兄も妹も知らぬが仏
「……結局あの遺跡、なんだったんだ?」
 あの砂漠から呼んだ救援で無事脱出し、逗留予定だった志須田家の別荘のひとつに(これがまた当然馬鹿広い)腰を落ち着けて、兄はため息をつきつつそう言った。
 兄にしてみればただの遺跡見学のつもりが、突然化け物に襲われたのだ。シスプリ関連でそういうことには何度も遭っているからさして驚きはしないものの、疑問は残る。
「……おそらくあれはあの遺跡を作り出した超古代文明の作った番人だろう。遺跡を守るよう命令されていたんだろうな。凄まじい技術と魔力だ、さすが超古代文明」
「……なんかやたらめったらうさんくさい話だな……」
 兄は千影の言葉に、眉間に皺を寄せつつ肩をすくめた。だが嘘は感じられなかったし(兄は気づいていないが兄の妹たちを疑う目はかなり節穴である)まぁもう済んでしまったことだしどうでもいいけど、などと思いつつ。
 そういう大雑把さのせいで妹たちが世界征服の組織を作っているのにそれをきれいに誤解しているということになったりするのだが。
 兄は茶を飲みつつ、鈴凛のパソコンを囲んで騒いでいる妹たちを見やった。飛行機が墜落してからまだ数時間も経っていないのに、妹たちは本当に元気だ。
 ま、そういうとこが可愛いんだけど――などと兄馬鹿なことを思いながら微笑む兄一――だが、妹ズの行動は一般的にはあんまり可愛いと呼べるものではなかった。
 鈴凛が改造に改造を重ねたスパコン並の性能を誇るノーパソで、エジプトをはじめとする軍、秘密組織、果ては個人所有のハイスペックコンピュータに至るまで方々のコンピュータをハッキングしまくっているのだ。もちろん、局地地震発生装置の在り処を追うため。
 ノーパソから小型のディスプレイを繋ぎ、鈴凛、四葉、鞠絵が協力してコンピュータを操作し、凄まじい勢いで集まってくる情報を可憐が解析する。このコンビネーションでシスプリはどんな厳重に隠された情報もハッキングしてきたのだ。
 他の妹たちはそれを見物しつつ、ときおり兄にかまってもらいつつ、優雅に午後のお茶を楽しんでいる。シスプリはその職能の高度さ、分野の専門的傾向から完全分業制になっており、やることがない人間はとことん暇にしていて全然構わないのだ。
 兄妹たちがお茶を楽しむこと三十分、可憐が歓声を上げた。
「見つけたわ! 北緯三十度六分、東経三十一度二十分に位置する基地に目的物発見!」
 その声に兄も含めた兄妹たちがわらわらと寄ってくる。
「見つけたの、みんな!?」
「思ったより早かったですのね」
「見つけたって、なにを見つけたんだ?」
『……………………』
 暢気な声を上げる兄に、妹たちは即座にアイコンタクトで合図を送りあい、兄に向き直った。
「大変なんです、兄上様!」
「なにがだよ」
「今調べていたら、某国に動きがあったデス! きっとさっき四葉たちのこと襲った奴らに違いないデス、チェキ!」
「なにっ!?」
「あのね、お兄ちゃま。そいつらが実験を行うみたいなの……カイロ郊外でマグニチュード8だか9だか、とにかくそのぐらいの大地震を局地的に起こす実験をしようとしてるらしいの」
「本当なのか!?」
「嘘言ってどーするワケ、アニキ? 局地的地震だし郊外だから被害は少ないだろうけど、それでもやっぱり確実に被害は出るだろねー」
「なんてことを……」
「だから……ね、亞里亜たち、その前にその局地地震発生装置を奪うことに決めたの……」
「……そうか。確かに、もう実験する方向で動いてるんだったらそれしかないかもしれないな……」
「うんっ! だからね、だからね、おにいたまもヒナたちのこと、手伝ってくれるよね?」
「………ああ」
『やったぁっ!』
 妹ズは歓声を上げて飛び上がった。実際成人男性としてそれはどうよと思われるほどの騙されやすさだが、妹ズは兄に不信感を持ったりはしない。あくまで『それだけわたくし(たち)のことを愛してくださっているのですね!』とか『お兄様ってば、騙されやすいのね……そういうとこ、カワイイv』とか脳内変換して兄を愛せる能力を備えているのだ。
 まぁ兄が騙されやすくて助かった、とこっそり胸を撫で下ろしたりしているのも確かなのだが。
 ――しかしそんな妹ズも、兄がこっそりと、しかし強い意志を持って考えていることには気づかなかった。

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