2009.11.21.

夢  魔
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■ 第22章 教師3

 自分達の行った体罰と言うには、行き過ぎた行動の証拠写真が、殆どの教師分そこに有った。
 途端に教師達は、口々に弁解しようとしたが、その言葉を指導主任の、平手で机を叩く音が遮る。
 バーンと派手な音を立て、全員を黙らせた指導主任が
「まだ、校長のお話は終わって無い! 最後まで静かに聞きなさい!」
 声を大きくして、全員に命じた。
 校長は沈痛な面持ちで、指導主任に頭を下げ、話を続け始める。
「このまま、この事が公になってしまえば、我が校のダメージは著しい…因って、理事長にご相談した所、今後の方針を打ち出し…、有る人物を紹介してくれた…」
 そう言って、12人を見回す。

 12人の教師は、皆緊張した面持ちで、校長を見つめ、次の言葉を待った。
「理事長は、今の学校の雰囲気に憂いておられる…自由な雰囲気とは、秩序を乱し、規律が緩んで行く原因では無いかと…」
 校長が言った言葉に、教師達が頭を捻る。
 当然、自分達が糾弾されるで有ろう言葉が出ず、話しが有らぬ方向に、飛んでしまっていたからだ。
「このまま秩序を示さなければ、この学校は崩壊するのでは無いか…」
 校長は芝居掛かった言い回しで、教師達そっちのけで、話を続ける。
 だが、目端の利く老獪な教師は、校長の言わんとしている事に気付き、落ち着きを取り戻し始めた。
「そんな事になる前に、手を打つべきだと…理事長は言われた」
 校長はそこまで言うと、12人の教師を見つめる。

 既に校長の意図を察した、3人の教師が薄く笑っている。
 校長はニヤリと笑い
「そこで、理事長は体罰を認められた…。迫田君この場合、どんな問題がある?」
 校長が迫田 学(さこた まなぶ)45歳、数学系主任教師に問い掛けると
「そうですね、体罰否定派の教師達の反発ですかね…。教育委員会やPTAを引きずり出されたら。それこそ、やっかいです」
 校長がニッコリ笑って、視線の向きを変える。
「黒澤君? 君はどう思う…」
 黒澤 英樹(くろさわ ひでき)46歳、英語系主任教師を見ながら、問い掛けた。
「それもそうですが、直接見られたりする。報道系や周辺の目も気にするべきですね…」
 黒澤は、冷静に答えを返す。

 校長は満足そうに頷き、京本の顔を見て
「京本君は、どう思うかね?」
 京本に向かって、質問する
「教師やPTA、報道や周辺住民より、この学校には煩いのが、2人居るじゃないですか…。先ずあの2人でしょ…」
 京本が呟くように、言葉を吐く。
 教師サイドのTOP3の発言を聞き、他の教師達も、矛先が自分に向いていないと理解して、緊張を和らげ始めた。
「まだありますわ…。秩序を作るためには、システムが必要です。ここに居られる方で、そう言った物に精通されてる方…居られます?」
 大貫紗英(おおぬき さえ)33歳、国語系主任教師が、見下したような言い方で問い掛ける。

 テーブルの写真を見ながら、白衣を着た男が、ブツブツと呟いた。
「それに見た所…みんな、タダの暴力じゃないですか…。こんなんじゃ、直ぐに破綻しちゃいますよ…」
 小室直弥(こむろ なおや)34歳、理科系主任教師である。
「何言ってんだ! 言う事きかねぇ奴は、片っ端からぶん殴れば良いんだよ!」
 山本孝三(やまもと こうぞう)38歳、体育主任教師が、獰猛な顔で小室を威嚇しながら言った。
 山本はインテリぶっている小室が嫌いで、仕方がなかった。
 小室はムッとしながらも、山本の恫喝に負け、小さく成る。

 他の教師達も意見を出そうとした時、校長が話し始めた。
「そう、理事長の思惑を実行しようとした時、様々な障害が現れる。そこでだ、理事長は有る人物を紹介してくれた…。それが、彼だ…」
 そう言って、校長は隣りに有る理事長室の扉を示すと、指導主任が素早く扉を開ける。
 理事長室から1人の学生が現れ、12人の教師は一様に驚いた。
「き、君! 生徒が理事長室で何をして居るんだ!」
「ば、場を弁え給え! ここは、君のような生徒が居て良い場所では、無いんだぞ!」
「早く出て行きなさい、どうやって紛れ込んだんだ!」
 教師達は、口々に生徒を校長室から追い出そうとする。
 大貫はテーブルの上に身体を投げ出し、必死に成って写真を集めて、身体の下に隠していた。

 そんな中、1人の教師が椅子に深く腰掛け、ジッと生徒を見詰める。
「みなさん…落ち着いて下さい…。この生徒の話しは、ちゃんと聞くべきだと思いますよ…。なぁ、柳井君…可笑しいと思ったんだ…君のような生徒が、この学校に居る理由が解らなかった…。だけど、今君を見て、やっと繋がったよ…」
 小室が稔を見つめ、笑いを含んだ声で語った。
 小室の言葉に、全員が口をつぐんで校長を見つめる。
 校長が教師達に大きく頷くと、稔が教師達に向かって歩き始め、手に持った雑誌を黒澤の前に差し出す。
「これは、3日後発売予定の週刊誌です」
 稔の言葉に、黒澤は見た事がない号の、自分の愛読書を見つめパラパラとページをめくる。

 有るページに来ると、黒澤の手の動きがピタリと止まり、マジマジと雑誌を読み始めた。
「こ、これは…。うちの学校じゃないか…」
 黒澤が顔を上げながら、稔に問い掛けると
「ええ、そうです。有名覗きスポット…。学校の周りを外部から遮断するには、良い口実だと思うんですが」
 稔は頷きながら、黒澤に答えた。
 そこには、ハイアングルから、着替えをしている女生徒達の姿が、窓越しに盗撮された写真が掲載されている。
 稔は更に、手に持った鞄の中から、有る図面を取り出す。
「これが、この記事の対策に成ります」
 そう言って、図面を拡げると、そこには学校の改修工事計画が、出来上がっていた。

 図面を見つめて、驚いている教師達に
「着工は5日後に成る予定です。迅速な対処で、何処も文句は付けられないと思いますよ。誰かに、問い質された時の言い訳なんて、星の数ほど有ります…。まぁ、誰も苦情は出さないと思いますが…」
 稔が余裕を持って告げる。
「ば、馬鹿な…絶対にこんな事をしたら、あの2人が黙ってる筈無いだろ! こんな工事出来る訳無い!」
 京本が稔に、硬い岩をぶつけるように、捲し立てる。
「あの2人と言われるのは、副理事長のお二方ですか? それなら、話は付いています。これが証拠です」
 稔が副理事長の委任状を京本に見せると、京本は驚きを湛えたまま、何も言えなく成った。

 12人の教師が動きを止め、1人の生徒を見詰めている。
「じゃぁ体罰否定派の教師達や教育委員会やPTAはどうするんだね?」
 迫田が、震える声で稔に問い掛けると
「PTAは問題有りません。この計画は理事長も全面的に関与されております。この市で、理事長に逆らう勇気の有る労働者が居るとは、思えません。教育委員会の方も、理事長が責任を持ってあたって頂けると、確約されています。問題は無いでしょう」
 稔はそこまで説明すると、口を閉じる。

 迫田は、沈黙に堪えかね
「体罰否定派の教師達は、どうするつもりなんだ!」
 稔に捲し立てた。
 稔は、ニッコリ笑いながら
「それを先生達にお願いしたいんです。残りの学校の教師…先生方が、1人で4人ずつ取り込んで頂ければ、数は合う筈なんですが…」
 そっと、12人の教師に告げた。
 12人の教師達は、稔のその言葉に、ドキリと胸を高鳴らせ、同時に締め付けられた。

 沈黙する教師達の中、小室が口を開く
「ふふん…。この中に居ない唯一の男性教師、源先生は…どうやら、君の仲間のようだね…。そう、垣内君と工藤君…、2人とも大学卒の経歴を持っているのに、君と同じ学生をしている…。当然仲間なんだろ?」
 稔は小室の言葉に、薄く笑うと
「流石は小室先生ですね…、お察しの通りです。源先生も純も庵も僕達のチームです」
 あっさりと、小室の質問を認める。
「これだけ用意周到だと、さぞ前から計画されていたんだろうね?」
 小室は嵩に懸かって、質問を続けると、稔の雰囲気がガラリと変わり始めた。

 稔は校内では控えていた、サディストの本性を目覚めさせ、眼鏡を外して怜悧な美貌を晒し、真っ直ぐに小室を見つめ
「それをお聞きになって、どうするんですか? 貴方達は、この計画に乗らなければ、単純に社会的地位を失います。それだけでは無く、官憲の手に拘束される事も理解して下さい。これは、脅迫では有りませんし、依頼でも有りません、単純な選択です。どちらを選ぶかは、貴方達次第です」
 自分達の置かれた立場と、これからの行動を説明した。

 小室が稔の迫力に押され、顔を逸らした時、体育教師の山元源治(やまもと げんじ)が、応接セットを回り込み稔の側に進み出て
「第3の選択が有るぜ! 生意気な糞餓鬼を叩き伏せて、証拠を消すってな!」
 稔に掴み掛かった。
 山元は新編成で新しく雇用された、30歳の体育教師で柔道部の顧問をしている。
 その性格は傲慢で攻撃的。
 学生時代インカレや国体に出場する程の実力を持ち、本来なら強豪校の生徒を教える筈だったが、行き過ぎた指導が元でこの学校に赴任した。
 この学校に赴任しても、女子を相手に手加減など一切せず、その指導が問題視されている教師だった。

 その山元が、稔の襟に手を掛けた瞬間、稔が自分の襟を掴んだ山元の手に、ソッと手を添え身体を捻った。
 山元はそのままもんどり打って、校長室の床に一回転して背中から落ちる。
 ダーンと音を立てて、転がった山元の口から
「グギャーッ!」
 大きな悲鳴が上がり、のたうち回っていた。
 その一連の流れは、多くの教師の目には、山元が自分で飛んで行ったようにしか見えなかったが、2人の教師が稔の行った事を理解し、それぞれの表情を浮かべる。

 その2人は、英語主任教師の黒澤と数学教師の大城 洋子(おおしろ ようこ)で有った。
 大城は合気道部顧問をしているためであり、黒澤は有る特殊な経歴から、稔の行動を理解したのだ。
(小手返しから投げを打って、一瞬で手首の関節を外した…。相当の実力差が無いと、あんなに綺麗に決まらない…)
 大城は驚愕の表情で、黒澤は冷たい氷のような表情で、稔を見つめる。
「自分で入れられるでしょう。手首が外れたくらいで、大げさすぎですよ」
 稔は山元を見つめ、冷たい声で告げると
「で、どうします? 彼のように力に訴えますか? それとも、平和的に選択されますか?」
 教師達に向き直り、問い掛けた。

 稔の言葉に体育主任の山本が熊のような身体を揺すりながら、前に出てくると
「山本君止めたまえ…、彼は恐らくあれでも手加減している…。彼が本気なら、山元君は頭から床に落ちて、頸椎が折れていただろう…」
 黒澤が淡々と、体育主任に告げる。
 稔は黒澤を見つめると、ペコリと頭を下げ
「返事を聞くまでは、貴重なお仲間ですから…」
 ニコリと冷たい微笑みを浮かべ、黒澤の言葉を認めた。
 体育主任はジッと稔を睨み付けながら、無言で元の位置に戻って行った。

 校長室に沈黙が降りると、校長が沈黙を破るように、咳払いをする。
 校長の咳払いに、一同が視線を校長に向けると
「で、どうするんですか? 皆さん…。ここを去って、警察に捕まるのか? それともここに残って、教師として徹底的に生徒達を指導するのか? どちらを選ばれるんですか?」
 校長は教師達に、再び問い掛けた。
 教師達はザワザワとざわめき、相談を始める。

 そんな中、理科系主任教師の小室が質問をした。
「今、校長は徹底的と仰いましたが、それは、どう言った含みが有るんですか?」
 小室の質問に、稔はスッとテーブルに近付き、1枚の写真を選び出して一番上に乗せる。
 その写真は女性徒のスカートを捲り上げ、物差しでお尻を叩いている写真であった。
「この写真が、日常的な軽い罰に思える程度です…」
 稔が教師達にそう呟く。
 その言葉を聞いた、教師達は皆一様にどよめきを上げる。
「決まりです。私は校長達に従いますよ…」
 小室が、稔を見つめ薄く笑いながら、選択を終えると、他の教師も次々と選択を終えた。
 教師達は全員一致で、稔達の仲間に加わった。



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