美の陰核は秘肉の中に埋まり全く姿も探り当てられない。
「さすがにクリットどころではないらしいな」
 男は和美の秘核を諦め、肛門にアナルストッパー状の物体を捻り込んだ。最後に両の乳首にクリップを噛ませた。秘核をまさぐられる当たり迄絶叫を続けた和美だがアナルの頃からは静かになった。多分電極なのだろうと思った。耐えれないだろうと思った。電流のショックで、うまく許容量以上の電流が流れショック死できればと望んだ。これだけ拷問に周知した連中が、流す電流を致死量にするようなミスをするとは期待できないと考えるしかなかった。致死量の遥かに低い電流で、自分は屈服するだろうとしか思えなかった。頭だけが机の外なのが連中の徹底した自殺を許さぬ意図なのがこの時和美は理解した。頭を打ち付け自決する可能性すら封じる彼らの意図なのだ。一切の拷苦から逃れる自由がないと和美は認識するしかなかった。男の声がした。
「今、着けたのはそれぞれ電極だ。これから電気を流す。一・二回は失神できるかもしれない。だが、そう何度も失神はできない。失神すらできなくなった後は、もう出す大小便もないだろう。大声で、叫ぶか、ギャグを噛み締めるしか、お前には許されない。もう諦めろ。首を縦に振れ」
 和美は首を縦に振ろうかと考えた。もうこれ以上無理と思えた。だがこれからの電流責めで、狂えるのではと考えた。死ぬも狂うも、内部の秘密を守り抜くなら同じなのだ。電流を受けよう。そして狂うか、うまくいけば死ねる。和美は首を横に振り拷問に抗する意思を顕わにした。
『では、いくぞ』位の言葉はあると思った。何の前触れもなく激しい電流が、和美の乳房から性器と肛門を流れ走った。和美の股間が激しく上下し、男を求めるかのように打ち震えた。頭だけが振り回った。不思議と声は洩れなかった。狂いたい。狂わせて。もっと強く。まだ続けて。しかし狂えなかった。電流が止まった。もう止めるの、と不満に思いながらぐったりとなって和美は弛緩する。
「気絶できなかったな」
 男が言った。そうなのだ。もう失神する事も叶わないのだ。狂えない。死ねない。耐えられない。和美の首が、弱く縦に振られた。

「全て話す、いやキーボードを打つ気になったか?」
 はい、と小さいがしっかりと和美は頷いた。

 両手の拘束が解かれた。和美の上半身が、持ち上げられて引き起こされた。机の足に繋がれていた縄だけが解かれたのだろう。手首を締める縄はそのままだった。さっきと同じく掌が重ねられた合掌縛りで、背中で手首を拘束された。不自然な姿勢は、和美の腹筋と太股の筋肉をひきつらせ、肉離れするのではと思った。足と尻に不用意に入った力は和美の肛門から間の抜けた、しかしこれ以上ない屈辱的な音と共にガスを吹き出させた。
「もう大小便共に、何もない訳だな」
 腹に何もないせいだろう。殆ど臭いのないのが和美の唯一の救いだった。ここまで女の、人としてのプライドが、否定されるなんて…和美からは涙の一筋すらもう出る何物もなかった。和美の頭の中では、全てを吐露させられた後、自分はどうされるのかを考えていた。殺されるのか。今迄そう願っていたが、拷問に屈服した今、死にたくないと考えていた。どんな風でもいいから死にたくなかった。両の足首から縄が解かれた。同時だという事は、少なくとも二人はいるのだ。
 和美は机から下ろされた。すぐに手首が引き上げられて、頭が下がり、あの屈辱的な姿勢にされた。キーボードだろう、物が足元に置かれアイマスクが外された。思った通りキーボードがあった。
 和美は、質問にキーボードを右足の親指で、叩いて答えていった。

 この姿勢自体が苦痛なのだ。もう屈服したのだから、せめて少しは楽にしてくれても、と和美は思った。
 肉体的な辛さはもちろんだ。それ以上にキーボード以外には、自分の陰毛と性器と肛門と、丸い二つのヒップしか見えないのだ。最も隠したい身体の部分をこんな角度から、こんな近くに見るなんて、和美の目からは涙も出なかった。
”なわをゆるくして”
 そう和美は打った。
「ふざけるな。質問にだけ答えろ」
 言うなり鞭が和美のヒップに飛んだ。ギャグからは唾液が、鼻からは鼻汁が、全身からは汗が、吹き散った。嗚呼と和美の身体から緊張が緩んだ。アナルから、止めようもない重低音と共にまたガスが抜け出た。さっき机上では、一瞬のガスの暴発だった。即時にアナルを締め、最小限の噴出で済ます程度の余地と、人として女としての誇りが、まだ和美にはあった。今の和美には、もうそんな余裕も、更には羞恥心自体が摩耗していた。五・六秒だろうか? 重低音のガス放出は続いた。放出音が終わった時黄色い粘液状態となった汚物が糸を引いてアナルから出
るのを和美は見た。粘液状の黄色いそれはいつまでもアナルから糸を引いていた。強烈な汚臭がした。和美の最後かもしれない理性と羞恥心が、凄まじい意味のわからないギャグに潰された大声と共にヒップを左右に振り回させた。黄色い粘液は、左のヒップの丸みに付着した。そして流れる汗に少しづつ押し流されていった。
 尋問は、ほぼ一段落したらしかった。和美は、また鞭を受けるかもしれないと思ったが、覚悟してキーボードを打った。
”ころすの”と。
 沈黙があった。和美はヒップに来るだろう鞭に全身の神経を集中して備えた。フッと男が笑った。
「村田和美、尻に鞭が行くと思ったろう。どうするか俺も考えた。お前の予想通り尻に思い切りブチ込むか、それとも別の場所にするかとな。どちらにしたらお前が、へを垂れるかをな」
 和美から、緊張が失せ全身が弛緩した。相手と思考内容が、完全にシンクロしていたのだ。和美は再びキーボードを打った。
”ころすの”
 しばらくして男が言った。
「どちらがいいんだ」
 和美が打つ。
”のぞみどうりにしてくれるの”
 またしばらくの沈黙があった。
「俺の権限で、言っていいかどうかわからない。和美か、けなげな女だな。平然と排泄して、拷問でも最後の一滴の小便、最後の一塊りの大便迄出した。腹に何もなくなってからは、へも出した。麻取の鏡だな」
 聞きながら和美は涙を押さえられなかった。あたし麻取のスタンダードよりは、がんばったんだ、やるだけ以上にやったのよ。陰毛から滴る汗の数を数えながら和美の目からは涙が溢れた。上司・同僚・後輩・近親者の顔が浮かんだ。
「殺された方がいいのか?」
 和美は首を横に振った。
「そうか、なら朗報だ。お前は殺さない事に決まった。お前の全身写真を見た上で、上部が決定した。俺は、じっくり顔など見てないが、なかなかいい女だよな、お前…村田和美か」
 ホッとしたのは確かだ。だが自分の全身写真とは、当然フルヌードだろう。仕事一筋で、恋人など作れもしなかった。だけど鏡にフルヌードを写すと、いい女だと思えた。ミスコンで、優勝できるとまでは、自惚れなかった。でもバスト、二十歳位迄は大きいだけでブリブリしていた。今27になり、余分な脂肪がなくなっている。全く垂れていない乳房は、上を向いてこそいないのと小さめなのが、自分では悔しいけどピンと、張り出している。風呂で見る同世代の娘や雑誌のグラビアの娘と比べてコンプレックスを抱く事は、なかった。ウエストには、贅肉といえる何物もない。高校生の頃は、もっと弛んでいた。今、軽く腹筋が浮き出している。腰骨の上にほんの一つまみの贅肉がある。これだけが和美の唯一の不満なのだ。そしてかなりに膨らむヒップ。大き過ぎると和美は、思っていた。このヒップいやらし過ぎる、もう少し小尻だったらと和美は自分の身体についていつも考えていた。補正下着など必要と思わなかった。顔だって凄い美人とまでは、思わない。でもバランス良く整
っていると思う。休みの日には、思い切りボディラインを必要以上に強調して、股上が思い切り短いパンツで、盛り場に遊びにも行く。むしろ、女が振り向く。同性同士のファッションの探り合いだ。でもかなりの確率で、男も振り向く。あたし女として、対象として見られている、そうして男の目を向けさすのに軽い興奮をする和美だった。
 あたしの身体と顔を考慮した上で、殺さないの? という事は? 絶望が、和美の胸に広がっていった。
「生かすなら、二つある。一つは高級娼婦だ。だがこれには訓練もあるし、時間がかかる。おそらく、お前は、ケシ農場での家畜になるだろう。」
”なになのかちくつて”
 和美が打つ。
「もうそこまでだ。まだ聞き出す事が、いくつかある。」
 そして、尋問が、再開した。家畜って何なの、和美は思った。そして尋問は終わった。和美は「全て聞き出す事は聞き出したようだ」との声と共に後ろ手の手首を吊る縄を緩められ、唾液と、鼻汁と、汗の溜まる中に和美の身体があお向けに沈んでいった。和美の意識が失われていった。失神ではなく眠りだろう。とにかく意識をこれ以上保つ事が、和美にとり限界だった。轡の端の唇から、ごく少量の和美から出た汗が、口に入り、和美はなめた。心地よい塩加減だった。捕われて以来初めての摂取だった。



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