前回の冒険での経験点は、
・西部諸国での冒険中は、国やそれに匹敵する場所ひとつにつき一回のミニシナリオをクリアするものとして、アーヴィンドとヴィオはミニシナリオ一回につき本来の経験点の半分、フェイクとルクはそのさらに四分の一(一の位切り上げ)か500点、どちらか高い方とします。
・ベルダインでの最大の障害がモンスターレベル12の強化型ストーンサーバント、ガルガライスでの最大の障害がモンスターレベル11の強化型シーサーペント。
・倒した敵の合計レベルは23。
 なので、
・アーヴィンド……5808
・ヴィオ……5818(回避判定に一ゾロ)
・フェイク……1498
・ルク……1508(回避判定に一ゾロ)
 となりました。
 成長は、
・アーヴィンド:プリースト7→8、セージ6→7。
・ヴィオ:ファイター6→7、レンジャー5→6。
 以上です。
候子は西国に目を輝かせる
 アーヴィンドは、ゆっくりと進む街に入る者たちの行列の途上から、岩の街ザーンの南側、ザーン初代女王ナイアフェスが自らをかたどって刻ませた、女性の形をした巨大なレリーフを眺め、思わず感嘆の息をついた。『自分の偉大さと美しさを後世まで残すため』などという理由で国家予算を浪費したことについてはとても正当化はできないが、後世にこうして眺める分にはちょっとした見ものである、ということに関してはどれほどの堅物であろうと異論はあるまい。
 なにより、この景色はかつて、自分のもっとも愛する冒険譚の英雄が、いまだ少年の頃、自分と同じように眺め、感動した景色なのだ。それを思うと、胸を震わせずにはいられないというのが正直なところだった。
 自分の隣に並んで歩いているヴィオとルクも、それぞれに目を瞠っているようだった。まぁ「でっかいなー」と口に出して感心しているヴィオはともかく、ルクは相変わらずの無表情を崩していないので、アーヴィンドがその無表情からなんとなく目を瞠っているような気配を勝手に感じ取っている、つまりは単なる思い込みのようなものではあるのだが。
 ガルガライスを船で出立してから数日、航路上で海蛇に襲われたために予定より遅くはなったものの、ザーン領内の漁港で船から降り、馬を走らせることしばし。自分たちは、岩の街ザーンへとたどり着き、その中へと入ろうとしているところだった。オパール鉱山の廃坑を利用して築き上げられたという、アレクラスト大陸でも珍しい『ドワーフの集落ではない』半地下都市。好奇心をそそられないわけがない。
 馬はザーンに入る列に並ぶ少し前に、無限のバッグの中に収容済みである。半地下の街の中で馬を連れ歩くのは不便だろうし、アーヴィンドは今回のザーン訪問で、普通なら人が来ないような場所も全力で歩き回りたいと心に決めていたので、馬の身の処し方に頭を悩ませるような事態に陥ることのないようにしたかったのだ。
 なにせここザーンは、英雄≠フ少年時代のお膝元! 見たい場所訪れたい場所には事欠かない。できることなら、英雄≠ニその恋人が逢引きに使っていたという岩壁の上も訪れたい気持ち満々なのだ。アーヴィンドのその宣言にフェイクは奇妙な顔をしたが、そんな程度でアーヴィンドの燃え上がる気持ちに水は注せない。
 そんな風に燃え上がるアーヴィンドを見るのが嫌だとかで、ラーヤも無限のバッグの中に逃げているが、アーヴィンドにとってはそれはむしろ好都合。気の合う仲間と思う存分名所巡りをする気満々だ。ザーンという街自体の在りようも非常に好奇心をそそられる、街中で退屈することはないだろう。面倒な実家の授業も昨日終え、あと六日は思う存分旅が楽しめる。そう思うと気分が浮き立たずにはいられない。
 ただ、そんなうきうきとした気持ちにわずかに水を差すのは、自分たちの身にかけられた呪いだった。自分とヴィオにかけられたアブガヒードの呪いだけでなく、『若き冒険者のリュート』の呪いも今は仲間たち全員にかけられている。ベルダイン、ガルガライスからザーンに至るまでの航路途上と、常軌を逸した魔物とすでに二度も戦うことになっているのだ、ここザーンでも同様に尋常でない魔物と戦うことになる可能性はそれなりにあった。
 だが、アーヴィンドにしてみれば、呪いがかけられているのはもはや常態でもある。気を抜くことも、油断することもしはしないが、気にしすぎて身動きが取れなくなるのもよろしくない。なにより、自分たちが大陸を巡って様々な事物を見聞し、経験することは、呪いを解くための必要条件でもあるのだ。国外の事物を思う存分堪能できるという、この二度とないだろう機会を、楽しまないというのも馬鹿馬鹿しい。
 なのでアーヴィンドは、街に出入りする者の審査をしている衛兵の質問を通過し、胸を高鳴らせながらザーンの街中へと歩を進め――思わず、感嘆の吐息を漏らした。
「うわぁ………」
「ふわー……すっげーなー……」
「地下に存在する集落や住居は、遺跡も含めればこの世に山ほどあるが。こうも活発に人が行き来する巨大地下都市は、このザーンくらいだろうな。どうだ、感想は?」
「なんていうかもう、すごいとしか言いようがないよ……!」
 周囲を見回して、アーヴィンドはもう一度感嘆の吐息を漏らす。中央市場――ザーンの中でも最も巨大な空洞のひとつであるはずのここは、まさにアーヴィンドの期待通り、いや期待以上の代物だったのだ。
 何十人、何百人もの人が行き交う市場が収まっている、巨大な釣り鐘状の空洞は、その大きさのみをとってみても、アーヴィンドがこれまで見てきた人の手で造った構造物の中では最大級だろう。もちろん市場として使うための場所なのでひたすらに空間を大きく取っているのだろうことはわかるが、アーヴィンドの歩幅でも百歩以上の高さと幅を持つ空洞というのはその時点で充分尋常ではない。
 要所要所に点された魔法の光源、そして外部の光を取り入れる穴。そのおかげで室内だというのに暗さをまるで感じない。壁に掘られた空洞内を三周している傾斜路と、階段に梯子。いくつもいくつも掘られた横穴。まさに想像していた通り。物語を、冒険譚を読みながら心に思い描いた光景そのままだ。それが現実として目の前に存在しているという事実に、打ち震えずにはいられない。
 しばらく市場をそぞろ歩き、『半地下都市の巨大空間とそこに行き交う人々』という風景を堪能したのち、今日の宿を取るべく冒険者の店を探す。当然、探すのは英雄≠ェ少年時代そこで働いていたという〈月の坂道〉だ。フェイクはその店を訪れた、というか何度か使ったことがあるという話だったので、案内はフェイクに頼ることにした。
 店にたどり着くまでに目に入ってきた光景も、アーヴィンドの心を浮き立たせるものばかりだった。複雑に絡み合いながら広がる地下通路、それに当然のように付随する種々雑多な店や家屋の数々。この街で建築物を造るのは、大工ではなく岩を掘る職人だということはわかっていたが、見ると聞くとではやはり情報量が圧倒的に違う。
 街の中に広がる水路や下水網も、アーヴィンドには興味深かった。オランにも水道や下水道はあるが、この岩の街の中のそれはこの上なく立体的だ。フェイクに頼んで、遅発の杖を使って透視≠フ呪文で周囲を見渡した時に目に入る、おそろしく複雑で、かつ少しでも効率をよくするべく考え抜かれたことがわかる配置に、アーヴィンドは感心しきりだった。
 そんなこんなを通り過ぎて、冒険譚に描かれていたように、街の第二階層から第四階層を上りきった先、月のよく見えそうな大きな窓の前にある、〈月の坂道〉へとたどり着く。アーヴィンドはそれこそ内心では、一歩店に足を踏み入れた瞬間から、『ここがあの〈月の坂道〉……!』と感心感嘆感動しきりだったのだが、表面上はあくまで行儀よく冷静に、フェイクのあとをついて歩いた。
 冒険譚の愛読者としては当然の心得だが、楽しんで読んだ冒険譚に出てきた場所や人に実際に出くわした時には、絶対にはしゃぐ気持ちを前面に出してはいけない。たとえ内心どれだけはしゃぎ、うろたえ、感動していたとしてもだ。冒険譚を読む人間は山ほどいるのだから、その山ほどいる人間の一人一人にはしゃぎまくられたら相手は迷惑に感じるだろう。冒険譚に書かれたことを迷惑に思う人もいるかもしれない。冒険譚を愛する気持ちがあるならば、冒険譚の登場人物や登場する場所の関係者にそんな思いをさせるなど、言語道断だと感じるはずだ。
 当然ながら、英雄≠ェこの店で働いていたのは今から約八十年前、店の様相は当然ながら当時とはかなり変わっているだろう。だがどの街でも、たいていの冒険者の店に共通する、冒険の気配≠ニでも呼ぶべき雰囲気はこの店もしっかり持っていた。百年以上も続く老舗の冒険者の店が、その本分を正しく受け継いでいるというだけでも感動的なのに、かつて英雄≠ェ生活したこの場所が変わらずここにある、その事実にアーヴィンドは正直涙が出そうになってしまった。
 フェイクはまっすぐに店のカウンターに向かい、そこでジョッキを磨いていたまだ年若い男に声をかける。
「あんたがこの店の主人、ってことでいいのか?」
「ああ! 去年この店を正式に受け継いだばかりだが、この仕事はそれなりに長くやってるからな! 他の店に見劣りはしないと思うぜ!」
 威勢よく笑顔で答える店主に、フェイクはちょっと苦笑しながらも、ガメル銀貨を何枚かカウンターに置く。
「とりあえず、今日、この四人で部屋がほしいんだが。それとできれば明日以降、ドレックノールの方に向かう仕事があれば仲介してくれるとありがたい」
「へぇ! あんたらよそ者だろう? 今日この街に来たばっかりなのに、明日にはもうここを出て行くっていうのかい?」
「あんまりのんびりもしていられない事情があってな。まぁまるで見ていかないってのももったいないから、今日一日はこいつらにつきあって街を案内してやるつもりだが」
 そう言って自分たちを指し示すフェイクに、店主はちょっと声を潜めて問うてきた。
「あんたは以前にもザーンに来たことがあるんだな? この子たちとは……仲間、ってことでいいのか?」
「ま、いろいろと事情があってな……こいつらと俺の実力に釣り合いが取れてないってのは確かだが、もうそこまで極端に差があるわけでもないし。年を食ってる分、面倒を看る機会も多いが、若い勢いが話を解決に導いたってことも多いんでな。少なくとも俺にとっちゃ、客でも保護対象でも足手まといでもないってのは確かだぜ」
「へえ、そりゃけっこうなこった……悪いが今空いてる部屋が一部屋だけでね。六号室にベッドを持ち込んで、二人は同じベッドに寝てもらうことになるが、それでもいいかい?」
「かまわん」
「よし、それじゃあ鍵はこれだ。依頼については最低でも明日まで待ってくれ、他の冒険者との兼ね合いもあるんでね」
「ああ、それでいい」
 軽く手を挙げて階段へ向かうフェイクのあとについて歩き、部屋に入るや(その間もああこの階段はあの場面の……! などとこっそり感動してもいたのだが)、アーヴィンドはフェイクに目配せして、盗み聞きしている者がいないということを確かめたあとで、小声で問いかけた。
「フェイク……どういうこと? ガルガライスからの短い航海の間でも、あんなことがあったというのに、なぜわざわざ仕事を。今僕たちは、アブガヒードの呪いと、『若き冒険者のリュート』の呪い、困難と魔物を招き寄せる呪い二つを重ねてかけられているんだよ? 他の人を巻き込んでしまう可能性を考えれば……」
「確かにそうだが、冒険者の宿に冒険者が泊まるんだ、もう仕事を請けてるってわけでもねぇのにまるで仕事を探す様子がねぇのも不自然だろ。それに、確かめておきたい気持ちもあったしな」
「……というと?」
「呪いの強度について、だ。お前らは元から隊商の護衛の類の仕事は請けてこなかったからわからねぇだろうが、俺の経験からいえば、隊商やらなにやらの護衛ってのは、出くわす敵に呪いの影響が一番出てきにくい仕事なんだよ。基本的に出くわす敵ってのは、一が山野の動物、二が山賊、三、四がなくて五に奇妙な植物の類。あとは大穴で幻獣か死せる者≠チてところだが、動物やら山賊やらってのは、どれほど因果がねじ曲がろうと、人の通る道でそうそう異常な強さを持つ奴が出てくるこたぁ、普通に考えてねぇだろう?」
「それは……」
 確かにその通りだ。山賊の類で、今の自分たちが手こずるほどの強さを持つ連中が現れるなどということは普通に考えてありえないし、動物でそれほどの強さを持つものといえば、冒険者が一生を冒険に費やしても出くわすことはまずありえないといわれるロックがせいぜい。植物も動物と似たようなものだ。幻獣や死せる者≠ニなるとまた話が別だが、そもそも街道を幻獣や死せる者≠ェうろつくことがまずありえないのだ。まったくないとは言えないので安全とは言えないが、『強い敵が出てきにくい』という点においては、フェイクの言う通り隊商の護衛はあらゆる冒険の中で随一かもしれない。
「もちろんそれでも強敵が出てくる危険性はある。ガルガライスからの船で、実際に出くわしたしな、そういう異常な強さを持つ敵と。だが、俺が昔アブガヒードの呪いを受けていた時には、隊商の護衛で強敵が出たってこたぁまずなかった。だから、今回試してみたいと思ったのさ。ザーンとドレックノールの間の街道は、道としての難所はそこそこあるが、強い魔物が出てくる可能性のある場所はほとんどない。深い森や沼地っていっても、大軍ならともかく馬車の一台や二台じゃ通るのにさして苦労もない程度だ。呪いの強度を確かめるにはもってこいだと思った」
「……でも、僕たちの呪いに他人を巻き込む可能性を考えると……」
「それなら依頼人に決めさせればいい。自分たちで言うのもなんだが、俺たちほどの強さを持つ冒険者が、隊商の護衛なんて仕事を請けることはまずないだろ。それが普通の冒険者と変わらない値段で雇えるっていうんなら、危険があっても仕事を頼む依頼人もいるだろ」
「フェイクはそうかもしれないけれど、僕たちはそこまでの強さを持っているわけじゃ……」
「いやいや、お前自分の強さは正確に把握しろよ。お前、全快≠竍従僕召喚≠フ呪文も使えるようになったっつってただろうが。そんな高位の司祭が、隊商の護衛なんて仕事請けるか? 常識的に考えて」
「そ、れは、そういう風に言われると、そうかもしれないけれど……」
 正直自分たちがそんなとんでもない実力を身に着けたなんてまるで思えない。毎回毎回冒険のたびに、出くわす敵や障害に四苦八苦してばかりだ。冒険者を始めてばかりの頃よりは少しはマシになった自覚はあるが、それはどちらかといえば心構えのようなもので、実力的には駆け出しとさして変わらないような気がしてしまう。
 もちろん、理性的な数字として自分たちの能力を見てみると、相当の腕利きといっていいほどの能力であることは理解しているのだが。しょせんはアブガヒードの呪いで促成栽培的に身に着けた力だ、地道に一歩一歩力を我が身に沁みさせて身に着けていく人々と比べれば、大したことのない力でしかないように思えてしまうのだ。
 そんな意見を口にすると、フェイクはふふんと笑ってみせた。
「冒険者を何十年も続けてもさして成長できねぇような、冒険者としての才能の持ち合わせがねぇ奴が、お前の言葉を聞いたらどう思うかね」
「っ……」
「呪いだろうがなんだろうが、お前は強い敵を倒して力を手に入れたんだ。活用しねぇ方がおかしいってもんだろう。で、自分の力を活用する時は、その力の程度、世間一般からどう見られるか、そういうこともきっちり理解しておかねぇと、いろんな意味でよろしくない。違うか?」
「それは……確かに、そうだけど……」
 返す言葉がなくなり、うつむいてしまう。確かに、冒険者を始めてからまだ三月かそこらしか経っていないのに、ここまでの能力を身に着けるというのは、通常ならば考えられないことなのだ。それを自覚し、自身の力のほどを理解するのは間違いなく大事なことだとは思う。
 だが、それを考えるとアーヴィンドとしては、どうしても自分がズルを――アブガヒードの呪いという反則を使って成長したことを思い起こさずにはいられないし、技術の成長と比しての自分の人間として、冒険者としての未熟さも考えずにはいられない。いろんな意味で、打ち沈まずにはいられなくなってしまうのだった。
 と、うつむいたアーヴィンドの顔の下に、ひょいとヴィオが顔を突き出し、視線を合わせてきた。仰天して思わず「わっ!」と叫びながらわたわたと身体をばたつかせてしまうが、ヴィオはそれを軽く支えて、あっけらかんとした笑顔を浮かべてみせる。
「なんかいろいろ話してるけどさー、とりあえず街に出ない? アーヴ、街のいろんなとこ見たいって言ってたじゃん」
「………! ああ、そうだね! ザーンまで来たっていうのに、部屋の中でぼうっとしてるなんていう手はない!」
 自然と浮かんだ満面の笑顔をヴィオに返し、アーヴィンドはフェイクに向き直った。
「とりあえず、その件については観光のあとで改めて話し合うということでいいかな? 基本的にはフェイクの言葉に反論するつもりはないけれど、改めて意見を交わしあえば、なにか新しい発想が生まれてくるかもしれないしね」
「……へいよ。じゃあ、俺は今日も街を案内する観光の先導役をやればいいのか?」
「お願いできる?」
「へいへい、せいぜい務めさせていただきますよ。その代わり、今日の晩飯はお前らのおごりだからな」
「………! うん、もちろん、喜んで! さ、ヴィオ、ルク、一緒に行こう!」
「うん」
「…………」
 ルクの反応は、いつも通りに無表情のままこちらを見返すという程度のものでしかなかったのだが、それでもアーヴィンドは笑顔を崩さずに、二人の腕を引っ張って、フェイクのあとについて、ザーンの街へ改めて出かけたのだった。

「すごいね………! こんな大きなサウナ風呂を使うのは、生まれて初めてだよ!」
「そりゃまぁ、オラン辺りの普通の湯屋じゃ、サウナ風呂なんて薪も水もやたらと食うもんを使ったりしねぇからな。いくら王侯貴族さまでも、ここまででかいサウナ風呂を造るこたぁないだろうし。なにせ曲がりなりにも五千人を越える人口がここで汗を流すんだ、桁外れに大きくなるのも、まぁ当然ってもんだろうさ」
「ふわー……」
 満面の笑顔でフェイクに話しかけるアーヴィンドの横で、ヴィオも感心したようにそこかしこを見回している。ルクはいつも通りの無表情だが、このザーン名物巨大サウナ風呂を、嫌がっているような様子は見受けられなかった。
 今日一日、ザーンのそこかしこを(英雄≠ニその恋人が逢引きに使った場所かどうかはわからないながらも、岩壁の外部階段の踊り場まで(許可を得て、魔術で安全を確保した上で))観光して回り、最後に訪れたこのサウナ風呂は、観光の一環としてアーヴィンドの気持ちを浮き立たせてくれると同時に、身体にじんわりと広がる疲労感をすっきりさっぱりさせてくれた。アーヴィンドはあまりサウナ風呂というものは使ったことがなかったのだが、水浴びとも身体をお湯で流す風呂とも違う、この暑さと水の冷たさの連携は、今までのどの風呂とも違う心地よさを心身に与えてくれるのだ。
 それに、このサウナ風呂は英雄≠フ冒険譚の一節に出てくるものでもあるのだ。ああここはかつて英雄≠ェ頭を洗った水桶、英雄≠ニその仲間が座って話した石の腰掛け、などと考えていると、正直感涙にむせんでしまう。
 ヴィオと一緒に(もちろん入念に時間を調べ、女性の身体に変わるまでにはまだまだ時間があることを確認している。アーヴィンドの呪いが被害者を出さないためにも風呂が込み合う時間までには充分に余裕を取っており、風呂の中にはまだほとんど人がいなかった)サウナ風呂の暑さを味わいながら身体を洗い、放っておくと風呂に入れても身体も髪もまるで洗おうとしないルクを二人で一緒に丸洗いにする。フェイクの背中を流させてもらい、フェイクにも今日は特別だと背中を流してもらう。そのなにもかもが心楽しく心地よく、アーヴィンドとしてはこんなに楽しくていいのだろうかと思うほどだった。
 と、そんな風にザーンのサウナ風呂を満喫している中で、フェイクがふいにすっくと立ち上がった。ルクも立ち上がり、じっとフェイクの向かう先に視線を向けている。一瞬ぽかんとしてからすぐにはっとして、ヴィオと一緒に立ち上がり、できるだけさりげなくルクと同様、フェイクの向かう先に視線を向けた。
 そこにいたのは一人の若者だった。目を血走らせながら、明らかに尋常ではない眼差しで周囲を探り、すぐになにかを見つけたように瞳を輝かせるや、視線の先にいた老爺に向かい足早に突貫する。一応盗賊としての訓練を積んでいるようで、足音はしなかったし身のこなしも相応に鋭くはあったが、腰に巻いたタオルの下にずっと手をやっている点といい、そのタオルの下からかすかに金属音が聞こえる点といい、どう見てもごく当たり前の客ではない――というより、この風呂の中でその老爺を暗殺しようとしている見習い盗賊にしか見えなかった。
 そんな相手にフェイクは背後から足音を隠して忍び寄り、ぽんと肩を叩く。その盗賊が飛び上がらんばかりに驚いて振り向いた瞬間、フェイクは素早く手を動かして、腰に巻いていたタオルを外してしまう。その下には、予想した通り、短剣――スティレットと呼ばれる類の抜き身の刃が、刀身にたっぷりと粘液――おそらくは毒を塗りつけた状態で隠してあった。
 思わずといったように固まる盗賊に、フェイクは小さく笑って告げる。
「お前さんにも事情はあるんだろうが、俺としては目の前で誰かが暗殺されるのを黙って見過ごすわけにもいかなくてね。そんな格好で毒のついた針を抜き身で持ち歩く、なんぞという度胸のある真似をしてもらったってのに悪いが……ちっと、話をさせてもらえるか?」
「……っぁぁああっ!」
 叫びながら盗賊は、短剣を自身に向け、腹部を刺し貫く。とたん、盗賊の身体はびくんと震えた。
 体全体の色が変わり、皮膚の質感が変わり、骨格から筋肉の形状から、盗賊のなにもかもが見る間に異形へと変わっていく。その姿は例えるならば、人間の頭部を持ち、腕の代わりに触手が生えた巨大な蛸。何本も触手を垂らしながら、それでも足腰の形状は(象のような皮膚とオーガーのような異常に発達した筋肉に目をつぶれば)人間の形をしているというのが、また生理的な嫌悪感をそそる。その有様に、アーヴィンドは思わず息を呑んだ。
 この症状は、おそらく『生き人形』と呼ばれる毒。女性を生きたまま人形に変えるが、男は異形の怪物に変えてしまうという、異常な働きをする魔法の毒だ。だが、自分の知っている『生き人形』とは、男が変生した怪物の生態というか、能力が違う。アーヴィンドの知識の範囲内では、本来の『生き人形』で変生した怪物は、いかに怪力であろうとも二本の腕と二本の脚しか持ち合わせがなかったはずなのに、目の前にいる怪物は、いくつもの触手を備え、そしておそらくそれをすべて自分の腕であるかのように扱うことができる(筋肉のつき方から、それが実用的な器官かそうでないかくらいはわかるのだ)。
 つまりそれだけ一度に攻撃できる対象が多くなるわけでもあるし、それに筋肉の形状等から推測するこの怪物の身体能力の性能は、アーヴィンドの知識の中の『生き人形』の毒による怪物の倍近い。明らかに尋常ではない――そこまで見て取るや、アーヴィンドは叫んだ。
「ヴィオ! 全員に戦乙女の守護≠! フェイク、ルク、僕が機を見計らって近づいて魔法で解毒をするから、それまでこの怪物の注意を引いて足止めを!」
「わかったっ!」
「倒さなくていいんだな?」
「僕が解毒できなかった時に改めて考える!」
 叫んでサウナの中を走るアーヴィンドの後ろで、老爺をはじめ何人かの男たちが悲鳴を上げて逃げまどっているのはわかったが、それを意識することはほとんどなかった。尋常ではない効能を持った薬物ならば、それだけ毒性も強いはず。解毒の呪文を一度試して抜けなかった毒に対しては、同じ司祭は能力が向上するまで二度と解毒を試みることができない。一度で完全に怪物の毒を抜くために、アーヴィンドは全力で精神を集中させざるをえなかったのだ。
 ルクが真っ先に怪物の懐に飛び込んで両腕で殴りかかる。もちろん単なる牽制ではあるのだろうが、その拳は鋭く怪物の懐に食い込み、その体をわずかに揺らしてみせた。フェイクもその後に続き、ルクと巧みに連携を取りながら、動きを封じて移動ができないよう取り囲む。
「戦乙女よ、戦いに臨む者に勇気の加護を! その力折り重ね、鎧なき肌護る壁となり、盾となりて、勇気ある者の命の護りとなせ!=v
 ヴィオの精霊魔法による光の鎧が全員の体を覆う。この呪文はどんな攻撃であろうとも、一定の領域まではすべて吸収してしまう防壁をまとわせるという代物で、老竜の息吹ですらまず二度までは防げるという恐るべき効果を有している。その代わり、鎧や肉体の上を防壁が覆う関係上、どれだけ鍛えられた肉体を有していようが、頑丈な鎧を身に着けていようが、その防壁が負う損害を軽減することはできないというのが難点なのだが、今のように鎧を身に着けていない状態では、これほど有用な防護手段は他にあるまい。
 事実、怪物が生やした触手をいっせいに振り回し、自分を取り囲んでいるフェイクとルクに次々打ちかかってきても、むろん二人は着実な足取りで何本もの触手をかわしてのけたが、避け損ねたものがいくつか鎧も身に着けていない素肌を直撃したというのに、二人の身体には傷ひとつない。何本かの触手は異様なほどに伸びて、怪物から離れた場所にいたアーヴィンドとヴィオにも襲いかかってきたが、避け損ねて強烈な一撃をまともに喰らってしまったというのに、アーヴィンドには衝撃すらもまるで感じられなかった。
 これならいける、と確信して怪物と殴り合いをしているフェイクとルクのところへ駆け込んで、全身全霊を振り絞る勢いで一気に精神を極度に集中させる。これが通らなければ、この怪物は殺すしかなくなるのだ。たとえ自分たちならばそれができなくはなかろうとも、失わずにすんだはずの命を見捨てざるをえないという経験など、一度でも経験したいとはまるで思わない。
 殴りかかったルクの攻撃を表皮で弾き、フェイクが指にはめていた指輪を魔法の発動体として使ったのだろう、魔法の縄≠フ呪文も弾き返して、怪物はますます勢いを増して暴れかかる――そこに、アーヴィンドは静かに手を伸ばし、怪物の身体に触れた。
「我が神ファリスよ。その栄光とご慈悲をここに。穢れに支配されし哀れなる御身のいとし子へ、慈愛を与えたまえ。その歪みより、苦悶より、悪意より、御身の子を解放する御力を、ここに来たらせたまえ―――=v
 アーヴィンドの解毒≠ェ効果を発揮したのはほんの一瞬。だが、その一瞬の間に怪物はごく当たり前の人間の男性へと戻っていた。先ほどの怪物への変身の経過を逆回しにしているように、みるみるうちに肌の色が変わり、皮膚の質感が変わり、触手が引っ込み、骨格と筋肉が尋常な人間のそれへと変化していく。
 それほどの変化を一瞬で果たしたことは、やはり心身に衝撃として感じられたのか、呆然とした顔で膝をつく盗賊男性を、自分たちはいっせいに取り囲んで動きを封じる。フェイクはしっかりと盗賊男性の取り落としたスティレットを確保して、後で調べるつもりなのか呪文を唱えてどこやらに転移させていたが、自分たち三人だけでも、この盗賊がなにか動きを起こす前に気絶させるのは、たぶんそう難しいことではない。
「……さて、まずは話を聞かせていただけませんか。フェイク、嘘感知≠」
「あいよ」
 フェイクが呪文を唱えるのを横目に見ながら、アーヴィンドは目の前の盗賊男性に、半ば言い聞かせるように問いかける。
「私の仲間の使った呪文は、相手がどんな嘘をつこうとも明らかにしてしまう効果があります。なぜ暗殺などという真似をしでかそうとしたのか、それをどうか話してみてください。あなたが使おうとした毒の入手経路も。少なくとも、尋常なやり方で手に入れたものではないのでしょう?」
「…………」
「あなたが正直に、誠実に話してくださるならば、悪いようにはいたしません。幸いあなたはまだ取り返しのつかない罪を犯したわけでもない。あなたになにかご事情があるならば、できる限りご配慮もしましょう。……どうか、私たちに告白してはいただけませんか」
「………っ」
 盗賊男性の瞳に、みるみるうちに水滴が盛り上がる。仰天してアーヴィンドが目を見開く間も有らばこそ、盗賊男性は身も世もないという勢いで泣きじゃくり始めた。

 泣けるだけ泣いて、心を落ち着けたあとに、盗賊である青年はぽつぽつと事情を話してくれた。
 青年が暗殺をしでかそうとした原因は、相手の老爺に、家族を破滅させられたから、だったらしい。商家だった青年の家は、老爺に汚い手段で(ただし、一応は法にのっとったやり方で)金をだまし取られ、商会を潰されて、一家離散する羽目になってしまったのだそうだ。
 そのことにずっと強烈な恨みを抱いていた青年は、自然と裏街道へ足を踏み入れることになり、盗賊ギルドに入会して盗賊となりながら、老爺に復讐する手段をずっと探していたのだそうだ。そして、一週間前、流れの盗賊に毒を渡されたのだという。これを塗った武器で少しでも体に傷をつければ、相手は瞬時に怪物と化し、苦しみぬいた末に死ぬことになるだろう、と。
「『もし万一仕損じた時でも、その毒を自分に使えば、短い間だけだが恐るべき怪物と化して、人外の力を振るうことができる。憎い相手を殺すくらいは造作もないはずだ。自分の人生を投げ捨ててでも相手を呪い苦しめたい、そんな覚悟と狂気を有する君には、この上ない毒だろう』って、言ったんです……」
「狂気!? 間違いなく、そう言ったんですか!?」
「え? は、はい」
 アーヴィンドは思わずフェイクの方を振り向いた。フェイクは眉間に皺を寄せ、ひどく険しい顔をしながら、腕を組んだまま無言を返す。少なくとも彼の発言が嘘でないことは確かなのだろう、と改めて青年に向き直り、質問を続ける。
「それで? 毒を渡されて、すぐにこの場所で仕掛ける、と決めたんですか?」
「や、あの……毒を渡されても、どこであいつを襲えばいいのか俺が決めかねてると、その人があいつの毎日の暮らしぶりとか、一日をどういう予定で過ごしてるかとかを調べ上げてきて、今日ここで、タオルの下に毒を塗ったスティレットを隠して襲えばいい、って教えてくれて……」
「……その人は、今どこに?」
「し、知りません……計画を立ててくれたあとは、『私は君の狂気に力を貸したまでだ』『狂気を堪能するのは私の仕事ではない』って言って、ザーンから出て行っちゃったんで……」
「…………」
 フェイクと厳しい顔を見合わせたのち、アーヴィンドは青年に訊ねた。
「あなたは、これからどうなさるおつもりですか。どうしたいという希望はありますか?」
「えっ……だって、俺、牢獄行きなんじゃないんですか?」
「むろん、あなたが暗殺を行おうとしたこと、それは決して許されることではありません。罪がある、ないで申し上げれば間違いなくあなたには罪があるのでしょう。けれど、あなたは幸い誰かを傷つけたわけではない。あなたはまだご自身を損なっただけにすぎない。ならば、いくらでも取り返しようがあるはずです」
「……いいのか? それで。ファリスの司祭として」
「ファ……!?」
「ファリス神殿の唱える法からは外れているかもしれません。ですが、過ちを犯す人の子が、神のご意思を不完全な形で受け取りながら定めた法です。残念ながら、いかなる時でも十全の働きをするとは申せません。ですから、私はあなたに問うのです。あなたの望みはなんですか? 私になにか、できることはありませんか? と」
「し、司祭さま……!」
 感涙の面持ちでこちらを見上げてくる青年に、あくまで厳かな面持ちで応えながら、アーヴィンドは内心自分の面の皮の厚さに苦笑していた。この青年に告げた言葉も間違いのない本音ではあるのだが、アーヴィンドの内には別の思考も存在したからだ。ちらりと視線を交わした限りでは、フェイクも同じことを考えているのだろう。年長者としてか、自分に対する気遣いも忘れていないのはありがたくもあるが、自分にそんなに気を使う必要はないのに、とも思ってしまう。
 この青年を復讐に導いたであろう、アブガヒード――あるいはそれに連なる者。おそらくは『本人でない』相手。それを手繰るための、ひいてはアブガヒードの力のほどの手がかりの一端になってはくれないかという、か細い希望でしかない程度の期待。それを誰より切実に感じているのは、おそらくフェイクなのだろうから。

「もちろん、そう簡単にいくと考えたわけじゃない。あくまでほんの少しの期待でしかなかったんだけどね。それでもアブガヒードという魔獣がどれほどの力を有しているのか、彼の今後の行動、彼の根城などについての正確な情報が手に入れられるかもしれない、なんて事態はこれまでまるで巡ってこなかったんだ。それなら、実際に彼はほとんど罪を犯してはいないわけだし、彼を権力によって罰しようという動きから護る代価として、できる限り情報を仕入れるというのは真っ当な取引じゃないか、と考えて……」
「うーん、そこらへん、よくわかんないんだよなー。最初に説明された時は、なんかよくわかんないなりに流しちゃったけどさ。なんか、アーヴたち忙しそーだったから」
 ドレックノールに向かう道も終わりに近づいた頃、ヴィオがふいに訊ねてきた、『そーいえば、ザーンでなんかアーヴとフェイクいろいろ言ってたけど、あれってどーいう話だったの?』という質問。正直わかっていなかったのかと脱力する気持ちもあったが、たとえ数日遅れであっても、物事を理解しようと考えることは、考えないことよりずっと尊い。そんな考えのもと改めて始めた説明だったが、ヴィオの反応ははかばかしくなかった。
「ええと……なにがわからないのかな?」
「んっと……アーヴたちってさ、結局、なにがしたかったの? そんで、なにやってたの? ってことなんだけど」
「……ええと、ね。実際にやったことは、自分たちに関わる問題だから自分たちが処理する、とサウナ風呂にいた人たちの追及をごまかして、オランまで転移≠ナあの盗賊の青年を逃がした、ってことになるんだろうな。フェイクが盗賊ギルドの人たちに、俺と縁のある相手だからできるだけ面倒を見てやってくれ、と根回しをした上でね。当たり前だけど、フェイクは盗賊ギルドの中で、あまり表立った立場に出ることはないけど、すごく影響力を持っている存在だから」
「そりゃそーだよ、たぶんフェイクって世界最高の盗賊だろーし。……で、なんでそんなことしたのかっていうのが、アブガヒードの手がかりになるかも、って考えたからなんだよな?」
「うん。もちろん、そう簡単にうまくいくとは思ってなかったけど、なにもしないよりはマシだと思ったからね。アブガヒードの正確な能力はフェイクでさえもまるでつかめていないし……なにより、今僕たちは『若き冒険者のリュート』の呪いにかけられているんだ。『魔法を使う流れの盗賊』が、狂気じみた妄執を抱いた人間に力を貸した結果としてね」
「………へ? それ、って………」
 首を傾げ、珍しく考えた顔になるヴィオに、ここは自分で結論を出してもらおうと一度アーヴィンドは口を閉じる。ヴィオはいつも直観と感覚で正解に一直線に到達できる人間ではあるが、論理的な推論を試みるという経験は、積んでおいた方がいいに決まって――
「ばっかじゃないのかしら! ほんっと、蛮族って論理的思考ってものに縁がないのね! マスターはアブガヒードが、配下なり自分の分身なりに、自分とは別のやり方で、目的――『世界を狂気で満たす』っていう頭のおかしい作戦を実行させてるんじゃないかって言ってるのよ! ねぇ〜、マスター?」
 得意満面な顔つきで、こちらに媚びたような視線を向けてくるラーヤに、アーヴィンドは零下の視線を返した。びくっと怯えてから、なんでそんな顔するのだのなんだのぎゃあぎゃあ騒ぎ始めたが、そんないつものことはどうでもいい。ヴィオに論理的思考を育てるという意識が生まれるかもしれなかった瞬間に、得意満面で邪魔をしてくるこの使い魔に、ファリスの神官としてあるまじき暴行を加えてしまいそうなのを懸命に抑えている時に、視線に気を配る余裕なぞあるわけがないのだ。
 が、ヴィオはラーヤのそんな醜行がまるできにならなかったようで、ぽんと手を叩いて嬉しげに笑う。
「そっかぁ! ベルダインでおんがくかのおじさんに『若き冒険者のリュート』を送りつけたり、すっげー強い石の従者を置き土産にしてった人が、実はアブガヒードの……えっと、はいか? とか、ぶんしん? なんじゃないかってことなんだ!」
「……そう。そういうことなんだよ。ガルガライスからザーンにやってくる途中の船旅で出くわした、異常なまでに強い特殊な能力を持つ海蛇も、同じ存在により生まれたものなんじゃないかと僕たちは考えたけれどね」
「え、なんで?」
「まぁったく、その程度のこともわからないの!? そんなの決まってるじゃない、その海蛇が持ってたっていう――」
「海蛇の有していた特殊能力――行動を封じる呪文の無効化能力≠ネんて代物は、普通に考えてそうそう身に着けられるものじゃないからだよ。カストゥールの魔法技術によって生み出された、海蛇によく似た魔獣だったと考えるのが一番ありえる話だけど……あの海蛇を見た時、僕たちは――僕とフェイクは『間違いなく海蛇だ』と思った。よく似た魔獣ではなく、異常なまでに大きいけれど間違いなく海蛇だ、と」
「うーん……それ、どーいう意味?」
「少しは自分の頭で考えるということをしてみたらどうなのかしらね、この蛮族は! いいこと――」
「単純に、カストゥールの魔法技術で六百年前から生き延びている存在じゃないってことさ。それに、あそこまで大きな海蛇があんな海岸の近くをうろついているなら、もう少し噂に上ってもおかしくないはずだ。あのあと船員の人たちからも話を聞いてみたけれど、こんな大きさの海蛇が出たなんて噂、まるで聞いたことがないということだった。となると、あの海蛇は、僕たちが出くわした直前に、唐突にこの世に現れた、ということになる。そんな代物を誕生させることができるのは、いまだカストゥールの魔法技術をこの世に伝える、アブガヒードであると考えるのが一番妥当だと思ったんだよ」
「なるほどー!」
「……ちょっと、マスター。なんで私の言葉に割り込むようにして口出ししてくるわけ!? 私の言葉が聞きたくないとでも!?」
「聞きたい聞きたくないで言えばもちろん聞きたくはないけれど、今は単純に話が横に逸れるのを防ぎたかっただけだよ。君の話は高慢さと傲慢さに満ち溢れていて、聞いているとどうしても注意せずにはいられないことがほとんどだからね。……ああでも、礼儀にかなったやり方でないのは確かだな。ファリスの神官として懺悔しなくちゃならないところだ。申し訳なかったね」
「謝られても嬉しくないぃぃ! なんでマスターってばそんなに私のこと軽んじるわけ!? 私はカストゥールでも最高峰の技術で創られた、最優最良最高のっ」
「こういう風に話が逸れていくから僕は君と話がしたくないんだよ。僕たちの話の邪魔をしているんだって自覚をしっかり持ってもらえるかな。何度同じことを言えばすむんだい? 主の話の邪魔をする使い魔が有能だと本気で主張するなら、君の知性には大きな歪みがあると指摘せざるをえないな」
「うぅ……ぅう……うわぁ〜んっ!」
 ラーヤは二人乗り(翼を持った猫の姿で話をしていたのでこの言い方は正確ではないかもしれないが)していたアーヴィンドの馬の上から飛び降りて、翼をはためかせて滑空し、自分たちの少し先で馬を歩かせていたフェイクのところへと突撃する。フェイクがやれやれという顔で袋――重量無効型で容積無効型を包んだ無限のバッグの口を広げるや、ラーヤは泣き喚きながらその中へと突撃して姿を消した。
 この数日間で何度も見た光景ではあるが、それを眺めてアーヴィンドは思わずがっくりとうなだれる。
 またやってしまった。こんな振る舞いが、曲がりなりにもファリスの神官位をいただいたものとしてふさわしからぬものだということは理解しているのに。普段ならばもう少し冷静な視点から、『こんな風に振る舞いたがる者が存在するのはごく当たり前のことだ』と受け流せていることなのに、あの使い魔を見ているとどうしても苛立って、鬱陶しさが耐えがたいほどになって、意図的に相手を傷つけるような振る舞いをしてしまう。
 ヴィオの言っていた、『アーヴィンドがラーヤを自分の分身、自分の一部と考えている』という意見は、間違いなく正しいのだろう。彼女を見ているとどうしても苛立ちと憤懣が溜まり、それを彼女にぶつけたくてしょうがなくなる、というかぶつけるのが当たり前のことであるような心境になってしまうのだ。
「アーヴってば、なんかすっげー大変そうだなー……すっげーしんどそうな顔してるし」
「ああ……ごめんね、ヴィオ。見苦しいところばかり見せて……せっかくの旅だというのにね。本当にごめん……」
「気にしなくていーよ。俺、アーヴがどんな顔でどんなこと考えてても、別に気になんないし」
「え? そ、そう?」
「アーヴが辛そうだったら、できることがあるなら当然手貸すけどさ。アーヴが『手出ししなくていい、自分だけで大丈夫だ』って言うんだったら、大丈夫なんだろうって思うもん。俺じゃどうにもできないこと、ぐじぐじ悩んでてもしかたないし」
 単純明快な口ぶりに、思わず口の端に苦笑が浮かぶ。理屈としてはまったくその通りではあるのだが、それを体得し実行できる人間というのは、たぶん経験を積んだ者の中にも多くはいないだろう。自分たちのような年ならばなおのことだ。だがヴィオは自然の内に、当たり前のような顔でその情理を感得し、実行してみせている。いまさらながら、かなわないなと自然と自身の敗北を認めてしまうし、それがまるで不快ではない。それもヴィオの人徳というものなのだろう。
 ただ、ヴィオの言っていることは、逆に言えば『自分だけでなんとかなると言っている間はそれを信じるが、なんともならなくなった時は素直に言え』ということであるようにも思える。なんとなく発破をかけられたような、叱りつけられたような気分になって、それがアーヴィンドの口の端を歪めさせたのだ。
「そんで、あのにーちゃんからアブガヒードの手がかりが得られるんじゃないかって助けてみてさ。実際に、手がかりなんかつかめたの? ちょっとでも情報、手に入れられた?」
「……残念ながら、アブガヒードそのものの手がかりは皆無に等しかった。ただ、その配下であろう相手――『若き冒険者のリュート』を送りつけた『魔法を使える盗賊』の情報は、ある程度聞き出せたよ」
「ふーん? どんな情報?」
「その『魔法を使える盗賊』は、ザーンから西へ進み、そこから北上――西部諸国をぐるりと回るように移動する予定だ、というようなことを話していたようなんだ。つまり、これから先僕たちが移動する街のすべてに、『魔法を使える盗賊』の置き土産が残してあったとしても不思議じゃない」
「ふーん?」
「アブガヒードの呪いの性質からしても、僕たちがその置き土産と相対することになる可能性は高いだろう。おそらくはアブガヒードの配下であるだろう『魔法を使える盗賊』が、いったいどれほどの能力を有しているのか、どこまでのことができる存在なのか、そういうことがまるでわからない現状では、できる限り警戒していこう、という程度のことしか言えないんだけれどね」
「そーなんだ。まーでも、それっていつものことじゃん。アブガヒードの呪いにかかってるんだから、行く先々ですげー魔物とかがごろごろ出てきても、別におかしくないわけだし」
「……うん、まぁ、そうなんだけれどね……」
「ていうかさ、そろそろ次の街……ドレックノール、だっけ? に着く頃だよな? そこっていったい、どーいう街なの?」
「あっ、そうだね! それは教えておかなくちゃならないな……! 僕も現地に行ったことはないから、書物などから得た話しか知らないけれど、予備知識があるとないとでは大きく違うだろうからね!」
「うん。教えてくれる?」
「もちろん! ええと、ね。ドレックノールは、人呼んで『終末都市』。『自由人たちの街道』の最西端の都市であり、数多の人間の人生の行き止まりの都市であり、そしてまた新たな人生が始まりうる都市なんだ!」
 思わず満面の笑顔になりながら、力と気合を込めて言い切る。『終末都市』ドレックノールは、自分の最愛の冒険譚の中で幾度も魅力的な物語の舞台となった、アーヴィンドとしてはぜひとも一度は行ってみたいと願っていた都市なのだ。
「ドレックノールが『終末都市』と呼ばれるようになったのは、新王国歴五百四十年から五十年にかけて……アトン戦役がおおむね収束し、各国が復興の勢いに沸き返り始めてからのことになる。まぁもっとも、西部諸国はアトン戦役にさして悪影響を受けてはいなかったから、年代よりもどちらかというと変化をもたらした人材……『英雄』と呼ばれる男の成長にその原因がある、と考える者がほとんどのようだけれどね」
「あ、確かその英雄? って人って、アーヴが一番好きな話だって言ってたやつだよね?」
「そう、そうなんだよ! そもそも『英雄』の物語は新王国歴五百二十二年、まだ『英雄』が十一歳の少年だった頃に始まるんだけど、『英雄』は冒険者を志してザーンを訪れてからすぐに、当時『盗賊都市』と呼ばれていたドレックノールの盗賊ギルドの陰謀に巻き込まれることになるんだ。これはのちに恋人となる少女も大きく関わっている、それこそ『岩の街』をひっくり返すような大陰謀で、その渦中に『英雄』は生涯の宿敵たるドレックノール盗賊ギルドの大幹部、『闇の王子』と出会うことになるんだけど、ある意味その出会いが『終末都市』たるドレックノールを創ることになるんだよね」
「そーなの?」
「うん。『英雄』は少年だった頃から、恋人の少女と共に、『闇の王子』と幾度も相対することになるんだけど、それからしばらく『英雄』はドレックノールを離れ、別の場所で経験を積むことに専念する。『闇の王子』と戦うためには、自分自身が英雄と呼ばれるだけの知恵と力と勇気を身に着けなくてはならない、と考えたんだね。その間、『闇の王子』は順調に力を伸ばし、ドレックノールを事実上支配下に置いて、周辺諸国にもひそやかに、けれど着実に支配の手を伸ばしていく」
「ふーん、その闇の王子? って人、そんなに強かったんだ?」
「うん、個人の戦闘力はもちろん高かったけど、それ以上に希代の陰謀家だったそうだよ。『盗賊都市』と呼ばれるドレックノールは、形だけ王家の治める王国という体裁を保ちながらも、実質的には盗賊ギルドが都市を支配する犯罪者の巣窟だった。『闇の王子』はそれを造り上げた盗賊ギルドのギルドマスターの息子として生まれながら、父をはるかに超える実力と知性でギルドへの支配力を増していったんだ。のみならず、周辺諸国にも盗賊ギルドらしいやり方で影響力を増していった。陰謀と暗闘、暗殺に誘拐、そういった犯罪行為を基本としたひそやかな侵略行為によってね」
「ふぅん……?」
「けれど、それに対抗する勇者としてドレックノールに戻ってきたのが『英雄』だったのさ。『闇の王子』に匹敵する実力を手に入れて戻ってきた『英雄』は、今にも打ち負かされそうになっていた周辺諸国の盗賊ギルド、それに加えて諸国王家の秘かな支援を受け、ドレックノール盗賊ギルド、ひいては『闇の王子』との戦いを始める。『闇の王子』のおそるべき陰謀の手によって、幾度も打ち負かされそうになりながらも、成長した恋人の女性と共に戦い抜き、最終的にはドレックノールの盗賊たちを何人も改心させ仲間にして、『闇の王子』の陰謀を打ち砕き、本人をも激闘の末に打ち倒すんだ」
「へぇ……」
「それによってドレックノールの盗賊ギルドは半ば崩壊し、ドレックノールという国家そのものもその体裁を保つことができなくなりかける。ありとあらゆる権力を実質的に保持していた盗賊ギルドの最高権力者だった『闇の王子』は、圧倒的な支配力で盗賊ギルドをまとめ上げていたけれど、彼がいなければ組織が回らないほどに、権力を一極集中させてもいたんだね。一国が『闇の王子』と共に滅びゆこうとしているという非常事態を前に、周辺諸国は協議の末、驚くべき結論を出した。新しい盗賊ギルドのギルドマスターとして、『英雄』を任命することにしたんだ」
「え、それなんか変なことなの?」
「まぁ、そもそも国府の人間が、犯罪者の組織である盗賊ギルドと繋がりを持つというのは、基本的には癒着にしかならないからね……正しき法からすれば、言語道断としか言いようのない事態だ。関わりを持つとしても、暗黙の了解や秘かな盟約に基づく緩やかな協力関係、ぐらいがせいぜいのところだろう。だけど、その時は少々事情が違った」
「どーいう風に?」
「ドレックノールの陰謀に最も晒されていたザーンは、そもそも盗賊ギルドの影響力が大きいお国柄だ。国が安全に回るなら盗賊ギルドに権力を委託しても別にいいだろう、という判断を下したらしい。その他の西部諸国の国々にとっては、さすがにそう簡単にはいかなかったようだけど……当時のドレックノール王家に権力を再度渡してしまうのは、盗賊ギルドに権力を渡すよりまずいことになる、とどの国も判断したようなんだよ」
「? どーいうこと?」
「ドレックノール盗賊ギルドは、ドレックノールを事実上支配した際、王となる人間を徹底的に無能に育て上げることで反抗の牙を抜いた。つまり、当時の王家の人間は、王としてどころかまともな成人としての判断力も知性もまるでない、権力を与えればその国ごと滅ぼしてしまうような暗愚な人間だったらしいんだ」
「あー……」
「だけどドレックノール王家は旧サイモーン王家の流れを汲む、新サイモーン王国ガーファンクル朝からすれば正統後継者とすら呼べてしまう王家だ。それを消滅させてしまうのはよろしくないという判断と……なによりも、ドレックノールという国家を周辺諸国で切り分けてしまうよりも、別の国家として成り立たせた上で、貿易等々で共存共栄を図った方が得だ、とどの国も考えたようなんだよ」
「ふーん……?」
「西の果ての小国の領土を切り分けるとなると、どうしてもドレックノールを挟む二つの国、リファールとザーンが一番おいしいところを持っていくことになるだろう。そんなことになるよりはまだドレックノールを、西部諸国中最弱の国家として存続させ続ける方がマシだ、という考えもあったようだね。ともあれ、『英雄』は宿敵たる『闇の王子』を倒すと同時に、盗賊ギルドと国家の立て直しを同時に任されるはめになった」
「へー……それって、なんかすごく難しくない?」
「うん、とんでもない厄介事を押しつけられたと言っていいと思うよ。冒険者として、英雄としての能力と、国家運営、組織運営の能力は別に関係はないしね。だけど周辺諸国にとってはそれでよかったんだ。周辺諸国は、ドレックノールを最弱の国家にしておきたかったわけだから。……だけど、話はそれで終わりじゃない。ここで関わってくるのが、『円舞曲』と呼ばれる冒険者パーティなんだよ」
「あれ、それって……アーヴが前に、西部諸国の冒険者パーティっていうのに出してた名前じゃなかったっけ?」
「うん、そうなんだ! こういう風に、思ってもいなかった人々が思ってもいなかったところで繋がっていくのが、土地を同じくする冒険譚の醍醐味なんだよね……! まず前提として、『円舞曲』という冒険者パーティの中には、ドレックノールに潜んでいたファラリスの高司祭であるマンティコアに、呪いをかけられた女性がいた。『白雪の賢女』という二つ名で呼ばれるその女性は、マンティコアから情報を引き出す代償として、自身がそのマンティコアの主に足る人間になる、という誓いを立てたんだ」
「え、主って……そのまんてぃこあの? まんてぃこあより強くなるってこと?」
「いや、そのマンティコアが敬服するに足るだけの存在になる、という意味もこもっていたらしい。実際には半ば以上勢いで言った言葉らしいけどね。ともあれ、その誓いを縛った呪いに『円舞曲』はずっと苦しめられてきた。離別と悲嘆をくり返し、それらを乗り越えてすら呪いを解くことはできなかった。でも、『英雄』の話を聞いて、『白雪の賢女』は考えたんだよ。『英雄』ならば、かつて自分が夢想したドレックノールの改革案を実行することができるんじゃないかって。それによって、マンティコアに自身が主たりうることを証明できるんじゃないんかって」
「へぇー……改革案って、どんなの?」
「うん、それはね、一言でいえば……『奴隷制を健全な商売にする』という法案だった」
「へ? ……どーいうこと?」
「順番に説明するね。まずドレックノールには、もともと奴隷制が敷かれていた。借金の返せない人間たちは奴隷という『商品』にされる、そんな悪習が公然と行われてきたんだ。『白雪の賢女』が考え出したのは、その仕組みをひっくり返し、被害者を出さずに商売として成立させるという案だった」
「うん。つまり?」
「まず、奴隷制の詳しい仕組みから解説しよう。既存の奴隷制においては、奴隷というのは無計画に金を借りておきながら、借金を返すことができない者がなるものだった。あるいは、家族や恋人に勝手に借金の担保として使われていたり、だね。どちらもそもそも本人の返済能力に期待せず、むしろ『奴隷という『商品』に堕ちること』を期待して金を貸す、そういう場合が多かった。だから相手の経済状況を無視してどんどん金を貸し、返してもらう時になるや厳しく取り立てて商売を成立させなくする、そういう悪質な貸し方と取り立てをするのが普通だったんだよ」
「うん」
「『白雪の賢女』が考え出したのは、その真逆。『奴隷』を、『借金を返せない人間に斡旋する職業』として扱ったんだ。債権の買い取りという、下手をすれば買い取る方が破産してしまうような商売と並立させながらね」
「………? それ、どっちも同じことなんじゃないの?」
「いいや、違うよ。全然違う。既存の奴隷商人は、『奴隷』という商品を確保し、富裕者に高値で売りつけることが目的だった。だから奴隷たちの人生に配慮する思考なんて、まるで存在しなかった。奴隷たちは彼らにとって、商品――つまり、物品なんだからね。だけど、この商売は債権も一緒に買い取るわけだから、奴隷たちに無事最後まで借金を返させて、奴隷から解放させるところまでやってようやく商売として成立する。つまり、奴隷に効率よく、負担をかけすぎないように働かせることも、奴隷を買い取ったドレックノールの人間は考えなくちゃならなくなったわけだ」
「あ! なるほど、そっか!」
「大量の借金を作った人間、仕事に行き詰って金が返せなくなった人間、そういう人々を大陸中から家族ごと集めて、債権ごと買い取り、その人間に合った仕事に就かせて、死に物狂いで働かせることで借金を返させる。無茶といえばあまりに無茶な話だけど、『白雪の賢女』には勝算があった。それは、彼女の恋人である、『幸福を歌う』と呼ばれるチャ・ザの高位の司祭の存在による」
「? どーいうこと?」
「以前教えただろう? チャ・ザは幸運神にして商売の神。神から与えられる特殊な神聖魔法にも、幸運を与えるものに加え、商売に加護を与えるものがある。その魔法を使えば、商売に関してチャ・ザの司祭を騙すことはできない。相手の悪意や害意を検知し、盗もうとする者、暴利をむさぼろうとする者を見抜くことができるようになるからだ。奴隷という身分に堕ちる際、やけになって周囲に少しでも迷惑をこうむらせてやろうと考える者や、奴隷制をうまく利用して甘い汁を吸おうとする人間を、『幸福を歌う』司祭は見逃すことなく、ことごとくに使命≠与え、奴隷としての仕事に邁進させたんだ」
「使命≠チて……アーヴの使うのとおんなじ、神さまの魔法だよね? え、じゃあその司祭さんがどれいしょーにん? の代わりしたんだ。それって、なんていうか……すっげー珍しくない?」
 アーヴィンドは得たりとばかりにうなずく。本当に、このくだりは、冒険譚の読者としても、産業と経済に関心を持つ者としても、信仰者としても大のお気に入りなのだ。
「うん、本当に珍しい。というか、チャ・ザの司祭としてあるまじき、として異端審問にかけようとした国もあるほどだよ。でも、『幸福を歌う』司祭にとっても、譲れない理由があった。彼は何度もドレックノールを訪れ、そのたびに見せつけられた、長年の盗賊ギルドの支配により悪化した治安と荒廃した人心に、ひどく心を痛めていたんだ。冒険者を引退したら、ドレックノールで貧民の救済に一生を捧げることを真剣に考えるほどに」
「へー、それって、なんていうか……すっげー偉いんじゃないの?」
「うん、そうだね。司祭としてあるべき姿だと素直に思う。そして高い倫理観を持つ『円舞曲』の面々は、それぞれにその志に協力することを考えた。この新たな奴隷制も、その結果生まれた案らしいよ。……ともあれ、その倫理観と救世欲、そして信仰心から生まれた一大計画に、『幸福を歌う』司祭は文字通り身を捧げた。奴隷となる人一人一人と納得するまで話し合い、奴隷となる者すべてに死に物狂いで働いて自身の権利を買い戻す道を選ばせた。その結果、債権の買い取りと並行して行う奴隷産業は、それこそドレックノールの経済を一変させるほどの大成功を遂げたんだよ」
「へー……大成功って、どーいう風に?」
「主に大量の人員を駆使することによる手工業だね。現在では大陸各地で行われている手工業は、ドレックノールに端を発するものなんだ。さらに、奴隷墜ちした人間の中には、並外れて優秀な人間も少なからずいた。そういった人間に強制的に仕事を行わせることで、職人の自由意思が必要なやり方では不可能だった、現在必要とされているものを強制的に作り出させるやり方や、豊富な人的資源を贅沢に投入して大事業を成功させるやり方を、ドレックノールは積極的に採択した。結果、当初は破産必至と思われていた人道的な奴隷産業に手を出しながら、豊富な資金力を有することができたんだよ」
「へええ……っていうか、それって、あれだよな……ベルダインで話してくれた、いんさつき? だっけ? の、話だよな?」
「! うんうんっ、その通りだよ! まさにあれこそドレックノールの典型的な成功物語のひとつなんだ! 拷問機械の制作をなによりの喜びとする狂った職人に、強制的に使命≠ノよって罪を償わせることで、ドレックノールは高度な工業機械を次々産み出していくんだよ! なにせ、現在に至るまで印刷機をドレックノール以外の国が自国で製造できた、という記録はないくらいなんだ。現在に至るまで、すべてドレックノールから高い金を払って借り上げる形を取っている。拷問機械職人と、彼の薫陶を受けた職人たちが、どれほど高い技術力を持っていたかということの証左だね」
「拷問機械職人なのに、いんさつきのすごい職人なんだね」
「うんまぁ、個人の倫理観と技術力は比例しないという証左でもあるね。……そして、『英雄』と『円舞曲』は、ただ経済的な成功だけを追い求めはしなかった。『英雄』はその圧倒的な実力とカリスマで盗賊ギルドの綱紀粛正を行い、ドレックノールの盗賊ギルドをより強靭で、かつ道理をわきまえた組織へと変えていく。そして『円舞曲』は民間の立場から、ドレックノールの人間の倫理観を少しずつマシな方向へと変えていったんだ。ここで一番大きな働きをしたのは、やっぱり『森の聖母』だろうな」
「『森の聖母』? なんか、珍しくね? そーいう名前」
「そうだね、実際ものすごく珍しい存在だから。『森の聖母』は、エルフでありながら高位の魔術師であり、その上百年以上の時を孤児たちの養母として生きてきたという人なんだよ。だからこそドレックノールの不幸な孤児たちを放っておくことができず、次々自身の孤児院に引き取って面倒をみた。『英雄』や『幸福を歌う』司祭の援助もあり、最終的にはドレックノール中の孤児が彼女の孤児院に引き取られたんじゃないかっていわれているんだけど、彼女の育てた孤児は絶対に、道から外れたことをしなかったという。貧困と非道の満ち溢れていた街でそんな子供たちを育てられるほどの、高徳の人だったんだね」
「はぁー……」
「そんな思いきった改革を遂げながら、『英雄』は同時に、ドレックノールから誰かを追い出すことも絶対にしようとはしなかった。『盗賊都市』だった悪徳の街、ドレックノールにはファラリスの司祭やダークエルフのような存在が山ほどいたんだけど、彼らを放逐することも、外からの流入を防ぐことも断固として禁じた。それは、彼の恋人――悪魔の力を得たファラリスの高司祭である女性のためだといわれているけれど、本当のところはわからない」
「ふぅん……」
「だから、当然のことではあるけれど、ドレックノールは以前と変わらず周囲に警戒され、他の街で生きていくことができなくなった者だけが流れ着く『終末都市』と呼ばれるようになった。けれど同時に、他の場所では生きていくことができなくなった人々が、最後の望みをかけて生まれ変わろうとすることができる都市でもある、と周知されていったんだよ」
「へぇー……」
「『幸福を歌う』司祭はもう亡くなっているそうだけど、彼の薫陶を受けたドレックノールのチャ・ザ神殿の司祭たちはみな高徳の人で、チャ・ザの高位の神聖魔法を扱うことができている。人道的な奴隷産業と、それによる手工業は、いまだにドレックノールの経済と産業の基盤だ。いかなる氏素性の人間でも受け容れる、という姿勢にもまったく変わりがない。そんな、十一歳の少年が冒険者を志して一歩を踏み出したところから始まった奇跡の街は、いまだこの世に受け継がれているんだよ」
「なるほどー……なんか、すごいんだね。西部諸国って。なんか、すっごいいろんな国があるー、って感じがする」
「あはは、大陸全土を俯瞰して見れば、西部諸国だけじゃなく、いろんな場所に多種多様な国々があるって思うだろうけれど……でも、個性豊かな国々が多いのは確かだね。小国がいくつも狭い地域に身を寄せ合っているせいかもしれないけれど……こんな多様性豊かな国々がこんな近距離に居並んでいるっていうのは、本当に、大陸中探しても西部諸国以外にはないだろうな、って思うよ」
「だよなー」
 そんな風に笑い合っている間にも、自分たちを乗せた馬は歩みを進め、やがて森を抜けて、ドレックノールの全景が見渡せる高台を通り抜けた。シエント河が海へ流れ込む中州に建つ、かつては商業と漁業の国であった街。今や奴隷と工業の街である『終末都市』。それはいまや、シエント河の東西の首を越えて大きく広がる、相当に大規模な都市へと変貌していた。
 遠目でも、ごみごみとした建物が立ち並ぶ場所や、薄汚れた地域が見て取れる、おそらくは治安も相当に悪いのだろう街。だがそれでも、むしろそれゆえに、来歴を知るアーヴィンドにとっては、たまらなく輝いて見える都市だった。

 自分たちを護衛に雇った隊商たちを、目的の商館まで送り届け終われば、自分たちもお役御免。仕事を終えて、あとは自分たちの好きに、自由に時間を使うことができる。
 まずは冒険者の宿――『終末都市』へと生まれ変わったのちに新しくできた店に部屋を取り、街見物に出発する。盗賊ギルドに支配されている街なのは変わらないので、スリの類は警戒しなければならなかったが、自分たちは冒険者、どんな時も完全には気を抜かないようにせねばならないのは変わらないのだ、別に負担というわけでもない。
 みすぼらしい建物も多いが、活発に人の出入りするにぎやかな建物も多い。物乞いが辺りをうろついていたりもするが、その誰もが鋭い視線を隠しているのがはっきりわかる。高級住宅街でも出入りする人の顔が、急き立てられるようだったりうろたえていたりとその厳しい内情をうかがわせていることも多く、逆に貧しげな子供たちの顔に栄養をきちんと取っていることがよくわかる艶があったりする。
 当然のような顔で、富と貧困が隣り合う街。なにもかもが混沌としながら、未来への希望に輝く街。アーヴィンドはそんな、思っていた通りの街並みをうきうきしながら眺めた。
 むろん、ドレックノールがいい街だ、と誰もが言い切ることはできないだろう。ダークエルフが当然のような顔をして道を歩き、ファラリスの聖印をこれ見よがしに身につけた人々もいる。盗賊ギルドが支配する街でもある以上、いかに『英雄』の志を受け継ぐ街であろうとも、犯罪行為が決して珍しくない街でもあるだろうことは予想に難くない。
 けれど、それでも、アーヴィンドの目には、まさしく奇跡のような街だと感じられたのだ。一人の学徒として、個人としての自分は、この悪徳と清徳が両立する街の光景を、失いたくないと叫んでいる。
 一ファリス神官としても、この街を頭ごなしに否定することはしたくなかった。真正面から向き合い、語り合う価値のある場所だと思えた。人によっては、それこそ暗黒神に近づく所業であると非難してくるだろうけれども。
「そういえばさー、この街の王さまってどうなったの? アーヴさっき言ってたけど、この街の王さまって、すっごい駄目だったから周りの国の王さまが任せておけない、って英雄さんに頼んだわけだよな? 今はどうなってんの?」
「ああ、それを言ってなかったね。結論から言ってしまうと、現在のドレックノールの国王陛下は、その暗愚たる国王の曾孫にあたる」
「あ、いるんだ、王さま」
「うん、ただ、他の国の国王陛下とは、だいぶ違った役目を負っているけれどね」
「? どーいうこと?」
「まず、『英雄』がこの国の立て直しを命じられた当時、暗愚たる国王には息子がいた。本来ならドレックノール王家……家名はショルスになるんだけど、その正統後継者として扱われるだろうその子は、けれど実際にはその存在すらほとんどの人間に知られていなかった。なぜなら、彼は暗愚たる国王が、その幼児性と成人男性の性衝動を混在させた結果、身の回りの世話をする侍女に襲いかかった結果誕生した子供だったからだ」
「わー……」
「そんな風にして国王の子を身ごもった女性は実はそれなりの数がいたらしいんだけれど、そのほとんどが出産前に堕胎を選択している。当時の盗賊ギルドはショルス家の血を引く人間が増えることを望んでおらず、国王の子を身ごもった女性が堕胎を決断することで、多額の謝礼金を支払うことを周知していたからだ。だけど、その侍女にとってはその選択はありえなかった。彼女は当時のドレックノールでは珍しいことに、熱心なマーファ信者だったんだよ」
「? マーファの信者だと、なんで子供堕ろすのが駄目なの?」
「出産の守護神であるマーファの教えでは、基本的に堕胎は悪だからね。母体の状態や、社会的状況を鑑みて、堕胎を決断した人間を責めるようなことは普通ないけれど。だからその侍女は、子ができたことを悟るや職を辞し、実家に戻って、一人で子を産み育てていた。盗賊ギルドに知られれば、処罰を受けるだろうこと、おそらくは自分も子供も命がないだろうことを覚悟の上でね」
「ふわー……」
「だけど、ここでひとつ幸運が訪れた。盗賊ギルドがその女性と子の存在を突き止める前に、『英雄』が盗賊ギルドを打ち倒し、国家と盗賊ギルドの改革を始めたんだ。周辺の国家が『英雄』に要求したことのひとつには、ショルス家の血を引く正統な後継者を王位に戴く、ということも含まれていたから、『英雄』としてはなんとかショルス家の血を引く、王にふさわしい人間を探さなくてはならなかった。だけど、『ショルス家の血を引く』男子は何人もいても、『王にふさわしい』人間は誰もいなかったんだよ。犯罪者集団たる盗賊ギルドに媚を売り、安楽な生活を恵んでもらっていた人々なわけだからね」
「ふんふん」
「自身の正しき心のために、国家の仕組みすらも変革した英傑たる『英雄』からすれば、そんな連中を王として戴くなんてありえないことだった。だけど、周辺国家からすればショルス家、ガーファンクル朝の血を引く由緒正しい王家が滅び、尊貴の血が一滴たりとも入っていない『英雄』が王位に就くというのも許容できない話だった。『英雄』本人も、自身が王になりたいなどとはまるで考えていなかったんだ。だから、『英雄』は苦悶することになったんだけど……そこに、その女性が現れたんだよ。ショルス家の血を引きながら、一般人として育ち、マーファの教えに基づく倫理観を有した子供と共にね」
「あ、なるほどー。それが……」
「うん、現在のドレックノール王の、祖父にして家祖にあたる。彼は、当時十歳にもなっていなかったこともあり、王家の権力になんら魅力を感じていなかった。母の言葉に従い、『暗愚たる国王を増やさない』ために『英雄』に助力しようと考えたにすぎなかった。暗愚たる国王に無理やり子を孕まされたその女性は、横暴な権力というものに対する強い反感を我が子に伝えていたんだね。そして、育ちが一般人、それも富裕な範疇に属する一般人だったから、王としての威厳や生活環境にも興味がない、むしろ反感を抱いている。つまり、『英雄』にとってはまさしく新たな王にふさわしい人間だったんだよ」
「ふむふむ」
「『英雄』は新たな王の後見につき、信用できる識者も交えて新たなドレックノール王家のふさわしい形を論じ合った。そして出た結論は、『王は外交の象徴たるべし』というものだったんだ」
「ん? どーいうこと?」
「ドレックノールにおいては、盗賊ギルドの支配が百年近く続いていた。王の存在価値など形骸化した残り滓でしかない。けれど、王家がまさに国家を動かす権力を有している周辺国家からしてみれば、王を戴かない国家というものなど、アトン戦役で愚かな指し手が提唱した悪夢のような代物としか思えない。その現実を踏まえて、当時のドレックノール王に求められている役割を、『他国との外交』と位置付けたんだ。国権の主体としてではなく、国家という巨大な機構の歯車の一部として。外交の責任者ではなく、失敗をしても首を挿げ替えられることのない、けれど他国に見栄えのいい飾り物としてね」
「ふーん……飾り物だけど、大事な飾り物ってこと?」
「そういうことだね。その王も成長後は、外交の務めを負う者の一員として、活発に積極的に活動したりもしたそうだけど……一番大事な役目と、王位に就いた者の心得は変わっていないそうだよ。王は外交の象徴たるべし。王は国権を動かす機構の一部たるべし。他国に見栄えのいい飾り物たることを最大の役目と心得るべし、ってね」
「へー……それって、周りの国の王さまとか、この国の王さまとかは文句言ったりしなかったの?」
 ヴィオの言葉に、アーヴィンドは苦笑する。返答に困る問いかけだが、ヴィオならば、たぶんそう言ってくれるだろうと期待していた言葉でもあった。
「僕の知っている限りでは、問題が起きたとは聞いていないな。もちろん、実際にどうなのかとかは、ほとんど大陸の正反対に近い場所にある国のことだし、詳しくわかるわけではないけれど。周辺国家が王権に楔を打ち込みかねないこの国の仕組みについて、警戒するのはある意味当然ではあるし、王と呼ばれる人間が権力を追い求めないことはごくまれなことである、というのは歴史を知る者として理解しているし。ただ、僕個人としては、この国の仕組みは世界を変え得るものかもしれないと考えているから、国家の成員が不満なく、自らの役目に誇りを持って取り組んでくれている方が嬉しいけれどね」
「なるほどー。そっか、わかった」
 こっくりとうなずくヴィオに笑顔を返しつつ、アーヴィンドは先頭に立って歩を進める。気分が浮き立つあまり、自然と早足になってしまっているのは自覚していたが、どうにもこの気持ちは抑えられそうにない。なにせ、あらゆる英雄譚、冒険譚の中で間違いなく随一と言い切れるほどに愛している物語の、もっとも魅力的な舞台なのだ。感情が絶えることなくあふれ出して止められないのも、いわば当然というものだろう。
「このドレックノールという国家は、歴史的、政治学的にも興味深い素材であることはもちろんなんだけれど、特に国家としての再出発からどんどんと変化し続けているという点については、それこそ二つとないと言っていいほど激烈な国でね。逐一情報を仕入れているとはいえ、遠国のことだから、あまり詳細な情報は仕入れられなかったんだけれど、現在では盗賊ギルドと、王家と、六大神の信仰者たち、特にチャ・ザ神殿、商業ギルドに職人ギルド、といったいくつもの組織が何人かの代表を選出して、国政についての話し合いを行う国会と呼ばれる会議が公開されていることでも有名でね―――」
「アーヴ、上っ!」
「――――っ!?」
 アーヴィンドは半ば反射的に前に転がるようにして攻撃をかわし、身構えながら上空からやってきた襲撃者を見つめ、愕然とした。なんなのだ、これは。
 魔獣なのは間違いない。おそらくは魔獣創造の技術によって新しく創られた代物だろう。かつてこの国がその禁じられた技術を用い、年若い子供たちを改造して、人の形をした魔獣の軍団という恐るべき者たちを配下に置いていたことはアーヴィンドも知っている。そしてその者たちを、新しく生まれ変わったドレックノールは追放することなく、市民として受け容れたことも。
 だから、今現在のドレックノールに、その技術が受け継がれている可能性は、アーヴィンドも決して否定のできない事実ではあったのだが――この魔獣は、あまりに無残すぎる。
 おそらく、基本の素体はスキュラなのだろう。その背中に巨大な被膜の翼が生え、空を自在に舞うことを可能としている。
 さらにスキュラ本体が有している、十二本の蛸の触手と六本の蛇の頭が極端に大きくなっていることに加え、狼の頭が八体分、触手などと同じ部分から生えている。毛皮に包まれたその頭は、足がないのに蛇の頭と同程度の長さを有していて、本来の狼ではありえないほどの攻撃範囲の広さを有しているだろうことは想像に難くない。
 ここまでなら、魔獣創造の範疇として(もちろん魔獣という本来ありえざるべき形の生命を産み出すこと自体が罪深いことであるのは間違いないのだが)評価できなくもなかったかもしれない。だが、この生命のおぞましい点は、他にあった。
 まず、スキュラの上半身である女性の部分が、四方どちらから見ても正面になるようになっている。要するに、女性の身体の前半身だけを、四つ無理やり張り合わせたような身体をしているのだ。不意討ち防止のためなのかもしれないが、あれでは中の頭脳がどれほど痛ましいものになっているか。
 その上、蛇と狼の口ではまだ足りないというのか、女性の身体の中央に、巨大な口を取りつけている。ヒトデかなにかを混ぜ合わせたのかもしれない。四方を睥睨する女性の身体すべての真ん中に、数えきれないほどの牙を生やした巨大な口がぱっくりと開いているのだ。
 その口はめりめりと裂け広がり、ひとつなどは女性の身体の天頂部分まで開かれている。つまり女性の顔がど真ん中から裂け、いくつもの牙を生やした巨大な口という、化け物じみた姿をあらわにしているのだ。女性の顔立ち自体が美しい分、無残としか言いようがない。
 さらに、これほどに無茶な形で創造されたのだから当然かもしれないが、この魔獣は創造の過程で失敗しているようで、身体のあちこちが腐れ落ち、形が歪んでいる。女性の身体のひとつの右半分は腐汁を滴らせているし、別のひとつは頭蓋や乳房を異様な形で巨大化させたりしている。
 それ以外にも、裂けたり、ぼろぼろと身体の崩壊が始まっている部分も数多い。おそらくこの魔獣の命はもう長くあるまい。魔獣ということすらためらわれるほどの、いびつな哀れな命。それをまじまじと見せつけられて、アーヴィンドの心臓は氷を落とされたかのように冷えた。
『………なに、これ』
 ふいに、思わずといったようにこぼれたのだろう声が耳に届く。いや、耳ではない。心に届いたのだ。アーヴィンドの見たものを受け取った相手が、見たものに対する、アーヴィンドと同じような思いを、アーヴィンドの心にこぼしたのだ。
『なにこれ。信じられないわ。冗談じゃない。これが、魔獣創造の技術で生まれた代物だっていうの? なによそれ、ふざけないで。魔獣創造の技術は……カストゥールの、私を生み出してくれた技術は、もっと、もっと、ずっと、すごくて、素敵なもので………』
 そこまで言って、アーヴィンドの心に伝わる声は、うっと泣き崩れた。これ見よがしに泣き喚くのではなく、抑えようとしても抑えきれない、どうしようもないやるせなさと哀しさに、どれだけ耐えようとしてもこらえきれず、漏れ出てしまう感情の発露。
 ―――そのかすかな、哀れな鳴き声は、アーヴィンドの心臓を、爆発するような勢いで燃え立たせた。
 ルクがスリングを取り出し、弾込めしつつ攻撃態勢に入る。フェイクも電撃の網≠フ呪文を唱えるが、この魔獣が恐るべき魔力を有しているからだろう、動きを封じることはかなわないようだった。ヴィオも精霊語の呪文を唱えようとしている――その一瞬の間に、アーヴィンドは全身の魔力を燃やして、神聖語の呪文を高らかに叫んだ。
「我が神、至高の光明たるファリスよ! この哀れな生命に開放を! 歪められし魂を清め、在るべき場所に導きたまえ! 生を謳うことすらできぬ姿に貶められた、救いを与えるべき命たちに、その甚大なる世界の光明をもって、慈悲を賜りたもうことを祈り願う………!=v
 アーヴィンドの叫びが響き渡った次の瞬間――魔獣は姿を消していた。逃げたのではない、転移したのでもない。アーヴィンドの、至高なる神と繋がる部分が確信していた。あの哀れな命は、アーヴィンドの祈りを聞き届けてくれたファリスによって、在るべき場所に魂を送られたのだ。
『………マス、ター』
 半ば呆然としているのだろう、心の声から漏れた気持ちが伝わってくる。というか、これはアーヴィンドの心から漏れた気持ちが、アーヴィンドの使い魔であるラーヤにはっきり伝わったせいなのだろう。お互いに心情をうまく潜ませることができず、感情がほぼ直接相手に伝わってしまっているのだ。
 いや、もとはといえばラーヤが本当に先刻の魔獣の姿に衝撃を受けて、悲嘆に満ちた泣き声を心の中で漏らしたせいなのだが。その声があまりに哀しかったから――アーヴィンドが深く、深く共感せずにはいられないほどに哀切だったから、ラーヤに対して幾重にも張り巡らせた心の壁が、邪魔だとばかりに取り払われて、互いの心が絡み合った状態で安定してしまったために、再構築ができずにいるだけで。
 もちろん、ラーヤの性格の欠点が修正されたわけではないし、その倫理観がアーヴィンドにとってそぐわないものなのも変わりないのだろうが―――あの時の、たまらないほど悲痛な泣き声を思うと、そういった代物に対する反感すべてが色褪せてしまうのも、確かなことで。
「……………」
『……………』
 深く心が繋がり合っている状態なのは変わりないのに、まるでお見合いかなにかで、恥じらい合って視線をそらし合ってでもいるような沈黙が互いの心中を満たす。だが、我ながら奇妙な心情ではあったが、心に思うことを正直に告げるならば、その状態は決して、不快ではなかった。
「―――おい、アーヴィンド! いつまでもぼけっとしてるな。お前さんの消失≠フ神聖魔法で魔獣が消えちまったからな、さっきの魔獣を創った奴らが、証拠がないのをいいことに、尻に帆をかけて逃げ出すかもしれねぇぞ? どうするつもりだ」
「………! それは、確かに放っておくわけにはいかないね。ドレックノールの法律については一通り目を通した、創られた魔獣に罪を問うことはせずとも、魔獣創造は試みた時点で犯罪だときちんと法律書に明記してあるんだ。創った奴らが自分たちの為したことが犯罪だと理解していないとは思えない」
「ふーん? つまり、さっきの、まじゅう? 創った奴らは悪い奴らだってこと?」
「そうなるね。とりあえず、人員を確保することを優先しようか。フェイク、魔獣がどこから飛んできたのか、察知できているんだよね?」
「まぁ……向こうがなにも考えずに探知系呪文を使ってくれたからな、対抗感知≠ノ引っかかってる」
「ここは拙速を取りたいな。僕たちを無限のバッグに入れて、飛行≠ナ飛んできた建物に直接乗り込む、というのはできるかい、フェイク? もちろんそれなりに危険はあるけれど、逃亡を警戒しいくらでも枷を厳重にできた魔獣に対してさえも、本気になれば繋ぎ止めておくことができなかった連中だ。フェイクならばまず十分な余裕を持って対処できる相手だ、と思うんだけれど」
「……ふん? ま、俺もその意見に反対はしねぇよ。なら善は急げだ、運んでやるからとっととこの中入りな」
「わかったー! ……けど、さっきの魔獣って、なんでいきなり飛び出して俺らに襲いかかってきたんだろ? 俺ら、別になんもやってないのに、なんか気に入らないとことかあったのかな?」
「………そうだね。それについては、あとでゆっくりと話そう。対処方法についてもね」
「? うん、わかった。じゃー急ごっか!」

 西部諸国、どころかアレクラスト大陸における人間の版図の西端である、ワイアット山脈の険しさはまさに、聞きしに勝ると言うべき代物だった。傾斜は厳しく、塊の転がり落ちる断崖があったかと思えば、足を進めれば陥没してはるか地下深くの水脈まで真っ逆さまに落ちていただろう危険地帯(見た限りではただの柔らかな土壌にしか見えない)があったりもする。
 気候が夏真っ盛りということもあり、鎧を着て登るのは難しいだろうというフェイクの意見に従い、鎧を含めた荷物のほとんどを無限のバッグに収納してもらっていたが、その判断は大正解だったと思う。そうしなければ降り注ぐ陽射しの熱に耐えかねて、ひっくり返っていたかもしれない。山脈を上れば上るほどぐんぐん気温は下がっていったが、それでも厳しい陽射しは体力を削るし、寒暖差で体調を崩すということにもなりかねなかっただろう。
 息を荒げながら歩を進める自分たちに、ある程度高空で周囲の警戒をしているラーヤから、不安と心配の想いがこめられた思念が届いた。
『大丈夫、マスター? あまり無理しないで。人の身では、この山脈は相当に過酷な場所よ?』
『ああ、わかってる。だけど引き返すつもりはないから、せいぜい気をつけて進むよ。空を飛んで目的地まで到達するつもりはないにしろ、いざという時の避難ぐらいなら、僕の浮遊≠竍落下制御≠燻gえるだろうしね』
『うん……』
 小さくうなずくような思念が返されはするが、やはり不安と心配という心情をラーヤが抱いているのはしっかり伝わってくる。アーヴィンドに無事でいてほしい、自分の力でアーヴィンドを護り通すことができるのか、と案じる想いを。
 ……正直アーヴィンドとしては拍子抜けというか、これまでとは打って変わったそのあまりのしおらしさと健気さに驚愕せざるをえない気持ちだったのだが、フェイクからするとそこまで驚くことでもないらしい。
『元からそいつはお前さん自身に対しちゃそのくらいの心持ちでいたさ。単に、お前さんに否定されるから喧嘩腰になってただけでな』
『いや、だからって、あまりに変わりすぎじゃないか? ヴィオやルクに対しても、蔑むような態度を急に取らなくなったし、傲岸な言動も突然なくなったし……』
『そりゃ、お前さんに捨てられる心配がなくなったからさ。自分には、他の誰にも代わりの利かない特別席を、お前さんは用意してくれてる、ってな。不安がなくなればムキになって周りを攻撃する必要もなくなる。よほど性格の悪い奴でもなければ、心と状況に余裕が生まれれば、それなりには他人に優しくなれるだろうさ』
 そう言われると、ラーヤのこれまでの態度が、すべてアーヴィンドの態度のせい、ということになり、申し訳なさと同時に納得のいかなさも覚えるのだが、フェイクはそんなアーヴィンドの心境も笑い飛ばしてみせた。
『忘れるなよ? 相手は使い魔だぜ? 性格も在りようも主次第でどうとでも変わる相手だ。しかも向こうさんは生まれからして使い魔たるべく創られた命だ、いくら人間並みの知性と理性を持ってるったって、一個の人格として扱うにゃあ不足するのが当たり前だろうさ。ま、俺もそれに気づいたのは、あいつがしおらしくなってからのことだがな』
『………誰にも代わりの利かない特別席、っていうのが使い魔としての……尊敬すべき一個の人格に対してのものじゃないってことも、彼女にはむしろ嬉しかっただろう、ってこと?』
『そういうこった。『自分は間違いなく主に所有されている』って思えたから、意地を張る必要がなくなったんだろうさ』
 つまりは自分の見識不足、という結論になってしまうわけで、アーヴィンドとしてもそう言われると、正直反論の余地がない。魔術師としてさして経験を積んでいるわけでもない自分に、そんな見識を持つことができたかというと、無理があるとは思うのだが(フェイクも現在の状況になってから気づいたわけだし)、だからといって自分の未熟を認めないのはそれこそ愚か者の所業だろう。
 ドレックノールで、漏洩した過去の記録をもとに創り上げられてしまった、哀れな魔獣。あれを見た時の、ラーヤから伝わってきた、掛け値なしの衝撃と悲嘆。その感情にアーヴィンドは同調し、同情し、同時に憤りを覚えた。稚い少女の心に傷を負わせた相手に対するごとく、自身のけして穢されたくない誇りを蔑んだ者に対するごとく、激甚な怒りを覚え、その感情のままに全力で魔獣の魂を送るべきところに送った。
『自分の一部』としてラーヤの感情を受け取り、激発してしまった事実が、ラーヤにとってはこの上ない自己肯定に繋がり、アーヴィンド自身の想いや考えを尊重し、愛おしむ余裕を生じさせたのだと思うと、正直自分の感情に振り回されてばかりのラーヤに、申し訳なさと哀れみを感じもするのだが。自分の人生に添おうとする相手として、自分なりに応えてやりたいという想いも生じていた。
 自分たちがこのワイアット山脈を登り、ドラゴンズ・クレーター―――ワイアット山脈の中央部、死火山の火口が陥没してできた湖に存在するドラゴンの群生地を目指しているのは、もちろんそれだけではないにしろ、あの哀れな魔獣のような存在を、これ以上生まれさせないために、という理由も――いくぶんかはラーヤをこれ以上悲しませないために、という想いの込められた理由も、あるのだから。
「……おそらく、もうすぐドラゴンズ・クレーターのドラゴンたちの縄張りに入るぞ」
 ぼそり、と告げられたフェイクに、いよいよか、とアーヴィンドは気合を入れ直す。ヴィオもわくわくした気持ちのこもった笑顔で、大きくうなずいてみせた。
「そっかー、いよいよドラゴンに会えるのかー。フェイクは二度目なんだよな? だからそんな元気ないの?」
「そういうわけじゃねぇよ。単に、エンシェント・ドラゴンなんてお方は、人がそう何度も会っていい存在じゃねぇって思ってるだけだ」
「そーなの?」
「……それに、前回来た時も、忠言はもらえたが、問題の解決自体はしてくれなかったしな。あんなとんでもない存在と対峙する心労に値するほどのものは手に入れられないだろう、って考えてるせいもあるかもしれねぇ」
「へー……俺、エンシェント・ドラゴンなんてのと会えるってだけでもワクワクしちゃうけどなー。この世界が始まった時から生きてたんだろ? なんかもーめっちゃくちゃすげーの塊じゃん」
「それは否定しねぇけどな……」
 珍しく余裕のないフェイクの反応に、アーヴィンドは小さくくすり、と笑声を漏らす。とたんじろり、とフェイクに睨まれて慌てて頭を下げたが、フェイクの反応も道理であろう、とはアーヴィンドも考えていたのだ。
 自分たちがこれから会いにいこうとしている相手は、竜の集まる地、ドラゴンズ・クレーターの主たる、エンシェント・ドラゴンのアクシズ。フォーセリア大陸でほぼ唯一の、人間が会いに行くことのかなう古竜。太古の大いなる一、始原の巨人の鱗から生じし幻獣の頂点たちの一員なのだから。

 フェイクのいう、『ドラゴンたちの縄張り』に入るや、視線を感じるようになった。彼方から、いくつもの視線が、自分たちを眺め回しているような感覚。
 けれど自分たちの前に誰かが立ちふさがることはなく、歩みを止められることもなかった。自分たちはドラゴンズ・クレーターに一番近い山のふもとにまでフェイクの呪文で転移してきて、そこから山登りを始めたのだが、その道行自体は相当に過酷なものではあったものの、(地形や天然自然の罠、危険な動植物との遭遇を除けば)邪魔らしい邪魔は一度も入らなかったのだ。
 けれど当然のことながら、油断することなく警戒を怠ることなく、じわじわと歩を進めること、ふもとに転移してきた日から数えて数日。自分たちは、ドラゴンズ・クレーターにたどり着いた。
「うわ………」
 ヴィオが言葉を失いながらも、幾度も周囲を見回す。フェイクも固い面持ちで口を閉じている。ルクは一見特に反応していないように見えるが、あらかじめ絶対に自分から武器を構えないように、と言い聞かせていたからだろう、拳をぎゅっと握り締めて身を固くしており、ラーヤはアーヴィンドの足元で、ひどく不安げに忙しなくアーヴィンドと眼下の状況を見比べている。
 アーヴィンドも、眼下の場景の圧力に、喉がひりつき、全身が固くなるのを感じていた。眼下に見える湖には、十数頭のドラゴン――レッサー・ドラゴンからエルダー・ドラゴンまで、姿も気配もさまざまながらも圧倒的な圧力を持つことだけは共通している幻獣たちが鎮座し、最奥ではそれらのどのドラゴンよりも大きく、静かでありながらも圧倒的な威風と存在感を有した、神威すら感じるドラゴンがじっと自分たちを見つめていたからだ。
 あれがアクシズ。エンシェント・ドラゴンの一柱。彼が炎を一吹きするだけで、十二分に自分たち全員を殺すのに足りるだろう。そうでなくとも、少しでも妙な動きをすれば、自分たちは十数頭のドラゴンにあっという間に八つ裂きにされるに違いない。
 そう考えると、やはりどうしても息が詰まるような緊張を感じるが、だからといっていつまでも黙っているわけにはいかない。フェイクはじめ仲間たちにわがままを言って、ここまで無理やりついてきてもらったのだ。為すべきことをしなければ、という強烈な使命感に突き動かされて、アーヴィンドは進み出て、深々と頭を下げながら口を開いた。ドラゴンたちに少しでも誠意を示すべく、最近ようやくまともに操れるようになったリザードマン語で。
『お初にお目にかかります。私の名はアーヴィンド。我らの身に降りかかった呪いにいかに対処するかについて、天地開闢より生き続ける古竜の一柱たるアクシズ殿の叡智をお借りしたく思い、図々しくもこの地にまかり越しました。矮小な人の身で古竜の知恵を借り受けんとする、厚かましさに恥じ入る心は溢れんばかりですが、我らに与えられた呪いは、我らのみならず周囲の運命まで歪め、無駄な犠牲をあまた増やしながら、破局を量産し続けています。狂える魔獣を興じさせるためだけに。そのように無駄に命が失われ、魂が穢されていくことを座視するなど、できようはずもありません』
 さらに深々と頭を下げ、真情からの心情をこめて、アクシズに希う。
『どうか、偉大なる古竜よ。少しでも犠牲を減らすために、不幸を防ぐために、その深遠なる叡智を、貸し与えてはいただけませんでしょうか』
 言い終えたのち、その場に訪れたのは、針の落ちる音も聞こえそうなほどの沈黙。―――それからしばしの間をおいてから、低く、穏やかな声が、湖の上に響き渡った。
『人と妖精の血を引く者よ。久方ぶりだな』
『………はい』
 フェイクが前に進み出て、恭しささえ感じる仕草で頭を下げる。フェイクの言葉もやはりリザードマン語だ。アクシズはじっとフェイクを見据え、淡々と続ける。
『そなたの呪いは解けたようではあるが。あの時言っていたように、他の呪いを与えられた子供たちに手を貸して、再び自身も呪われたか。そなた自身の選択とはいえ、大儀なことだ』
『俺なりに、一応、納得はしています』
『そうでなければあまりに虚しかろうよ。………さて、人の子よ』
『………はい』
『人の子』という定義にはヴィオも当てはまるが、ここではアーヴィンドを指していると考えていいだろう。フェイク同様に進み出て、首を垂れる。
『そなたの求めるものは理解した。だが、宝であれ智恵であれ、竜の有するものを求める者は、みな代償を支払わなくてはならぬ』
『はい』
『そなたは、我が智恵に対する代償として、なにを支払う?』
『私に支払える、できる限りを。……古竜の一柱の宝物庫に加える価値があるほどのものを持ち合わせてはいませんが、私は傷を癒すことはできます。仲間たちと協力すれば、偉大なる竜の方々には似つかわしくない、こまごまとした雑事、難事を片付けることもかないましょう』
『ふ……傷を癒す、か。なるほど……』
 アクシズは苦笑するように小さく喉を鳴らし(その奥から炎がいくぶん漏れ出た)、ゆっくりと湖と、そこに集うドラゴンたちを見渡してから、告げた。
『では、人の子よ。まずそなたたちには、竜の試練を与えるとしよう。そなたたち脆弱なる人の力をもって、この地に集う竜一体と戦い、退けてみせるがいい』
『――――、承知仕りました』
 アーヴィンドがさらに頭を下げてそう答えると、ずっと沈黙を守っていたドラゴンたちがいっせいに、ここぞとばかりに吠え猛った。おそらくは自分たちの縄張りに入ってきてああだこうだと抜かす脆弱な人間に鬱憤を貯めていたのだろう。自分を選べ、自分があの人間どもを食い殺してやると、あらん限りの声で喚きたてている。
 だがアクシズが一声吠えるやその声は静まり返り、その中の一体―――火竜とおぼしきレッサー・ドラゴンが、翼を大きく広げてばっさばっさと飛び立った。自分たちの眼前、ドラゴンズ・クレーターの上空の端で停止し、自分たちを睨み据える。
『では―――はじめ!』
「グォルガアァァッ!!」
 アクシズの声と同時に、レッサー・ドラゴンは吠え猛る。聞くものすべてを狂乱させるドラゴンの咆哮が鳴り響く。
 だが、それよりも早く、フェイクは魔法抵抗≠唱えていた。もしドラゴンの咆哮に支配されてしまえば、戦線が崩壊しかねない。レッサー・ドラゴンが相手ならば抵抗できる可能性は低くはなかったが、念には念を入れておこうとあらかじめ決めてあったのだ。
 続いて、アーヴィンドは対炎防護≠唱える。火竜の吐息は鉄をも溶かす、少しでも被害を抑えられるようにしておかなくてはならない。
 その後に即座にヴィオが戦乙女の守護≠全員にかける。戦乙女の守護≠ノよる防護壁は通常の防御よりも先に働くが、対炎防護≠フいかなる炎にも抗しうる力も、直接的に炎の威力を減衰する魔法の防護も、戦乙女の守護≠長持ちさせるのに有効だ。
 そしてそれに一瞬遅れて、ラーヤが全速力で飛び出し、戦場から離れる。ラーヤがこの戦いでできることはほぼないが、自分もなにか役に立ちたいと主張したため、姿を見せておきながら突然逃げ出すことで、わずかにでもレッサー・ドラゴンの気を逸らすことができれば、という楽観的な希望に基づく目論見なのだ。
 それよりなにより、真っ先に飛び出したのはルクだった。両腕で魔法のダガーを抜き、軽業にしか見えない動きで宙に舞い上がり、レッサー・ドラゴンに斬りつける。
 当然ながら、そんな無理な姿勢から振るった短剣が、竜に傷をつけるなどできるはずがない。短剣はぎぃんと鈍い音を立てて弾かれるも、ルクはすたりと鮮やかに着地する。
 だが、レッサー・ドラゴンは、空中にいる自分に斬りつけたことそのものに怒りを抱いたようだった。自分たちの上空へと舞い上がり、高空から炎の吐息を吹きつけようとする―――
 それより前に、ヴィオの精霊語の呪文の詠唱が響いた。
「風の王よ、天空に吹き荒れる力たる者よ、その咆哮をここに! 万物を斬り裂く刃となって、我らが敵を呑み込み打ち倒せ!=v
 寸前に、アーヴィンドがラーヤの魔力を使った精神力付与≠ノよって、戦乙女の守護≠ナ消費した魔力を回復した上で、全力でぎりぎりまで魔力を消費して威力を強化しての暴風=B『ドラゴンの翼を斬り裂いて地面に落とすのは、それが一番いい』というフェイクのお墨つきで、作戦に採り入れられた呪文だ。
 ぎりぎりまで強化してあるのみならず、ヴィオにはフェイクの私物の魔法の品である最小四の賽子≠渡し、万一なんらかの不運でうまく呪文が発動できなかった時に、その不運をひっくり返す魔力が発動できるようにしてある。レッサー・ドラゴンならば、ここまでやれば間違いなく呪文を完全な効果で発動できる、とフェイクは言いきった。
 そして、フェイクの言葉通りに、ヴィオの暴風≠ヘ完全な効果を発揮してくれたようだった。火竜の翼は斬り裂かれ、どぉんっと大きな音を立てて地面に落とされる。痛みと衝撃のせいか、呻き声を上げて一瞬動きの止まったレッサー・ドラゴンに、あえて一瞬動きを止めていたルクが襲いかかる。
 その動きはフェイクの能力増強≠受けて、普段よりさらに速い。雷光のごとき速度でドラゴンの懐へと踏み込み、ずばっ、ずばっと喉元の柔らかい部分を斬り裂いた。
 レッサー・ドラゴンは絶叫し、自分たちに顔を向け、炎の吐息の発射態勢に入る。だがその間にも、ルクは火竜の懐に突撃し傷をつける。アーヴィンドは魔晶石から魔力を引き出し、対炎防護円≠フ呪文を唱えて準備を整えた。フェイクとヴィオも、防護≠ニ水膜≠フ呪文を全員にかけ終えている。
 竜の口から、炎の吐息が炸裂した。その巨体から発された炎は、それこそ燎原の火のごとく広がり、自分たち全員を押し包む。だが、対炎防護≠はじめとした魔法の守護で軽減された上に、戦乙女の守護≠ナ護られているのだ、自分たちの身体は火傷ひとつすら負いはしない。
 それからも幾度も魔法を放ち、武器を振るい、炎を吐かれ、爪と牙を振るわれて、傷つけあった。戦乙女の守護≠フ護りにもさすがに早々に限界が来て、それからは互いに命を削りながらの一進一退の攻防がじわじわと続く。
 支援のための魔法でほぼ魔力を使い果たしていたアーヴィンドは、後方で必死に戦況を見守りながら、魔晶石の魔力を使って傷を負った者に癒し≠フ魔法をかけるのをくり返していた。いかに魔法で全員を強化できるだけ強化しているとはいえ、相手は下位であろうとも竜、幻獣の王だ。フェイクやルクほどになればまだしも、ヴィオの戦士としての腕前では、竜の攻撃をしのぎ切るのは難しい。
 だが、ヴィオは作戦を立てる段階から、魔法をかけ終えれば前線に立って戦うと宣言していた。作戦がすべてうまく運んだとしても、魔力も魔晶石もあっという間に使い果たすことになるだろう。となれば、自分が役に立てるのは、前線での斬った張ったしかない、と。
 フェイクやルクがいかに巧みに攻撃をかわせるとはいっても、どちらもその戦い方は盗賊のもの。一回でも攻撃を避け損ねれば、致命傷になりかねない。ならば弾除けは少しでも多い方がいい、と。その思考は冒険者としてある意味当然のものだし、ヴィオがそこまで戦術的な思考を働かせることができるようになったことに、感慨を覚えたのも確かだ。
 だがヴィオも、分厚い銀の板金鎧で攻撃を防いでいるとはいえ、竜の攻撃すべてを避け損ねれば、あっという間に命を奪われかねないのだ。となれば、鍵になるのは後方支援―――傷を癒すために後方に退避している、アーヴィンドということになる。
 全体の状態を見極めて、ドラゴンが次にどう攻めてくるか、こちらはどう攻めるべきかを判断し、仲間に判断の失敗があるようなら即座に指示を飛ばす。仲間に傷が入れば、即座に癒し≠フ呪文をかける。
 だが傷はできる限り完全に癒しておかねばならないが、魔晶石にも限りがある、いくらでも傷を癒せるというわけではない。レッサー・ドラゴンが次どう行動するかを見極め、被害が致命的にならないように、かつ少しでも長く戦線を維持できるように、的確な判断を下して行動しなくてはならない。
 一瞬の判断の間違いが仲間の死を招く。判断を一度も間違わなかったとしても、絶対に勝利できる保証はない。緊張と恐怖で吐き気を催しながら、脳を焼き切れそうなほどに回転させて、無限と思えるほどの竜の生命力を削るために全力を尽くす―――
 つまりは、いつも通りの冒険者の戦いだ。
 それがどれほど続いたか。最初にかけた補助の魔法が切れる可能性をそろそろ意識し始めた頃、ふいに『そこまで!』という声が響いた。
 一瞬遅れてその声がリザードマン語であることを意識し、それからその声がアクシズ―――エンシェント・ドラゴンのものであることを悟り、目の前のレッサー・ドラゴンが悔しげに小さく呻いてよろよろと後ずさり座り込むのを見て取り、それから自分たちは竜の試練に打ち勝ったのだ、という自覚がやってきた。
 溢れそうな達成感と興奮のまま、仲間たちへと駆け寄って、仲間たちが精魂尽き果てたという顔でへたり込むのに、大慌てで傷を癒して回る。仲間たちは全員傷だらけ、気息奄々を絵に描いたような格好だった。
「はー………もー………なんていうか………すっげー、死ぬかと、思った………」
「………まぁ、相手はドラゴン、だからな。当たり前っちゃ………当たり前なんだが。パーティ内で、一番の、腕前の戦士が、精霊使いと兼業、ってんだから………そりゃ、攻撃力は、不足するのが、道理だわな………わかってたことだが」
「…………、……………」
 普段表情をまともに動かさないルクさえも、あきらかな疲労の表情を浮かべて動かない。アーヴィンドはそんな彼らに、残った魔晶石でできる限りの癒しを与え、「お疲れさま」「みんなが頑張ってくれたおかげだよ」と必死に声をかけて励ました。
「マスタぁ〜っ!!!」
 そんな半泣きの声を響かせて、ラーヤが突進してくる。彼女の心の底からの心配の念を感じ取っていたアーヴィンドは、これは受け止めないわけにはいかないか、とその突撃を受け止め、一瞬その予想以上の力と勢いに息を詰まらせる。
「うぅ〜っ、マスター、マスター、マスターっ………! もうっ、もうっ、ほんとに、ホントに心配したんだからねっ!? 竜と正面から戦うとか、いくらレッサー種相手でも、古代王国の魔術師だってそうそうやらないのに………! もう、ホントにっ、心配したんだからぁ〜っ………!」
「ああ、わかってる、心配しないでいいから。僕がほとんど傷を受けなかったのは、君だってわかってるはずだろう?」
「それはそうだけどっ………でも、心配だったのぉっ! うぅ〜っ」
 苦笑しながらその翼を生やした猫、といういささか撫でにくい姿形をした背中をできるだけ優しく撫でる。自分のわがままでラーヤを泣かせてしまったことを、いささかならず苦に思うぐらいには、彼女と自分の心が近づいていることを改めて認識できて、ほっとしたようなくすぐったいような気分だった。
『………さて。それでは、竜の試練をくぐり抜けた者に、改めて話をさせてもらうとしようか』
 アクシズの声に、はっと向き直って姿勢を正す。アクシズはドラゴンズ・クレーターの最奥から少しも動いてはいなかったが、その威風も迫力も、一瞬でもその存在を意識から外したことが信じられないほどに苛烈だ。自分たちが戦っていた時は、あえて気配を消していたのかもしれないな、などと思いながら、真正面から向き合って頭を下げる。
『よろしく、お願いいたします』
『そなたたちがかけられた呪いは、狂える魔獣の系譜に連なるもの。人の子たちが狂える魔獣から直接に呪いをかけられていたことが、因果を導き呪いを重ねられた理由でもあるだろう。呪いとしての親和性そのものが高い代物でもあるようだ。神の力なりなんなりで無理やり呪いを解こうとすれば、むしろ呪いが強化される危険性も高い。呪いを解く方法そのものは、そなたたちがすでに行っている通り、想定された呪いの解き方を、そのまま為し続けるしかあるまい』
「…………」
『だが、人の子よ。そなたが今なにより気にかけている、狂える魔獣のしもべたる人形については、打つ手がなくもない』
「…………!」
『そやつはかつて狂える魔獣が創り出した、魔術により命を与えられた人形の最後の一体。人形でありながら、狂える魔獣の心と魂の似姿を注ぎ込まれ、この世に狂気を満たすために働き続けるもの。それらはかつては幾体もこの世に在り、数多の不幸を創り出していたが、長い年月のうちにそのほとんどが討ち取られ、動きを止めた。だが、そなたが探しているのはその中で、唯一今も働き続けるもの。幾度もの休眠期を経ながら、幾度も目覚め、そのたびに『世に狂気を振り撒け』という狂える魔獣の命令に従い、災いを創り出し続けるものだ』
 人形。つまりそれは、魔法生物ということか? 魔法が使えるというのに? いや、魔法生物にもシーのように、魔法を使うことができるものは存在している。それと同系列と考えるべきか。幾度も休眠期を経て活動し続けているもの。狂える魔獣の心と魂の似姿を注ぎ込まれたもの。つまり、アブガヒード同様の魔術を使うことが………? いや、似姿というからにはそこまでではあるまい、だが古代王国期の魔法技術をそのまま有してはいるはずだ。それを駆使して、創造された際にアブガヒードから下された命令を果たし続けているということなのか。それに対する打つ手、とは?
 懸命にアーヴィンドが頭を回転させているのを静かに見つめながら、アクシズは続ける。
『人の世に我らが介入することはないが、狂える魔獣はすでに半ば人の器よりはみ出した存在。人の世にあらざるべきもの。そのしもべたる人形も、人の世の埒外より災禍を生み出し続けるもの、我の意に染む存在ではない。そして、今ここに、そやつらによって因果を歪められた者たちが立っている。ならば、少しばかりその者たちの道行きに祝福を与える程度のことはしよう』
 言うやアクシズは静かに息を吸い込み、「グルォ―――――――ン………」と、静かに、それでいてこちらの肌が震えるほど強烈に、咆哮とも鳴き声とも違う、しいて言えば歌っているかのごとき声を上げた。驚き目を瞬かせるアーヴィンドたちに改めて向き直ってから、淡々と告げる。
『そなたらの因果と、人形の因果を繋ぎ合わせた。そなたらの思うままに道を進むがよい。人形の残した足跡をたどり、その災禍を解決して回れば、進んだ先に、必ず人形は現れよう』
『………ありがとうございます、偉大なる古竜、アクシズよ!』
『ありがとうございます』
 頭を下げるアーヴィンドとフェイクに、ヴィオはきょとんとしてからはっと気づいてそれに追従し、ラーヤも翼持つ猫の姿のまま平伏する。ルクは一人へたり込んだまま動かなかったが、アクシズはそれに気を留めた風もなく、やはり淡々と続ける。
『………さて、それでは、そなたたちが先ほど宣言した通り、『こまごまとした雑事、難事』とやらを片付けてもらおうか。我ら竜種には向かぬ、小さき手を持つ人なればこそ為せる仕事というものは、本来の我らならば些事として捨ておくが、片付けられるのならば片付けておくにこしたことはない、というものが多いのでな、仕事は多いぞ』
「えっ………」
『こき使わせてもらうが、かまわんな?』
『………はっ!』
 そう答えてアーヴィンドは再度頭を下げた。古竜相手にそれ以外、許される反応がある気がしなかったので。
 結果、アーヴィンドたちは数日かけて、最近作った傷の治療から始まり、古傷の治療、ねぐらの掃除、宝物の手入れ、鱗磨き、痒いところを掻く仕事、爪に刺さったトゲ抜き、ねぐら等でのちょっと気に入らない岩や樹木の配置換え等々、フェイクの秘蔵していた魔法の道具をこっそり総動員しなければ追いつかないほど、多種多様な仕事を疲れ果てるまでやらされて―――とうとう解放されて街に戻れるという時に、『駄賃だ。我が所蔵する宝物の中ではさして価値のない代物ゆえ、下げ渡す』と、とんでもない大粒の宝石をいくつも渡されて、仰天することになるのだった。

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キャラクター・データ
アーヴィンド・クラーク・リズレイ・プリチャード(人間、男、十五歳)
器用度 12(+2) 敏捷度 20(+3) 知力 23+1(+4) 筋力 15(+2) 生命力 19(+3) 精神力 20(+3)
保有技能 プリースト(ファリス)8、セージ7、ファイター4、ソーサラー3、レンジャー2、ノーブル3
冒険者レベル 8 生命抵抗力 11 精神抵抗力 11
経験点 727 所持金 3300ガメル+共有財産14000ガメル
武器 ヘビーメイス+1(必要筋力15) 攻撃力 7 打撃力 20 追加ダメージ 7
銀のダガー(必要筋力5) 攻撃力 5 打撃力 5 追加ダメージ 6
ロングボウ(必要筋力15)/矢&銀の矢×60 攻撃力 6 打撃力 20 追加ダメージ 6
ラージ・シールド+1 回避力 10
ラメラー・アーマー+1(必要筋力15) 防御力 20 ダメージ減少 9
魔法 神聖魔法(ファリス)7レベル 魔力 12
古代語魔法3レベル 魔力 7
言語 会話:共通語、東方語、西方語、エルフ語、ドワーフ語、上位古代語、下位古代語、リザードマン語
読文:共通語、東方語、西方語、エルフ語、ドワーフ語、上位古代語、下位古代語
マジックアイテム 魔晶石(5点×2、3点×6、2点×7、1点×10)
ヴィオ(人間、性別不詳、十五歳)
器用度 15(+2) 敏捷度 19(+3) 知力 18(+3) 筋力 18(+3) 生命力 21(+3) 精神力 21(+3)
保有技能 シャーマン7、ファイター7、レンジャー6
冒険者レベル 7 生命抵抗力 10 精神抵抗力 10
経験点 1237 所持金 5700ガメル
武器 ロングスピア+1(必要筋力18) 攻撃力 10 打撃力 25 追加ダメージ 11
ロングボウ(必要筋力18)/矢&銀の矢×60 攻撃力 9 打撃力 23 追加ダメージ 10
なし 回避力 9
銀の最高品質プレート・メイル(必要筋力18) 防御力 28 ダメージ減少 7
魔法 精霊魔法7レベル 魔力 10
言語 会話:共通語、東方語、精霊語
読文:共通語、東方語
マジックアイテム 魔晶石(8点×1、5点×5、4点×10、3点×10、2点×10、1点×20)
月の主<tェイク(ハーフエルフ、男、九十歳)
器用度 18(+3) 敏捷度 21(+3) 知力 19(+3) 筋力 10(+1) 生命力 18(+3) 精神力 21(+3)
保有技能 シーフ10、ソーサラー9、レンジャー7、セージ6、バード6
冒険者レベル 10 生命抵抗力 13 精神抵抗力 13
経験点 2897 所持金 財布の中に入ってるだけで10000ガメル程度
武器 月光の刃 攻撃力 16 打撃力 13 追加ダメージ 14
なし 回避力 16
ソフト・レザー+3(必要筋力5) 防御力 5 ダメージ減少 13
魔法 古代語魔法9レベル 魔力 12
呪歌 ヒーリング、レストア・メンタルパワー、チャーム、レクイエム、キュアリオスティ、ノスタルジィ
言語 会話:共通語、東方語、上位古代語、下位古代語、西方語、エルフ語、ドワーフ語、リザードマン語、ケンタウロス語、ゴブリン語、マーマン語、ジャイアント語、ハーピー語
読文:共通語、東方語、上位古代語、下位古代語、西方語、エルフ語、ドワーフ語
ルク(グラスランナー、男、五十一歳)
器用度 24(+4) 敏捷度 28(+4) 知力 18(+3) 筋力 6(+1) 生命力 18(+3) 精神力 24(+4)
保有技能 シーフ9、レンジャー5、セージ2
冒険者レベル 9 生命抵抗力 12 精神抵抗力 13
経験点 3936 所持金 4700ガメル
武器 ダガー+2(必要筋力3)×2 攻撃力 13 打撃力 3 追加ダメージ 12
銀の高品質ダガー×2 攻撃力 11 打撃力 5 追加ダメージ 10
スリング+2(必要筋力3) 攻撃力 15 打撃力 8 追加ダメージ 12
なし 回避力 14
ソフト・レザー+1 防御力 3 ダメージ減少 10
言語 会話:共通語、西方語、東方語
読文:共通語、西方語、東方語
マジックアイテム エクスプローシブ・ブリット×3、クイックネス・リング、コモン・ルーン/カウンター・マジック&プロテクション
ラーヤ(インデフィニット・ファミリアー、女、六百十二歳)
モンスター・レベル=8 知名度=20 敏捷度=18 移動速度=18/30(空中) 出現数=単独 出現頻度=ごくまれ 知能=高い 反応=中立
攻撃点=爪:17(10) 打撃点=13 回避点=19(12) 防御点=10 生命点/抵抗値=10/17(10) 精神点/抵抗値=18/19(12)
特殊能力=使い魔としての強力な適性、変身、飛行、不眠 棲息地=人里の近く 言語=アーヴィンドの使用する言語と同じ 知覚=五感(暗視)