2011.04.27.

Midnight Hunter
002
百合ひろし



■ 第一章 屋島学園2

次の日―――、生徒会は用務員からの要請を受けて夕方の見回りを強化することにした。夜中に校舎内にいる生徒が時々いるから、という事だ。その為急遽生徒会報を印刷し午後のHRで配る事にした。
そして夕方―――、ラグビー部。ここにもミッドナイトハンターの噂を知る者が居た。彼はその事を部の後輩―――1年生に話した。
「先輩、マジで!?」
「下着姿でうろついてたら犯して下さい、ってなもんじゃん」
1年生2人はそう言った。先輩―――2年生の男子生徒は、
「榊はタバコじゃねぇ。それに昨日のヤツも口封じられたと見るが。多分気絶させられて後でそこを通り掛った用務員に御用だ」
と言った。後輩は、
「スゲー推理です」
「でも根拠は?」
と口々に言った。男子生徒は、
「榊がタバコやってないのはみんな知ってる。あと昨日のヤツが捕まった場所―――職員室さ」
と言った。昨日の男子生徒は「ミッドナイトハンターは居なかった、居たのは用務員」と書いた書き込みに置き土産として暗号を残していた。ラグビー部の男子生徒は鞄からその書き込みを印刷した紙を出して、2回に渡って投稿された書き込みの内容を見せてから、該当する文字を丸で囲った。すると、
「次の文を1文字置きに縦読み」
「美人教師が激シいおナにい」
の文が出来上がる。
「直接捕まえたのは用務員じゃ無い筈だ。ヨボヨボなら兎も角まだ30代だろ?もし見てたらヤツと一緒にオナるだろ」
と言った。つまり用務員に見付かったとしても気まずくて捕まえられない、その為彼を捕まえるのは女で無ければならないということだった。
「夜中に何かやってりゃ出てくるみたいだから俺達は待ってりゃいい。解るだろ?俺等押し倒すのは専門だよなあ」
男子生徒が舌舐めずりすると後輩の2人は勢い良く何度も頷いた。ミッドナイトハンターの正体を暴けるだけでなく、更には犯してしまおうという訳だ。
「しかし、誰だろうね。オナってたセンセーって」
3人はその後その話で盛り上がってた。美人といえば数が限られてしまうが、こういう話には必ず美人とかそういう言葉が付く。週刊誌とかでも「美人〜」とか良く書かれているが実際見てみたら大した事無い、平均より少し上なだけじゃないか、と思うことは幾等でもあるのだった。

部活動終了の鐘が鳴った。それと同時に生徒会が動き出す―――。前回葵はその鐘に気付かず生徒会長の理彩に注意を受けた為にマークされていた。理彩は空手部道場の入り口の横で鐘が鳴るのを聞いたが、道場内からは聞こえて来なかった。それを確認し、生徒会室に連絡した。
「試しに何か放送してみて」
と指示をすると、全校に、
『部活動の時間は終了しました。至急帰宅して下さい』
とこれまた違和感を感じさせない放送が入った。理彩はこの機転を利かせた放送にクスッと笑い、空手部道場に入った。
「宮原さん、放送入ったわ。もう終わりよ。2日連続は頂けないわ」
理彩はそう言って葵の反応を待った。葵は、
「済みません。でも聞こえませんでした。スピーカーのボリューム上げといたんですが壊れたんでしょうか」
と答えた。理彩は、
「そういう事なら不問にします。明日、用務員に頼みますから」
と言った。葵は、
「よろしくお願いします。急いで着替えますから―――」
と言った。理彩は、
「解ったわ。生徒会室に戻るけど少し待ってて頂ける?」
と言った。葵は、
「あ、はい。でも……私に何か……?」
と聞いた。理彩は、
「いくつか聞きたい事があるわ」
とだけ答え、生徒会室に向かった―――。


葵は空手道着からブレザーの制服に着替えて道場の入り口で待っていた。憧れの生徒会長と一緒に帰るのは緊張し赤面していた―――。
理彩は戻って来るなり、
「待たせたわね。行きましょう」
と言って2人は帰路についた。

「あれ?あそこ確かラクビー部ですよ。まだ電気ついてるなんて」
葵が遠くに見えるクラブハウスの1室を指差して言った。理彩は、
「良く気付いたわね。行きましょう」
と答え、ラグビー部の部室に向かった。先程の生徒会での報告会ではラグビー部は異常無しだったのだから。因みに空手部はスピーカー故障と報告を上げたが。
―――正直驚いた。葵は体育会系なので同じ体育会系の部活の部室が何処にあるのかは知っていても不思議はない。しかし200m以上離れた先の混み合った部室の中からラクビー部の部室の位置を正確に言えたのは、相当に視力が良くて更には観察眼も無ければ出来ない事だった。
「宮原さんは視力いいのね、いくつ?」
理彩は聞いた。葵は、
「1.5です。2.0狙ったけど届きませんでした」
とはずかしそうに笑顔で答えた。理彩は、
「羨ましいわ」
と言った。葵は、
「赤城先輩は―――コンタクトなんですか?」
と聞いた。理彩は、
「そうよ。宮原さんは目を大事にしなさいよ」
と言った。葵は、
「はいっ、ありがとうございます」
と返事した。

ラグビー部の部室に着いたので理彩はドアをノックした。
「あ、はい?」
と間の抜けた声がしてドアが開いた。理彩は、
「もう下校の時間ですよ。早くして下さい」
と注意した。2年生の男子生徒―――先程1年生2人にミッドナイトハンターについて話していた生徒である―――は、
「生徒会長でしたか。急いで帰ります。俺達忘れ物したんだけどなくなっちゃってさがしてるんスよ」
と答えた。理彩は、
「解りました。急いで下さいね」
と言ってドアを閉め、待っていた葵とそのまま一緒に帰った。

男子生徒は1年生に指示を出した。
「生徒会長校門出たか?」
と聞いた。1年生は、
「はい、出ました」
と答えた。すると男子生徒は、
「よし、ならば電気を消せ。9時までだ」
と言った。1年生は、
「何でですか?」
と聞くと男子生徒は、
「帰った事にするんだよ。万が一生徒会長が戻ってきても電気消えてりゃスルーだろ」
と答えた。1年生2人は納得した。男子生徒は、
「それから電気つけてミッドナイトハンターをおびき寄せる。夜中に電気がついてりゃ事件の匂いだろ?」
と言った。1年生2人は高速で頷いていた―――。


AM0時―――、ラグビー部の部室の明かりがついて3時間経った。中で待ち構えてる3人に疲労の色が見えて来ていた。昼間、授業に加えラグビー部での激しい練習で疲れた体にはこの時間まで起きている事は堪えていた。しかし、今日会えないから明日というわけには行かない。今までの傾向から、この作戦は今日失敗したら2度と使えない事はわかっていたので何としてでもミッドナイトハンターを捕える必要があった。


「……正面からは無理ね」
ウエーブの長い髪に顔の上半分を隠すマスク、黒のスニーカーに靴下、そして黒のリボンがついたオレンジのブラジャーとパンティ姿の女は呟いた。明かりが灯っているラグビー部の部室を見て、なるべく部室から見て死角の方向から近付いた。部室の窓は曇りガラスなので正面から堂々と行っても一応問題無い。しかし、不意に窓が開いたら自分の姿は丸見えである。その為にリスクを背負う訳には行かなかった。
部室の裏に回りこみ、クラブハウスの壁に背をつけたが肩以外は離した。彼女にとっては下着姿は自分の最も愛すべき姿であり、汚す訳には行かない―――。汗やその他自分の体から出るものは兎も角、壁についてる泥埃等もっての他だった。その為ブラジャーの背中の部分とパンティのバックを音を立てない様に叩いた。
「ふー。どう落とすか……」
女はパンティを直しながら呟いた。部室に人の気配がするのは間違い無い―――。暗ければ乗り込めるが明るいとそれが出来ない。
「もし待ち構えてるのならば―――出て来てもらいましょうか……でもどうやって―――」
女はそう思った。それからもう一度パンティに指を通して直した。彼女の癖なのか、それとも穿いてるパンティを触るのが好きなのか、考えてる間に何回かパンティに指を通して直していた。

ピーッ

外から甲高い笛の様な音が聞こえてきた。男子生徒は、
「な、何だ??」
と立ち上がった。1年生の2人も慌てた様子を見せたが、その後は何も起こらなかったので、
「クソッ、焦らせやがって。鳥だったのか?夜なんだから寝てろよ」
と言い、1年生にも持ち場に戻る様に言った―――。とは言っても交代で扉を守っているだけだが。それから10分程して、3人共眠気が限界まで来て眠りそうになっていた時に、ドアをノックする音が聞こえた。
「ふぁい、誰?」
1年生はマヌケな声を出してドアを開けた。するとその瞬間腕を掴まれて外に引き摺り出され、激しい殴打音と共に崩れ落ちる音がした。
「な!何だぁぁ???」
男子生徒が立ち上がり、ドアから顔を出した瞬間、そこに見えたのは―――腹より上は暗闇に溶け込んで見えなかったが、締まった腹に綺麗な臍、そして黒いリボンが付いたオレンジのパンテイを穿いた女が股間を見て下さいと言わんばかりに片足を振り上げていた所だった。次の瞬間、男子生徒の後頭部に女の踵落しが入って強烈な衝撃を受けてそのまま倒れてしまった。
残った1人の1年生は、ドアの所に倒れこんだ先輩を見て外で何があったか理解できずにうろたえていると、1人の人が入って来た。1年生は、
「え?ピエロ??」
と驚いた。ラグビー部は平均身長が高く180cm位だが、それ以上に高い185cmはありそうなピエロが部室に入って来た。そして1年生を引きずり出した。1年生は、後ろから、
「今日起こった事は忘れてくださいね」
と女の声を聴いたと思ったら頭に衝撃を受けて気を失い、倒れてしまった。
ピエロは3人のうち2人を担いだ。女はそれを見届けて、
「他の見回りに行ってくるわ」
と言い、ラグビー部の部室を後にした。ピエロは、
「俺はこの3人を介抱する。気をつけろよ」
と言って2人を肩に担いだまま連れて行き、それが終わってから残りの1人を担いで連れて行った―――。
この日はこの他の事件は無かった。女は東の空が白み始めるまで校舎の見回りを続け、それから、
「ふぅ、これから朝まで時間無いけど、休まないとね」
と言ってブラジャーとパンティを直して学園の隣の小屋に入って行った。


次の日―――、ラクビー部の部長は生活指導部と生徒会に呼び出された。勿論昨晩の部員の不祥事、何者かと喧嘩した事についてである。生活指導部にこってり絞られた後に生徒会だ。彼はどちらかというと生徒会を恐れていた―――。
というのは、先代の理事長は現理事長の父親だったが、その時父に付いて理事になった現理事長と一緒に様々な改革をしたのだった―――。その1つが今までは文武両道で進学率、体育会を中心に全国大会での活躍等があったが、それを隠れ蓑にして専制政治的な事をする教師が後を立たなかった。それを打破する為に生徒会に権限を与えたのである。
それ以来10数年間―――、理事長が交代し現理事長になってからもこの状態が続いた。学内はそれ以前よりも自由活発になり、葵が所属する空手部みたいに部員が少ない弱小部でも存続出来るようになったり、関東大会に行けないバトミントン部、囲碁部、将棋部等でも予算が貰える様になったのである。そう、昔はそういう部活は取り潰しだったのである―――。大会に出る部活でさえその様な有様だったのでそう言った概念すらない軽音部等は昔は存在すら出来なかったのである。

ではなぜ、ラグビー部の部長は生徒会を恐れるのか―――?
1つは単純だが死活問題な事、予算に関して物凄く強い権限が生徒会にあるという事。予算会議があり各部活動が取り合うが、それを職員会議で承認した後に生徒会が承認して理事長を中心とした理事に行くのである。つまり、予算に関しては校長以上に権限がある―――。
もう1つは、生徒会を唯の頭でっかちの集団と侮れない所である。過去―――6年程前に実力で生徒会に承認させようと殴り込みを掛けた部があったが、見事に生徒会に返り討ちにあっている。理事長の方針で、強い権限を持つ以上それに従えないものが暴動を起こす可能性があるという事で生徒会役員は最低でも護身術はやるように、とお触れが出ているのである。
つまり、ラグビー部はここでの問答で生徒会、特に会長の理彩の機嫌を損ねる訳には行かなかった。機嫌取りをするわけでは無いが、ありのままの事を正直に言わねばならなかった。
「貴方は問題起こした3人が残っていた事を知っていましたか?」
理彩は単純な質問をした。部長は、
「探し物があるって聞いたからそれを許可して、そこからは知りません。何を探すか聞く訳にも行かないんで」
と答えた。理彩は、その後2つ3つ問答をした後、
「解りました。警察沙汰にならなかった事と、当事者3人は初犯という事で、後は内々で処理します。2週間の活動禁止のみにしましょう」
と言った。それを聞いて会計は、
「会長、甘過ぎませんか?一方的にやられたと言っても暴力事件を起こしたんですよ。来年度予算は考えた方が―――」
と言ったが理彩は、
「いいのよ……」
とだけ言った。

ラグビー部の部長は生徒会室から出た後に安心して溜息をついた。最低でも半年間活動禁止、最悪は取り潰しも覚悟していたが理彩の温情のお陰で2週間で済んだ。後は問題起こした3人に部長としてお灸を据えるだけで良い。しかし、油断は出来なかったのである。過去に―――同じ様に問題を起こした部に甘い処分をしたがそれをいい事に再び問題を起こした部があった。そこは取り潰しにあってしまった。ハンドボール部である。何処に行ってもあるハンドボール部が屋島学園には無いのはそういう理由である―――。つまり、ラグビー部も同じ目に合うかもわからない。これからは少なくとも数年、最低でも現在の1年生が卒業するまではおとなしくしているしかないのである。

裏サイトの掲示板にも早速ラグビー部のネタが出ていた。その中で使える話は殆んど無く、雑談風になっていた。葵も寮に帰った後その内容を読んだが、特にどうという様なものは無いと思った。
その時別のスレッドが気になった―――。それは単なる雑談スレだが、そこに逆斜め読みで見付けた言葉が、
「サカキと接シょくした」
という事だった。停学中の榊となんらかのやりとりがあったとの事だが、今回の書き込みはそれだけだった。葵はそれをみて、
「さかき君の件はい和感感じます。詳細求む」
とその書き込みに対してアンカーを付けて2行目を縦読みでレスを返した。



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