拍手ネタ決議『無限戦隊ヤオヨロジャー・5』

「さて! いよいよ最終話! 毎回恒例『今回の拍手小話どういう話にするか会議』、気合入れてはっじめっるよー!」
「おうっ!」
「ようやく終わりか。ッたく、こんなしょーもねェ話よくまァここまで続けたよな」
「っていうか、これ明らかに〆切ブッチしてねぇ? 一応拍手小話って一年単位で変えるってことになってたと思うんだけど」
「ああ、確かに。去年も似たようなことはあったけど、それでも一応三月で一度終わりはしたしね。しかも最初はこのネタ六回で終わりってことだったのに五回に短縮してるし」
「はいはい今そういうこと言わなーい。ま、管理人も拍手小話が自分のキャパを越え始めてるのに気づいたっぽくってね……年取って体力もなくなってきたこともあって、これからはできるだけローコストロー労力でさらっと書ける小ネタ程度にしていくつもりみたいだよ。来訪者の方々のご要望によっては拍手小話そのものをなくすことも検討するとか」
「ま、遅きに失した感はなくもないが……今はとりあえず今回の話をどう転がすか決めるとするか」
「そーだよな。とうとう最終話だし、前回で思いっきりヘビーな話振られたし!」
「ヘビーっつーのか、あれ?」
「どっちかっつうと変な話だろ。なに言ってんのか、意味わかんなかったしよ」
「なに言ってんだよもーっ、あれってもう明らかに世界設定に踏み入る超重大な話の前振り以外の何物でもねーじゃん! あれをどう活かしてくかってのが重要なわけだろー?」
「そうなんだ! じゃあ、どういう風にしたら活かせるの?」
「え、っとー……そー、だなー……」
「ああ、これは基本ちょっとでも話がややこしくなると頭が理解拒否するから、そういう技術的なことは聞いても無駄だと思うよ? 無駄に暑苦しく語るのは上手なんだけど」
「む、むだって、そーいう言い方ねーだろーっ、っつーかこれってなんだよこれってーっ!」
「はいはい無駄な抵抗乙。まぁ、この前の話からの設定の引き継ぎも大事だけど、みんながこのネタをやってきて得たイメージとか気持ちとかを活かすのも大事だからね。そういうものに前回の設定を絡めていく、っていうのがまぁ、普通のやり方じゃないかな」
「そっかぁ……えっとー、じゃあ、ボクはお父さんを助けたいなぁ。前回お父さん、ずいぶんやられちゃったみたいだし。急いで探して助けに行きたい!」
「ほほう、お父さん周りの設定には興味がないと?」
「え? うーん……興味がないっていうか、教えてもらっても、教えてもらわなくても、どっちでもいいかなぁ。どっちだってお父さんがお父さんなのには変わりないんだし」
「ふむふむ……他の人はー?」
「えと、その。俺は、みんなに、少しでも被害が出ないように頑張りたい、です。命が失われるとか、怪我とか、気持ちが失われるとか、そういうことが、ないように」
「俺は……そうだなぁ。俺、っていうかこの話の中の俺は、けっこう滝川とかに恩義感じてると思うんだよ」
「え? へ、マジ?」
「うん、だって傷ついたところ助けてくれたり、一緒に戦ってくれたりフォローしてくれたりしたわけだろ? すごく助けられたって気持ちがあると思う。だからさ、なんかことが起こるとしたら、そういう恩を返すために、仲間たちを助けようと考えて動くんじゃねーかな」
「……俺は……別にいつだってやることなんざ変わらねェよ。気に入らねェ奴を全員ぶっ殺して、勝つ。そんだけだ」
「なるほどなるほど。で、あと一人は?」
「ん、いろいろ考えたんだけどよ……やっぱ、エクイップ上での決闘とかいーんじゃねーかと思うんだ!」
『………は?』
「なんてかさ、敵幹部の数、基本俺らと同じじゃん? まぁ前回で一人減っちゃったけどさ、ってなるとやっぱここは個人戦だと思うわけよ! で、どーいうのが一番映えるかって考えてくとさ、それぞれが別々に行動してる時に、巨大な敵と対峙するためにヤオヨロギガントになるべくエクイップに乗って移動してる時に現れる敵幹部たち! 高速で移動するエクイップ上で、それぞれがそれぞれの宿敵とバトル! っていうのがいーんじゃって思うんだよ! どうよ、燃えねぇ!?」
「さて、基本方針はそれでいくとして、細部を詰めていこうか。とりあえず個々人の行動方針と、環境を考え合わせて……」
「ちょっ、なんで無視すんだよーっ……」
 …………
 ………
 ……


 眩しい光がまぶたの上から瞳に降り注いでくるのを感じ、セデルはのろのろと目を開けた。
 ぼんやりとした頭で目をぱちぱちと瞬かせ、それからあれ? と首を傾げる。妙だ。おかしい。なんでボク、一人で起きてるんだろう?
 いや、そうじゃなくて。大事なところはそこじゃなくて。――なんで、ボクが起きてるのに、お父さんがここにいないんだろう?
 首を傾げながらすてんとベッドから降りて、時計を見る。時刻はセデルの起きる時間を三十分ほども過ぎていた。えぇ? とまた首を傾げる。これまでまるで起こす時間を変えなかったお父さんが? なんで?  もしかしたら病気とかなのかも、と心配になって(隣のベッドにルビアはもう寝ていなかったし)、すてすてと部屋の外に出て、「お父さーん……」と小さく呼んでみる。返事は返ってこなかった。
 ますます心配になり(だって家の中にいるならどこで呼んだってアディムが飛んでこないわけがなかったからだ)、「お父さーん……」と何度も呼びながらアディムの部屋に向かう。アディムとビアンカの部屋は離れにあるので、二階にあるセデルたちの部屋からは一度階下に下りなければならなかった。
 と、食堂の前を通った時に、驚き慌ててばたばたと中に駆け込んでしまった。食堂の中でビアンカが、まるで泣きじゃくる時のように顔を押さえてうつむいていたからだ。
「お母さんっ、どうしたの、大丈夫!?」
「……セデル……あなた、どうしたの、こんな時間に……あら、いやだ、もうこんな時間だったの? 学校に行かないと駄目じゃない、ちょっと待っててね、すぐ朝ごはんの支度するから」
「お母さん……」
 セデルは思わず言葉に詰まった。ビアンカが、なんだかひどく疲れているように見えたからだ。いつも優しくて、元気なお母さんが、こんな風に憔悴しているところなんて、想像したこともなかったのに。
「お母さん……どうしたの? なにかあったの? なにかあったなら言ってよ、ボク、頑張ってお母さんのこと助けるから!」
「……セデル、ありがとう。でも、セデルはなにも気にすることはないのよ。お母さんは大丈夫だから、ちゃんと学校に行っていなさい」
「お母さん……」
 ひどく疲れた顔でそう微笑んで、必死に強がるビアンカに、なんと言えばいいのかわからなくてぎゅっと拳を握りしめる――や、(以前の失敗から)お風呂に入る時もほぼつけっぱなしにしているヤオヨロブレスレットから、ピピッとコール音が鳴った。

「……行ってきます」
 いつもの時間よりさらに早くに、家を出るべくそう声をかけて玄関の扉を開けたセオに、ラグが食堂から出てきて「ちょっと待って」と声をかけた。
「はい……なん、でしょう?」
「いや、大したことじゃ……なくもないのかな。セオ、理事長の居場所って知ってる?」
「え?」
 きょとんとするセオに、ラグはぽりぽりと頭を掻きながら説明する。
「いや、昨日電話がかかってきたんだよ。理事長秘書っていう人から。理事長がどこにいらっしゃるかご存じありませんかって。一介の体育教師になんでそんなこと聞くのかって思ったんだけど、もしかしたら、君の……君は、課外活動の関係で理事長に面識があるんだったよな? そっち関係の話だったりするんじゃないかって」
「………!」
 セオは思わず目を見開いた。理事長秘書というのは、アディム理事長の妻であり、セデルたちの母親であるビアンカのことだ。彼女はヤオヨロジャーについてはまったく知らないはず。それがなぜ自分たちの家に電話をかけてきたのか。いやそれよりも、彼女が理事長の居場所を知らない、というのは――理事長が本格的に行方不明だ、ということではないのか?
 セオは数瞬必死に考えて、それからゆっくりと首を振る。
「……俺にも、よく、わかりません……俺も、そんな話は全然聞いていなかったので」
「そうか。いや、ならいいんだ。悪かったね」
「いえ……これから少し調べて、できるだけ早く納得いく答えを見つけられるようにします」
「え? いや、いいよそんな! 俺も別にそんなに気になるっていうわけじゃないんだし」
「いえ、その……俺が、気になるので」
「……そう? なら、いいんだけど。あんまり無理は、しないようにね」
「はい」
 うなずいて、今度こそ家を出て。歩きながらしばらく悩み、結局携帯を取り出して、とりあえず司令、博士、オペレーター兼開発助手――つまり、速水、舞、ルビアの三人にメールを出した。迷惑かもしれないが、今回の件については連絡しない方が問題がある、と判断したのだ。
 何事も問題がなければいいが、と思いながら学園への道を歩く――だが、そのメールが返ってくるより前に、もう問題は起きてしまっていたのだ。

 澳継は足早に歩を進めながら、腹立ちに満ちた声で苛々と、本当は怒鳴りたいのを堪えながら言う。
「なんでてめェがついてくるんだよ」
「ついてきてるわけじゃない、一緒に歩いてるだけだ。今日は向かう方向が一緒なんだから、別に一緒に歩いてもおかしくないだろう?」
 そうしれっとした口調で言いやがるのは緋勇龍斗。自分の家の居候で、稽古相手で、今のところ一番たくさん喧嘩を吹っかけている相手だ。
 確かに龍斗は自分と同じ学園の大学部の生徒で、今日向かう校舎は高等部の近くにあると聞いてはいたが、だからといって一緒に歩きたいわけがない。怒鳴る寸前くらいの声を出して、全力で威嚇してやる。
「目障りだっつってんだッ。鬱陶しいから近くに寄るんじゃねぇよッ」
「おいおい、なんだその思春期男子が学校の外で親に言うみたいな台詞は。まぁお前が立派な思春期男子であることに異論はないが、一緒にいるのは俺みたいな素敵なお兄さんなんだ、少しは矛を緩めたらどうだ?」
「てめェッ、ふざけんな、やるってのかッ」
「こんな公道でおっぱじめたら警察沙汰になるぞ。万一捕まりでもしたら、俺はお前のあることないこと取調官に吹き込むからな。場合によっちゃお前、生暖かい目で見られてお茶とお菓子を出されて大変だねぇとやたらうなずかれかねないぞ?」
「ッ、てめェッ……!」
「まぁ、大事なことや、お前が知られたくないと思ってることは絶対に言いやしないけどな。お前が今、どうしてそんなに不機嫌かとか」
「ッ……」
 澳継は思わず固まった。半ば呆然と龍斗を見ると、龍斗はあっさりと肩をすくめて言ってのける。
「なんで知ってるか、って? そりゃちゃんと正確に知ってるわけじゃないけどな、お前が不機嫌なのが仲間の力になってやれてないからだってのはわかるよ。お前が今みたいに、自分の無力が腹立たしくてしょうがないって顔してる時は、絶対他の親しい人間が絡んでるからな。自分の問題だったら、そんな顔する前に死ぬまで自分でその問題に噛みついてるだろうし」
「なッ……んだ、そりゃッ……」
「俺も伊達にお前と長い間つきあってるわけじゃないってことだよ」
 にやりと笑んで言われ、澳継は思わず顔を歪め、「阿呆なこと抜かしてんじゃねェッ!」と蹴りかかったが、それをあっさりさばかれて蹴り返される。カッと頭に血が上って飛びかかると、足元を払われる。そこから先はもういつものように、全力を尽くして相手の息の根を止めようとするのみだった。
 だから、というわけでもないだろうが。澳継は、その時自分たちに起きていた問題に、まるで気づかなかった。

「よーっし、忘れもんないか、ライ?」
「……当たり前だろ。人をガキ扱いすんなっての」
「へへ、悪ぃ悪ぃ。よっし、行くか」
「ああ……」
 笑ってみせるライの背中を叩いて、滝川はアパートの階段を下りる。ギシギシと軋む赤く錆びた鉄製の階段をいつものように駆け下りて、早く来い来いと手を振ってやると、ライも苦笑してぽんと飛んで一気に下まで降りてきた。
 前回、ライとドーガスの幹部――レディ・ツヴァイが戦った事件で、ライがひどく傷ついていることを感じた滝川は、ライを自分の家でしばらく寝泊まりしないかと誘った。「こういう時に一人でいると絶対ろくなこと考えねーからな」と実体験からの深い実感を込めて力説すると、ライはちょっと苦笑してから、「じゃ、お世話になろうかな」と言ったのだ。
 ライ自身自分が弱っているのを承知しているのだろう。ライの行動は、自分の傷を治そうとする動物のように慎重なものだった。周囲に迷惑をかけないように、刺激を受けないように、周到に立ち回るライの姿は滝川の目にもひどく痛ましく映ったが、滝川はライの傷を癒そうと働きかけることはしなかった。傷なんてものは、癒そうと思えば癒えるものではないと知っていたからだ。場合によってはずっと癒えないことだってある。自分なりに、なんとかかんとか、その傷とつきあっていく方法を呑み込んでいくしかないのだ。
 だから周りにできることは、それができるようになるまで、そばにいながら放っておいてやることだと――少なくともライにはそれが一番いいと思ったのだ。だから滝川はライと一緒にいても、特に何もせず放っておいた。ライの洗濯ものを畳んだり飯を用意するくらいはやってやろうというつもりはあったのだが、生活能力の驚異的に高い男ライは食事も洗濯も掃除もまったく手抜きなく、まるで当然のように完璧にこなし、悪いと思いながらも自分までそのおこぼれにあずかってしまう状態だったのだ。
 だが、ライはなんのかんので滝川のその接し方をありがたいと思っているらしく、滝川の分まで食事を用意したりその他日常のこまごまとしたこともやってくれるのに、特に文句を言いもしなかった。自分が好意でしたこととは別に、なにかお返しをしなけりゃな、とこっそり思っている。
 一緒に学校へ向かい歩きながら、らちもないことを話し合う。
「なーなー、今日はあいつら来るかなー? ただでさえ人数減ってたのに、昨日はあの先輩まで来ないんだもん。寂しくなっちまうよなー」
「あれだけ熱心だった奴らが急に休むってのも変な話だよな。病気ってわけじゃないらしいけど……」
「だよなぁ。一度お見舞いに行ってみよっかなとも思ってんだけどさ……あ、悪い、メールだ」
 断ってから携帯を開き、思わず目を見開いて固まる。怪訝そうに「どうしたんだよ?」と聞いてくるライに、無言で開いた画面を突きつけると、ライの顔色も変わるのがわかった。
「……『逃げろ』って。これだけか? 舞って……博士のことだよな?」
「………っ!」
 だっ、と走り出す滝川を、ライはすかさず追ってくる。並走しながら、滝川にかろうじて聞こえる程度の声で早口に言ってきた。
「基地に行くつもりか?」
「ああっ」
「あそこでなにか情報が手に入るとは限らないぜ」
「少なくともなんかの手がかりは絶対ある! 舞がなんかやってたならそのデータは残ってるだろうし、侵入者に消されてたとしてもあそこは舞の城だ、舞なら絶対侵入者にはわかんねーようになんか残してる!」
「そういうのとはなんの関係もなかったら? 博士の携帯を持ってる奴がお前を釣るためにメール送ったんだったら?」
「ならその誘いに突っ込んで舞取り戻す! こっちが派手に動けば向こうも動く、その動いた奴を捕まえる!」
「よし。なら、手伝うぜ」
 走りながら思わずライの方を見ると、ライは小さくうなずいてくる。
「仲間がそれだけ必死になってるってのに、放っとくわけにもいかねーだろ。そこまで考えてんなら、こっちが口出しする必要なさそうだしな」
「……悪ぃ。助かるっ」
 ありがたさにちょっと泣きそうになりながら、思いきりうなずいて足を早める。ヤオヨロジャーの基地までは、あと五分もかからないはずだ。


「ルビア!? どうしたのっ?」
 セデルはヤオヨロジャー基地内の、ルビアの私室に飛び込むやそう叫んだ。あからさまに憔悴しているビアンカの前にいる自分に、『今すぐヤオヨロジャー基地の私の部屋に来て、誰にも気づかれないように』なんて通信を送ってくるのだから、絶対になにか大変なことがあったはずだ。ビアンカを放っておくのはすごく嫌で、迷ったけど、ルビアはビアンカのこともわかっていたみたいだったから、ルビアの用事を片付ければビアンカのこともなんとかなるだろう、と思って急いでやってきたのだ。
 ルビアは部屋の中央に置かれた椅子の上に座り、部屋の出入り口に銃を向けていた。セデルが思わず目をぱちくりさせると、ほうっ、と大きくため息をついて銃を下ろす。ルビアの手に合うように軽量化はしているのだろうが、それでも力のないルビアに長々銃を持ち続けるというのは重労働だったのだろう。
「ルビア……どうしたの、そんなの持って」
「……お兄ちゃん。ここまで、誰にも見られなかった?」
「え? 見られないっていうか……気づかれないようにって言われたから、そういう風にはできたって思うけど」
「そう……。お兄ちゃん、私……言わなくちゃならないことがあるの」
「え?」
「私……ずっと、ヤオヨロジャーの機密情報の漏洩ルートを探ってたの。ヤオヨロジャー隊員の素性を、ドーガスが知っている理由を、探るために」
「あ……そっか、前にボクが誘拐された時の……」
「ううん、違う。本当はその前からなの。ヤオヨロジャーが結成してしばらくしてから、なんだか変だなって思って、風祭先輩とセオ先輩の時に絶対おかしいって、ちゃんと調べなくちゃって思って……速水司令に相談したの、でもこの件はあまり広めるべきじゃないって言われて、確かにそうかなってその時は一度納得したの。それで速水司令は確かに仕事をしてくれた、情報を漏洩した人を調査してくれたし、私もその調査に立ち会ったからその時はそうなんだな、この人だったんだなって思ったの。でもっ」
「ちょ、ちょっと、ルビア、落ち着いて。大丈夫?」
「お兄ちゃん!」
 話をしていくうちにどんどんと我を忘れた表情になっていくルビアを、落ち着かせようとセデルは肩に手を置く――が、がしっとルビアはその手をつかみ、ひどく切羽詰まった口調で、なにかを恐れるように囁いた。
「情報を漏らしたのは、お父さんかもしれないの」

 セオはぴたり、と足を止めた。――つけられている。
 周囲には人がいるせいか、こちらを見ているだけで襲ってくる様子はない。――とりあえず、今は。
 セオは足を早めた。とりあえずヤオヨロジャーの基地内に行こうかと思ったのだが、つけられている状態で基地に行くわけにはいかない。基地の場所を知られてしまう。
 どこか別の場所におびき出すべきか? いや、待て。先になぜつけられているかを考えろ。ドーガスか、と思ったし確かにその思考は自分の環境に合う――が、ならなぜ今なのだ。そもそも、ドーガスが自分たちを追い回そうとするならば、とうにしじゅう監視をつけていてもいいはずだ。
 そう、セオは自分たちの素性がドーガスに知れているとわかった時、なによりもそれを警戒した。速水司令に、理事長に、自分たちと、その周囲の人間を隔離するなりなんなりするべきだと告げた。だが、それは断られた。
 その理由はセオにもある程度納得のできるものだったし、他の隊員にはあらかじめ説明していると言われ、これまではセオ自身を試すための試用期間だったと告げられた。これからは正式な隊員として頑張ってくれ、と――
 だからセオもそれに納得してヤオヨロジャーの隊務に励んできた。けれど、同時にセオは、情報収集にも励んできたのだ。なぜなら、セオは、約束は強制執行力がなければ効果を発揮しない≠ニ知っているからだ。相手が約束を守りたいと思っているうちは確かにその約束は守るだろう、だが、当然、その前提は変わりうる。
 だから、自分にできるやり方で、仲間たちを、友達たちを護ろうとしてきた。約束の存在など忘れたものとして隊務に励み、ドーガスと戦い、仲間と笑いあう。そして、残りの時間を使って調べた。知られないように、気づかれないように、気づかれたとしても問題のない形にできるようにしながら、ルビアの行動をさりげなくサポートし、ひそかに連絡を取り合い、アディム理事長の動向を聞き出し、あの人に近づいた。
 そして、今。アディム理事長が行方不明になり、自分に監視がついている。これは、行動しなくてはならない時かもしれない。
 セオは校門に足早に近づき、その人に声をかけた。予想通り、この人は、いつもそうしている通りに、この曜日には朝早くから校門に立って、生徒たちを出迎えている。
「あの、おはよう、ございます……」
「やあ、おはよう。いつもながら早いね、セオくん」
 そう爽やかな笑顔を向けてくる相手に、セオは小さく頭を下げた。
「いえ、そんなこと、ないです。お気遣い、すいません……ローグィディオヌス生徒会長」

「…………」
 風祭は、自分を取り囲む気配に舌打ちした。これは、ドーガスの気配だ。何度も戦った相手だ、匂いでわかる。
 となると、ヤオヨロジャーとしては、とっとと一人になり、変身して全員ぶっ倒さなくてはならない、のだが――やりたくなかった。正直ヤオヨロジャーとしての戦いには、それなりに慣れ、まぁ背中を預けてやってもいい相手もできて、戦う場所としてはそれなりに愛着も出てきているものの、自分の死合いとは違うというか、どうにも気が進まないものが消しようもなく残っているのだ。
 なによりも、戦うっていうのにあんな阿呆みたいな格好をしなくてはならないというのが嫌だ。確かにスーツを着れば強くはなるのかもしれないが、だからってあんな形にすることもないだろう。その上ポーズだ決め台詞だ、なんぞと馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
 そんなことをまたしなくてはならないと思うと気が重くなるし、なにより――今は、こいつ――龍斗と、自分の家の居候と一緒にいるのだ。そんな相手に自分の変身した姿を見せるなんて冗談じゃない、素の状態でそれなりによく見知っている相手にあんな格好を見せると思うと、死にたくなる、というかぶっ殺したくなる。相手が龍斗ならなおさらだ、この根性悪は絶対馬鹿にしやがるし、どんなに理由を説明しようとも絶対「へェ〜」と納得したふりをしながら口の端を持ち上げるぐらいはする。 そんな顔を見たら俺は絶対こいつをぶっ殺す! 八つ裂きにするッ! けどついてきやがる奴らを放っとくのもムカつくし、どうする、どうする――と考えていると、ふいに龍斗が、口を開いた。
「――囲まれてるな」
「ッ!?」
 澳継は仰天して、それから舌打ちした。そうだ、こいつも曲がりなりにも自分の家と対になる武術を司る家の惣領息子。気配ぐらいは読めて当然だ、自分と――認めるのは癪で、業腹で、すさまじく認めたくないことではあるが! 互角というか、稽古では向こうの方が勝率が高い……ぐらいの、相手ではあるのだから。「どうする? 澳継」 見つめられて、澳継は知らず唸った。
 どうするって。どうすりゃ、いいんだよ!?

 バァン、と勢いよく滝川は秘密基地の非常扉を開けた。秘密基地の電源が落ちた時に使うよう言われていたこの扉を、まさかこんなにせわしく開けることがあろうとは思わなかった。
 いや、基地の電源が落ちるなんてことがあろうとは思っていなかった。ここはでんげんがどくりつしていてきょうこなぷろてくとでほごされぶつりてきにもできうるかぎりさいこうのぼうごをほどこした――つまり、ものすごく頑強な基地のはずだったのだから。
「……誰もいない、っぽいな」
「急ぐぞ」
 それだけ言って、滝川はライと基地内を駆けた。登校途中から直接こちらに来たのでまだ制服も脱いではいないが、着替える暇なんて当然あるわけない。
 基地の電源が落ちている、人が誰もいない。それはつまり、本当に非常事態だ、ということだ。もしかしたらドーガスの奴らに基地を襲撃されたのかもしれない。もしかしたら舞は襲われて、もしかしたら、もしかしたら――
 ひどくリアリティのある、十分あり得る可能性を首を振って放り捨て、滝川は走った。今は――考えるな!
 舞の部屋に飛び込む。扉の鍵は電子錠だったので、押しただけであっさりと開いた。重くはあったが、開けないほどじゃない。
 ばっと部屋の中を目で探る。見たところ、荒らされている様子はない。人の気配がまったくないことをのぞけば、以前訪れた時と変わらない。がらんとしていて、案外狭くって、あるのはでかいパソコンが数台と本棚と衣装ラックと粗末なベッドだけという舞の部屋。
「……物、少ないんだな」
「ああ……舞、物あんまり置かないんだ」
 言いながら周囲を油断のない目で探る。くまなくチェックしたが、どこにも荒らされている、どころか乱れた様子も見つからない。つまり、舞はここでさらわれたのではないということだ。ライもそれはわかっているのだろう、難しい顔になった。
「……どうする?」
「……、部屋になにかないか、探ってみよう」
 舞の承諾もなく部屋を探るのは嫌、というか恥ずかしいし、舞に知られたらものすごく怒られると思うのだが、それでもなにか手がかりを見つけなくてはこれからどう動くか決めようがない。
 ライもうなずき、揃って本棚やらラックやらを(ラックは……一応、できたてとはいえ恋人として、自分以外探索厳禁にした)探る――が、それらしいものは見つからなかった。紙切れも、ノートも、封筒みたいなものも、全然ない。もしかしてパソコンの中とかだろうか、自分はコンピューターなんてもうどうやれば動くのかもよくわかんないのに。うんうん顔を歪めて唸る滝川に、ライも難しい顔で声をかけてきた。
「おい、滝川。博士だったらどうするかって考えてみろよ。お前の恋人だったら、こういう時、手がかりを残すのにどうするかって」
「そう、だな……ってぇ! こ、こここ恋人って、おま、おま、なに……!」
「んなもん見てりゃわかるっての。いや、俺鈍いから普段ならわかんなかったかもだけどよ、一緒に暮らして、人がぐじぐじ落ち込んでる時にお前がすっげー優しい顔して博士の話とかしてるの聞くと、さすがにな」
「う……! ま、マジでそんなことしてた……?」
「してた」
「うぅぅ……悪ぃ、その……」
「いいっつの、謝んなくて。俺としちゃ気が紛れて助かった、っつーか嬉しかったくらいだ。ほれ、それより考えろ。お前の恋人だったら、さらわれた時恋人に手がかり残すのに、どうすると思う?」
「え!? いや、あの、うーん……」
 滝川はしばし悩んだ。眉間に皺を寄せ、腕を組み、全身が震えるほどに悩み、考えた――が。
「……どうするんだろ……」
「……全然わかんねぇ? 想像とかも?」
「うん……なんつーかさ、俺、舞があっさりさらわれるとか想像できねーんだよ。舞って基本的に、すげー強ぇっていうか、頑張ってる奴だから。あっさりさらわれてそのまんまってこと、ないと思うんだ」
「……じゃあ今の状況はなんなんだよ」
「え……そうだよな。あれ? 俺、なんでそんな風に考えてんだろ。舞ならそんなに簡単にさらわれたりしないし、さらわれたらさらわれたで全力で脱出しようとするし、俺に助け求めるなら求めるで、俺にもわかるように伝えてくれるって……そうじゃなかったら、連絡なんてしてこないだろうって、舞が連絡する時は、本当にその連絡が必要だからするんだろうって……あれぇ?」
 なのに、どうして、あのメールを受け取った時、反射的に思ったんだろう。『これは舞が送ってきたメールだ、間違いない』なんて。 うんうん唸る滝川をライは難しい顔で見つめていたが、すぐに別の言葉を告げた。
「なら滝川、こう考えたらどうだ? お前の恋人が、お前に誰にも知られないようにメッセージを残す時、どうする? って」
「……へ? いや、そんなの……舞は絶対直接言いに来るよ、それが一番確実だからって。確実に俺に伝えられるから、盗聴対策も一番確実だから……」
 なのに、舞は自分になにも言わなかった。なんでだ? 舞もなんにも気づいてなかったから? そうかもしれない、けど……ならあのメールはなんなんだろう。あのメールには舞の気配がした。舞の意志が感じられた。だてに長い間つきあってるわけじゃない、匂いでわかる。なんていうか、まるでこっちを急かしてるみたいな、叱りつけてるみたいな、このたわけ、とっととすべきことをするがよい! って偉そうに宣言してる時みたいな――
 はっ、と滝川は自分の携帯を取り出した。メールボックスを開く。一番上にある『逃げろ』というメールを、再度開いて下にスクロールさせる。 そこには『深く潜れ』と書いてあった。え? なんだこれ、としばらく悩んだが、とりあえず一度メールを閉じて、メールボックスの下方へとスクロールさせていく。
 そこにはこれまでにもらったメールがずらずらと並べられている――が、一番下から十件ほどに、つらつらと同じ題名のメールが並んでいた。受信日時は、十年前。件名は、思考実験≠セった。
 受け取った覚えのないメールをばっとライに突き出すと、ライも真剣な顔でうなずく。急いで携帯をのぞきこみ、一番下にあるメールを開いた。
「……『思考実験2316。今回、私はもし現在私が対峙している問題が解決することなく事態が終息してしまった際、やり残していると感じられることはないかという思考実験を行った』………?」
 意味がわからない。なんだ、これは、日記か? 首を傾げながら読み進める。
「『数十回の試行錯誤の末、私は滝川に私の感じていることを伝えられないのが悔やまれると感じていることが判明した』………」
 おいおいおい、なに言ってんだ急に、え? なにこれ、もしかして告白? と混乱するより早く、目が先の文章を読んだ。
「『私の伝えられないのが悔やまれると感じる感じていることとは、無限戦隊ヤオヨロジャーについて、私が滝川に告げていないことについてである』……」
 なんだかやたらとややこしい文章に、滝川はこれなにが言いたいんだと眉をひそめながらも、先を読み進めた。


「え……? それ、どういうこと?」
「お父さんは、ヤオヨロジャーの情報を、ドーガスに漏らしていたのかもしれないの。そしてそれを、私たちに黙っていたのかもしれないの」
 ぽかんとするセデルに、ルビアは早口で、それこそ機関銃を撃つように喋り続けた。
「最初に犯人を見つけてしばらくはもう大丈夫だって思ってた。でもそのあとでお兄ちゃんがさらわれたの。当然だよね、ドーガスにとってはヤオヨロジャーを倒すより、スーツを着けていない時のお兄ちゃんを倒す方がずっと簡単なんだから。だから私、司令と、お父さんにお願いしたの。隊員や、その家族の人たちに護衛をつけてくださいって。お父さんはうなずいてくれた。司令も。だから私安心してた――のに、お兄ちゃんはさらわれた。え、なんで!? って思ったの。護衛がいるはずだったのに、って。司令に確認したけど、つけていたけれどたぶん無力化されてしまったんだろうね、って悲しそうに言ったの。その時……私、あれ? って思った」
「そ、そうなの?」
「うん。そんなの司令らしくない。本当に護衛をつけていたなら、無力化されないように、無力化されたことがすぐに知らせられるように何人にも人を使っておくはずなのにって。なのに、司令が騒ぎ始めたのはお兄ちゃんを撮った動画ファイルが送りつけられてから。おかしいって考えて、それで思ったの。速水司令は信用できないって。もしかしたら、この人がヤオヨロジャーの情報を流してた人なんじゃ? って」
「……ルビア」
「そう思ったら、どんどん周りの人が信用できなくなって、一人で調べ続けたの。そうしたら、セオ先輩がそれに気づいて、自分も疑問に思ってるって言ってくれた。それで、それに続けて言ったの。『思うん、だけど。アディム理事長は、なんで速水くんを、司令に選んだんだと、思う?』って。私にはわからなかったけど、それに続けて言われたことはもっとわからなかった。『アディム理事長は、なんでヤオヨロジャーを創ったんだと、思う?』って」
「………え?」
 セデルはきょとんとした。だって、それは、ドーガスに対抗するためじゃないのか?
「そうだよね、変だよね。私も最初はいろいろ考えて納得しようとしたの、お父さんがドーガスに対抗する力を持ってたからだ、とかいろいろ。でもそれも全部すぐ疑問に変わってしまう。なんでお父さんはそんな力を持ってるの? 私たちお父さんがそんな力を持ってるなんて聞いたことなかったのに。なんでお父さんはヤオヨロスーツやいろんなものを作るお金を持ってるの? お父さんだって無限にお金持ってるわけじゃないはずなのに、どうして国家予算とか投入しないとできないような設備がごろごろあるの? どうして司令とか、副司令とか、モンスターズのみんなとか、いろんなものを研究できるくらいの能力のある人をそんなに簡単に見つけられるの? そもそも、なんで、ヤオヨロジャーじゃないと駄目だったの? 警察に協力するとか、政府と協力して新しい組織を作るとかじゃなくて、自分だけで秘密の組織を作って、しかも隊員をどうしてわざわざ、私たちみたいな子供にしたの? 考えたら考えるほど、おかしいって、思えてきちゃって……!」
「ルビア……?」
「セオ先輩と連絡を取り合いながら、目立たないようにしながらいっぱい調べたの。でも調べれば調べるほどおかしいとしか思えなくて。速水司令の行動をできる限りの手段を使って調べたけど、速水司令がドーガスと連絡を取り合っている様子はない。なんで? ドーガスと繋がってるなら頻繁に連絡を取った方がいいのに。ううんそうしなくたって私たちが不利になるような作戦をいくらでも命令できる、でもそんな様子も全然ない。なんで? それで、ある時、もしかしてって思ったの。これは、そもそもが、そういうものなんじゃ? って。お父さんは、最初から、ヤオヨロジャーのことを」
「困った子だねぇ、ルビアちゃん。あんまり大人の秘密をつつきまわすと、大人から意地悪されちゃうよ?」
 ばっ、と勢いよく振り向く。そこに立っていたのは、自分たちより少し年上の、少女のように優しげな顔立ちの、にっこり柔らかく微笑む笑顔だった。
「や。セデルくん、ルビアちゃん」
「――速水司令」

「あの、生徒会長。少し、お時間、いただけますか?」
「え? それはもちろん、かまわないけれど……今は生徒会の仕事中だから、あとででいいかな?」
「いえ、あの、本当に、申し訳ないんです、けれど。お仕事をしながらでけっこうなので、俺の話を、少し聞いていただけません、か?」
「……ここで話していいのかい?」
「はい。あの、本当に少しで、いいので」
「そう? じゃあ悪いけど、話してくれるかな。なんの用があったんだい、僕に?」
「はい。あの、ローグィディオヌス生徒会長は、もうゲームをおやめになったのかな、と思って」
「ゲームというのは?」
「はい、あの、アディム理事長との。もう、おやめになりました?」
「ごめん、セオくん。僕には、君がなにを言っているのかよくわからないんだけど……」
 その言葉に、セオはほっとして、笑顔になってうなずいた。
「そうなんですか。ありがとうございます、どうか無理せず頑張ってくださいね。あと、これからも、幾度も、ローグィディオヌス生徒会長の邪魔をしてしまうかと思うんですが
、どうかその時にストレスが溜まられましたら、俺にぶつけていただけるとありがたいです。では」
 深々と頭を下げて、踵を返す――と、そこに声がかけられた。
「なぜ、そんなことを?」
 セオは思わずきょとんとしてしまった。振り向いて、首を傾げる。
「なぜ、とおっしゃいますと?」
「君は、なんでさっきみたいなことを言ったんだい?」
「なんで、とおっしゃいますと?」
「ほら、ありがとう、はまだわかるんだけど、無理せず頑張れ、とか、邪魔するストレスが溜まったら自分にぶつけろとか、その辺りは正直意味がわからなくてね」
 セオは小さく首を傾げてから、つまりこれは詳しく説明しろと言われているのかと納得し、素直に説明した。
「ええと、ありがとうと言ったのは、お邪魔をしたのに俺の聞いたことに応えてくださったことと、俺の聞いたことを教えてくださったことについて、です」
「聞いたこと、というと?」
「えと、もうゲームをおやめになりました? って」
「……僕の言ったことが、なにか答えになっていたかな?」
「え? えと、はい」
「教えてくれないかな? 今後の参考にしたいんだ」
「あ、えと、はい。つまり、『なにを言っているのかよくわからない』って答えられたってことは、ローグィディオヌス会長は、まだ生徒会長の役を続けるつもりがあるってことですよね。それでしたら、俺が今すべきことは決まっているので」
「へぇ? どんな風に?」
「えと、はい。アディム理事長を助けることが最優先になる、って。少なくともアディム理事長を完全には無力化できていないってことになるわけですから」
「………はは。驚いたな。気づくなら、ヤオヨロジャーの中じゃ君だろう、とは思っていたけど――」
 顔を押さえて小さく笑い、こちらに向き直って顔から手をどける――や、そこに在ったのは、もう生徒会長の顔ではなかった。
「いいだろう。認めよう。君は俺が戦うのに値する」
「――俺とは、どなたの、ですか?」
「ドーガス最高幹部、スリーシックスの、だ」
 そう告げてにやぁっと笑ったのは、逆立った蒼い髪を妖しく整え、濃い化粧をした、人間ではないものの顔だった。

「………おい。逃げるぞ」
「は?」
 龍斗は目を見開いてぽかんとする。だークソッなに驚いてやがんだよッ、と苛ついた。
「なにボケっとしてやがんだッ、とっとと逃げるぞッつってんだよッ」
「いや……こんなことを言う日が来ようとは思っていなかったが、熱でもあるのか? 澳継」
「……ッてめェそりゃどういう意味だァッ!」
「いやどういう意味もこういう意味も……」
 龍斗は驚いている。それも珍しいことに本気で驚いているのがわかって、澳継は唇を噛んだ。龍斗の気持ちが(腹が立つことに!)わかってしまうから、なおさらだ。普段の自分なら絶対に敵の前から逃げるなんてことするわけがない。
 ちくしょうッ、俺だって好きで喧嘩売ってくる奴から逃げたりなんざしたくねェよッ! けどしょうがねェだろッ、ここは一度逃げねェとあのくそしょーもねェスーツをこいつの前で着ることにッ………! 嫌だ嫌だそれだけは絶対嫌だ……!
「お前……もしかして、俺のこと気にしてるのか?」
「! ッるッせェッ、んなわけねェだろッ!」
 図星と言えば図星だがてめェの考えてるような理由じゃねェんだよッ! という気持ちを込めて喚くと、龍斗はにっこり笑って言った。
「なんだ、そうか。ならさっさとしていいぞ、変身」
「……………………………。は?」
「は? じゃなくて。変身。ヤオヨロジャーの」
「………ッはあぁぁァァァッ!!?」
 目をかっ開いて大絶叫すると、龍斗は(脳味噌が沸騰しそうなほど腹が立つことに)にやにやしながら言ってきやがる。
「いや、だって、お前、ヤオヨロジャーなんだろ? ヤオヨロブルー」
「な、な、なッ………なンッ……」
「なんでって? いや、そりゃヤオヨロブルーが戦ってるところ見たから」
「な、だ……顔、声ッ……」
「なんで顔も隠れてるし声も違うのにわかるのかって? そりゃわかるに決まってんだろ、お前とどんだけつきあってると思ってんだ、喋り方でもわかるし動き見ただけでも充分わかるっての。ちなみに黙ってたのはお前が気にしてるみたいだから、という理由もあるけどそれ以上にバラすタイミングをうかがうためだな。できるだけおいしいタイミングでバラそうと思ってたから」
「………、…………、……………があアァアッ!!!!」
「っと!」
 理性の糸が音を立てて切れ、全速で踏み込んで放った澳継の攻撃を、龍斗は(腹の立つことに)見事としか言いようのない見切りで避けた。
「おいおい、なにもそこまで怒ることないだろ。まぁお前があの格好を恥ずかしがってるのはわかるが」
「殺すッッッッ!!!!」
「いやいや落ち着けって。俺としては素直に感心したんだぞ? お前があんな格好までして人助けをしようなんて志があろうとは」
「ぶっ殺す―――ッッッ!!!」
「まぁ、たぶん騙くらかされるなりして嫌々やってたんだろうなぁとは思うが。何度か見かけるたび、ちょっとずつ楽しそうに戦うようになってったから」
「………はッ?」
「だから、楽しそうな感じになってっただろ? だからまぁ、お前なりに戦い楽しめてそうだったんで、まぁよかったなと思ったっていうか」
「なッ……おまッ、なに……」
「どうしてそんなことをって? だからそんなの見りゃあわかるって、の!」
 がすっ。気を外された澳継に龍斗の蹴りが決まり、澳継の脳味噌は沸騰した。
「てめェッ、ぶっ殺す、絶ッ対ェぶっ殺してやるッ!」
「とりあえず、それより先に周囲の奴らに対応すべきだと俺は思うんだが、なっと!」
 寝ぼけたことを抜かしながらも、龍斗はやはり的確な動きでこちらの攻撃を避け、かわし、さばく。この野郎こういうところもやたら抜かりがありやがらねェ。
「絶ッ、対ェ殺……!」
「すまないけれど、じゃれるのは待ってもらえないかな」
『!』
 突然現れた気配に二人揃って即座にそちらを向き、構えた。が、そこにいたのは、以前も対峙した全身を鎧兜で覆っているという、普通ならまずいないような格好の背の高い男
で、つまりそれは。
「……サードジェネラル!?」

「……『この思考実験において、私が滝川に伝達することでもっとも快を得ることができる最重要事項は、ヤオヨロジャーの設立理由であると同時に、この世界の存在理由である秘匿事項である。本来それは最優先で秘匿すべき事実ではあるが、この思考実験は自己がより強い快を得る手段を明確にすることが目的でもあるため、秘匿要請を棄却するものとする』……」
「……なんかやたら仰々しいっつーか、回りくどい台詞だな。博士ってこんな喋り方してたか?」
 滝川が読み上げるメールの内容に、ライが怪訝そうな声を上げる。滝川も思わず眉を寄せて首を振った。
「んなわけねーだろ……舞は普段はもっと思いっきりストレートっつーか、身も蓋もねーっつーか、そういう喋り方……。続けるぞ。……『まず、最初に述べると論旨が明確になりやすいと思われることは、この世界は二体の高次生命体により創られた世界である≠ニいうことである』」
「……は?」
「……『次いで、そしてその高次生命体は現在、アディローム理事長とローグィディオヌス生徒会長の肉体を使用している≠ニいうことである』」
「はあぁっ!?」


「……速水、司令?」
「やっほー。いやあ、さっすがルビアちゃん。大したもんだねー。その年でそこまで推理するなんて。すごいすごい。見事なもんだ、さっすが初等部一の天才少女って呼ばれるだけのことはある。――ただ、ちょーっと経験不足だったかな? そういう人に聞かれたくない話は、密室ももちろんそれなりに有効なんだけど、むしろ自分たちに関心のない人間でにぎわってるところとか、いっそ見晴らしのいい屋外なんかがいいんだよ。近づいてきた人とかすぐわかるし、家屋に盗み聞きできる仕掛けされてる可能性低いでしょ? まーもちろん自分の体とか服とかに仕掛けられたりしてないよう、盗聴対策万全にした上での話だけどさ」
 速水はにこにこと、まったくいつもと変わらぬ笑顔で微笑みながら、すたすたとこちらに歩み寄ってくる。反射的に警戒しルビアを庇うように前に立つと、速水は嬉しげにぱちぱちと手を叩いた。
「うんうん、やっぱりセデルくんはいい子だねぇ。大切な妹を護るために戦う姿、カッコいいよ。――でも、もしその気持ちが本物じゃなかったら?」
「え?」
「今ここにいる君が、本当はここで生まれ育った存在じゃなかったら? 本当は知らないどこかの誰かのかけらでしかなかったら?」
「司令、なに、言ってるの……?」
 困惑してルビアを背中に庇ったまま眉を寄せると、速水はにやりと笑ってぱちりと指を鳴らした。
「おいで、パッパー・ビー」
「はいはーい」
 当たり前のように返事が返ってきて、ぐにゃりと風景が歪んだと思うや道化師姿の人影が現れた。一度自分を誘拐し、それから何度も剣を交えた、ドーガスの幹部パッパー・ビーだ。
「パッパー・ビー……っていうことは、司令ってドーガスの仲間だったの!?」
 愕然としながらも睨みつけると、速水司令はぷっと吹き出してゆっくり首を振った。
「いやいや、僕はあくまでアディム理事長の……まぁ忠実ではないけど、しもべだよ。ただ、状況が変わったせいで、ドーガスの最高幹部のしもべにもなったっていうだけさ」
「え? なに……」
 くすりと速水は笑んで、ばっと大きく両腕を広げ、そしてオペラ歌手かなにかのように高らかに宣言する。
「『我速水厚志≠ニユルト≠ヘ敵≠フ許可のもと、セデルリーヴ・グランバニア≠ニルビアレーナ・グランバニア≠道連れに、物語から離脱する!』」
 ――とたん、世界が崩れ出した。 セデル自身なにがなんだかわからなかったが、それはそうとしか言いようのない光景だった。ルビアの部屋が、ヤオヨロジャー秘密基地が、さらにはその背後の空が大地が空間そのものが、ばらばらとまるでパズルのピースを落とす時のように崩れていくのだ。
 部屋が崩れても、その背後の秘密基地が崩れても、土砂が雪崩れ落ちてきたりはしない。残るのはただ、闇。真黒のなにもない背景だけが、次々とあらわになっていく。
「……なに……これ……?」
 呆然と呟くルビアの声に、同様にぽかんとしていたセデルははっとした。わけがわからないけど、どうすればいいかもわかんないけど、今しなくちゃいけないことは決まってる。 ルビアを、大切な妹を、大好きな家族を。傷つけようとする奴らから守り通す! 誰より尊敬するお父さんが、ここにいたら絶対にそうするように!
「インフィニティ・チェーンジっ!」
 叫んでポーズを取ると、一瞬セデルの体が光に包まれ、服がすべて素粒子を経てヤオヨロスーツに変換される。ヤオヨロイエローとなったセデルは、ぶんっとヤオヨロアームを振ってヤオヨロヘヴンソードにモードチェンジさせ、速水とパッパー・ビーを睨みつけた。
「なにをするつもりかわからないけどっ! ルビアをいじめる奴は、絶対に許さないぞっ!」
 速水はくすりと笑い、パッパー・ビーを見やる。パッパー・ビーは軽く肩をすくめ、もはや見渡す限りすべてが崩れ落ち、果ても見えない暗黒と化した空間をだんっと蹴り、セデルに――ヤオヨロイエローに襲いかかってきた。

「まず最初に聞こうか。なぜ俺がドーガス最高幹部だと――アディム理事長と敵対する者だとわかった?」
 ローグィディオヌス生徒会長がスリーシックスの姿を現すや、周囲の世界はすべて静止してしまっていた。まるで時間が止まりでもしたように、生物も無生物もすべてが変化した瞬間のまま固まっている。
「……最初におかしいな、と思ったのは、ローグィディオヌス会長が五月、俺と、セデルくんと、滝川くんが話しているところに話しかけた時でした」
「ほう? なぜそれがおかしいということになる?」
「俺の名前を最初に呼ばれた、からです。セデルくんの名前を、すぐに呼ぶ、のはわかります。セデルくんは、初等部生徒会長、ですから、高等部生徒会とも交流、がある、はず。なのに、なぜ、俺の名前を最初に呼んだ、のか? いくら考えても、わから、なくって。俺とローグィディオヌス会長は、同じクラスなわけでもないし、委員会とかで交流があるわけでも、ないのに」
「年齢の近い方を先に呼んだだけ、とは考えなかったのか?」
「それなら、なぜ、滝川くんが最後になるのか、わかりません。それ以上に……なぜ俺たちに、あんなに、親しげに、話しかけてきたのか? 個人的に親しくしている、わけでもない相手に、当然のように。滝川くんも、生徒会長と親しくつきあった覚えはない、ということでしたし、そもそも顔と名前を当然のように一致させているところからして奇妙、です」
「生徒会長という役職上、そのくらいのことはできてもおかしくないと思わんか?」
「思い、ません。そんなことができるようになるには、初等部から高等部までの、全生徒の顔写真と名前をつきあわせて記憶する作業を行わなくては、ならなくなる。わざわざそんなことをする高校生は、普通、いません。ならば、わざわざそんなことをする理由は、当たり前に考えて、ひとつ。俺たちから、なにか情報か、反応を引き出そうと、したのでは? ならば、俺たちから引き出したい、と思えるだけの価値のある、情報とは? 俺たちの、共通点はほぼただ一つ、ヤオヨロジャーの隊員で、あること。それを知って、いるならば、俺たち全員、の顔と名前を一致させている理由もわかる。けれど、情報を引き出したいにしては、会話が明らかにおかしかった。あまりに、中途半端だ、と思いました」
「ほう………」
「本気で、情報を引き出したいようには、思えない。反応から、ヤオヨロジャー隊員であることを、確信したにしても、その情報を即座に活用、するわけでもなく、最初に、狙いをつけた隊員が俺と風祭くんだというのも、少し、不自然。ならばなぜ、と考えて……『反応を引き出すことで、楽しみたかったのではないか?』って思った、んです。生徒会長が、本気で、ヤオヨロジャーと敵対する、つもりならば、あまりに打つ、手がすべて、手ぬるすぎる。もしかしたら、『ドーガスは最初から俺たち隊員の情報を熟知しているのでは?』と、『ドーガスの目的はヤオヨロジャーを倒すことではなく、楽しむことなのでは?』という推測が成り立つのでは、と思ったんです」
「……なるほど、な」
「そう考えると、ヤオヨロジャーとドーガスの存在、そして関係がいろいろ腑に落ちるんです。決め台詞、決めポーズ、スーツの形状、作戦の中途半端さ、手ぬるさ、それらはすべて、相手を殲滅するためではなく、楽しむためのものであるがゆえ、なのではと。おそらくは、ヤオヨロジャーを創ったアディム理事長と、ドーガスの最高幹部なり支配者なりが談合尽くで決めた、ゲームのようなものなのではと。そして、ならば、ローグィディオヌス会長は、少なくともその支配者に近いところにいる、と。だって、少しばかりのスリルと優越感を味わうことができる他に、俺たちにあんな風に話しかける理由は、ないんですから」
 ぱん、ぱん、とスリーシックスは手を叩いた。顔には楽しげな笑みを浮かべている。
「大したものだ。見事に正解を言い当てている。――だが、解せんな」
「……と、いうと?」
「そこまで承知していて、なぜ俺に突然あんなことを聞いてきた。自分の身が危なくなるのでは、というようには思わなかったのか?」
「思い、ましたけど。それよりも、優先すべきだと、思って」
「なにを?」
「アディム理事長の、安否の確認、です。早急にそれを調べないと、セデルくんと、ルビアちゃん、それに奥さんも、ご心配なさるだろうな、って」
「……くくっ」
 スリーシックスは喉の奥で数度小さく笑い声を立ててから、爆笑した。
「くくっ、くはははははは! 大した度胸だ。が……無謀に過ぎるな。それだけの情報をこちらによこしておきながら、俺がお前の存在を放置しておくとでも?」
「いえ……思いません、でしたけど。……やれるだけのことは、やったので、それも、しかたないかな、って」
「ほう……やれるだけのこととは、さっきからポケットの中で弄っていた、携帯のことか?」
「――――」
「無駄なことだ。俺たちは今、一時的にどの世界とも断絶している。ここからなにをしようとも、世界に影響を及ぼすことはできん」
「……そんなことができるのは、あなた方が、ヤオヨロジャーのあるこの世界を創った存在だから、ですか?」
 スリーシックスは、にやり、と魔王じみた笑みを浮かべ、告げた。
「正解だ」 そしてぱちり、と指を鳴らす。
「エイティエイト!」
「はっ!」
 呼ぶや現れた黒衣の博士に、スリーシックスは笑んだまま言ってのける。
「覚悟はいいな?」
「むろんのこと」
「よろしい。――『敵≠ェ命ずる、セオ・レイリンバートル≠ニ八十八在≠諱A物語より離脱せよ!』」
 ――その言葉と同時に、世界は崩れ始めた。

「……てめェ」
「澳継、あいつ、ドーガスの……?」
「それ以外にいるかよ。あんなトンチキな格好した奴がッ」
 言いながら、澳継は油断なく構えた。が、隣の龍斗は怪訝そうに聞いてくる。
「変身しないのか?」
「……はァ!?」
「いやだって敵幹部が来たのに変身しないとか、普通に考えて不利だろ? ヤオヨロジャーのスーツって、身体能力も防御力も阿呆みたいに上昇させるみたいだし」
「なッ……ばッ……てめッ……」
 それは確かにそうだが。龍斗ならそのくらい見抜けるだろう、とも思うが。なぜそういうことを今言う! いやわかっている、確かにその通りだとわかってはいるのだが、それでも龍斗の前で変身するというのは………!
「……彼が、君の繋がりのある相手なんだね」
「……はァッ!?」
 澳継は思わず仰天した声を上げてしまった。今、唐突に口を開いたのは、どう聞いても目の前のドーガスの幹部、サードジェネラルとしか思えなかったからだ。
「なッ……お前、いきなり、なに抜かして……」
「この世界にいる人間は、みんな誰かと繋がりを持っている。大切にしたい人を、護りたい人を。だからこそ、この世界に呼ばれ、繋ぎ止められているんだ」
「てめェ、なにわけわかんねェこと抜かして……」
「……っていうか、お前、レックスだよな?」
「………はッ?」
「いや、この鎧兜男、レックスだろ? うちの大学部卒業して、今は初等部で教師やってる……確か、澳継も面識あるだろ? 校舎裏で試合った中等部の子の恩師だとか言ってたじゃないか」
「なッ……へッ……はァッ!? ッておいッ、たんたんッ、なんでお前そんなことわかンだよッ!」
「いや、お前と同じように喋り方で。気配とかでもわかるし。声も変わってるけど面影あるし。レックスとは大学のサークルでそれなりに面識あるし、先輩なのにタメ口利けるくらいには親しかったからな」
「………なッ………」
 澳継はもはやどう答えればいいのかわからなくなり、ぱくぱくと口を開閉させた。サードジェネラルはしばし無言だったが、やがて静かに言葉を発する。
「気づかれたか……まぁ、襲撃をこの時にしたのはそういう可能性を考えてのことでもあるけど」
「なッ、ってこたァ、てめェ」
「ああ、俺は――サードジェネラル≠ヘレックス≠フ別側面であるキャラクター≠セ。スリーシックスの命により、君を離脱≠ウせるためにやってきた」
「……なんだよ、その離脱≠チてなァ」
「君を、この世界から消し去ること。この物語を終末に向かわせるための一押しをすること。クライマックスへの道を造ること」
「なに言ってんだ、てめェ」
「……なにを言っているんだろうな、本当に。実のところは、ただ、唯々諾々と主の命令に従っているだけなのに。ただ、主の楽しみのために、数えきれない人を巻き込んで……」
「だッからなに言って」
 そこまで言って、澳継ははっとした。 相手の様子をうかがって、すぐには襲ってくる様子がなさそうなのを見て取ると、ばっと携帯を取り出してメールボックスを開き、目当てのメールを開く。それを大急ぎで上から下までスクロールさせ、それを三度くりかえし、文章を読み――はっ、と笑った。
「……澳継?」
「うるせェ、黙ってろ。……おい、そこのッ」
「……なんだい」
「てめェはなんでその、スリーシックスとやらに従ってんだ。なんで嬉しくもねェ命令下してくる奴の言葉はいはいって聞いてんだよ」
「それは……」
 サードジェネラルは少し口ごもってから、内心の屈託を表した、苦渋を音にしたような声音で言う。
「少しでも、この世界に存在し続けるためだよ。繋がりのある、大切な相手と……少しでも、繋がりを持ち続けるため」
「そうかよ」
 再度はッ、と吐き捨てるように笑うと、澳継は龍斗に、顔を見ずに告げる。
「おい、たんたんッ。とっととどっか行け」
「……は?」
「邪魔だっつってんだよッ、とっとと消えろ。足手まといだってんだ、さっさとしろッ」
「……大丈夫なんだな」
「さーな。……けど、俺ァこんなところで終わる気は微塵もねェよ」
「わかった。俺がなにかやっておくことはあるか」
「ねェよッ、ンなもんッ! ……黙って、待ってろ。すぐに、ってわけにゃあいかねェかもしんねェけど……騒がれんのも鬱陶しいし、会いに行ってやらァッ!」
 その言葉に、龍斗はふっと笑んで、ぽんぽんと澳継の頭を叩いてくる。子ども扱いにカッとなって蹴りを放つも、あっさりさばかれて逃げ出された。
「じゃあな、澳継! 待ってるぞっ!」
「うるせェッ、とっとと失せろッ! ……さて、と」
 ぎろり、とサードジェネラルの方を向いて、小さく呟く。
「インフィニティ・チェンジ」
 告げるや自分の姿がスーツ姿に変わることにはいまだ納得がいってはいないが、今すべきことは変わらないし、それ自体にはさほどの不満もない。倒すべき相手を倒すことは、いつどこであろうとも、自分が生きていく上での糧とも言える仕事だ。
「おら、来いよ、腰抜け。これまで何度も何度も戦うたびに逃げ出されてきたからなァ……今度こそはとっくり相手してもらうぜ!」
「……『我レックス≠ヘ敵≠フ許可のもと、風祭澳継≠道連れに、物語から離脱する!』」
 そうサードジェネラルが叫ぶや、世界が崩れ始めた。

「……『さらに、この世界はそもそも、二体の高次生命体の生存競争のために創られた世界であるという事実も優先して伝達すべきであろう。そもそもこの世界が高次生命体のうち、アディローム理事長の姿を借りている方がローグィディオヌス生徒会長の体を借りている方の縄張りにやってきたことによる、縄張り争い――生存競争と言うほど逼迫したものではないようではあるが、よりよい居住地を巡っての争いのため、便宜的に創られた代物であることも、付記しておくべきかもしれない』……」
「…………」
 ライは無言のまま、滝川がひどく硬い声音で舞からのメールを読み上げるのを聞いていた。驚愕、唖然、呆然――そんな気持ちはあったが、それよりも滝川が今なにを考えているかが気になった。こんなことを恋人から聞かされて、滝川はどんな風に思うのだろう。
「……『彼ら高次生命体は、無限に存在しうる可能性世界から、写影を切り取る能力を保持していたことを説明することも必要であろう。具体的に言うならば、様々な世界の生命体から人格の一部のデータをコピーし、我々がマシン上のデータを扱うがごとく自由に取り扱えた、ということだ、と断言してよいであろう。これを告げることは、すなわち我々がいくつもの可能性世界から切り取られた生命体の人格データの一部に過ぎず、二体の高次生命体の縄張り争いのため、創生された世界で相争わせるための道具でしかないことを想起させる可能性もあるが、より快を得られる説明方法の模索という目的からするならば、ここでそう書くのはやむを得ないと判断する』……」
「…………」
「……『彼らは、互いが得た人格データを相争わせる舞台に、ヤオヨロジャー≠ニいう特殊部隊による戦場を選んだ、と説明することも必要であろう。ドーガス最高幹部とヤオヨロジャーのスポンサーとしての姿を取り、互いに配下を争わせて、その勝利と敗北によってポイントを増減させるという子供のようなゲームに我々がいつの間にか参加させられていることも、ドーガスの幹部たちや、私や速水がこういった事情を承知しながら、それでもアディローム理事長には逆らえないほど強固に精神を支配されており、ほとんどの行動がアディローム理事長の命令によるものであることも、付記しておくべきかもしれない』……」
「…………」
 滝川の様子をちらちらとうかがう。滝川は一見普段通りに見えたが、携帯を握る手が、一見そうは見えないけれどしっかり鍛えており意外に幅が広い肩が、小刻みに震えている。それだけ衝撃が強いのだ、と心配になりながらも、もし取り乱したらいつでも取り押さえられるように機を計る――
 だからこそ、自分たちを襲ってくるものに、滝川より早く気がついた。
「滝川っ!」
「え、わっ!」
 さっきまで滝川がいた場所を、銀色の触手が薙ぐ。まるでバターのように舞の部屋の扉を斬り裂いた、プラズマブレードかなにかのように鋭く光るその触手がするすると使用者の元へと戻っていくのを、ライが滝川を押し倒している状態から素早く立ち上がって睨む。なにが出てくるか知らないが、寝転がったままというのはあまりに不利だ。
 と、しゅばばっと空を斬る音さえ立てながら、二本の触手がさらに扉を細切れにして斬り落とし、持ち主の姿をあらわにする――や、滝川は大きく目を見開き、硬直する。ライも正直驚いた。 そこに立っていたのは、腕の代わりに二本の触手をだらりと垂らしていたのは、髪の色も瞳の色も全体的な体色自体が銀色に変わっていたけれど、疑いようもなくヤオヨロジャーの技術主任(通称博士)、芝村舞だったのだから。
「……舞……っ!?」
 滝川がなにか口にしようとするより早く、二本の触手が部屋の中に伸ばされ、荒れ狂う。ライも、滝川も、必死に飛び退り、斬り裂かれたPCラックの鉄筋で打ち払って避けたが、舞の触手はあくまで容赦なくライたちを襲う。ライは小さく舌打ちをした。
「駄目だな、こりゃ。――滝川」
「なんだよっ」
「俺がヤオヨロジャーに変身してこいつを足止めする。その間に、お前はアディム理事長を探せ」
「……はぁっ!?」
 意味がわからないのだろう、仰天する滝川に、ライはばっと携帯を開いてメールを見せつける。表示された言葉を追って、滝川は目を見開いた。
「な……これ、なんっ……」
「驚くよな、フツー。俺も最初読んだ時はどういう意味かさっぱりわかんなかったんだけどよ、お前のメールと合わせて読んで、やっと意味がわかったぜ」
「…………」
「わかっただろ、今の状況。ここから俺らが一発逆転するには、アディム理事長を探すしかねぇ」
「……それで、マジに逆転できるのかよ」
「少なくとも逆転の可能性がある一手はそんだけだろ。……っつーか、話してる暇はねーだろーが」
 舞が触手を引きずりながら、するすると部屋の中に入ってこようとしている。滝川はぐ、と奥歯を噛み、それでも必死の形相で首を振った。
「けど、それなら俺が残ったっていいだろ。……舞は俺の、彼女だ。俺が助けなきゃどうしようもねーだろ」
「駄目だ。お前が残ったら、説得しようとするあまり相打ちになりかねない。心配すんな、絶対に殺すような真似はしねーから」
「……信じていいんだな」
「約束は守るさ。絶対にな」 しばし互いに見つめ合い、小さくうなずき合うや、行動を開始する。ライがまずだっと舞の前に出て、低く叫んだ。「インフィニティ・チェンジ……!」
 一瞬輝いた、と思うやライの姿はヤオヨロシルバーに変化する。そして即座にヤオヨロアームを起動し、二つに分離させてブラストを至近距離からがすがすと叩き込む。
「…………!」
 もはや理性もほとんど残っていないのか、声にならない悲鳴を上げて後ずさる舞の横を、滝川が疾風の速度で駆け抜ける。舞が触手を伸ばそうとしたが、そこにヤオヨロシルバーとなった自分が割り込んで、ブレードで触手を打ち払った。
「…………!」
 悲鳴とも怨嗟の声ともつかない音を発する舞に、ヤオヨロシルバーとなったライは笑ってみせた。
「悪いけどな、あいつは殺させねぇよ。あいつには、ちっとばかし借りもあるしな……!」
 言いながらブラストを撃ち込みつつ、だっと滝川と逆方向に駆ける。とりあえず、広い場所にこいつをおびき出すつもりだったのだが、それより先に舞――の形をしたものが呟いた。
『我女性キャラクター≠ヘ敵≠フ許可のもと、ライ≠道連れに、物語から離脱する』


「く、の、おっ!」
「はい右、はい左、はい右と言いつつ左!」
 パッパー・ビーは強かった。攻撃のスピードがおそろしく早い上に、一撃一撃がひどく重い。 ブーメランだけでなく剣や槍まで使い、どこまでも続く暗闇としか見えない世界で、横方向や上方向まで足場にしつつ、変幻自在の攻撃を仕掛けてくる。イエローはほとんど受けるだけで精いっぱいだった。
 だが、負けるつもりは微塵もない。だって正義のヒーローが負けるなんてことがあったら世界が大変だし、それよりなにより、自分の背中にはルビアがいるのだ。絶対に絶対に護らなくてはならない存在がいるのだ。それなのに負けるなんてことがあっていいはずがない。
 自分はなにがなんでも、世界が崩れ落ちようとも、絶対に絶対に、ルビアを護る!
「てやぁっ!」
「! と!」
 パッパー・ビーがイエローの攻撃を受け、跳び退る。イエローの息はかなり上がっていたが、それでも負けるなんて可能性はちらりとも考えなかった。
 と、そんなイエローに、パッパー・ビーの後方で様子を見ていた速水がぱちぱちと手を叩いた。
「すごいねぇ、セデル――今はイエローくんは。負けないめげない落ち込まない。まさにお子様ヒーローって感じだよ。――なのに、哀しいことに、今の君は本物の君じゃない、んだよねぇ」
「っ、てぇいっ!」
「ローグィディオヌス生徒会長と、アディローム理事長。この二人が縄張り争いをするための、ゲームのためにこの世界は創られた。ヤオヨロジャーとドーガスが相争って、点数を競うゲームのためにね。君も、僕も、もちろんルビアちゃんもパッパー・ビーも、その舞台の登場人物の一人にすぎないんだよ。そのために別の世界にいる本物の僕たちの人格データの一部を、写影を切り取ってここに置いているにすぎない。僕たちの感情も、どんな精神活動も、本物のかけらをなぞっているにすぎないんだよ」
「て、りゃあっ!」
「アディローム理事長ももちろんそうさ。この世界を創った存在なのに、人間とは比べ物にならない力を持つ生命体なのに、あっさり肉体の感情に引きずられてる辺りはどうかと思いはするけどね。でもそれも結局はまやかし、本物のかけらを追って本物の感情の残滓に浸る、非建設的なことはなはだしい行為にすぎ――」
「――でえぇいっ!」
「ぐっ!」
「ぐ、ぅ、ぁっ……!」
 イエローがはたくようにヘヴンソードを振るった攻撃をパッパー・ビーはまともに喰らい、後方に吹っ飛んで速水を巻き込んで倒れた。もちろんそれを狙っての攻撃だったが、実際にそれが図に当たるとなんだかひどく胸が空いて、イエローはびっとヘヴンソードを突きつけて高らかに宣言した。
「そんなの、知らないよっ!」
「…………」
「本物とか、偽物とか、そんなのボクわかんないけど、ボクはお父さんも、お母さんも、ルビアも大事だし、護りたいって思うもん! お父さんだってきっとおんなじだよ! お父さんがそういう風に思ってくれてたの、ボクだってわかるもん! 本物でも、偽物でも、どっちだってボクたちの、大好きなお父さんだよっ!」
『…………』
「――速水くん? これは本気で言ってるって僕は思うけど、どう?」
「そうだね――ま、ここまで言ってくれるなら問題ないでしょ。さっすがお子様ヒーロー、負けないめげない曲がらない、実際見事なストレート剛速球だよ。こーいう子がもっといっぱいいたら世の中はたぶんもっと住みやすくなるんだろうねー……ま、それはそれでつまんないかもだけど」
「? なに言って……」
 と言いかけて、セデルは仰天した。速水とパッパー・ビーが、ぱらぱらと、さっきの周囲の世界のように崩れ落ちていっている。
「こらこら、なーにを驚いてんの。当然でしょー? 本来ならさっきまでいた世界の中でしか存在できなかった人格データの一部が、世界の外に出てダメージ喰らったんだもん。死んでも今の自分のまま存在し続けようって気持ちがなけりゃ、崩壊ぐらいしちゃうでしょー」
「な……そんな、そんなのっ」
「……あんまり落ち込まないでよ、セデルくん。あ、今はイエローくんか。僕たち別に、いやいやこんなことになってるわけじゃないんだからさ」
「そうそう、不可抗力……というよりは、そういうのを狙ってやったところもあるからねぇ。君の手を借りちゃって悪いけど……主の意志に従いつつ僕らの気持ちも通すやり方考えると、これしか思いつかなかったんだよ」
「だから、僕たちとしては、むしろ君に感謝してるんだ。ありがとうね、イエローくん。あと、誘拐した時にひどいこと言ってごめんね? 悪の組織の幹部≠チて役柄上、そういう性格に設定されちゃってたからさぁ……」
「俺からも、ありがとう。あと、ごめんね? あ、そうだ、せっかくだから、滝川に会ったら伝えといてくれる? ――『君が帰るべきところで、待ってるよ』って」
「それじゃあね。ああ、けど……せっかくだから、もう少し活躍したかったなぁ……」
「無理言わないの。俺たちはそういう役柄なんだから。俺としては、これはこれで、楽しかったよ……」
 ははは、くくく。そんな風に楽しげに笑いながら、速水とパッパー・ビーは、ぼろぼろと崩れていった。

「……インフィニティ・チェンジ」
 小さく呟くと、セオの姿は瞬時に緑色のスーツで身を包んだ人間――ヤオヨログリーンへと変わる。プロフェッサー・エイティエイトはそんな自分を見て、くくっ、と笑い声を立てた。
「おやおや、今さら変身か。愚かなことだ、変身しようが、ロボを呼ぼうがお前はもはや物語には戻れぬというのに」
「…………」
「今敵≠ェ告げられたことを理解しているだろう。今、俺たちは物語から――あの世界から離脱した。なにをどうしようともあの世界には戻れぬ場所へと墜ちた。あの世界と完全に断絶したのだ。そんな状態から、なにをどうやったところで元の状態に戻ることはできん」
「…………」
 グリーンは改めて周囲を眺め回した。特に生徒会長――敵≠ニ呼ばれた存在がいた場所の辺りを重点的に。 そこには誰もいない。見えるのはただ、闇。見通すことのできない暗黒がどこまでも広がっているだけだ。
「……あなたは、俺を倒したあと、どうなさるんですか?」
「そんなことを聞いて、どうする」
「何も。ただ、納得するだけです」
「納得?」
「はい」
 うなずく自分を、エイティエイトは訝しげに見ていたが、やがてふんと鼻を鳴らした。
「まぁ、よかろう。お前がなにを考えていようと、もはやすべては手遅れなのだからな。――私が首尾よくお前を倒せば、私は元の世界へ呼びつけられる。敵≠ェ次元を越えて私を召喚してくださるのだ。むろん、お前が勝ったところで敵≠ェお前を召喚するようなことはないがな」
 その言葉に、自分はほぅ、と安堵の息をついた。
「ああ――よかった」
「……よかった、とは何がだ。貴様、なにを考えている」
「いえ、あの。大したことじゃないん、ですけど。予想通り、だなって」
「なに……?」
「敵≠ウんがそういうことができる、ってことは、力を取り戻したアディム理事長も、同じことができる、ってことですよね。それなら、俺の予測通りだな、って。仲間に、連絡、していた通りなので、それをわざわざ、取り消さなくても、大丈夫、なので」
「なん、だと……? まさか、貴様、今の状況を、すべて予測して……」
「可能性のひとつとして、考えてた、だけですけど」
 グリーンはほっ、と息をつく。そう、あくまで可能性のひとつでしかなかった。だが、それが当たっている以上、仲間たちの携帯に送ったメールがまともに届いているならば、仲間たちがどう動けばいいか指針を指し示すことができるはずだ。
「……ッ、それがどうした! 今ここで貴様を殺せば、すべては予定通りなのだからな!」
 どこか悲痛な声で叫び、宙に銀線の繋がったナイフを舞わせたエイティエイトに、グリーンはふ、と小さく息をついてヤオヨロシールドをかざした。
「ごめんなさい。でも、俺、負けません」
 今自分がすべきこと、自分の仕事はこれだと、わかってしまっているのだから。

「はッ、ふッ、りゃッ!」
「く……ふ、はっ!」
 自分の手甲とサードジェネラルの剣が幾度も交差する。そのたびに何度も自分の攻撃がサードジェネラルの体を捉えるが、サードジェネラルは案外しぶとく、自分の攻撃の線から巧みに身をかわして急所を外してくる。のみならず、自分が少しでも隙を作ればすかさずそこに打ち込んでくる。思わず舌打ちを漏らした。
「てめェ……案外しぶてェじゃねェかッ。敵≠セかなんだか、怪しげなモンの言うことホイホイ聞きやがってる軟弱者のくせによッ」
「大切な人の、そばにいるためだからね……退くわけには、いかないっ!」
 黒い大剣を振り回して自分の首を狙ってくるサードジェネラルの攻撃を、自分は懐に踏み込みつつ手甲で跳ね上げて捌きつつ、ずんっ、と膝蹴りを食らわせる。自分の足甲はそこまでを覆っていることもあり、急所にもろに一撃を喰らったサードジェネラルは一瞬息を詰めて、ふらり、とよろめいた。
「ふざけたこと、抜かしてんじゃッ……」
 そしてその自分にも楽に足が届くくらいの場所まで下りてきた頭に、というかこめかみに、くるりと体を回転させての後ろ回し蹴りを入れる――
「ねェッ!」
 その一撃に、サードジェネラルは大きく吹っ飛んで、剣を落としながら倒れた。即座に間合いを詰め、がすがすげしげしと追い打ちを叩き込む。サードジェネラルはぐふ、がっ、などと悲鳴を上げてはいたが、そんなのは自分にしてみればどうでもいいのだ。
「馬鹿かてめェッ、他人の力でそばにいさせてもらってるだけだろうがッ! ンなもんでそばにいたって、いつ奪われるかわかんねェだろッ、そんな甘っちょろい覚悟で大切だなんだと偉そうに抜かしてんじゃねェッ!」
「ぐ……う」
「要するにてめェは自信がねェんだろうがッ、自分一人の力で相手のそばにいられるかわかんねェんだろうがッ、そんな程度の根性で、いつまでもそばになんざいられるわけねェだろッ!」
「……痛い、ところを、衝くな……」
 怒涛の勢いでかけまくっていた追い打ちの下から、サードジェネラルががっ、と自分の足をつかんで呻く。即座に相手の掌を蹴って後方にとんぼ返り、油断なく構える――が、サードジェネラルは攻撃をしてはこなかった。
「正直、俺の事情も知らずに、そこまで悪しざまに言われる覚えはない、と言いたくはなるけど……君がそういう人間だから、俺は、君に挑もうとしたのかもな……こんな俺を、弱い俺を、誰かに断罪してほしくて……」
「…………!?」
 サードジェネラルが、崩れていく。さっき世界がそうなっていたように。粉々に砕かれて、ぼろぼろと破片を落とされているように、背後の暗黒と同化しようとしている。
「それでも、俺は……あの子と、一緒にいたいっていう気持ちは……本当に、本当、だから……せめて、それを……」
 そこまで途切れ途切れに告げて、サードジェネラルの口は止まった。自分は、そのまま崩れていくサードジェネラルを、目を逸らさず、ぎっと、苛烈な瞳で睨み続けた。

「……さて。どうするか」
 周囲が暗闇と化した中で、シルバーはブラストとブレードを構えてひとりごちた。周囲がいきなり崩れ出した時には驚いたが、とりあえずは滝川を逃がせたのだからよしとしよう。ただそれはいいにしても、目の前で銀色の触手を垂らす、明らかに人間をやめている雰囲気の舞をどうすればいいものか、正直わからなかった。
 殺すような真似はしない、と言ったからには全力で手加減しつつ時間を稼ぐつもりではあるのだが。この状況だと、逃げ隠れするのがほぼ不可能な以上、どうすれば時間を稼げるのかというのがどうにも思いつかない―― と、舞が突然震えだした。
「!?」
 ルルルゥゥゥゥ、フルゥゥェェェェエェェ………!
 そんな笛が鳴るような音を立てながら、舞の体が震え、歪み、その姿を変えていく。瞬きを数度するかしないかのうちに、舞だったものは、かつて自分が倒したドーガスの幹部、レディ・ツヴァイ――いや、ディラ・メスノンへと変わっていた。
「………!」
「……ふぅ……あら、ライじゃなーい! ひっさしぶりー、元気だったぁ?」
 そう言ってあっけらかんと笑ってみせる姿は、やはりディラ以外の何者でもない。ライはす、と武器の構えをより警戒色を強めた型に移行させつつ、静かに告げた。
「どうして、あんたはディラさんの姿をしてるんだ?」
「えー、そこはあたしともう一度会えた喜びにむせぶとこじゃないのー、フツー?」
「人は死んだら二度と蘇れない。それができるのは人じゃない――命のないものだけだ」
「……ふふっ、あんたらしい。用心深いっていうか、しっかりしてるっていうか。ま、今回はそんなに警戒することないと思うけどねぇ。あたしの場合、本当にただの欠片だから」
「欠片?」
「さっき女性キャラクター≠チて言ったでしょ? あたしはこの世界のすべての女のデータを持ってるの。そこから改めてどんな女も人格を、体も再構成することができる。まぁ、それは結局は本物じゃないし、本物みたいに人とのコミュニケーションの中で変化することもないんだけどね」
「…………。博士は、結局どうなったんだ?」
「ああ、彼女? 彼女は敵≠フマインドハックから逃れるために逃げ回って、今朝キャラロストしたわ。さっきあんたたちが見てたメールは、たぶんマインドハックを受けながらそれから必死に逃れようとしつつ打ったメールじゃない? そのせいでやたら回りくどかったんじゃないかなぁ。ま、なんにせよ、彼女はもうあんたがいた世界には存在していない。さっきまでのあたしは、単に姿を借りていただけ。女性キャラクター≠ナすからね、あたしは」
「なるほど、な。わかった――なら、悪いけど、叩きのめすぜ」
 つぅ、と構えを攻撃色の強いものに変化させながら告げると、ディラの姿をしたものは笑った。
「あらら、いーのぉ? さっきのリーダーくんと、殺さないって約束したんじゃなかったっけ?」
「殺しゃしねーし、あんた自身が言ってたよーに、単に姿を借りてる相手だっつーんなら無駄に会わせる方があいつにはよくない。それに、ディラさんの姿を借りてるってのは、俺としてもイラッとくるしな」
「あららー……じゃあ、喧嘩?」
「そうなるな。――ぶった斬っても簡単には死ぬなよっ!」
「それはこっちの台詞かなっと!」
 ライは一気にその数を増やし、四方八方から襲いくる触手を、時に身をかわし時に撃ち抜き時に薙ぎ払いと始末しつつ、一気に間合いを詰めていった。

「っ、どこにいんだ、理事長……!」
 基地を走りながら、滝川は一人呟いた。一刻も早くあの人を見つけなければ、たぶん、本気でどうにもならない。 ライの携帯に送られていたメールを見て、滝川は本気で驚いた。数日前から姿を見せなかったセオが、今の状況を見通したかのようなメールを送ってきていたからだ。
『俺は、俺たちの、いわば勝利の鍵を握っているのは理事長ではないかと考えます。もし、みなさんが切羽詰まった状況に追い込まれていたとしたら、それは理事長が囚われるか、倒されるかしたがゆえに起こったことではないかと推測できます。なぜなら、あくまで推測でしかありませんが、少なくともこのゲームと呼ぶべき争いにおいて、我々の側に立っているのは理事長ではないかと思われるからです』
 舞と似たような考察を論理的に、納得できるように説明しつつ、そんなことをセオは書いていた。この状況であんなメールが届くことについて、都合がいいと感じなくもなかったが、偽造だなんだと疑う気は起きなかった。なにせ、
『そういった状態に追い込まれた場合、我々は理事長を救い出すことが必要不可欠であると考えます。ゲームに勝利するか否かということ以前に――』
 あんなこっ恥ずかしいことを、当然のように、かつ論理的に書いてくるのは滝川の友達ではセオぐらいのものだからだ。
「理事長のいるとこ、理事長のいるとこ……っ」
 セオのメールには、理事長がすでに倒されている可能性についても触れられていた。ただ、その場合でも高次生命体としての力なり人格の一部なりは残っている可能性もある、と(世界が崩壊していないことを主な理由として)主張していた。なので、とりあえず理事長のいそうな場所を探さなくてはならない、のだが。
「あの人がいそうな場所なんて、わかるわけねーじゃんっ……!」
 あの人と自分は特に親しいわけでもないのだから。あの人がどれだけ親バカで、子供たちのことが大好きなのかは知ってるけど―― と、そこまで考えてはっとした。
「……もしかして!」
 小さく叫んで走り出す。ふと思いついたのだ。もしアディムが倒されて、魂だけになったら、人間として存在できなくなったら。たぶんアディムはそれでも子供たちを、家族を護ろうとするはずだ。それならあの人は、どこへ行く? そう考えた時、パッパー・ビーがセデルを誘拐した時に言っていたことを思い出した。
『もしかして、ヤオヨロジャーを作ったのもそのせいじゃない? あんたのありあまる力を、少しでも社会に還元するために。そして疎外されないようにするために。可愛い可愛い子供たちをヤオヨロジャーに勧誘したのは、自分の力を使って少しでも安全な環境を作り出すためと、自分の力を恐れられないように――』
 なにを言っているかは正直よくわからなかったけど、なんとなく思った。あの人にとって、ヤオヨロジャーは、子供を護る力だったんじゃないだろうか。 正義の戦隊なら、人を護る戦隊なら、自分の子供も、家族もきっと、護ってくれるんじゃないかって考えて、少しでも強いスーツをと研究し、基地を造り、増築し、自分のできるありったけの力を使ってハードを増強し――
 それなら、思いつく場所はここしかない。滝川はだだだだっ、と勢いよく、司令室≠ニいうプレートの張ってある部屋の扉を無理やり引きあけて中に飛び込み、固まった。その中に、見知った顔の相手が立っていたからだ。
「やあ、滝川くん」
「……生徒会長」


「会えて嬉しいよ、滝川くん。――君はここに閉じこもっているアディローム理事長の存在核を取り出す方法を知ってはいないかい? あ、アディローム理事長の姿を取っていた高次生命体、と言った方が君にはわかりがいいのかな」
 そんなことを言いながら、ローグィディオヌス生徒会長は優雅に首を傾げてみせる。
「……存在核?」
「ああ、高次生命体のエネルギーの核となるもの、というのが一番わかりやすいのかな。これを奪われれば、高次生命体は存在ができなくなる。生存競争に負けた相手からそういうものを奪うのは当然だろう? ゲームに負けたのだから、賭けたものはきちんと払ってもらわないとね?」
「っ……インフィニティ・チェンジっ!!」
 気合を込めて変身し、ヤオヨロアームを構えて斬りかかる――が、会長が小うるさげに手を払っただけで、滝川は背後の壁に叩きつけられた。変身もその一撃であっさり解除されてしまうのに、愕然として呟く。
「そんな……なんで、一撃で、変身が」
「当たり前だろう? 僕はこの世界を創りだした者の一柱、それもより強い力を持つ側なんだから。その程度の法則変更は簡単だよ。その辺りを僕の相手は考えていたのかいなかったのか、やたらスーツやらなにやらを強化していたけれどね」
「っ……」
 滝川はだっと壁際を走った。足を止めることは、すなわち死に繋がる。死ぬ時まで全力で考えて動き続けろ、と自分たちは教わった。 そんな滝川の動きもすべて感知してるのだろう、生徒会長は楽しげに笑いながら滝川のいる方へいる方へと歩み寄ってくる。滝川がどれほど逃げてもかまわずに、むしろそれすらも楽しんでいるかのように笑いながら追ってくる。
「無駄だよ。わかっているんだろう? この世界は僕と、僕の相手が創ったもの。この世界の中では、君も僕らの創った法則に従わなくてはならない。本来の君がどれだけ強く、どれだけ賢かろうと、ここでの君は写影でしかない」
「っ……!」
 ぶん、と唐突に目の前に現れた生徒会長が、軽く手を振ってまた滝川を壁に叩きつける。今度はスーツを着けていなかったので、体にもろに衝撃を受けた。かろうじて受け身は取ったが、それでも頭に強い衝撃を受けた時特有の吐き気と、背骨が折れたかと思うほどの痛みが体を襲う。
「ぐ、ぅ、は……っ」
「僕は別に無理なお願いなんてしていないと思うんだけど? ゲームに負けた相手に、相応のものを払え、と要求しているだけだ。もちろん君たちがさっきまで暮らしていた世界は崩壊するけれど、それは最初から決まっていたことだし、君たちの本体のいる世界は無事なんだから問題はないんじゃないかな?」
「っ……理事長、は」
「え、アディローム理事長……というか、僕の相手をやっていた僕のご同類? それはもちろん、喰い尽くすよ。ゲームに負けたんだから、相応のものを払うのは当たり前だろう? それとも、君たちの倫理観では勝負に負けた時の代金は踏み倒していい、っていうことになっているのかな?」
 は、と滝川は小さく息を吐いた。――それが笑い声だということに、生徒会長は気づいただろうか。
「いいや、もちろん、払わなきゃならねーもんは、払わなきゃ、だよなぁ……」
「そうだろう?」
「だけど――それでも、これは言える」
「これとは?」
 微笑む生徒会長に、滝川は腹の底から宣言した。
「どんな状況でも、愛し合う親子を引き離してもいいなんて、話があるわけねーだろっ!!!」

 速水とパッパー・ビーの体がすべて崩れ去り終える前で、変身を解いてルビアと呆然としていたセデルは、はっと顔を上げた。
「滝川、先輩……?」

 エイティエイトが崩れ去ったのを確認して、変身を解いていたセオは顔を上げた。
「滝川、くん……」

 崩れ去るサードジェネラルを睨み続けていた澳継は(当然変身はすぐに解いている)、その感覚にぴくりと身を震わせた。
「この声……あの馬鹿リーダーか!?」

 動けなくさせるつもりの攻撃を避けずに、まるでそれが自分が望んだことのように笑みながら、崩れていく女性キャラクター≠苦く唇を噛みながら変身を解いて見つめていたライが、喚ばれる♀エ覚にはっと振り向く。
「滝川……もしかして、お前が!?」

 返事が戻ってきているのかどうか、滝川には感じ取れない。けれど、それでも、これはこの台詞を言うべき時だ!
「みんな! 変身だっ!」

「……ルビア。ボク、行ってくるよ」
「お兄ちゃん……」
「大丈夫。絶対に、お父さんを助けて、ルビアのところに戻ってくるから!」
 そう笑顔でセデルは言って、泣きそうなルビアの頭を撫でた。

 セオは小さく息をついて上を見上げた。上に見えるのは、ただ暗黒。それでもその向こうに在る世界を想い、セオは一瞬目を閉じる。
「……一緒にいてくれて……俺に優しくしてくれて、本当に、本当にありがとうございました」 深々と頭を下げてから、きっとまた頭を上げる。
「でも……俺は、行かなくちゃいけません。俺が一緒にいなければならない人たちが、待っているんです」

 ふん、と澳継は鼻を鳴らした。別にこんなこと、嬉しいわけでもなんでもないが、それでも少しばかり胸がすくような気がするのは確かだ。
「……しょうがねェな。行ってやらァ」
 本当はどちらの方向にいるのか覚えているわけではないが、それでもあいつが駆けて行った方向へ向き直り、怒鳴る。
「あとで行ってやるからなッ、ぎゃあすか文句言うんじゃねェぞッ!」

「……ま、いいか。なんでかはともかく、選ばれちまった以上、それなりのことはやんねぇとな」
 小さく肩をすくめ呟いて、ライはちらり、と崩れ落ちた人のいた方を見やる。
「それに……ここにはここで、できちまったしがらみもあるし、な」

 滝川は、ばっと左腕に装着しているブレスレットに右掌を触れさせ、声を揃えて°ゥんだ。
『インフィニティ・チェーンジ!』
 叫ぶや、自分の体は光に包まれ、身を包んでいた衣服がすべて素粒子にまで一度分解されてからスーツに変換される。世界のどんな防護壁より強固な正義のヒーロー戦隊のスーツ、ヤオヨロスーツに。
 そして、戦隊が名乗る時には当然そうであるように、仲間≠ニタイミングと声と振りを合わせて腹の底から叫ぶ。
「バンダナの赤は闘志の証! 無限に燃えるぜ正義の炎――ヤオヨロレッド!」
 ババーン!
「手甲の青は闘気の徴! 無限の敵にも容赦はしない――ヤオヨロブルー!」
 ビシューン!
「しっぽの黄色は希望の光! 無限の絶望も照らしてみせる――ヤオヨロイエロー!」
 ズバーン!
「サークレットの緑は慈愛の象! 無限の恩情で痛みを癒す――ヤオヨログリーン!」
 キラーン!
「瞳の銀色は仁義の印! 無限の友を背負いて護る――ヤオヨロシルバー!」
 シャリーン!
『無限戦隊ヤオヨロジャー、五人揃ってただいま参上!』
 ドッゴォォン!
 びしっ、とポーズを決めた自分たちの背後で、炎が自分たちを照らし出すように爆発する。なぜか、なんて理由を聞いてはいけない。なぜならそれは、そういうもの≠セからだ。
 生徒会長は愕然とした顔になり、数歩後ずさる。彼が自分よりもはるかに生命体としてレベルの高い存在だということに変わりはないのだが、それだけこの状況に気圧されてしまったのだろう。
「馬鹿な――なぜ、そんなことが! どいつも全員、分断した上でこの世界から断絶させたのに! 変身ひとつで物語に復帰するなど、そんなことができるわけが……!」
「油断してたな、生徒会長。確かにあんたはこの世界を創ったんだろう――けど、この世界を創ったのは、アディム理事長もなんだろ?」
「だからどうした!」
「だから、あんたもアディム理事長の創ったルールには従わなきゃなんないってことさ――命を懸けて正義を守るヒーロー戦隊は、悪には絶対負けない! 想い合ってる親子を引き離すような悪者にはな!」
「な……?」
「……この世界は、ヒーロー戦隊のルールに基づいて創られた世界。だからこそ、戦隊のルールに乗っ取った行動には世界の加護が与えられます。戦隊のヒーローたちがリーダーの呼びかけに従い名乗り上げたならば、想いが世界を越えて人を集め、悪者に対しヒーロー戦隊が正義を守ろうとしたならば、どれだけ敵が強力であろうとも絶対にその行為は果たされるんです。そして、今あなたは、肉体の中に住みついて世界に在るがゆえに、この世界のルールに縛られている」
「な……っ、馬鹿な……!」
「馬鹿もなにもあるかよ! これがあんたたちの決めた……世界のルールだ!」
 言うやレッドはじゃきん、とウェポンホルダーから可変武器のヤオヨロアームを取り出し、アサルトモードに変形されて撃ちまくる。
「ぐ! ふ、がっ……!」
「俺をおちょくった分は、しっかりやり返させて、もらうぜェッ!」
 ブルーも専用モード・ヤオヨロガントレットを装備して、華麗な連続技を次々に叩き込む。
「ぐぁっ! ご……っ、ぐぅっ!」
「くらえっ、ヤオヨロヘヴンソードっ!」
 宙に舞ったところに、イエローがヘヴンソードへとモードを変えたヤオヨロアームを思いきり叩きつける。
「がぁっ……!」
「……ヤオヨロシールド、いきます……!」
 グリーンが専用モードのヤオヨロシールドで、さらにそれを叩き返す。
「ぐ、はっ……!」
「悪いが、まだ終わりじゃないぜ! だりゃあっ!」
 シルバーがそこをさらに二つに分離したヤオヨロアームのうち、ブラストの連射で狙い撃ち、ブレードの刃の部分を投げつけて動きを止める。
「ぐが、ぁっ……!」
「みんな、とどめだっ!」
『おうっ!』
 ヤオヨロジャーはあっという間に陣形を組み、それぞれのヤオヨロアームを変形させ、合体させ、ひとつの巨大な大砲へと変えて――
「行くぜ、ヤオヨロキャノン――インフィニット・シュートっ!」
 五色の光が混じり合った球体が、一撃で敵≠フ体を爆散させる――が。
『くくっ……よく私の体を消滅させてくれた……!』
敵≠フ体のあったところから、もやのようなものが立ち上り、どんどんと大きく広がっていく。
『体がなくなり、この世界の法則に縛られることがなくなれば、貴様たちなど敵ではない……! 世界ごと呑み込んで、消滅させてくれるわ……!』
「チッ、しぶてェクソ野郎だぜッ」
「どうする、リーダー!?」
「心配すんな! ――イエロー!」
「え!? ボク?」
「ああ、そうだ、お前だ。……お前の親父さんの名前を呼べ!」
「え……お父さん?」
「ああ。お前の親父さんはここにいる。きっといる。だから、その名前を、応えてくれって気持ち込めて呼ぶんだ!」
 イエローは少し戸惑ったような顔をしたが、うなずいた。じっと前を見つめ、真剣な、けれど優しい声で、そっと呼んだ。
「……お父さん」
 それは、名前≠ナはなかった。けれど、父親を子供が呼ぶのに、一番ふさわしい呼び方であるのは確かだった。
「お父さん。お父さん。お父さん」
 ここに来てくれと。応えてほしいと。大好きだよと。そんな気持ちが声音から漏れ落ちるほどの温かい声で、何度も何度もそう呼びかける。
「お父さん……一緒に、帰ろうよ」
 最期に、どこか切なげな顔さえしながら、そう呼びかけたイエロー――いや、セデルの声に、セデルの父親『だったもの』は陥落した。
『! な……っ』
 ゴオゥッ! という音にならない轟音と共に、自分たちを包み込もうとしていたもやに影から湧き出した黒い闇が絡みついた。蛇が獲物に絡みつくように、するするともやを締め上げていく。
 それによし! とうなずいて、レッドは叫んだ。
「召喚するぜ、ヤオヨロギガント!」
「へっ? 召喚するって、いったいなんのために……」
「敵≠ェこっちに向けてくる敵意を斬る! ヤオヨロギガントは正義の巨大ロボなんだかんなっ、そのくらいできるだろ!」
「だろ、って……適当な奴だな、いつもながら」
「いえ、大丈夫です」
 グリーンがきっぱりうなずく。普段気弱、というか全力で卑屈なグリーンにしてはおそろしく珍しい素振りだったが、それはひどく迫力と説得力のある仕草だった。
「レッドが言っていたように、ヤオヨロジャーは正義のヒーロー戦隊です。正義の力で悪を断つ、この目的に限ってならばたいていのことはできる。それはこの世界の中に限ってのことではありますが、だからこそいいんです。あの敵≠ェ自分たちに向けている攻撃欲は、そもそもがこの世界に属するものですから」
「……ふん、珍しくよく口が動くじゃねェか。いいだろう、乗ってやらァ!」
「イエロー。シルバー。力を貸してくれ!」
「……へっ、んなの、わざわざ言うまでもねーだろ!」
「うんっ、リーダー! ボク、思いっきり頑張るよっ!」
 顔を見合わせて、うん、とうなずき合い、それぞれ声を上げて自身のヤオヨロエクイップを召喚する。
「カモン、ヤオヨロウイングっ!」
「来やがれ、ヤオヨロレッグ!」
「こいっ、ヤオヨロアーマー!」
「ヤオヨロヘルム、来て、ください……!」
「召喚、ヤオヨロガーメント!」
 その呼び声に自分たちのブレスレットが反応する。周囲が暗黒と白いもやに包まれかかっているというのに、上空の空間が歪んでヤオヨロエクイップたちが現れ、それと同時にブレスレットが反応して自分たちをそれぞれの操縦席へと転送する。
 いつもと同じ操縦席に腰かけるや、レッドは気合を入れて操縦レバーをぐいっと押し込んだ。
「合っ………体っ!」
 ヤオヨロエクイップたちが次々合体し、巨大ロボットへと変化していく。操縦席が五人揃った巨大操縦席になる。ヤオヨロジャーの誇る巨大ロボット、ヤオヨロギガントが誕生する。 全員が操縦席に座るや、レッドは気合を入れて宣言した。
「ギガントソードっ! インフィニティ・エナジーフルバースト! ギガントソード、エクシードモードっ!」
 ギガントソードが輝き、激しく震えはじめる。それを全員操縦桿の向こうに感じながら、気合を込めて叫びつつ操縦桿を押し込んだ。
『インフィニット・ギガント・スラーッシュっ!!』
 ――その一閃に、もやの動きは止まった。

『……まさか、私があちらこちらの世界から写し撮った人格データの欠片に負けるとは、な……』
「人間を舐めるなよ、ってことだろ、つまり。……セデル」
「あ、うんっ」
 セデルはうなずいて、前に出る。前といってもすでに周囲は天鵞絨のような漆黒と、白いもやに包まれているのだが、それでも気合を込めて言い放った。
「お父さんっ! ボクたちと一緒に、帰ろうっ!」
『………私を、父と呼んでくれるのか、セデル』
 漆黒の方から返ってきた声に、セデルは気合十分にうなずいて続ける。
「当たり前だよ! だってお父さんはお父さんじゃないかっ、そりゃこれまでのお父さんはお父さんの体を使ってた人なのかもしれないけど、それでもボクたちのことすっごくすっごく大切にしてくれたし、好きだなって気持ち伝わってきたもん! ボクたちだって、お父さんのことすっごくすっごく大好きだよ!」
『……ありがとう。本当に、ありがとう……けれど、私は、お前と一緒には帰れないのだよ』
「え……なんでっ!?」
『この世界は、もはや存在し続けることはできない』
『…………!』
『そもそもが我々が勝負をつけるために急場しのぎに創った不安定な世界。我々がどれだけ力を費やそうとも、そこら中の穴からどうしてもこぼれ出てしまう。もはや、お前たちを、これ以上存在させ続けることも……』
「……なら、さ。俺たちを、切り取った元の俺たち……オリジナルっつーか、元からいた俺たちの心の中に、移すってことは、できねーの?」
 自身の言葉に、全員が目を見張って見つめてくるのに、滝川はどぎまぎしつつも続ける。
「いや、だってさ、いっくら俺たちがその、元からいた俺たちから切り取っただけの奴らだったにしてもさ。俺たちは俺たちなりに、この世界でいろいろやってきたわけだし。それが全部消えちまうとか、悔しいっつーか、寂しいっつーか……それなら、元からいた奴らに戻せばいいんじゃ、って思ったんだけど……な、なんかマズい?」
『……できなくは、ないが。それをやったところで、お前たちの人格が十全に保存されるとは保証できんぞ』
「そんなの、普通に生きてたって一緒だろ。それでも、失いたくないって……大切にしたいって思うこと残しておきたいって思うことは、心の中にちゃんと置いておきたいって思うじゃん。それだけでも、死ぬまで持っておきたいって思うじゃん。そういう……宝物みたいなものさ、今の俺たちの元になった奴らなら……大切にしてくれんじゃねーかなって、思うんだけど……そういうの、間違ってる、かな」
『………………』
 ヤオヨロジャーの面々は、それぞれに顔を見合わせて、それぞれの表情を浮かべた。
「……まッ、こんな阿呆らしい話とおさらばできるってんなら、俺はむしろありがてェって思うけどなッ」
 澳継は、思いっきり無愛想な仏頂面で。
「……ごめんなさい。それが正しいことだと、俺も思いはするんですけど……それでもやっぱり、俺、寂しいです。会えて……親しくなった人たちと別れるのは、寂しい……です」
 セオは静かに目を伏せて。
「そうだよ……。ボクだって、寂しいよ。お別れしたくないよ! だって、せっかく……せっかく、会えたのに、それが全部なかったことになっちゃうなんて、そんなの……」
 セデルは顔をくしゃくしゃにして涙声で。
「……そうだな、俺も、寂しいよ」
 ライはわずかに瞳を潤ませながらも、真正面から全員を見て。
「けど、さ。会えなかったより、ずっとよかったって思わないか?」
「……え?」
「人生って、そりゃいいことばっかりじゃないけど、生まれてこなかったよりずっとよかった、って思うみたいにさ。別れるの寂しいし、辛いけど、それでも出会える方がずっとよかったって、そう思わないか?」
 優しく微笑んでそう言ったライに、セデルは目を見開いてから懸命に反論した。
「でも! お別れしたら全部忘れちゃうなんて、それじゃ、せっかく会えたのに……」
「大丈夫だ!」
 がっし、と滝川はセデルの両肩をつかみ、力強く宣言する。驚くセデルの両目をのぞきこみ、気合を入れて言い聞かせた。
「忘れねーよ。形は変わっちまうかもしれねーけど、絶対絶対覚えてる! 俺たちが俺たちでいる限り、絶対な!」
「え……」
「お前が忘れたくねーって思うんだったら、形はどんなに変わっても、絶対俺らのこと覚えてるって!」
「え……ほんとに?」
「……うん。俺らも、覚えてられるように、頑張るから、さ」
 にか、と、わずかに目の端を潤ませながら言う滝川に、セデルはにこっと、満面の笑顔になってうなずいた。
「うんっ! ボクも、頑張って覚えてるっ!」
「……じゃ、俺も、いっちょ頑張るとすっか」
「……はい、俺も」
「……ま、気が向いたらな」
 それぞれ顔を見合わせて小さく笑い、漆黒と白い靄に向け宣言する。
「じゃ、頼むぜ、二人とも。この世界にいた奴ら全員、元の世界の奴らの元に返してくれ!」
「あ、それと、ボクルビアを迎えに行かないといけないから、返す前にルビアのところに送ってね!」
「……あの……いえ、これは、ご自身で決められることだと思いますから、やめておきます、けど……」
「……ちゃんと、俺たち以外の奴も、敵幹部の奴も、全員元の奴らのところに返してやれよな」
「言っとくけど、手ェ抜いたらぶっ殺すぞ」
『………では………』


 滝川陽介――今は芝村陽介は、はっと顔を上げた。それまで豆腐を切っていたからだろう、横で見ていたひなたと大河がきょとんとして、不思議そうに聞いてくる。
「おとーさん、どーしたの?」
「どーしたのー?」
「ああ、いや………」
 少し口ごもって、手を止め、包丁を置いて予定表をのぞく。
「……今日は、舞、早めに帰ってくるんだよな。速水も一緒に」
「うん。そーだよ? なんで?」
「いや………」
 また口ごもって、なんと言っていいか迷ってから、愛する娘と息子を見下ろして、思わず笑んで、そっと二人を抱きしめた。
「俺は……みんなと一緒でいられて、幸せだってこと、伝えたくって、さ」

 ユルトははっ、と昼寝から目を覚ました。目の前でつんつんと自分の鼻をつついていたククールが、からかうような笑みを浮かべる。
「ようやくお目覚めか、ねぼすけ。深窓の姫君ならともかく、お前が眠ってたところで絵にはならないぜ?」
「あー……うん。そーだね……」
「……お前、まだ寝ぼけてんのか? とっとと目を覚ませよ、もうすぐゼシカとヤンガスが帰ってくる」
「……姫とトロデ王は?」
「は? なに言ってんだ、休んでるだろ、そこで」
 ほれ、と指差されて、ユルトはほうっ、とため息をついた。
「……どうしたんだ。悪い夢でも見たのか?」
「いや、うーん、悪い夢っていうか……好きな人を好きだって言えるって、すごい幸せだなー、って思って」
「……なんだそりゃ」
 ユルトは答えず、にぱーっと笑って、とりあえず目の前のククールを抱きしめた。

 八十八ははっ、と目を見開いて慌てて立ち上がりかけ、そこが休み時間の教室だということに気づいてのろのろと腰を下ろした。自分の席からつんつんと頭をつついたりしていたらしい陽介が、ははっと笑って言う。
「おー、起きたか。めっずらしーなー、お前が授業中に居眠りって。どしたんだ、昨日眠れなかったとか?」
「……いや………」
 八十八は半ば呆然とした声で応えて、目の前で数度掌を開いたり閉じたりと数度繰り返してみた。それが自分の思い通りに動くことを確認し、ほうっ、と深く深くため息をつく。
「……どした? なんか、やな夢でも見たとか?」
「ああ……いや……いや、そうなのかもしれないけど、なんていうか……」
 なんとも言い切れず言葉を濁し、それでも心の中から溢れてくる感情に耐えられず、ぎゅっと陽介の手を握った。
「ありがとう」
「……へっ? や、あの、八十八、なに……」
「みんながいてくれて……本当に、本当に、よかった……」
「や、の、いやあの、それは……うん、よかった、な……?」
 うろたえながらも、陽介はぽんぽんと自分の頭を叩いてくれる。それが泣けるほどにありがたいと、心底思った。

 はっ、とセオは我に返った。目を見開き、素早く周囲の様子を探って状況を確認する。
 ここが魔船のマストの上の見張り台で、自分は今見張りの最中で、さっきまで一人で立っていたのだということに気づき、思わず愕然とする。
 何度も何度も周囲を探って、またしばし呆然とする、というのを何度も繰り返す――と、見張り台の梯子をフォルデが上ってきた。
「おい、セオ、交代――……なんだよ」
「え……」
「なんだってんだよその面ぁ。どうせまた鬱陶しいことぐだぐだ考えてたんだろーがっ、しょーもねぇことしてんじゃねぇ、時間の無駄だろーがっ」
「え……あ……はい……」
「……ったく……おら、交代だっつってんだろ、とっとと降りろ、邪魔だっ」
「あ、は、はい……あの、フォルデ、さん」
「……なんだよ」
「あの……ありがとう、ございます。俺、すごく、幸せです」
「なっ………!!!」
 即座に「阿呆かーっ!」と怒鳴られはしたが、セオの心には、本当に、心から素直な感情を口に出した満足感が残った。

 レックスはは、と後ろを振り向いた。そこに気配があるからどうとかではなく、ひどく切羽詰まった感情でそうしなくては、と思ったせいだったのだが、そこにはナップがきょとんとした顔で立ち、こちらを見つめている。
「……先生、どしたの? なんか、顔に汗かいてるけど」
「え……」
 言われて汗でじっとり濡れた自分の額に気づき、慌てて手巾で拭う。ナップはさらに、気遣わしげな顔で訊ねてきた。
「先生、大丈夫かよ? なんか、疲れることでもあったのか?」
「…………」
 ナップをしばし見つめ、レックスはゆっくりと微笑んで、首を振った。
「いいや。なにもないよ。ただ……昔のことを、思い出しただけさ」

 澳継は構えをぴくり、とうごめかせた。それに反応してか、龍斗の構えもぴくり、と動くが、打ち込んではこない。 しばし無言で睨みあってから、澳継はひどく苛々した表情で龍斗に言った。
「なんで打ち込んでこねェんだよ」
「お前はなんで隙を作ったんだ?」
 冷静に言い返され、さらに苛々して言い返す。
「んなこたァどうでもいいだろうがッ! 武術家が隙を作れば攻撃されるのが当然」
「しじゅう隙を作っているお前に言うことじゃないと思うが」
「……うるっせぇなッ! そういう時はすぐ仕掛けてくるくせしゃあがって、なんで今は打ってこなかったんだよッ」
「そうだな。俺にもよくはわからんが、お前が隙を作ったのとさほど変わらない理由じゃないか?」
 そう返され、澳継は思わず一瞬ぽかんとしてから、すぐににやりと笑んだ。
「上等だッ!」
 そう叫んで澳継の方から威勢よく打ち込む。胸の中に、ひどくしっくりとした感情を残して。

 ディラはベッドの上で膝を立てながら、「あ……」と小さく声を上げた。隣で寝ていたヴェイルの目を覚ましてしまったようで、「ん……? どうした?」と寝ぼけ眼で声をかけられる。
 苦笑しながら寝るようにうながすが、それでかえって目が覚めてしまったらしく、ヴェイルは身を起こして「なんか、気になることでもあったのか?」と気遣わしげに訊ねてくる。そういう人に気を遣う性格もディラの好きなところではあるが、こういう時は少しばかり始末に悪い。仕方なく、小さく苦笑して告げた。
「大したことじゃないわよ。ただ、昔の男のことを思い出しただけ」
「……それ、こういう状況で思い出すことか?」
 少しばかり不機嫌な顔になるヴェイルに、「拗ねないでよー」と言いながら抱きつく。「ちょ、おい、待てって」などと言っているヴェイルに胸をぐにぐにと押しつけて、ちゅ、ちゅっと頬に、唇にキスし、それから他にも少しばかりテクニックを披露して。
 小さくため息をついてヴェイルは自分を抱き寄せたが、さすがに恋人らしく、自分をよく理解している台詞を吐いてくる。
「その昔の男ってのは、よっぽどいい男だったんだな?」
「……まぁ、ね?」
「……へいへい。じゃあ、今の男としては捨てられないように努力するとしますか」
 そう言ってヴェイルが落としてくるキスに、ディラは心地よく身をゆだねた。

 ライはぴたり、と包丁を止めた。それから、ゆっくりと周囲を見回す。
 ここは自分の店、『忘れじの面影亭』の厨房。今自分が作っているのは、何度も作り慣れたメニュー、海賊風焼き飯。あとはもう少し材料を刻めばもう炒めるだけ、というぐらいまで出来上がっている。
 時刻は夜。食堂の、ライから一番近くのテーブルには、グラッドの兄貴やリシェルやルシアンがにぎやかに喋り合っていて、自分の横には息子――リュームがいて、どこか気遣わしげに見つめてくる。
「……どうか、したのか?」
「……いや。別に……なんでも、ねぇよ」
 小さく笑ってから、ライは調理に戻った。……一瞬、どこか恋うように、窓からのぞく空の月を見上げてから。

 ローグは、小さく目を瞬かせた。波を割って進むゲント族の神の船の舳先に立って、いつものように進む先を見定めながら。
 それからふ、と注意して見ていなければわからないほどわずかに口元に笑みを佩き、ごくごく小さく呟く。
「……大したもんだ。俺にはとても、そんな度胸はないな」
「んー? ローグ、なんか言ったか?」
「やかましいわ貴様は貴様の仕事をしろ人のことをどうこう言う前にすることがあるだろうがこの脳筋モヒカン!」

 セデルはだだだっと全速力で走っていた。ルビアも後ろから走ってくるが、今回は自分の方が勢いがいい。
 勇んで両親の部屋に飛び込み、だだっと父、アディムに駆け寄る。そして、その勢いのまま飛びつくように抱きついた。
「あらまあ、セデルったら、どうしたの?」
「……どうしたんだい、セデル?」
 普段と変わらない父の声に、慌ててセデルは顔を上げる。そのいつもと変わらない優しい顔にセデルは焦って口を開いた。
「お父さんっ、あの、あのねっ……」
「うん」
「えと、あの、ボクっ……」
「うん」
 なんといえばいいのかわからずうううとしばし悩んだが、すぐに口からこぼれ出る言葉をそのまま投げつけ、笑んだ。
「お父さんのこと、すっごく好きだよって、いっぱい伝えたくなって!」
 そう言ってにかっ、と笑うと、アディムは優しく笑んで――目の端から、ぽろりと涙をこぼした。
「……どうしたの、あなた? 目が……」
「うん……そうだね。ごめんね……すごく、嬉しくて」
 そう言ってから涙を拭い、アディムはセデルに向かってもう一度微笑んだ。
「ありがとう。僕も、セデルのこと、大好きだよ。もちろん、他のみんなのこともね」
 その言葉に心から安心して、セデルはもう一度勢いよく抱きついた。
「うんっ! 僕も、お父さんのこと、だいだいだーい好きっ!」


『………はあああぁぁぁぁ…………』
「やー……やっと終わったねぇ……みんな、とりあえずお疲れー!」
「お疲れー!」
「お疲れさま、です……」
「お疲れさま」
「お疲れさまでーす!」
「お疲れー……」
「……なんでこんなに時間がかかったんだ。どーってことねぇ話だろ、これ」
「そーだねぇ。本来の予定からはもうお話にもならないほど遅れてるっていうのに、ここまでに書く! って決めた自分的デッドラインからも一週間近く遅れてるし……管理人さんにはもう一度自分のキャパと書く速度ってのを把握し直してもらいたいもんだねー」
「そのせいでweb拍手のレスなんかも滞ってたもんな……サービスのためのweb拍手小話でサイト運営に支障きたしちゃ本末転倒だろ」
「そうだねー……レスの遅れた方々には本当に本当に申し訳ありませんでした。こちらでもお詫びさせていただきます。次回からは管理人も更新内容見直すと言ってるんで勘弁してくださるとありがたいです……いや別に許さずに断固断罪してもそれはそれでいいですが」
「よくねーだろ。えーと……あとは、なんか裏話とかしとく?」
「そうだな。少なくとも、戦隊ものがなぜ当然のようにセカイ系と見えなくもない話になったのか説明を求めたい方もいるんじゃないか?」
「……あー、そーだなー……」
「えーと、その件につきましては、戦隊ものを文章で書く難しさと向き合った結果、小説的に安易に流れやすい方向には行くまいとしつつもどの方向に行けばいいのか判然とせず混迷の時間を過ごした結果、安易に流れてしまったともとれる結果に……」
「言い訳すんな、手っ取り早く言いやがれッ!」
「あーはいはいわかったってば、心配しなくても君の昨晩の寝言フルコースは画像付きで全世界に流してあげるから」
「はッ……? なッ、ばッ、てめェッふざけんな殺すぞこのッ」
「(さらりと無視)ええと、つまるところ、端的に申しますと。……その場のノリでやりましたーっ!」
『その場のノリでかっ!』
「そしてそのあとも全部その場のノリでしたっ! いや、基本的な構造とか配役なんかは最初から変わってないんですけど、世界とか高次生命体とかは全部その場のノリです。『なんというか本当に話が進まなかったのでなんとか進めようと必死になってやった結果ああなってしまいました、すいません』と管理人もディスプレイの向こうで頭を下げております」
「うわ……」
「全力で着地点を見失ってるな……」
「ま、まぁ、いいじゃん! 少しでも戦隊気分味わえたし! 俺はけっこう楽しかったぜ!」
「そりゃお前はな……」
「とにかくさ、めでたく無事終わったんだし! みんな、お疲れさまでした! これまでおつきあいくださった方もマジお疲れさまでした、ありがとうございますってことで! さんはいっ!」
『お疲れさまでした、そしてありがとうございましたー!』

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