2009.11.21.

夢  魔
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■ 第22章 教師2

 狂が校長室を後にすると、後を追うように庵も出てきた。
 庵は大股で、狂に追いつくと
「狂さんはこれから、どうするんですか?」
 これからの行動を問い掛ける。
「俺か? 珍しいな…庵が俺の行動を気にするなんて…。ははぁ〜ん、何か相談事か?」
 狂が庵の行動に疑問を持ちながら、直ぐに推測して問い返した。
「ええ…時間が有ればで、構わないんですが…。俺じゃ、答えが出ないもんで…」
 庵はぶっきら棒に言いながら、狂の顔を真剣に見詰める。
(何だよ…こいつ…相当悩んでるみたいだ…。庵がねぇ〜…? 珍しいから、聞いてやろ)
 狂は興味をそそられ、場所を旧生徒会室に変え、相談に乗る事にした。

 旧生徒会室に入ると、庵が大きな溜息を吐いて、項垂れる。
(おいおい…。初めて見たぞ庵のこんな姿…何があったんだ?)
 狂は目を白黒させて、庵を見詰めた。
「おい、庵…何が有ったんだ…? 稔じゃなくて、俺に相談するって言う事は…、沙希の事か?」
 狂が先回りして、庵に問い掛けると、庵はガバリと顔を上げ
「な、何か聞いてるんですか? あいつ…何か狂さんに相談してるんですか?」
 狂の両腕を掴むと、ブンブンと振り回す。
 庵のパワーで振り回される狂は、首振り人形のように首をガクガク震わせ
「ば、やめろ! …死ぬ…死んじまう! 止めろー」
 必死で声を張り上げる。

 狂の悲鳴に気が付いた庵は、ハッと我に返り
「すいません…」
 ボソリと呟いて、狂の腕を放した。
 狂は首を揉みながら、苦痛の表情を浮かべ
「ったくよ! ゴリラ並みの力なんだから、常に気を付けろ! 首が飛んでくかと思ったぜ…。で、沙希がどうしたんだ?」
 庵に文句を言うと、話しを促す。
 だが、狂の催促にも、庵はジッと考えたまま、動かない。
「おい庵…」
 狂が業を煮やして、庵に話し掛けると
「変なんです…」
 庵がほぼ同時に話し始めた。

 狂は庵の言葉に
「何が変なんだ?」
 相の手のように問い掛け、話しを促す。
 すると庵は、ポツリ、ポツリと呟くように話し始めた。
「依然と全く、行動が変わらないんです…。いえ、むしろ更に積極的に、寄って来るんです…。まるで、俺がした話しを忘れているような…。普通では、有り得ない反応を見せて居るんです…。俺には、沙希が何を考えているか…全く解らないんです…」
 庵の告白に狂が、頭を捻りながら
「ま、待て…話しが見えねぇ…。沙希がお前に寄って行くのは、当然だろ? …ん…? 庵…、お前つかぬ事を聞くけど…。沙希に何言った!」
 庵の話しを分析し、それに気付いて庵に詰め寄る。

 庵は狂にいきなり、首を絞められ
「い、いえ…大した事じゃ無いんです…。ただ、[忘れろ]と言ったんです…」
 狂に告白する。
「言葉をはしょるな! てめぇ〜解ってるから、はしょってんだろうよ! そんなんで、相談がどうのとか言うんじゃねぇ!」
 狂が、庵に怒鳴ると、庵は観念し
「校長達をホテルに呼んだあの日に…、沙希に…前日、風呂場で身体を洗った事や、優しくした事を…忘れろって言ったんです…」
 全てを狂に話した。

 狂はポカンと口を開け
「馬鹿かお前は? そんな事…普通口が裂けても言わねえぞ…」
 庵の話を聞いて、自分の感想を、口にした。
「ですが…、ですが、俺の身体は、あいつを…」
 庵が感情を爆発させようとした時
「いや待てよ? おかしい…確かにおかしいぞ!」
 狂が庵の言葉を遮り、言葉を漏らした。

 庵は狂の言葉に、口をつぐむとジッと狂を見詰める。
 狂は考え込み始め、ブツブツと呟いていた。
「お前の言うとおり、おかしい…。沙希は、感情を殺して付き従えるタイプじゃない…。なのに、お前にそんな酷い事を言われ、落ち込みもせず感情を抑え込んで、今まで以上に接するなんて器用な真似、到底出来ない筈だ! あいつはそんな器用なタマじゃねぇ…。良くも悪くも直情型だからな…」
 分析を終えた狂は、庵に向かって、分析結果を話す。

 庵は少しムッとした表情で、狂の事を見詰めていた。
「ん、んだよ…睨むな…」
 狂が庵の目線に気が付いて、気圧されると
「余り良い気がしません…あいつの事をそんな風に言うのは…止めて下さい…」
 庵が視線を離し、ボソボソと言った。
「だったら、てめぇも、そんな事言うんじゃねぇよ! ったくよ、でっかい図体して、ちっちぇえ奴だな…。身体の事も、あいつは知ってんだから、ドシッと構えろよ! ましてや、治らねぇ訳じゃないんだからよ…てめぇのチ○ポ…。痛みさえ戻りゃ、受けれるんだろ? チ○ポの再生手術…」
 狂がそう言うと、庵はコクリと頷いた。

 庵のチ○ポは前腕の皮膚などを使い、形成する事が可能で有り、神経を繋げる事により感覚のあるチ○ポを作る事が出来るのだが、庵は後天性無痛症と言う、感覚障害を起こしているため、神経の接合が出来ずにいた。
 チ○ポの形成をするためには、先ず無痛症を直す必要が有ったのだ。
 その事は、庵は元より、稔も狂も知っている。
 そして、庵の無痛症の原因が、心因性の物で機能的には、何ら問題がない事も、稔の義父によって診断されていた。
 庵の場合は、回路が作動するための何かが足り無いだけなのだが、その何かが全く解らなかった。

 無言で俯く庵に、狂がボソボソと話し始める。
「お前は、重く考えすぎ何だよ…。幸せ云々は、お前が決める事じゃねぇ…あいつが…沙希が決めるんだ…。そんな事を先に考える…だから、沙希を受け入れられないんだ…。お前が、俺にこんな相談する時点で、沙希の事を特別視してる事に、気付かねぇのかよ…。小学生や、中学生じゃねぇんだ…。好い加減気付け! 認めろ! そして、悪いと思ったら、行動しろ…馬鹿野郎…。ありゃ、良い女だぞ…絵美には負けるけどな」
 狂は庵の顔を見て、ニヤリと笑う。
 庵は鼻の頭を掻きながら
「うぃっす…」
 顔を真っ赤にして、ペコリと頭を下げた。

 狂は言いたい事だけ言うと、プイッと出口に向かう。
「き、狂さん…」
 庵が狂を呼び止めようとすると
「俺は、忙しいの! 絵美が飯作って待ってるからな…それが終わったら、ちょっとした実験もしなきゃ何ねぇ…へへへっ、面白いもんが出来てるぜ…。出来たら、稔に自慢してやる…、間違い無くあいつもぶっ飛ぶぜ!」
 庵を肩越しに見て、ニヤリと笑って、出て行った。
 庵は閉まった扉に、深々と頭を下げる。
 庵にとっては、狂は頼りになる兄貴のような存在だった。

 狂が旧生徒会室を出た時、校内一斉放送が流れ、12人の教師が校長室に呼び出される。
 その放送を聞きながら、狂は携帯電話の時計を確認した。
(おいおい…何もめたんだ…俺が部屋を出て、30分も時間経ってるぜ…。お人好しが、何かねだられでもしたのか…)
 狂は見事に、校長室の出来事を予想し、的中させる。
 狂のもう一つの能力[見(ケン)]で有る。
 狂は情報{状況、状態、事象、現象}からあらゆる可能性を見つけ、数学的に統計を取り、最も確率の高い答えを導き出す事が得意で有り、その的中率もかなりの高確率を誇っていた。

 狂が階段を下りていると、後ろから慌ただしい声が、降ってくる。
「どいてどいて! どいてくれ〜」
 声の主はヘロヘロと階段を走りながら、脇に道を空けた狂の前を走りすぎて行く。
 長髪を後ろで束ね、絵の具でドロドロに汚れた服を着た、美術教師、森健太郎(もり けんたろう)36歳だった。
 運動音痴の上、運動不足なのか、少し走っただけで足腰に来ている。
 森は選択系の主任教師だが、何を考えているのか解らない教師で、端整な顔立ちながら生徒達に人気は無かった。
 正直、かなりの数の生徒に馬鹿にされている。
 だが、この頼り無さ気な教師も、校長室に招集された12名の内の1人だった。

 森が1階に辿り着いた時、その身体が女性とぶつかる。
「きゃ…」
 小さな悲鳴を上げ、女性が尻餅を着く。
 腰程まで有る黒髪が、ばさりと拡がり、サラサラと流れ、綺麗にまとまる。
 黒髪の中から、白い小さな卵形の顔に、黒縁の眼鏡を掛けた女性教師が、廊下に座り込んでいた。
 白いブラウスに黒のロングスカートを履いた女教師は、白井良子(しらい よしこ)25歳、英語教師で華道部の顧問である。
「あ、ああぁ…すいません! 白井先生…、急いでたものでつい…」
 森が謝りながら、手を差し出すと白井はその手に捕まらず、立ち上がって埃を払い
「すみません…私も不注意でした…」
 俯きながら、小さな小さな声で謝り、ペコリと頭を下げる。

 森がニコニコしながら、差しだした手が宙に浮いた状態で、固まっている。
(あらあら、僕を無視したね…キャンバスにして、飾っちゃうぞ〜)
 森はその微笑みの下で、女性教師を辱める妄想を始めた。
「本当に大丈夫ですから…」
 再びか細い声で、囁くように言った白井は
(小汚い手を差し出すんじゃねぇよ! この貧乏人が! 私のスカートが幾らするか教えてやろうか)
 その本性をひた隠しながら、心の中で恫喝する。
 この女性教師も、呼び出された12人の内の1人だった。

 そんな、2人の横を大股で、ガッシリした中年教師が通り過ぎ
「君達、呼ばれてるんじゃないのかね? 若年者が遅れて行くとは、感心せんな」
 2人の教師にビシリと声を掛け、足早に廊下を進んでいった。
 背筋がピンと伸び、カツカツと大股で歩く姿は、いかにも厳格な教師と言った感じを漂わせていた。
 京本 寛次(きょうもと かんじ)41歳、社会系主任教師で堅物で通っている。
 だが、彼も校長室に呼び出された、サディスト教師であった。

 3人は職員室に入り、教頭の席の前を横切って、校長室の扉の前に立つ。
「失礼します」
 京本がハッキリした声で、中に告げると、扉を開ける。
 校長室には、既に9人の教師が、入っていて真ん中の応接セットには、各主任教師と教頭が座っていた。
 京本はただ一つ空いている、一人掛けのソファーに腰を掛けると、執務机に座る校長に向き直り
「これは、何の呼び出しですか?」
 硬い岩のような声で、問い掛ける。
 余りにも唐突な呼び出しだったため、機嫌をかなり悪くしていた。

 だが、内心自分が行った事に対する糾弾か、冷や冷やしている。
(何だ、このメンバーは…学校の主立った者に…何故、新米の教師まで混ざっている…。儂を辞めさせる気か? にしても、メンバーがおかし過ぎるぞ…)
 京本はグルリと、周りを見渡し、それぞれの教師達の顔を見つめた。
 そして、有る事に気付く。
 学校の3役を除く、ここに居る教師殆どが皆同じように、どこかビクついているのである。
 京本が内心で[まさか]と呟いた時
「いやいや…先生方…大変な事をしてくれましたね…」
 ボソリと校長が呟き、その声に合わせて稔が持って来た、デジカメ写真のプリントアウトした物を、教頭が机に拡げる。
 12人全員の顔が強張った。



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