「ちょいとそこ行く美少年の君。生徒会に入りませんか?」
「………は?」
 アールダメン候子アーヴィンド・クラーク・リズレイ・プリチャードは目を見開いた。唐突な言葉に驚いたせいもあるが、目の前の相手の容貌に驚いたせいの方が大きい。
 不思議な雰囲気を持った人だった。おそらくは男なのだろうとは思うが、容貌も雰囲気も中性的、いやむしろ女性的な柔らかく優しいものだ。
 だがアーヴィンドが驚いたのはそこではない。学校案内で写真を見た。彼はこの八百万間学園の今期生徒会長、速水厚志だ。
「あの……速水生徒会長、ですよね?」
 おそるおそる訊ねると、速水はにっこりと微笑む。
「あ、僕のこと知ってるんだ。嬉しいな」
「それは、学校案内に写真が載ってましたし」
「んー、そーいうとこまでチェックするなんてさっすが真面目さん。将来有望だね。生徒会に入りませんか?」
 アーヴィンドは困惑の表情を浮かべた。この人はなにが言いたいんだろう?
「あの……なにか、僕にご用があるんですよね? でしたらどうぞ気にせずおっしゃってくださいませんか?」
「だから、生徒会に入りませんか? って聞いてるじゃないv」
「いえ、あの……ご冗談でしょう? 八百万間学園の生徒会に入学したての人間が入るなんて聞いたことがありませんよ。しかも高等部からだなんて」
「ふぅん……ねぇ、アーヴィンくん。八百万間学園って、どういう学校だと思ってる?」
 問われて、アーヴィンドは姿勢を正した。なぜいきなり愛称で呼ばれるのかはわからないが、きちんと聞かれたのだから答えなければ。
「勇者を育成する、世界最大の学校です」


 八百万間学園――それは世界の危機に対抗するべく、十一代前のグランバニア国王が作り出した学校だ。
 この世界はどういうわけか、週一で世界の危機が襲ってくる、といわれるほどしょっちゅう滅びに瀕している世界だった。世界を支配しようとする大魔王やら、世界を滅ぼそうとする大神官やら、世界を闇で満たそうとする暗黒神やら、そういうものがぽこぽこぽこぽこ当然のようにしょっちゅう出てくるのだ。
 それでも世界が滅びなかったのは、闇が濃いのと同様光もまた力強かったからだ。毎週のように襲い来る世界の危機には、必ずそれを超える強さを持つ勇者が立ち向かった。彼らのおかげで世界は守られてきたのだ。
 八百万間学園はその勇者を安定して供給するべく作り出された学校だった。幼稚部から大学部まであるカリキュラムの中で、生徒たちは力と技を鍛え、魔王を倒す勇者へと成長していくのだ。同様の学校は世界中にいくつもあるが、八百万間学園はその歴史も講師や設備の質も群を抜いている。
 アールダメン候子であるアーヴィンドは、侯爵家を継ぐため貴族的な教育を受けてきた。けれどどうしても夢を捨てられず(ある事情のせいもあり)半ば無理を通すようにして両親を説得し、この学園へとやってきたのだ。幼稚部からいるような生徒に比べれば、自分の実力はお話にならないほど低いはずである。
「んー、まー間違ってないね。けど……」
「速水」
 落ち着いた少女の声に、アーヴィンドはまた体を緊張させた。生徒会副会長、芝村舞だ。
「ん? なに、舞。時間?」
「うむ。そろそろ準備をせよと教頭が言っておったぞ」
「やーれやれっ、まったく生徒会長ってーのも楽じゃないねぇ。……しゃーない、勧誘はまたにするか。じゃあねアーヴィンくん、また会おうね〜」
「入学式に送れるような真似はせぬようにな、新入生。では」
 去っていく二人をしばし見つめ、アーヴィンドはふ、と息を吐いた。緊張した。やはり生徒会の人間ともなるとオーラが違う。見事に圧倒されてしまった。
 急ごう、とアーヴィンドは再び歩き始めた。入学式に遅れるようなことがあっては大変だ。


 八百万間学園はグランバニア王都からほど近い山間の盆地にある。グテル山脈で分けられた南部と呼ばれる地域への通り道からは外れているが、学校付属の施設、それに付随する勇者としての活動に必要な施設は(武器防具屋に食堂歓楽街等々)、もはや一個の街と呼んで差し支えない規模のものになっていた。職人に武器を作ってもらうため高名な勇者がわざわざ訪れたりもする。いうなれば勇者のための、巨大学園都市なのだ。
 だからというわけでもないだろうが、入学式の行われる講堂までの道のりはにぎやかだった。街の武器屋やら防具屋やら勇者の必須用具を扱う店が宣伝を行いまくっているのだ。
「カッツバッグ武器屋でーす! 初心者用の短剣から伝説の剣まで、各種取り揃えてますよー!」
「ヴェロフ防具屋、ヴェロフ防具屋! 魔法使い用の強力な防具もあるぜ!」
「シンド道具屋〜ぃぃえ。なんでも売るよ〜、なんでも買うよ〜」
「今のあなたの進路は本当にあなたに適正な道か示します。占いの店ラ・トルネをよろしく!」
 歩いているだけで次々チラシが差し出されてくる。断るのも悪いだろうと受け取っているとあっという間に両腕が満杯になってしまった。
「参ったな……」
「お兄さん、なんならそのチラシ始末してやろうか?」
 ふいに声をかけられて、アーヴィンドは驚き声のした方を向く。そこには黒髪黒瞳黒尽くめ、ととにかく真っ黒い印象の青年が立っていた。年はわかりにくいが二十代後半あたりだろうか。脇には『マスター・マン人形店』と看板が立っている。
「あの……?」
「そこまで大量のチラシ、受け取っても読めないだろ。俺が始末してやろうか?」
「え、いえ、あの、そういうわけにはいきませんよ。あなたにも邪魔になるでしょう?」
「いやいや。実は俺は焚き火をしたかったんだが焚き付けがなくて困ってたところでな。君がそのチラシをくれたら助かると思ったんだが」
 アーヴィンドは苦笑した。たぶん自分の気を楽にするために言っているのだろうとはわかるが、こう気楽に言われると本当にそうなのかもと思えてしまう。
「それでは……受け取っていただけますか?」
「どうぞどうぞ」


 アーヴィンドは看板こそ出ているものの、チラシも商品もなにも置いていないその男の場所を見渡した。
「あの……こちらは、どういうお店なんですか?」
「夢と愛を売る店さ」
「………は?」
「うちは素敵な人形屋さんだよ。人形たちと人の出会いをお膳立てし、幸せな生活を作り出す。君も人生に疲れたらうちへ来るといい。君を愛してくれる人形と出会えるかもしれないぞ?」
「……あの、意味がよく」
 ぽかっ、と黒尽くめの男の頭が殴られた。男は「おうっ!」と叫んで頭を押さえ、くるりと背後を振り向く。
「なにをするんだランパート! せっかく珍しく俺が営業努力していたってのに」
「なーにが営業努力だよ。マスターのは怪しすぎんだよ。清く正しい青少年に言う台詞じゃないだろ」
 ランパートと呼ばれた赤毛の少年は(なぜか背中に羽のようなものがついている)、アーヴィンドの方を向いてにこっと笑う。
「ま、気にしないでよお客さん。ウチはごくふつーの人形屋だから。まー、男じゃ人形遊びなんてしないだろうけどさ」
「……ああ、人形屋さんなんですか。そうですね、あまり人形遊びの類には縁が……」
「ところでお兄さん。ランパートの格好をどう思う?」
 マスターと呼ばれた男がふいに目をきらきらと輝かせて言った。
「は? ……格好、ですか?」
「ああ。今日は入学式だからな、ランパートがウチの看板息子であることを知らしめるためにもぱっと目を惹くスタイルにしてみたんだ! コンセプトは桜の妖精でなっ、背中には針金とセロファンで作った羽をつけ、トップはピンクの薄い花柄ブラウス、それにグリーンのホットパンツを合わせる! 適度な肌の露出とキュートな服装で客を虜にしようと」
 ばぎっ。ランパートがマスターを殴った。
「いつもの発作だから気にしないで、お客さん」
 返り血を浴びながらにこにこ微笑むランパートに、アーヴィンドはなんと答えればよいかわからず、力ない笑みを浮かべて退散した。


 講堂に近づくにつれて店の宣伝は少なくなり、代わりに生徒たちの姿が多く見えるようになり始めた。いわゆる部活動の勧誘というやつだろうか。アーヴィンドは学校には行かず家庭教師をつけられて勉強していたので、ものめずらしく見物した。
「そこ行く君っ、サッカーに興味ない!?」
「バスケ部、マネージャー可愛いよ!」
「陸上部、一ヶ月に一回合コン保証!」
 ふと、かしましく宣伝をしている中で少し目を惹く部があった。一人の男性と、それを取り囲む十二人の美少女たちが受付をしている、呼び込みも何もしていない部だ。看板には『ロボット研究会』とあった。
 男性は美少女たちに囲まれて、というより迫られながら、少し困ったような顔で相手をしている。
「お兄ちゃんっ、可憐ね、おいしいケーキのお店を見つけたの! 明日行ってみない?」
「いや、明日はバイトがあるから……」
「じゃああにぃ、ボクとローラーブレードで勝負しよっ! それならバイトが終わってからでもできるでしょ?」
「いや、バイト終わるの夜の十二時だからなぁ……そんな時間に夜歩かせるわけにはいかんだろ」
「んもう、だからいつも言ってるでしょ? お兄様も私たちと一緒に暮らせばいいのに、そうすれば生活費の心配なんて無用になるのよ?」
「それだけは嫌だ」
 数秒見つめて気がついた。彼らは世界一の大財閥、志須田財閥の御曹司と息女たちだ。
 当主が亡くなって、現在は当主となるべく修行をしているとのことだったが。彼らもこの学園の生徒だったのか。
「へいへいおねいさん、オラと一緒にしたいごっこしない〜?」
 声をかけられたか、と思って振り向いたが、声の主は明らかに自分とは違う方向を向いていた。僕じゃなかったのか、と内心驚く。アーヴィンドは(ある事情のせいで)普通の女よりはるかに声をかけられる頻度が高かったからだ。声の主はとぼけた顔つきをした自分と同じくらいの年の少年だったが、思わずすごいなと見つめてしまった。
「テニス部はこちら! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい、お代は見てのお帰りだ!」
 まるで大道芸をする時のような声に気を引かれ視線を向ける。そこにはテニスラケットを持った自分より三つほど年下の少年が、びしばしとボールを打っている姿があった。打っているのみならず、ボールは次々とかなり遠くに置かれた番号の書いてあるボードに当たっていく。しかもそのボールはボードと同じ番号がかいてある。番号を一瞬で判断して打ち分けているのか、と理解し、そのおそるべきボールコントロールに驚いた。
 まだ幼いとすら言えそうな少年なのに、ここまでの技術があるとは。さすが八百万間学園の部活、半端ではない。アーヴィンドは素直に感嘆した。


「君は……アールダメン候のご子息じゃないかい?」
 ふいに声をかけられて、アーヴィンドは飛び上がりかけた。この声は。
「……アディローム陛下!」
 慌てて膝をつくが、グランバニア国王アディローム一世は苦笑して手を振った。
「そうかしこまらないでくれ。今日はただこの学園の理事長としてやってきただけなんだから」
「はい、承知いたしました。申し訳ありません、場をわきまえず」
 立ち上がるアーヴィンドに、アディロームは苦笑した。
「……君はこの学園に入学したんだね。この学園には僕の子供たちも通っているんだ。仲良くしてやってほしい」
「はい、私などでよろしければ、喜んで」
「あら、私については言及してくださらないんですの、アディム陛下?」
 その鈴を振るような声に、アーヴィンドは目を見張った。
「ミーティア姫! 姫もこの学園に?」
「ええ、ユルトも来ているわよ。本当にお久しぶりね、アーヴィンド。三年前の園遊会以来かしら?」
 にこにこと微笑むミーティア姫にアーヴィンドは微笑みを返した。グランバニアと親交の深い国のひとつ、トロデーンの姫ミーティア。彼女とは何度か会って話したことがあった。まだ幼い他国の姫や王子がやってきた時、相手をするのは貴族の子息の仕事だったからだ。
「姫はなぜこちらに?」
「ユルトが入りたいって言ったから、私も一緒に勉強したくって。こちらは学問についても世界有数ですもの」
「それは光栄だね。……アーヴィンドくん、ここにはいろいろな国の王侯貴族の子息の方々が来たりもしているけれど、ここは学び舎だ。生徒たちは全員平等に扱われる。そううまく切り替えるのは難しいかもしれないけれど、この学校の中だから作れる関係を築いていってほしいと思うよ」
「はっ」
 反射的にかしこまって返事をするアーヴィンドに、アディローム――アディムはまた苦笑した。


「ほらほら、新次郎! 早く準備しようよっ、でないと間に合わなくなっちゃうよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよジェミニ。えぇと、こうきたらこうきて、こうなったらこうなって、こうしたらこう……」
 講堂へ向かう道の途中、何人もの人々とすれ違う。話を漏れ聞いたところによると、どうやら部活の紹介の準備らしい。そういえばこの学校は入学式のすぐあとが部活紹介なのだそうだ。部活動に力を入れているこの学校ならではだろう。
「っと!」
「わっ……」
 よそ見をしていたら人にぶつかった。慌てて誤ろうとするが、それよりも相手が地面に着きそうなほど深々と頭を下げるほうが早かった。
「ごめんなさいっ! ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさいっ! 殴るなりなんなり好きにしてくださいっ、俺なんかでよければ刺してくださってもぜんぜんいいですから……!」
「え、いや、あの、落ち着いてください」
 泣き声でひたすらに頭を下げる相手を、アーヴィンドは困惑しつつもなだめる。
「ぶつかったのは僕も悪かったですし、お互い様ということにしませんか? ただぶつかった程度で殴るの刺すのって話になるのも妙な話だと思いますし」
「ごめ……ごめんなさい……」
「いえ、ですからお気になさらず……」
「ごめんなさい、俺、ごめんなさい……」
 アーヴィンドはふぅ、と息をついた。この人はどうやら自分とぶつかったことに相当強いショックを受けているようだ。なんでただぶつかったくらいで、とも思うが彼にとってはとてつもない衝撃だったのかもしれない。
 仕方なく、アーヴィンドはぽん、と相手の背に手を置いた。
「大丈夫です。僕はわりと丈夫だから、気にしなくていいんですよ」
「…………」
 相手の少年は泣きそうに潤んだ瞳をしばたたかせて、ぺこりと頭を下げた。
 手を振って立ち去りながら、変わった子だったな、と思っていると、ふと気付いた。
 ――今の人って、生徒会書記のセオ・レイリンバートルじゃなかったか?


 ざわめきに満ちた講堂の中をアーヴィンドは進み、席に着いた。今日は高等部の入学式なので人は思ったより少ないが、それでも軽く数千人はいる。
 着席してからしばらくして、放送が流れ出た。
『ただいまより、第三百五回、八百万間学園入学式を始めます』
 ざわめきがみるみるうちに静まっていく。アーヴィンドも姿勢を正して舞台の上を見た。
 瞬間。
 ヴゥーウ、ヴゥーウ、ヴゥーウ!
 大音響で警戒音が鳴り出した。赤い回転灯がぐるぐる回り、いかにも非常時という雰囲気が満ちる。
 ヴンッ、と舞台の上に映像が映された。自分よりわずかに年上と見える男の顔が現れる。
『はーいこんにちはみなさんの宝探し屋葉佩九龍でーっす! 入学式っていう晴れの舞台なのに乱入してごめんねっv でもしょーがないんだよー、実は遺跡に潜ってたらうっかり魔王の封印解いちゃったんですよこれがまた。現在魔王は周囲のエネルギーを食らいつつ学園中心部、すなわち講堂周辺に向かい進行中! そーいうわけで学園全土に警戒警報呼びかけまーっす! 戦闘能力のない人は早めに避難してねっv』
 ぱちん、と最後にウインクをひとつして映像は消える。
 講堂はしばし静寂に満たされ、それから狂乱がやってきた。


『避難される方は右手奥の非常口からお進みください。押し合わず、ゆっくり、静かに進んでくださいね。まだまだ時間に余裕はあります』
『戦闘に参加される方は左手奥の戦闘員通用門に向かってください。ただし身体や命を損なう可能性をご覚悟ください』
 落ち着いた声で放送が響き渡る中、講堂内のほとんどの人間は非常口に殺到していた。当然だろう、高等部から入学した人間たちは、まだ戦闘訓練を積んでいない人間が多いのだ。
 アーヴィンドは席に座ったまま、固まって考えていた。自分はどちらに進むべきか?
 まったく戦闘訓練を積んでいないわけではない。だが戦力になるかどうかは怪しい。今の自分は素人に毛が生えた程度の実力しか持っていないことは誰よりも自分がよくわかっている。
 だから非常口から逃げた方がいいのかもしれない。足手まといになって他の人に迷惑をかけてしまったらそれこそ本末転倒だ。それに、いきなり魔王と戦うことになるなんてぜんぜん予測していなかったから――はっきり言ってしまうと、怖い。
 ………でも。
 アーヴィンドは立ち上がり、戦闘員通用門に向かい走った。そりゃ危険だろう。人に迷惑をかけるかもしれない。父が見たら無茶をするなと怒鳴るだろう。でも。でも。
 無茶がしたくて自分は今、ここにいるんだ!
 通用門を潜り抜ける――その瞬間、視界が光で満たされた。
『でぇやぁぁっ!』
 身の丈四mのロボットが、巨大な影を大きく斬り裂いている。
「!?」
 唖然とする暇もなく、今度は強烈な爆発が影を包み込む。さらにどう見ても人間にしか見えない者たちが、人間にはありえないほど大きく飛び上がって影に次々傷をつけた。
「おらぁっ、三流魔王風情がでかい面してんじゃねぇっ!」
「申し訳ないけれど、あなたの存在は僕たちの害になるので、排除します」
「闇にうごめく魔物よ、滅しなさい!」
 次々に、様々な人々が様々な方法で攻撃をかける。そしてそれが一瞬途切れた瞬間、どぉんっ、とすさまじい音がしてさきほどのロボットよりさらに巨大なロボットが現れた。
『真っ打、登っ場!』
 ずばぁっ! と一刀の元に影を大きく斬り裂き、さらに返す刀で首を飛ばす。
『この滝川専用機、通称赤い超新星≠ヘだてじゃねぇっ!』
 その声と同時に、どっごーんと影は爆発した。赤い超新星ってなんなんだ、とアーヴィンドは困惑したが、そんなことなどまるで関係なしに戦っていた人々が、いっせいに叫ぶ。
『あとから来ていいとこ持ってくな!』


 ぱんぱん、と手を叩く音がした。
「はーいみんな、それじゃーさっさと後片付けするよー。浄化系呪文が使える人は魔王の影響を浄化して回ることー。戦闘系は全員帰還、怪我した奴は保健室で検査受けるようにねー。修復系呪文が使える人と建築研は破壊された建物の修理。盗賊系は巻き込まれた人がいないかチェックに回って。解散!」
『了解!』
 すぐさまばらばらと散っていく戦士たち。号令を発したのが生徒会長速水厚志だと気付いたアーヴィンドは、ごくりとつばを飲み込んで歩み寄った。
「あの……」
「ん? アーヴィンくんじゃん。どーかしたの?」
「……僕、回復呪文と死人払いの呪文が使えるんですけど、どちらに回ればいいでしょうか? 個人的な意見としては、浄化してらっしゃる方の魔力を回復する方に回るべきだと思うんですけど、怪我している方はほとんどいないようですし」
「………ふーんむっ」
 速水は笑顔になった。
「じゃ、君の思うとおりにやってみな。人手は常に不足してるからね」
「はい」
 うなずいて走り出すと、なぜか速水も並んでついてくる。
「あのっ、生徒会長?」
「うちは確かに世界を救う人材を育てる学校だけどね。でも世界を滅ぼすのにもっとも近い学校でもあるんだよ」
「えっ?」
「光の濃い場所では闇もまた濃い。魔王はうちの近所でぽこぽこ復活するしトラブルなんか数えきれないほどさ。世界を救うために得た力で妙なことしようって阿呆もいるしね」
「…………」
「で、そういうものに対処するべく、生徒を統制し、フォローし、人様に迷惑がかかんないよーに調整するのがうちの生徒会なわけ。戦闘能力は問題じゃないよ、要は統率力と人に慕われるミ・リョ・クv」
「……は、ぁ」
「そーいう意味では適正人材ってなかなか難しいんだよねー。人を動かす教育受けてきて、周囲の奴らを問答無用でアヤシイ気分にさせる呪いのかかってる子なんて、すっごい生徒会にぴったりだと思うんだけどなー」
「…………!」
「と、いうわけで」
 速水はにっこりと笑う。
「生徒会に入りませんか?」

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