「……ふぁぁん……おにいたまぁ……」 「あぁん、兄君さま……わたくし……わたくしもう……」 「にいさまぁ……姫のこと、もっと可愛がってほしいですのぉ……」 「うふふ……お兄様……そんなとこ触ったら、あぁん、だめぇ……」 うふふふ、と寝ながら怪しい笑みを浮かべ伸ばした咲耶の手は空を切り、その拍子に体が傾き、咲耶はベッドから転げ落ちた。 「った……! 夢ぇ? んもうせっかくお兄様との結婚式から新婚旅行まで完全完備の夢を見てたのにぃ……」 もう一度寝よう、とベッドに入りかけ――思い出した。 「……ちょっと待って。私たち、お兄様と某国の基地を襲撃する予定を立てていたんじゃなかった?」 お茶をしながら話し合っていたのに、兄の淹れたお茶を飲んだとたん、全員急に眠くなってきて―― 「それでお兄様が『少し眠っていろよ、起きるまで待っててやるから』っておっしゃってくださったから眠っちゃったのよね……お兄様ってホントに優しいv ……じゃなくて!」 咲耶はばっと身を翻し、手元のベルを鳴らした。 「勝! 勝、今すぐ来なさいっ!」 どどどどっと音がして、十秒で勝が駆けつける。兄がここにいたら『呼び捨てか……』と顔をしかめたことだろうが、そんなことを気にしている余裕はどちらにもない。 「勝! これはどういうことなの、説明なさいっ!」 「は、はーっ! 申し訳ありません咲耶様っ、実は兄一様に、皆様に睡眠薬入りのお茶を飲ませろと言いつけられまして……! そうすれば皆様に危害が及ぶことはないと言われ、我々も耐え難きを耐え忍び難きを忍び、皆様にお薬を……!」 「なんですって!? それでお兄様は今どこに!?」 「そ、その、兄一様は……皆様が目覚める前に片をつけてくる、と敵基地に……」 「……なぁんですってぇっ!?」 どげし! と全力で勝の顔を蹴り、咲耶は叫んだ。勝はもろに食らって「ふおおお……!」と呻いているがそんなものお構いなしで蹴りを入れまくる。 「なに考えているのよこの無能! お兄様が危険な目に遭うのを看過してそれでよく私たちの執事がやってられるわね! いっぺん死になさいこのクズクズクズ!」 「ああっ、咲耶様、ど、どうかお許しをっ……あ、ああっ……いいっ……v」 悶えている勝を無視して、咲耶は叫んだ。 「みんな起きなさいっ! お兄様が大変よーっ!」 『……お兄ちゃん(以下略)がっ!?』 全員が一気に跳ね起きて叫んだ。ここのところの息の合い具合は、さすが半分とはいえ血が繋がってるだけのことはある。 「シスプリ号一番機、二番機、三番機の整備は終わったの!? 私たちが起きてからもう一時間も経ってるのよ!?」 「んっもうアニキの馬鹿っ、あたしの作った位置特定防止プログラム使ったなぁっ!? あれ気合入れて作ったから解除にすっごい時間かかんのにっ!」 「……これも誤情報!? もういい加減にして……早くお兄ちゃんを探さなくちゃいけないのに……!」 「全整備員は整備に、全諜報員及び全職員は情報を探しなさい! 一分一秒でも早く兄上様を探し出して! なにをグズグズしているんですかっ!」 シスター・プリンセス<Gジプト支部の司令室に陣取って、妹ズは必死に指示を飛ばしていた。一刻も早く兄を探し、追いつかねばならない。 だが兄は用意周到なことに自分のシスプリ号の位置の特定をできなくするプログラムを使い、整備員や職員たちにも休暇を与えると偽って外に出していた。そこから呼び戻してさらに途中で止められていた整備を再開させて情報を集めさせて、とやっていると想像以上に時間がかかってしまうのだ。 「もうっ、シスプリ号の整備まだ終わんないの!? シスプリ号さえちゃんと動けばあにぃが敵のとこにたどり着く前に全部終わらせてやるのにっ……!」 「あ、四葉ちゃん、どうだった!? お兄ちゃま見つかった!?」 「……駄目デス……兄チャマ光学迷彩を使ったのか、全然目撃証言がないデス……! まだ敵基地のところに動きはないらしいデスけど……」 「兄や……どうして、亞里亜たち置いて、一人で行っちゃったの……? くすん」 『…………』 全員思わずうつむく。全員本当にたまらないほど、兄のことが心配なのだ。一緒にいればどんな敵からも、兄のことを守ってあげられるのに―― 「お兄様、どうか無事でいて……!」 「無事にさせるのさ。私たちがね」 祈るように言った言葉に返された返事に、咲耶は思わず声のした方を見る。全員の視線が集まる先に立っていたのは――千影だった。 『千影ちゃん!』 「みんな――エルダー・ブラザー号≠ェ動かせるよ」 『えぇっ!?』 全員思わず声を上げた。エルダー・ブラザー号=A通称ブラザー号――それは鈴凛が作った世界最大級の飛行要塞だ。 試作品の反重力装置と超巨大ジェットエンジンを併用したその最大積載量は数十トン。移動速度はジャンボジェット並み。シスプリ号の整備や情報解析も可能なまさに空飛ぶ要塞。 だがその動作の不安定さゆえめったに日本の本部から動かされることはなかったのだが―― 「こんなこともあろうかとあらかじめ海路で運ばせておいたんだ。あれがあれば移動しながらシスプリ号の整備もできるだろう?」 「〜〜〜〜〜っ、千影ちゃんナイス! すごいさすがあったまいいっ!」 「え? でも確か私が日本で確認した時は確かにブラザー号は日本にあったのに……」 「それはともかく。準備はもうできているんだ。君たちも行くだろう?」 千影の問いに、妹たちはいっせいにうなずいた。 『もっちろんっ!』 |