■ 第二章 教室で…… 2
僕たちは保健センター最寄の門から大学に入った。
保健センターに向かう列は、女子は下はパンティーだけ、またはスカート。男子も下はトランクスかボクサーパンツ一枚だけで、ズボンをはいている人は皆無だった。ズボンをはいている僕たちが何だか浮いているように思えた。
僕は、『脱ぎやすい服装で』という健康診断の注意書きを思い出した。しかし、『脱ぎやすい』ってこういうことなのか?
「おはよう」「おはよう」
僕たちの少し前で、Tシャツにパンティー姿の女子に、Tシャツにトランクス姿の男子が追いついて挨拶を交わした。
するとどうだろう。その二人は、すぐに抱きしめあい、唇を合わせた。そして、その男子はその女子のTシャツに両手を突っ込み、胸を触った。その女子はブラジャーは着けていなかった。僕からはその子の乳首がチラッと見えた。その女子は、「あぁん…」と言って気持ちよさそうに笑った。
それから、二人はお互いのトランクスとパンティーに手を入れながら並んで歩き始めた。
「そうか、セックスが会話と同じくらいなのだから、キスとか触ることとかは挨拶レベルなんだな」
すすむは小声で言った。
改めて回りを見渡すと、何人かで歩いている集団で男だけ、女だけ、というものは無かった。ある二人は、女子が前、男子がその後ろから胸を揉みながら歩いている。別の三人は、一人の女子に両側から男子が、片方はTシャツに、片方はパンティーに手を突っ込んでいて、女子は両側の男子のトランクスにそれぞれの手を入れている、とかの風景がそこここに見られた。
僕は、棒が大きくなっているのはもちろんだが、顔が真っ赤になり心臓がかなりの勢いで脈打っているのを感じた。
僕たちは保健センターの玄関を入り、下駄箱に靴を入れ、中への扉を開いた。
「ええっ??」
僕は中を見て、思わず扉を閉めてしまった。
男子も女子も、みな上半身裸で、つまり女子はパンティー一枚にスリッパだけとかで、歩いていたのだ。
女子の胸は、写真ではもちろん見たことあったが、実物をはっきり見るなんて初めてだ。しかも何人も一度に見るなんて。今少なくとも十人は見た。
「おお、まさるくんにすすむくんじゃないか」
扉が開いて、聞き覚えのある声がした。同じ学科のあきらだった。上半身裸、トランクス一枚だった。そのうしろからは、やはり同じ学科のえりが来た。当然、上半身裸で、パンティー一枚だった。普段の堅いイメージどおり、というべきか、純白のパンティーだった。
あきらとえりは、どちらも背が高く、まじめそうなメガネをかけている。学科の中では、僕たちにとってはちょっと近づきがたい二人だった。
「おはよ」
えりはそう言ってメガネをはずし、僕の唇に唇をつけて来た。そしてちょっとだけ、舌を入れてきた。
僕はびくっとして、ちょっと後にひいてしまった。
でも、急いでいる中でも歯を磨いて来てよかったなぁ、と思った。
続いて、えりはすすむにも同じことをした。すすむはえりの胸を触ったり、パンティーに手を入れたりしたが、すぐに手を出した。
「…あきらくん、上半身裸になる、って指示あったっけ?」
僕は思い切って聞いた。
「体重測定とかレントゲンとか内科検診とかで脱ぐの当たり前じゃん」
「廊下で脱いでいるのは何で?」
「へ? じゃあお前は、脱いで体重測って着て、脱いでレントゲン撮って着て、脱いで内科検診受けて着るのか? 面倒じゃん」
「でも…女子が内科検診とかレントゲンとか受けるときは『女子受診中』とか札がかかって男子はその部屋入れなかったのでは」
「…何年前の話をしているんだ??」
すすむが耳元で小声で言った。
「セックスが会話と同じくらいだから、きっと何も隠す必要なんてないんだよ」
僕はちょっと納得した。
「じゃあな」
あきらとえりは、下駄箱からそれぞれのTシャツやブラウスを取り出して、着て、去っていった。
僕たちも見習って脱ぐことにした。Tシャツは下駄箱に入るが、ズボンはどうしても入らないのでかばんに突っ込んだ。
「えりさん、俺のチ○チ○触ってくれなかった。マ○コ触ってもうれしそうじゃなかったし。普段話もしてないから当然か。まあ、あの女と何かしたいとも思わないけどな。」
すすむが言った。
トランクス一枚になった僕たちは扉を思い切って開けて中に入った。
まず受付だ。受付のおばさん看護師は普通に白衣を着ていた。脱ぐ必要ないから当然だが。
「まず右手の身長体重コーナーに行ってください」
僕たちは示された部屋のドアを開けた。
心臓が飛び出しそうになった。
目の前では、パンティーさえ脱いだ、何も着けていない女子が体重を測っていた。
思わず顔を背けてしまったのであんまり見ていないが、陰毛が僕たちと同じくらい生えているのがチラッと見えた。
その列の次には今まさにスカートを脱いでいる女子がいた。脱いだら、その下には何も着けていなかった。
その後ろでは、男子も二人トランクスを脱いでいる。
「生理中?」
その男子の一人が、その後ろに並んでいる、濃い色のパンティーをはいていて脱ごうとしない女子の胸を撫でながら声をかけた。
「うん。脱げない分だけちょっと体重が重く出てしまうよ」
その女子はその男子の棒を触りながら答えた。
すすむはおもむろにトランクスを脱ぎ始めた。
「おい、すすむ、脱ぐのか?」
僕は小声で聞いた。
「みんな脱いでる。脱がなきゃ変に思われるぞ。多分」
「でも…僕こんなに立って…」
僕は、下を向いて、トランクスの下で大きくなっている僕の棒を見た。
そりゃあ、立ってなくても恥ずかしいが、僕は言葉がうまく出てこなかった。
「大丈夫! 俺だって立ってる。それに周りを見ろよ。立ってる男いっぱいいるぞ」
僕は、特に下半身はなるべく視界に入らないようにしていた。でも思い切って見ると、通常サイズの棒の男もいるが、棒が立っている男も何人もいた。女子に触られている男はもちろんそうだ。
僕はちょっと安心した、というか、トランクスはいている言い訳がなくなった。そして少しづつトランクスを下ろした。今まで布に抑えられていた棒が解き放たれた。ちょっといい気分がした。
それでも、目のやり場に困ることには変わりない…
身長体重測定そのものは特に変わった事も無く終わった。僕たちはトランクスを脱いだまま廊下に出た。
全裸の男子女子が集まった異様な部屋を出て、僕はちょっとほっとした。僕は何気なくその場の長椅子に座った。
「ちょっと、そこ。椅子座るときはパンツはいてね」
隣の部屋の受付のおばさん看護師が僕を指して言った。まわりをよく見ると、全裸の人もいるが多くの人は下半身は再び何かはいていた。
僕は、以前ネットで見た、西洋のヌーディストリゾートの体験記を思い出した。『全裸で歩いていても、レストランとかの椅子に座るときは汚れるのを防ぐためにマイタオルを敷くかパンツをはくかするのがマナー』というようなことが書いてあった。
この世界も同じようなマナーらしい。
僕たちはトランクスをはき、次の受付へすすんだ。尿検査だった。
「尿を提出してください」
すすむはかばんから尿が入った小容器を取り出した。
僕は尿を持ってきていなかった。今日が健康診断ということを忘れていて、慌てて出てきたので…
「あの…尿を採るの忘れまして…」
「では今採ってきてください」
おばさん看護師は紙コップと小容器を差し出した。
「すすむ、ちょっと待ってて」
僕は男子トイレに入ろうとしてドアを押した。
ええっ?! 僕は心臓が二つくらい飛び出したような気がした。
ドアを閉めてもう一回看板を確かめた。確かに黒く、丸と逆三角形の『男子トイレ』の記号だった。でもよく見ると、それをはがそうとした跡や大きく×で記号を消すような落書きがあった。
でもここ男子トイレだよなあ…、小便器が並んでいる。僕はもう一回ドアを押して入った。
そこには、小便器の前でパンティーを下ろしてしゃがんだ女子がいた。僕と同じように紙コップと小容器を持っていた。採尿は終わったようで小容器には黄色い液体が入っていた。そしてその女子は体内に残った尿を小便器に向かって放出していた。
その後その女子は、立ち上がって目の前に置いてあったトイレットペーパーを少し切り取り、股間を拭いて、その紙をくずかごに捨てて手を洗って去っていった。
立ちつくす僕の後ろからもまた女子が入ってきた。その女子は個室がいずれも使用中なのを確認すると(鍵はかかっていないところもあったが、そこはその女子が開けて確認すると誰か入っていた)何のためらいもなくパンティーを下ろして小便器の前にしゃがんだ。
…そうだ、採尿しないと。立ちつくしている場合じゃない…
僕は小便器の前に立った。尿出さなきゃ…しかしこんなに硬くなった棒からどうやって出したらいいんだろう??
それでも僕の二つ隣の小便器ではあとから入ってきた男子が普通に放尿していた。この世界では普通の風景なんだろうとは思うけど、これで立たないなんて僕にはまだ信じられなかった。
僕は目をつぶって、今まで見た光景を頭から振り払おうとして、何とか採尿した。
「おまたせ」
「ずいぶん時間かかったな」
僕はトイレで見たことを小声で説明した。
「おぉ、それはすごいな。でも男子トイレ使えるのは女子にとってもいいかもな。待ち時間減って」
僕は昨日までの女子トイレの状況を思い出していた。この大学、ここ数年で女子比率が急速に増えて、女子トイレとかの増設が追いついていなかった。だから休み時間になると、女子トイレは行列になることがよく知られていた。
放尿も恥ずかしくない、とすると待つより男子トイレに入るのは当然だろう。というか、男子トイレという名前さえ、この世界では使われていないかもしれない。
尿を提出したあと、僕らはレントゲン、内科、と進んだ。説明するまでもなく、女子受診中も普通に男子は入れた。
レントゲン室から出てくる女子も当然のようにパンティー一枚。上半身裸で聴診器を当てられている女子も当然のように目の前にいた。
最後の部屋で血圧と採血だった。血圧を測るのはおじいさん先生だった。
「160−100…ちょっと高いですね。今まで高血圧と診断されたことはありますか?」
「いえ…」
そりゃあこんな状況だ。ドキドキしているよ。
最後に採血。朝食食べてしまったから血糖値高いかな。
採血を終え、止血用のシールを渡された。
「血が止まるまで五分くらい、座って待っていてください」
僕たちはその場に並べられた椅子に座った。
「すっげぇ世界だな。エロビデオでも見たこと無い」
すすむが小声で言った。
「うん…、ちょっと目のやり場に困るけど…」
それでもやはりまわりが目に入ってしまう。トイレからここまで一気に来たが、ここで落ち着いてみると、改めて男子と女子のペアやグループが目立った。そうしたペアやグループはやはり皆キスを交わし、胸を揉み合い、股間に手を突っ込み合っていた。男子も女子も、「あぁっ」、「あぁん」とか抑えながらも声を上げていた。
僕の棒は、はちきれそうだった。我慢できなくなりそうだった。僕は手探りでかばんの中からポケットティッシュを取り出した。そして右手でトランクスの前を開き、棒を出して、握ろうとしていた。
「おい、それはやめた方がいい。誰もそれはやってないぞ」
すすむはそう言って僕の右手を抑えた。
僕はあたりを見回した。確かに一人でいる男子は、もちろん女子も、普通に座っていた。
「そんなことするより早く教室行こうぜ。教室に行けば、あいかさんもしほさんもいるんだ」
すすむは勢いよく立ち上がって出口に向かって早足で歩き始めた。
「おい、待てよ。」
僕はあわてて後を追った。
あいか…これからあいかと会ってどうしたらいいんだろう? ほんとうに、願ったとおりセックスできるのか?? いっぱいすごい事を見たけど、「セックスが話すことと同じくらい気軽にできる世界」、僕はまだ半信半疑だった。
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