2011.06.18.

特別授業−現場主義
002
百合ひろし



■ 2

言われたメニューを全てこなして夏奈子はプールサイドに上がり、ツインテールの髪を絞った。恵子は時計を見て、
「運動神経はいいからなぁ、このコ。それに一人だから早く終わって当然か……」
と呟き、それから夏奈子を見ていた。
夏奈子は恵子の視線に気付き、ツインテールを絞り終えてから、
「これで終わりですよね」
と確認した。すると恵子は、
「昨日の分の補習はね。きちんと出席扱いで成績付けるわよ。いいタイムだったわね」
と答えた。夏奈子は、
「補習は―――って?話が違わないですか?」
と驚いて聞いた。恵子は腰に両手を当てて、
「何を言ってるの?今のが特別授業だったなんて一言も言って無いわよ。最初に言ったでしょう?補習だって―――。今のはあくまでも補習で特別授業はこれからよ、まあ停学になりたいなら帰ってもいいけどね」
と挑発的な笑顔で言った。夏奈子は、
「そんな……騙された……」
と悔しそうに両手を震わせた。停学食らう訳には行かない―――、いい大学への指定校推薦を狙っている夏奈子にとって停学を食らう事はその道を断たれる事を意味していた。恵子は、
「フフッ、何時までその顔が出来るのかしら?まあその強気な顔、好きだけどね。兎に角ついてきなさい」
と言って外に向かいながら流し目で夏奈子についてくるよう促した。夏奈子は仕方なく溜め息をついて恵子の後ろについていった。プールから出た後上履きを履くと、
「拭きなさい」
とバスタオルを渡された。夏奈子は髪、顔、体―――水を含んだ下着も叩くように丁寧に拭いてから恵子にバスタオルを返した。それから二人は体育館の体育教師室に戻った。

恵子は戻るや否や体育教師室内のタンスを開けて、一着のコートと言えばいいのだろうか?駅伝でタスキを受ける選手が待機している時に着ているものである―――。それを出して夏奈子に渡した。
「これ着て制服は鞄にでもしまいまさい」
と言った。夏奈子は返事だけして後は黙って従った。言われた通りにすると、恵子は電話を掛けていた。
「うん、今から向かうからみっちりね」
と相手は誰だか分からないがかなり親しげに話していた。夏奈子は溜め息をついた―――。

「じゃ、その鞄持って―――駐車場に行くわよ」
と恵子が言った。何故か今までよりルンルン気分になっている。夏奈子はこれから何が始まるのかと思うと不安だったが、言う事聞かないと停学になってしまう―――軽い気持ちで一本吸った煙草の為にまさかこんな目に合わされるなんて思っても見なかった。何だかとんでもない事をさせられるのかと思うと気持ちが滅入ってしまいそうだった。しかし、ここで弱気になると恵子はもっと調子に乗りそうだ―――。夏奈子は何とか気持ちだけは強く持とうと思っていた。

駐車場に着くと赤いスポーツかーが置いてあった。それが体育教師らしく恵子の車―――ではなく、恵子はその車に向かって行くと窓が開き、二言三言話した。それから夏奈子に手招きをした。夏奈子が行くと、助手席側のドアを開け、後ろに乗るように指示した。夏奈子は言われた通りに乗ろうとしたが、後部座席は申し訳程度のものであり、とても大人が快適に乗れる様なものでは無かった。
「―――!」
それ以上に驚いたのが運転席に座っていた人だった―――。

年は20代後半から30位、所謂アラサーで、前髪を綺麗に切り揃え、やや茶色掛った綺麗でストレートな黒髪で横髪は編み込んでいる感じだった。顔はまるで人形みたいに可愛らしく、服装もそんな人らしく可愛らしいブラウスとミニスカートといった格好をしていた。そしてその上に白衣を着ていた―――。
『残ってるのは私と佐伯先輩』
夏奈子は体育教師室で恵子が言ったことを思い出した。そう、この車の運転手は養護教諭の佐伯道代。彼女も恵子と同じ部類の教師なんだ―――と。
「ま、富永後輩から聞いてると思うけど、逃げようなんて思わないでね」
道代はにっこり笑って言った。女子校であるにも関わらず、この笑顔が見たくて保険室に行く人がいる程の天使の笑顔だった。しかし今の夏奈子には道代の笑顔は裏にドス黒いオーラを纏った悪魔の笑顔にしか見えなかった。夏奈子は、
「はい……」
と言うしか無かった。道代は身長156cmと恵子より体格は小柄だが、先程の恵子の話を信用すると、道代も格闘術を身に付けていると思った方が良かった。運転席に道代、そして外には恵子がいる。幾等夏奈子がスポーツ得意といっても格闘技は未経験なので2対1なので、もはや逃げる気は起こらなかった。

道代は、恵子が助手席に座りシートベルトしたのを確認すると、
「中埜さんもベルトしてね。私の免許証に傷つくし、それに痛い目見たくないでしょう?」
と口元に笑みを浮かべて言った。夏奈子は意味が分からなかったが兎に角ここで道代の免許証に傷を付けたらどんな言い掛かりを付けられるか分からないので素直に従いシートベルトを締めた。
その時ふと、後部座席の窓が黒塗りである事に気付いた。窓の色、そして後部座席の居住性を無視したスポーツカーを使って自分を後部座席に押し込んだのは、窓が黒い為外からは見えない事と、狭いから自由に動けず後ろから攻撃されるリスクが少ないからではないかと感じた。思い切って道代に聞いてみた。
「もしかして、前にも今の私みたいにされた人がいるんですか?狭いし窓黒いから―――」
すると道代はクスクス笑い、
「面白い事言うのね……。単に私がこういう車が好きだからよ」
と言ってエンジンを掛けた。排気量が大きい車らしく力強い音が響きわたった。道代は、
「例えばこんな風に―――」
と言って操作を始めた。良く見ると夏奈子が今迄見た事が無い運転席周りの配置―――、マニュアルギアボックスの車だった。道代はクラッチを切ってギヤを1速に入れ、ステアリングを切り、スロットルを全開にしてからクラッチをドカンと繋いだ。
「―――っ!」
車はその場をグルグルまわり、エンジン音が唸りスキール音が轟いた。そしてみるみる白煙が立ち込めていく―――。その様子や車の挙動に夏奈子は驚いた。道代は強烈な横Gに何とか耐える夏奈子と恵子をチラチラ見ながら楽しんだ後、駐車場の門が視界に入った瞬間に車の向きを変えて勢い良く門から飛び出し、その後急停車した。
「富永後輩―――。あ、やっぱり自分で閉めてくるね」
道代はそう言って車から降りて門を閉めに行った。

「……」
夏奈子は何も言えなかった。確かに道代が言った通り、急発進、強烈な横Gに急停車―――。ベルトをしていなかったら体がいくつあっても足りないと思った。今の運転で何処だか分からない目的地に行くのであろうか―――と思うと疲れがドッと出た。
「ま、大人しくしている事ね―――」
恵子が振り返って言った。心なしか顔色悪い様に見えたが―――。

道代が戻って来た後、20分程そんな運転に付き合わされて着いたのは周りに比べて庭の広さが3割増し位でそれ以外は小綺麗な普通の家―――。車庫も広めなので道代はスピンターンで車庫入れした。
「着いたわよ、ここが―――今回の特別授業の会場。とはいっても私の自宅だけどね」
と笑顔で言った。夏奈子と恵子はげっそりしていたが―――。
それから道代は夏奈子と恵子を家の中に案内した。家の中は綺麗だが他に人の気配がない。道代は一人り暮らしなのである。そして見た目全く普通の家なのだが、
「大声だしても外には通らないから安心して下さいね」
と言った。夏奈子は大声を出したい気分だったので何が安心なのか良く分からなかった。精々自分が大声をだしても声が聞こえないため道代や恵子は好きなだけ自分をいじめようとでも言うのだろうか―――位しか思い付かなかった。
「先生の自宅で私をどうするのですか?」
夏奈子は聞いた。道代は、
「特別授業よ―――。貴方、10代で煙草吸うなんて自分の体を分かってないから、だからそれを教えてあげるわ―――つまり保健の授業ね」
と言った。そしてその授業を行うという奥の部屋へと案内した。勿論、夏奈子が逃げない様に恵子が後ろから付いてきていたが―――。

そして部屋に入ると、後から入って来た恵子が鍵を閉めた。これで夏奈子は完全に逃げられなくなった。
「保健の特別授業って……何をするんですか?」
夏奈子は覚悟を決めて聞いた。これさえ乗り切れば今度こそ自由になれる―――。先程の道代の言葉、煙草が云々言っていた訳だから煙草に関する事はこの授業を受ければ無かった事にされる、という風に考えた。道代は顎に指を当てて少し考えた後、
「じゃ、そのコート脱いで。暑かったでしょう」
と言った。別に考えていたのはどうやって進行するかを考えていただけであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。夏奈子がコートの前のボタンを外して袖から右腕、左腕と順番に抜いていってブラジャーとパンティを露にすると、道代は笑顔ではしゃいだ。
「まあ、可愛い。本当に縞パンのコを間近で見れるなんて思わなかったわ」
しかし、道代はある一種の違和感を感じた。そう―――、バランスが悪いのである。夏奈子は『折角』白地に水色の縞パンを穿いているのに、上につけているブラジャーは何故白1色モノなのか?という事である。この手のものだったらセットで売っていてもおかしくないのに。
「何でブラは縞じゃないのかな?」
道代は夏奈子の斜め前に立って聞いた。この位置に立てば、夏奈子が万が一攻撃しようとしてもダメージは殆ど受けない、という位置だった。夏奈子は興味深そうに自分をじろじろ観察する道代に、
「だって……、縞だったら透けて凄く目立つじゃないですか―――」
と顔を赤らめて答えた。道代はその答えを聞いて、
「あっそ。じゃ、今はワイシャツ着てないんだし透ける透けない気にしないでいいから―――、それ以上に縞パンに白ブラだと違和感あって嫌だから、外しちゃって」
と満面の笑顔で言った。夏奈子は、
「え……?まだ……脱ぐんですか……?」
と更に顔を赤くして聞いた。道代は一歩近づいて、
「聞こえなかったの?ブラ外しちゃって」
と笑顔のまま言った。笑顔で言われたら怖いというか、恵子以上の恐怖だった。もし言う事聞かなかったらここでボコボコに殴られた上に停学にされてしまう―――と思った。夏奈子は、
「分かりました」
と道代から視線を逸らし、背中に手を回してブラジャーのホックをゆっくりと外した。そしてストラップを右、左と肩から抜いて、最後にカップを胸からどけると、非常に綺麗な乳房が露になった。道代は、
「じゃ、ブラはここに置いて、それからこのベッドに横になって」
と指示した。パンティ一枚姿になった夏奈子は言われた通りに手に持っていたブラジャーは机の上に置き、それから左足、右足の順にベッドに乗せてから横になった。すると道代はこんな事を聞いてきた。
「1つだけ希望を聞いてあげる。但し、授業を円滑に受けるための希望よ。帰りたいとかは聞けないわ」
夏奈子はそれを聞いて、今さっきブラジャーまで外す様に言われたので次が心配になった。その為、
「まさか、後でパンツまで脱げとか言わないですよね……?私は―――いや、何でもないです」
と言った。道代はそれを聞いて夏奈子の横で前屈みになってベッドに頬杖を付いて、
「言い掛けたなら言いなさいよ。聞いてあげるから」
と言った。あくまでもニコニコと笑顔で―――。夏奈子はキッと道代の方を向いて、
「と、兎に角、―――脱ぐ位なら停学でも退学でも受けます」
と言った後恥かしそうに両手で顔を隠した。道代はそれを聞いて、
「りょーかい。そう言うと思ったわ。貴女の縞パン好きが半端じゃない事位分かっていたから」
とクスクス笑いながら言った。夏奈子は、
「分かっていた―――ってどういう事ですか……?」
と聞いた。道代は立ち上がって、
「貴女が煙草を吸った日からずっと今日のこの日を待っていたわ。丁度いい事に富永後輩の授業の時水着を忘れて来た御蔭で実行に移れたの」
と言った後、壁にあるカレンダーをめくる様な仕草を見せ、
「でも貴女が隙を見せるのに随分時間掛かったわね―――。だからその間に貴女の素行を徹底的に調査したわ」
と言った。
夏奈子は高層マンションに住んでいる為、自分の部屋が何処かから覗かれているなんて事は考えてもいなかった。しかし、覗けるポイントは存在した―――。夏奈子の部屋から周りを見るとまるで空中庭園なのだが、正面に、とは言っても100〜150m離れた所だが、一棟同じ位の高さのマンションがある。
つまり、恵子や道代達、特別授業をやる教師達に雇われた探偵はそこから夏奈子の様子を観察していたのである―――まさかそんな所から覗かれているなど夢にも思わなかったが。
正面以外にはそこそこ高層マンションがあるのだが、そこからは夏奈子の部屋の中を観察することは出来なかった。

その観察の結果得られたもののひとつは、夏奈子が縞パンが大好きであるという事だった―――。

夏奈子は、覗かれないという安心感からかシャワーを浴びた後、髪を乾かした後ツインテールに縛り、縞パン一枚姿で窓際の椅子に掛けてボーッと外を眺めている事が多々あった。色はその時その時で様々で、沢山持っている事も解っていた。
勿論そんな調査をしていたなんて事は道代は一言も言わなかったので夏奈子は何故道代が当然の如くそういった趣味を知ってるのか不思議に思ったが、クラスメートへの聞取りや普段の観察、例えばスカートが捲れ、縞パンが見えるのを何回か目撃した等、でも分かるのかも知れないと思っていた。いや、そう思うしか無かった―――。つまり、夏奈子が先程言い掛けて止めた言葉は―――『私は縞パン姿が好きだから』という事だった。
道代は、
「その隙を見せるのに時間が掛かった事が貴女を助けたのかしら……」
と窓の方を向いて顎に人指し指を当てて言った。そして、
「とりあえず、始めましょうか」
と笑顔で言った。その笑顔はやはり人形の様に可愛らしかった―――。その後道代は夏奈子の腰に手をやり、軽く揉みほぐした。
「うっ」
夏奈子は軽く声を上げた。考え事―――、道代がどうして自分の事をこんなに詳しく知っているのか考えていた時に、急に腰に温い感触が来たので声を上げてしまった。道代はクスクス笑い、
「緊張ほぐしてね」
と言った後、更に腰をマッサージし、その後太股も同様にした。
「まだ固いかな、柔らかく柔らかく」
まるでマッサージ師の様な腕である。オイルは使ってないが―――。
「1時間後には貴方は天国に居る様な気分よ、きっと」
と言いながら夏奈子の太股から手を離した。夏奈子は、
「何をするつもりなんですか―――?」
と聞いた。道代は笑顔のまま、
「言ったでしょ?保健の授業だ―――って。ひとつひとつ人体の不思議を解説してあげるわ」
と答え、それからお椀を伏せた様な形の良い乳房に手をやった。
「ち、ちょっと……。やめてください」
夏奈子は顔を赤らめて言い、乳房を包み込む様にしている道代の手の上に自分の手をやって言った。すると道代は口を尖らせて、
「やめないわ。これが特別授業なんだから。―――手、邪魔よ」
と言った。夏奈子はそれを聞いて諦めて手を退けた。その代わりに、
「授業なら―――生徒にきちんと教えて下さい……」
と言った。もう悪あがきにしかならない事は夏奈子自身一番良く解っていた。



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