「おい、リョーマ、急げよ。クリスマスパーティに遅れちまうぞ」 「そもそも、お前がモタモタしてたから遅れたんだけど?」 「う、うっせぇな。つべこべ言わずに、とっとと歩けばいいだろ」 「二人とも遅いよ! お喋りしてる暇があったら足を進める!」 「わーってるよっ」 今日は十二月二十四日。クリスマス・イヴだ。 越前家でもパーティをやる予定はあったのだが、それより先に隼人、巴、リョーマの三人は青学テニス部でのクリスマスパーティに誘われていた。ファミレスでのパーティだが、テニス部のみんなで騒げるというのは嬉しいし楽しみだ。それにテニス部OB――三年の先輩たちも来てくれるというし。 今日のためにプレゼントももちろん用意してある。この前希望ヶ丘テニスクラブで手伝いをして、ちょっとした臨時収入を得たので張りこんでカシミアのマフラーだ。 誰に当たるかはわからないけど、少なくとも嫌がられることはないと思う。暖かいし。 巴は器用にも、手編みの手袋なんてものをプレゼントにするらしい。どうりで十二月に入ってから忙しそうにしていると思ったら。 リョーマがどんなプレゼントを買ったのかは教えてくれなかったので知らないが、まぁそれはいつものことだ。 ――そして、隼人のバッグの中には、もうひとつプレゼントが入っているのだが―― そんなのは全然言う必要なんかないぜ、と隼人は強がって足を速めた。 「コホン、それではただいまよりクリスマスパーティを始めるワケで……まずは幹事として、ちょっとばかしあいさつを。ええ〜、本日はたいへんお日柄もよく、みんながこうして、この……」 ほとんど結婚式のスピーチになっている桃城の挨拶に、予想通り海堂が冷たく言った。 「うぜぇんだよ……」 「誰だぁ? 今、うぜぇとかヌカしやがったのは!?」 「フン……」 「なになに? 楽しいパーティの前に、またケンカ始めちゃうの?」 「しかもまだ乾杯前だぞ」 「フフ……いろいろ問題が多いみたいだね、新チームは」 「マムシのヤロウがいけないんスよ! 俺が徹夜で考えた幹事のあいさつを……」 「確かにうざいっスね」 「な、なに〜っ!?」 「ああ。できることなら、簡潔にまとめてもらいたいな」 「うん、努力はわかるけど、結婚式ってわけじゃないんだしね」 「くう……へいへいっ、わかりましたよ! んじゃ、全員ジュース持って……乾杯っ!!」 『カンパーイ!』 三年の先輩たちと、みんなでお喋り。全国大会の前までは、わりとよくあったことだ。 もうこんな機会ないだろうと思っていたから、この一時がたまらなく嬉しい。巴も騎一もそれぞれ三年の先輩と話している。 俺は誰と話そうかな、と周囲を見渡して、不二が一人でいるのを見つけ、そちらの方へ一歩踏み出した。 『不二先輩!』 自分と同時にかけられた声に、隼人は驚いて隣を向く。そこには声で予想した通り、リョーマが立っていた。 当然、ムッとして隼人はリョーマを睨みつける。 「引っ込んでろよ。俺の方が先に不二先輩に声かけたんだぞ」 リョーマもこちらを睨みつけてきた。 「子供じゃないんだから、どっちが先だったから偉いみたいな言い方しないでくれる。第一どう聞いても同時だったね」 「なんだよ。お前前に自分の方が先にいただきますっつったからって理由でおかず大量に取ってっただろ!」 「どうでもいいことだけは覚えてるんだね。少しはその頭を建設的な方向に使ったら? 勉強とか。どうせテニスじゃ勝てないんだから」 「ぁんだと、コラ!?」 「事実じゃん。今月のランキング戦も俺が勝ったし」 「ぐっ、けどそのあと家でやった試合では俺が勝っただろっ!」 「でも、ランキング戦では俺の勝ちだったね。実際練習試合以外で俺お前に負けてないし」 「ぐっ……それは同じ青学だからだろっ、公式戦でぶつかったら俺が勝ってるっ!」 「そんなわけないじゃん」 「あるっ! Jr選抜で当たったらコテンパンにしてやっかんな!」 「無理なことは言わない方がいいと思うけど?」 「言ってろ! 絶対ぇ目にもの見せてやっかんな!」 「……ふーん。まぁ、楽しみにしておいてあげるよ。無理だと思うけど」 「ぐぬぬ〜」 睨み合う隼人とリョーマ。と、ふいに不二がぷっと吹き出した。 「……へ? 不二先輩?」 「あ、いや、ごめん。なんていうか、本当に君たちは気が合ってるんだなって思って。全国大会のダブルスでそれはよくわかってたけど、久々にこうも見事な掛け合いを見せられると……フフッ、嬉しくなっちゃって」 「……は? なんで不二先輩が喜ぶんスか?」 「半分は、君たちが変わってないなって思えたから。もう半分は……秘密」 「えー! なんスかそれー!」 隼人はぶーぶーとブーイングを飛ばしたが、不二はにっこり笑ってそれを黙殺した。 「それより、なにか話があったんじゃないのかい? 越前、隼人?」 「あ、そうっスよ! 不二先輩、受験勉強の方大丈夫っスか?」 「隼人じゃないんだから大丈夫だと思うけど?」 「ぁんだと、コラ!?」 「フフッ……本当に仲がいいね、君たちは」 と、桃城がファミレスの入り口の方を見やって歓声を上げた。 「先輩! こっちっス! おーいみんな、スペシャルゲストの登場だぜ!」 全員の視線が桃城の声の先に集中する。とたん、全員が歓声を上げた。 『手塚先輩!』 「日本に帰ってきてたんスか!?」 「クリスマス休みというやつだ。日本の正月休みが少し早くなったようなものだな」 もう懐かしいとすら感じるようになってしまった手塚のひどく冷静な声。こちらをしっかりと見つめる心の底まで見通すような視線も変わらない。手塚先輩はやっぱり手塚先輩だぜ、と思わず嬉しくなった。 「手塚先輩、どうですか、向こうは?」 「毎日が充実している。科学的なトレーニングと非常に優秀な選手との出会い。留学を決めて、本当によかったと思っている。これもみな、快く送り出してくれた、お前たちのおかげだ。礼を言う」 「そんなの……私たちのおかげなんかじゃないです。手塚先輩が頑張ったからですよ」 巴がどこか切なげな声で言う。巴と一番多くペアを組んできたのは手塚先輩だから、巴なりに思うところがあるのだろう。 「さて、手塚先輩もそろったし、そろそろプレゼント交換を始めるっスよ!」 桃城の宣言と共にプレゼント交換は始まった。音楽を流すわけにもいかないので、それぞれ差し出したプレゼントをじゃんけんで勝った人間から選んでいくというものだが、わりあい盛り上がる。 「うっしゃ、勝ちぃ!」 「隼人くんじゃんけん強すぎだよ〜!」 「少しは先輩を立てやがれ!」 「いやいや、勝負の世界は厳しいんスよ! どっれにしようかな〜……」 軽く全体を見回して、ふと一個の平べったいプレゼントが目に入った。別に豪華な包装をされているというわけではないのだが、なんとなくリボンの色が気に入った。 「じゃ、俺これ〜」 「…………………」 「? どうしたの、リョーマくん?」 「別に、なんでも」 リョーマがなにやら仏頂面でこっちを見ているが、せっかくのプレゼントなのにわざわざ喧嘩して喜びに水を差すこともない。隼人は無視してプレゼントのリボンを解いた。 「なっにかな〜」 鼻歌を歌いながら包装を開けると、中に入っていたのは帽子だった。リョーマのいつもかぶっている帽子と同じモデル。 誰からだろう、と思って包装の中を探ってみるがカードの類はない。別にクリスマスプレゼントだし、誰のプレゼントかわからなくてもただもらっておけばいいのだろうが、なんとなく気になった。 その帽子はリョーマと同じモデルではあったけれども色やら細かい部分やらが違っていて、今度かぶってみようかな、と思わせてくれたからなおさらだ。 どこかに名前書いてないかな、と調べていると、リョーマの声が聞こえてきた。 「俺の勝ちだね」 リョーマがじゃんけんに勝ったらしい。なんとなくそちらの方に視線をやって、「あ」と思わず呟いた。 リョーマが選んだプレゼントは、自分のものだったのだ。リョーマにはプレゼントの包装も中身も見せてないから、絶対に自分のだなんてわからないのに。 なんだか妙に照れくさい気持ちになって、でもそれを素直に表すのは気恥ずかしくて、リョーマから微妙に視線を逸らした。 ――なんか、あれリョーマに受け取られちまったら、こっち差し出すの、なんか、馬鹿みてぇ……。 そういう気持ちも、湧きあがってきてしまったし。 この街ではクリスマスに花火を打ち上げるということで、パーティを終えたあと青学テニス部員全員で高台の公園へと移動する。三年の先輩も含めた全員だから当然のようにのろのろ移動だ。その花火とやらは有名らしくて人が多いこともあって、移動にはより手間がかかる。 というか。 「……カップル多すぎね?」 クリスマスの花火というのは確かにロマンチックだが、それにしたってこのカップル濃度の異常な高さはなんなんだ。 「あはは……なんていうか、この街ではあそこの公園で花火を見るのはカップルだけに許された行為、っていう暗黙の了解があるんだよね」 「そーそー、小学生の頃友達と見に行った時は冷たい視線受けていたたまれなかったにゃ〜」 「だから今回のクリスマスパーティでこの企画立ち上げたんだよ。これだけ人数がいりゃカップル共もこっち威圧なんてできねぇだろ。花火見れなかった積年の恨み晴らしてやろーぜってな」 「いいこと言うぜ、桃! いざ行かん、カップル撲滅!」 盛り上がる荒井たちに、巴がぽつんと呟く。 「でも、そういうことなら私、カップルで見に来たかったな〜」 『…………………』 空気を読まない発言に、周囲の温度は数度下がった。 「も、モエりん……!」 「なに、那美ちゃん?」 本人はまるで気づかない顔で首を傾げている。 「だ、だから……みんなで来てる時にカップルで来たいって言うのは、ちょっと、和を乱すっていうか……」 「えー、だって那美ちゃんはそう思わなかった? カップルで来るのが暗黙の了解ならカップルで来てお約束に乗りたいと思うじゃない。そっちの方がロマンチックな感じがして、憧れちゃうな」 「……そーいうこと言うなら、俺だって……」 「……お前がそれを望むなら……」 「……モエりん………」 「わ、私は……まだ、こういうところに二人っきりで来る勇気なんて、ないよ……」 恥ずかしそうに言う小鷹に隼人は首を傾げた。まるで二人っきりで来たい人がいるみたいな言い方だ。 だが、巴はそれに気づかなかったのかあははっと笑った。 「あ、それもそうかも。やっぱり恥ずかしいよね〜、こうしてみんなで来るのもすっごい楽しいし!」 『………………』 なんか先輩たちの間に妙な空気が流れてる気がするけど。別に不快なものじゃないから放っておこう。 そう決めて隼人は巴の横に並んだ。 「だったら最初っから言うなよ。珍しく女の子っぽいこと言ったと思ったら」 「あー、なにはやくん? 私が女の子っぽくないとでも言う気? 私の通ってきた乙女チックロードを知らないくせして」 「なんだよ乙女チックロードって。つかな、巴。お前相手いねぇだろ?」 その言葉に巴はむっとした顔になり、それからふっふーんと笑った。 「甘いな、はやくん。私だっていつまでもウブのネンネじゃないんだよ? 私がちょっと声をかければ集まってくる男の十人や二十人」 「いるってか? クリスマスケーキ一切れ賭けてもそう言うか?」 「すいません嘘つきました」 ぺこりと頭を下げる巴に、隼人はははっと笑った。やっぱり、巴は自分と同じで、まだまだ恋人なんてものには縁遠いのだ。 ――と、ふいにずかずかとリョーマが隼人と巴の間に割って入る。 「わ、なんだよリョーマ」 「……別に。いつまでもお喋りしてたら遅れちゃうんじゃないかと思っただけだけど?」 「そんなに足遅くないよ。ていうかみんななんだか元気ないから遅れたりしないって」 「そーそー」 「……っとに、この激鈍兄妹は……自分の言ったことの意味も真実味もわかってないくせに……」 苦虫を噛み潰したような顔と声で低く何事か言って、リョーマはぐいぐい二人の手を引っ張って歩き出した。普段リョーマは自分からこちらに触れてくるようなことがないので、少しばかり驚く。 「おい、どうしたんだよリョーマ……」 「うるさいな。無駄口叩いてる暇があるならとっとと歩いたら?」 早口で言いながらも、耳は赤い。なんなんだ、と顔を見合わせながらも赤月'sはリョーマについて歩いた。 その後ろで、小鷹と天野が。 「……ていうか二人とも鈍すぎだよね……周囲の視線にもリョーマくんの視線にも気づいてないんだから」 「うーん、でも、あの二人はあれでバランス取れてるから、いいんじゃないかな?」 などと落ち込む先輩たちに聞かれないよう、こっそり言い合っていたことにも気づかずに。 きれいな花火をみんなで見て、カップルの群れに負けずに散々騒いで。手塚に叱られたり不二に微笑まれたり大石に胃の辺りを押さえられたりと、今となってはめったに味わえない思いをして。 隼人とリョーマは家路についていた。巴に手塚と話したいことがあるから先に帰っていてくれ、と言われたのだ。 それは、確かに一番頻繁に組んだパートナーで、ずっと会えなかった大事な人で、久しぶりに会えたから嬉しいのはわかるけれども。 だからってなんで『二人っきりで話したいから』などと言われて先に帰されなくてはならないのだろう。納得がいかない。 そんな感情のままにぶすくれて歩いている横では、リョーマが同様に思いきりぶーたれて自分と同じように歩いている。いつもより少し早足で。隼人と歩く時は、リョーマはいつも普通より少し早足だが、それより少し速く。 しばらく無言で仏頂面のまま歩いて、いつまでもこのまま黙りこくって歩くのもなにかな、と思えてきた。別にリョーマと話したいとは言わないが、リョーマと一緒にいるのにずーっとこうして黙りこくっているというのもなんというか、張り合いがなくて面白くない。 なので、とりあえず無難な話題を振ってみた。 「いやぁ、楽しかったな、クリスマスパーティ」 「……まあ、そうだね」 「花火、きれいだったよな」 「まぁね」 「ファミレスのわりには料理もまぁまぁだったんじゃね?」 「そうかもね」 ………話題が続かない。なんなのだこのリョーマらしからぬ歯ごたえのなさは。面白くない。巴の言い草とダブルで、なんだか苛々する。 なにかこいつが仰天するような話題ないかな、と考えて、すぐ今日この日しかできない話題があるということを思い出した。ついでにバッグの中の渡せていないプレゼントのことも。 だが、それを改めて言うというのも……なんだか気恥ずかしいというか、照れくさいような気も……。 リョーマの様子をこっそりうかがう。リョーマは少しぼんやりとした、心ここにあらずとまではいかないまでも気が抜けたような顔をして歩いている。 なんだか、面白くない。照れくささよりも気恥ずかしさよりも、こっちを向かせてやりたいという執念のようなものが勝った。 なので、できるだけさらっと聞こえるように言った。 「リョーマ、今日が誕生日だろ? 誕生日、おめでとう」 そう言われるとリョーマはきょとんとした顔になって、それから小さく首を傾げた。珍しく子供っぽい仕草だ。 「ああ、そういえば、そうだったっけ?」 「なんだよ、自分の誕生日だろ? 忘れてたのかよ」 「別に。誕生日だからって、特になにがあるわけじゃないしね」 その答えに思わずムッとした。なんだよ、それ。その気抜けっぷり。誕生日プレゼントもらったからってんで、お前の誕生日に合わせて好みのプレゼント用意してた俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。 そうイラついたら口の方が先に動いてしまっていた。 「まあ、確かに。俺も、プレゼントも用意してねぇしな」 うわっなに言ってんだ俺、と思わず口を押さえたが言ってしまったことはもう取り消せない。リョーマはなぜか少し面白がるような顔になって肩をすくめた。 「プレゼントなら、もうもらったけど?」 「え?」 「これ……隼人のプレゼントでしょ?」 そう言ってリョーマが差し出したのは、パーティでのプレゼント交換で得たカシミアのマフラーだった。 「……よく、俺のだってわかったな?」 「まあ、このカード見ればね。こんな汚い字を書くの、桃先輩かお前くらいだよ」 その判定基準に思わずムッとする。 「悪かったな、汚い字で」 「おまけに、クリスマスカードのメリークリスマスって字が、間違ってるしね」 「ええっ!?」 「Xmasって英語で書く時、Xの後ろに'はいらないから。日本人には、よくいるけど。つけちゃう人」 「そ、そうだったのか……」 全然知らなかった。 「おまけに、merryがmeriiになってるし。これじゃあ、ローマ字だよね」 「…………」 「ま、こんな面白いカード、なかなかないから、大事にとっておくよ」 「……捨ててくれ」 「やだ」 ちくしょー恥ずかしいっ俺馬鹿みてぇじゃねぇか、と思いつつも気分はさっきより浮上してきていた。リョーマも一応喜んではいるみたいだしなと、リョーマとの会話を歓迎する気分になってきていたのだ。 クリスマスの浮かれ気分が戻ってきて、そぞろ歩きながら言う。 「そういえば、リョーマってアメリカにいたんだろ? 向こうのクリスマスって、どうだった?」 「そうだね……街の雰囲気なんかは、もっとにぎやかだったかな。でも、クリスマスは家族で過ごす人が多いみたいだね」 「へえ、なるほどなぁ。……ところで、お前って、サンタクロースって信じさせられてたクチだろ?」 「!? ……なんで、そう思うワケ?」 「お前の親父さんなら子供の反応見て楽しみそうだぜ」 「ふーん。じゃあ、お前もダマされてたクチなんだ」 「ぐっ、ヤブヘビかよ!?」 言いながら少し笑いあってじゃれ合った。こういう、お互いが本気じゃないことをわかっている軽いじゃれ合いというのが、最近増えてきた気がする。 もちろん、やっているうちに本気になってきてマジ勝負に発展することもあるのだけれども。 「ん?」 「どうした?」 「……雪、降ってきた」 言われてばっと天を見上げる。確かに暗い空から白いものがはらはらと落ちてきていた。隼人は思わず歓声を上げる。 「すげぇ! ホワイトクリスマスだぜ! 積もるといいな!」 「まったく、雪くらいではしゃいで。子供じゃないんだからさ」 「なんだよ。雪降ってきたら、テンション上がるだろ、ふつう!?」 「自分のことを、ふつうだと思わない方がいいと思うけど? それより、寒くなってきたし、濡れないうちに帰らないと、風邪ひくよ」 「そうだな。急いで帰るとすっか。よし、どっちが先につくか、競争しようぜ!!」 「別にいいけど」 「じゃあ、行くぜ! よーい、ドン!!」 そう言って同時に駆け出す。お互い本気で勝とうとしている、間違いなく。 ただ、その底には勝負を軽く楽しもうという遊び心があるのも確かだった。もちろんリョーマは最大のライバルだ、絶対に決着を着けなきゃならない相手だ。 でも、こうしてじゃれ合うように、遊ぶように相手と絡むのを楽しむ気持ちも確かにあって。こういうのも悪くないよな、なんて思ってしまったりもするのだった。 それはそれとして、競争では絶対に負けるもんかと本気になって走りまくったのだけれど。 巴が帰ってこないうちに、風呂に入って。リョーマが続いて入っている時に、隼人はリョーマの部屋に入り込んでいた。 今のうちに、気づかれないように、こっそり渡しておこうと思ったのだ。リョーマの誕生日のために一応@p意してやった、カシミアのマフラーよりははるかにしょぼいプレゼント。 でも、リョーマの誕生日のために用意したプレゼントだ。 隼人はこっそり部屋に入って包装した入浴剤を取り出した。たぶんリョーマはわけがわからないだろうが、それでも別にいい。単に借りを返すために、誕生日プレゼントのお返しとして渡すだけなんだから。本当にそれだけなんだから。 そう自分に言い聞かせながらも、なんだかドキドキするし緊張するし恥ずかしい。なんだか自分がすごく馬鹿なことをやっているような気がしながらも入浴剤をリョーマの机の上に置く。 と、ふいに机の上に載っているテニス用品カタログが目に止まった。なんとなくリョーマが今なにを欲しがっているのか気になってぱらぱらと読んでみた。 ――ページの端が折ってある。そのページを開くと、帽子のところに印がつけてあった。リョーマが普段かぶってるのと同じモデルだな、と思って――それから、気づいた。 「……………………」 隼人は顔を熱くしながらしばしその場にたたずんだ。なんだか凄まじく気恥ずかしい。顔が熱い。 なんというか――自分たちは、本当に凄まじく馬鹿なことをやっている気がする。 「たっだいまーっ! リョーマくん、手塚先輩からの誕生日プレゼントちゃんとせしめてきたよーっ! あ、もちろん私のもあるからね!」 ふいに階下から聞こえてきたそんな大声に飛び上がり、隼人は大慌てでリョーマの部屋を出た。とにかく。なにはともあれ。 メリークリスマスで誕生日おめでとうだけど、本人にはもう絶対言ってやんねぇ。 |