「今帰ったぜ」 風祭は店の扉をガラガラと開け、客がいるにもかかわらず大声で呼ばわった。 「お帰り。遅かったな」 龍斗は厨房から微笑みと共に言葉を返す。だがその間も両手は忙しく動いていた。 「お、風坊が帰ってきたぜ」 「これで渋っちぃ緋勇の旦那の顔もゆるむってもんだ」 「坊主が遅いってだけでそわそわしとったからなぁ。これで指入りの飯は食わせられずにすみそうじゃで」 「俺は坊主じゃねェッ!」 げははは、と下品な笑い声を上げる常連客どもに風祭は怒鳴ったが、よけいに笑い声を大きくさせただけだ。 今風祭と龍斗の二人が働いている飯処『おおいし』は今日も客で埋まっていた。 なぜ二人が飯処で働くことになったかというと、話は二週ほど前にさかのぼる。 二人の旅は陸奥を一周して越後の国にまで至っていた。 訪れた港町でふと入った飯処――それが『おおいし』だったわけだが、そこで風祭が酔った客にからまれ喧嘩をはじめてしまったのだ。 もともと船の荷揚げ荷降ろしを請け負う日雇い人相手の飯処、客層の柄の悪さは折り紙付きだ。たちまち喧嘩は店の客全員を巻き込んだ大乱闘にまで発展した。 当然風祭が客全員を叩きのめして勝利したのだが(龍斗はほとんどただ見てただけ)、喧嘩を止めに入った店の主人が(頑固な還暦近い老人である)腰を痛めてしまったのだ。 医者の見立てでは一ヶ月は布団から起き上がれないだろうとのこと。どうしてくれるとわめきたてる主人に、責任を感じたらしい龍斗は腰が治るまで自分が厨房に立とうと提案した。 龍斗は、料理がうまい。 元から何をやらせても大体器用にこなす龍斗だが、特に料理の腕はそれだけで名を成せるのではないかと思うほどだ。龍斗自身『料理は俺の一番の趣味だ』と公言している。 手毬麩や鮎魚女の焼き霜造りといった風祭など名前すら聞いたことがなかった上品な料理から、葱入り炒り卵や冷やし汁(具のない味噌汁を井戸水で冷やしたもの。夏の朝に出されると飯が進む)のような日常の食卓にのぼるものまでなんでもござれ。 鬼哭村でも最低週に一度は龍斗が腕をふるっていた。 鮒が手に入ったから鮒飯にしようだの、助けた親父から軍鶏を貰ったから軍鶏鍋を作るだの、親切な人に鴨をもらったから鴨飯を食おうだの。山ででかい猪を狩ってきて村中みんなでぼたん鍋を食ったこともあった。 よくもまあそんなに都合よく食材を見つけてこられるものだと呆れることもあったが、週に一日でもとびきりうまい飯が食えるというのは嬉しいので、風祭はひそかにその日を心待ちにしていた(毎日作るわけではないのは龍斗の気まぐれのせいもあるが、鬼道衆としての仕事があるのと食事を作りに来る姉やの顔を立てるためであったらしい)。 怒り狂っていたところにうまい飯を食わされて、怒りがうやむやになってしまったことも一再ならずある。 ともかく、最初は素人に店を任せられるかとすさまじい剣幕だった店の主人も龍斗の作った飯を食わされて一声唸ると渋々ながらも申し出を了承、二人はこの店で働き始めたのだ。 風祭は(嫌だと言い張ったのだが元はといえばお前のせいだろ逃げるのかと挑発されてまんまと引っかかってしまったのだ)最初お運びをやらされていたのだが、態度は横柄客が何か言えばすぐ怒り一日五回は客と喧嘩になる、というので早々に日中は外で稼いでこい、と蹴り出された。 それは風祭としても望むところで、幸い(珍しいことに)この町にはなかなか筋のよい無手の道場があったので、そこの客分として門下生を教え日銭を稼いでいる。 だが、道場から帰ってきたら店は龍斗に任せて寝てるだけ、というのも龍斗に借りを作るようで面白くないので帰ったら一応洗い場を手伝うことにしていた。 「澳継。腹減ってるか?」 「決まってんだろ」 もう時刻は暮六つ近い。道場でさんざん汗を流したので持たされた弁当はとっくに消化、胃の腑は空っぽだ。 「ちょっと待ってろ。今何か作ってやるからな」 作っていた煮染めを皿に盛りお運びの中年女に渡すと、龍斗はさっそく調理にとりかかった。 忙しく働きながらいちいち飯を作られるというのがうまくあしらわれているようで癪で、『余りものでいい』と言ったこともあったのだが、『悪いが俺はお前に自分の作った飯を食わせるのが大好きなんだ。余りものでいい、なんて俺に人生の大きな楽しみを放棄しろと言っているのと同じだぞ』と威張られ、結局風祭は毎食どんなに急がしい時でも龍斗の作った飯を食わされている。 「かーっ、かいがいしいねえ。緋勇の旦那、いつものことながら嫁さんみてえな気の遣いようじゃねえか」 龍斗の様子を目に入れた客の一人が感心したように言う。この店は厨房と食堂の間に仕切りがないので、厨房の様子は丸見えなのだ。 当初は余所者の料理人、ということで警戒していたむきのある常連客達だが、龍斗の料理のうまさと客あしらいのよさにいまではすっかり馴染んでいる。 「いやいや、あのつくしようはうちのかかあなんぞと比べたらバチが当たるってもんだ。おっかさんでもあそこまで細々と面倒は見られねえよ」 「しかもこんなかわいげのない餓鬼にのう。よっぽど惚れこんでおるんじゃな」 ぎゃははは、とまた声を揃えて笑う客どもに厨房の中に入っていた風祭は顔を真っ赤にして怒鳴った。 「てめェら、勝手なこと言ってんじゃねェッ! ぶっ殺されてェか!」 「おっと、やぶへびやぶへび」 「また殴られちゃあかなわねえ」 実際風祭に殴り倒された客もここには何人かいるのだが、元から暴力沙汰は日常茶飯事な男どものこと、そんなことをいちいち気にする者はいない。 むしろ風祭をからかい怒鳴られるのを店に来た時の楽しみの一つにしているようで、風祭としては大いに不服を申し立てたいところだ。 「しかしまあ、こんなじゃじゃ馬とよく付き合っていけるね、緋勇の旦那。これからも苦労すんでないかい?」 「てめェッ! 言うにことかいてじゃじゃ馬たァなんだッ!」 自分を女扱いするなど、喧嘩を売っているとしか思えない。 龍斗はというと手を動かしながら穏やかに微笑んで軽く言葉を返す。 「こいつとなら、苦労も楽しいですから」 客達の間から苦笑や失笑が漏れた。 「おいおい、惚気られちまったよ」 「あてられちまうな。くわばらくわばら」 風祭は自分の顔にかっと血が上るのを感じた。 龍斗ともども本気でぶん殴ってやろうかと立ち上がりかけたところに、龍斗が飯の乗った盆を差し出す。 「ほれ、食えよ」 風祭は一応、一時怒りを治めて盆を受け取った。龍斗は普段それほど怒りをあらわにすることはないが、飯を粗末にする者に対しては凄まじい勢いで怒りまくる。この店で乱闘があった時も、料理だけはきっちり回収し、食い終わっていない皿を落っことしたり投げたりする者には容赦なく鉄拳制裁を加えていたほどだ。 それが怖いとは(意地でも)言わないが、むやみに逆らって飯を抜かれるのもつまらない。風祭は盆を受け取って厨房奥の椅子に腰掛けた。 今日は米の飯に茄子の炙り焼きを入れた味噌汁、手長海老の附け焼きに冷奴、という品揃え。そう言えば今朝方豆腐を作っているのを出掛けに見た。 まずは、味噌汁を口に運ぶ。 うまい。だしの味が利いていて、味噌の風味と合わさって濃い目が好きな風祭の好みにぴったり合った味になっている。 次に冷奴。風祭にとって冷奴とは豆腐に醤油をかけただけのものだったが、龍斗の作るのは刻んだ葱と生姜とかつおぶしを載せ、唐辛子と胡麻油を醤油に混ぜた特製のかけ汁をかけてあるのだ。 これまた、当然うまい。 無言で飯をぱくつく風祭に、客達がまた笑った。 「いやいや、たいしたもんだ。いつもながらの見事な風坊馴らし、見事と言うほかないねえ」 「秘訣はなんだい、緋勇の旦那?」 「好きこそものの上手なれ″ってとこですかね」 その言い草にまた腹が立ったが、とりあえず飯を食い終わるまでは黙っていようと無言で空になった茶碗を突き出す。 飯を盛る龍斗に、客達がまた声をかけて来る。 「何がそんなに楽しいんだい? 飯食わせてもなにも言わねえんじゃ張り合いもねえだろう?」 「何もかもですね。それにたまに『うまい』って漏らしてくれる時もありますよ。たまにだから余計また言わせてやろうと気合も入るってもんで」 客達はいっせいに笑い声を上げた。 「いやはや、全く緋勇の旦那は風坊にべた惚れだねえ!」 笑い声が響く中、飯を食べ終えた風祭はすっくと立ちあがった。 「……てめェら全員ぶっ殺す!」 風呂から上がって夜着姿になった風祭は、敷いておいた自分の布団の上に寝っ転がった。 風祭と龍斗は店の二階の部屋に寝起きしている。一応布団は二つあるが、部屋は一つ。 そう店主に言われた風祭は抗議したが、他の部屋は全部使っている、と荷物のみっしり詰まった部屋部屋を見せられて不承不承納得した。 ちなみに店主は、一階の奥の間に寝ている。 布団の上で伸びをする。 今日も疲れた。道場での稽古なら何刻ぶっ通しでやっても平気の平左だが、店での洗い物の手伝いは皿を割りやしないかと神経を使う。 さっき本気で全員半殺しにしてやろうと立ちあがった後、風祭は手近にいた龍斗に殴りかかったのだが、頭の点穴を突かれてあっさり昏倒してしまった(全くもって面白くない)。 数分後目を覚ましたら客はほとんど帰ってしまっており、龍斗はといえば平然とした顔で『店が終わったら手合わせしてやるから今はとにかく皿を洗え』とかぬかす。 無視して暴れたところで店の中が散らかるだけだし、その後片付けをやらされるのは自分なので、風祭はむくれながらも皿を洗った。 店ののれんをしまった後、近くの空き地で約束通り手合わせをしたが、結果は風祭の一勝八敗。 面白くない。 口の中で悪態を付きながら輾転反側していると、からりと障子が開いて、風呂上りの龍斗が姿を見せる。 むっとした顔をして、ふんっとそっぽを向いてやったが、龍斗は顔を向けた先に回り込んできて、神妙な顔で頭を下げた。 「……なんだよ」 「今日は悪かった。まだ痛むか?」 「あァ? 何がだよッ」 既に喧嘩腰になりながら風祭は上体を起こした。 対する龍斗はあくまで神妙な態度を崩さず、風祭のこめかみを撫でる。 「なに勝手に人の顔触ってんだよッ」 「嫌か? ……今日お前が暴れようとした時、ここのツボ思いっきり突いたからな。痛かったろ?」 「………」 確かに。龍斗にここを突かれた時は猛烈な激痛が体を走った。 「もう少し穏やかに取り押さえられればよかったんだが、あのとき俺は煮付けを作っていた真っ最中だったもんでな。邪魔されちゃたまらんと、つい本気になってしまったんだ」 「……ンだと、てめェ……俺なんぞ本気にならなくても片付けられるとでも言いてェのかッ!」 「あの時はお前だって本気を出しちゃいなかっただろ」 「うッ……」 言葉に詰まった風祭に、龍斗は笑って話を続ける。 「まあ、こんなに遅れて何を言うかと思ったろうが。風呂に入ってる時にあれは悪かったなと思い立ってな。こうして頭を下げてる次第だ。悪かったな、澳継」 ぺこりと頭を下げる龍斗に、風祭はふん、と鼻を鳴らした。 「気持ち悪ィこと言ってんじゃねェ。てめェに謝られても嬉しくもなんともねェぜ」 「そうか?」 「そうだよっ。大体てめェが神妙にしてる時はロクなことが……」 はっ、と風祭はある事実に気付き、反射的に尻を布団につけたまま後ずさった。 龍斗は一見穏やかな笑みを浮かべながらいざり進んでくるが、その笑みは風祭の目にはひどく淫蕩なものに移った。 「どんなことがあるって? 俺に『お詫びに体でたっぷりご奉仕してやるからな』とか言われることとかか?」 やっぱり、こいつ……最初っからそっちに話をもってくつもりでいやがったな! 「てめェ、このッ……触んじゃねェ! こっち来んなッ!」 「近くに行かなきゃこういうことできないだろ?」 言うや、素早く風祭の耳たぶを口に含んで愛撫する。わざとピチャピチャ音を立てながら舐め、吸い、しゃぶる。不意にカリッ、と耳たぶに歯を立てられ、ゾクゾクッという感覚が背筋を伝った。 「……ッ……離せッ!」 「なんで? ここ一週間やってないんだから、お前だってかなり溜まってるんじゃないのか?」 カッと風祭は顔を赤くした。確かに、店が忙しくなってきたのでここ一週間龍斗は自分に触れてこなかった。 そのせいか、夜眠る時妙に体が火照って、たんたんの奴いつになったらヤる気になるんだ、とかいう思いが頭の端をかすめることもあったが、その度に必死に打ち消して知らないふりをしてきたのだ。 それを見抜かれたようで、強烈な羞恥の感情がわきあがってきた。 「何日ヤってなかろうがてめェには関係ねェだろッ!」 「いや、あるだろう普通。俺だって溜まってるわけだし――……まさかお前一人でヤったとかそういうもったいないことを言うんじゃないだろうな!?」 「……ッ! 誰がヤるかッ! ンなこと……ッ!」 第一ひとりでヤるって、一体どうやってやれというのだ。しごくとか舐めるくらいならともかく、挿れたり出したりするようなこと一人でできるわけがないではないか。 「じゃ、いいだろ。明日道場休みだろ? 久しぶりに、一緒に気持ちよくなろうぜ」 「誰がなるかッ! てめェとなんか絶対にごめんだッ、気色悪ィこと言ってんじゃねェッ!」 「……ふーん……そういうこと、言うか?」 龍斗は目を不穏にきらりと光らせるとスッと体を近づけてきた。 「じゃあ、前から一度やってみたいと思ってたアレを試してみるとするかな」 言うや、龍斗はスッと両手を前に出し、バババッと複雑な印を組んだ。そして口の中で小さく何事か唱え、ツン、と両手の指で風祭の額をつつく。 「何しやがる、てめ……ェッ……!?」 体中がカッと燃え上がるように熱くなって、風祭は息を呑んだ。 呼吸ができない。体が、特に下腹部が――もっとはっきり言えば一物と後孔が燃えるように熱く、疼く。 暴れだしたくなるほどその二つがむずむずして、たまらないほど―― 欲しい。 出したい。 そんなひどく浅ましい思いが心をよぎってしまい、風祭はかぁっと頭に血が上った。 「……てめッ……なに……しやがったッ……!?」 何もしていないのにどんどん荒くなっていく息の下からの風祭の問いに、龍斗は笑った。 「旅に出る前に、劉に教わったあちらの術の一つでな。これをかけられたらどんな貞淑な奴でも一発で盛りのついた雄猫みたいになっちまうって代物だそうだぜ。よーく効いてるみたいだな?」 「てめ……なんてコトしやがるッ……」 「いつもこんな術使うんじゃかえって興醒めだが、一週間分も溜め込んだんだ。派手に出すのもいいだろ?」 言いながらふっと風祭の耳に息を吹きかける。 「ア……ッ!」 認めたくはないが、それだけで体中に快感が走るのを感じ、風祭は喘いだ。 下腹部の熱はどんどん高くなってくる。どうにかしてほしい。この熱を鎮めてほしい。 「さ、どうする、澳継? どうしてほしい?」 ニヤニヤ笑いながら言う龍斗を、風祭はヤケになって睨みつけた。 「四の五のくだんねェこと言ってんじゃねェッ……ヤりてェんならとっととヤりやがれッ……!」 「ほー? いいんだな? じゃあやるぞ、思う存分」 カリ、と軽く耳たぶを噛んでから、龍斗は夜着を脱ぎ捨てた。鍛えられた体躯があらわになる。 既に半ば勃ち上がっている一物を、風祭はひどく気恥ずかしく思いながらもじっと見つめてしまった。 この体の熱を、あれが鎮めてくれるのだろうか。 なんでもいい。この火照る体をどうにかしてくれるのなら。 だが龍斗はいつものように風祭の上に覆い被さろうとはしなかった。立ち上がるとまた軽く印を結び、何事か唱える。 なぜか一瞬頭がくらりとする。体の熱のせいかと頭を振って、もう一度龍斗の方を見た時、風祭は目をむいた。 「……………!!!??」 龍斗の一物が急にぐいん、と伸びた。 通常の、というより人間の勃起の様相ではない。二倍、三倍、みるみるうちに龍斗の身長を追い越すほどの大きさまで伸びる。 天井近くまで伸びたかと思うと、急にばらっと割れた。一本の太い一物がどういう仕組みになっているのか幾分か細い数十本の何かになる。 それはもう一物ではなかった。言うなれば触手だった。前に海に行った時見たイソギンチャクの口のところに生えているような、クラゲの足のような。 一物と違い皮もくびれもない、うねうねとうごめく長い棒。それが数十本、龍斗の腰から生えて分泌する体液でぬらぬらと怪しく光っている。 茫然とする風祭に、触手の向こうから龍斗が笑う。 「これも劉から教えてもらった術でな。ひとりで同時に上も下も可愛がってやるために作られた術なんだそうだ。おまえの体中隅から隅まで、これで味わいつくしてやるよ……」 触手がうぞうぞうぞ、とうごめいたかと思うと、しゅるるるるとその長さを伸ばして風祭の方へ向かってきた。 ほとんど本能的な反射としてわたわたと風祭は後ずさったが、それより触手の方が早かった。ぬめぬめとした触手が何十本も夜着の裾から入りこみ、風祭の体にくるくると巻きつく。 「……ア……!」 風祭は喘ぎ声を上げてのけぞった。触手自体に術がかかっているのか、それとも体が火照っているせいか、舌で舐められた時に倍する快感が風祭を襲う。 ぐい、と体が引っ張られた。どうやらこの触手は一本一本が人の腕並みの力と強度を持っているらしい。体中に絡みついた触手が風祭の体ごと自らを持ち上げていく。 「ンアッ……!」 風祭は大きな声で喘いだ。自分の体を持ち上げた触手が、本格的に愛撫を始めたのだ。 腕、胸、足、腰、顔、首。それこそ体中をぬらぬらと体液を分泌する触手が這いまわり、蹂躙する。風祭の肌が体液に濡れ、その上から更に愛撫を施される。体全体が性感帯になってしまったようなほど、神経を敏感にさせる刺激。体が電流を流されたように痺れ、暴れることもできなかった。 「ンッ……!」 触手の一本が荒い息をつく風祭の口の中に進入してきた。たっぷりと舌に絡みつきながら、硬口蓋、軟口蓋、喉の奥と口内を思うさま暴れまわる。 息が苦しくなったが、それ以上に痺れるような快感の方にむしろ苦痛を覚えた。口内をくまなく犯され、触手の先端から漏れる体液を味あわされ、むやみやたらと体が震えた。 「ふぐっ……!」 口内に触手が入っているせいでくぐもった声が口から漏れる。触手の一本が、ついに一物を握りこんだのだ。風祭の夜着はとうに剥ぎ取られ、全身素っ裸になっている。体中の隅々を龍斗に視姦されながら、体中を愛撫されながら、一物を握りこまれるのは強烈すぎる刺激だった。 にゅるにゅるしゅこしゅこぬちゃっぬちゃ。 触手は風祭の一物を絡み付くようにして握りこみ、体液で竿から玉までヌルヌルにしながら皮を上下させる。たまらず一物からどくどくと先走りを漏らす風祭。先走りと体液が交じり合って、一物とその下の尻をたっぷりと濡らし、淫らな音を立てた。 くちゅくちゅぬちゃぬちゃにちゃにちゃ。 風祭の頭をカァッと熱くさせるいやらしい音を立てながら律動的に一物をしごかれ、指先から胸から尻まで愛撫され、口中に更にもう一本触手を入れられ、風祭は限界だった。 「ひぐっ……ぐふっ……!」 もう、出る……! が、風祭がまさに達しようとするその時体中の触手が動きを止めた。一物に絡みついていた触手もしゅるっとほどかれ、急に刺激を失ってたまらず風祭は腰を揺らめかせた。 「イキたいか?」 触手の向こうで龍斗が笑う。 「そう簡単にはイかせんぞ。もっともっと、ギリギリまで追い詰めてもっともっと気持ちよくしてやるからな」 もっともっと!? 何考えてんだこいつは、と龍斗を睨みつけたつもりだったが、その瞳はまだ体中に燻っている快楽のせいで潤んでいるのがわかった。これでは迫力もへったくれもあったものじゃないだろう。 風祭の快楽の波が一度通り過ぎたのを見計らってか、触手はまたぞろりとうごめき始めた。ゆるゆると体中を愛撫すると同時に、風祭の一物の根元に一本がきつく巻き付いて流れを止め、他の一本が更に体液を塗りつけるようにして一物の先端を、竿を、玉を愛撫する。 「んぐ……ぶふっ……!」 相変わらず口をふさがれたまま、くぐもった喘ぎ声を上げる。またゆるゆると昂ぶってくる快感に耐えていると、つん、とヌルヌルしたものが自分の後孔をつつく感触があった。 「………!」 羞恥に頬を染める風祭にかまわず、触手は体液で風祭の後孔の入り口をたっぷりと濡らした後、おもむろに侵入してきた。 つぷっ。 そんな感触が尻の神経を走る。 触手は体液を分泌しながら、じわじわじわじわ、ごくわずかずつ、風祭の腸内を隅から隅まで愛撫しながら奥に進んでいく。 「……んむぅっ……!」 最奥を軽く突かれて、風祭の体は震えた。前立腺を押しながら腸内の途中では普通に一物を挿入した時では考えられないような方向にうねる触手。体の中を大きく開かれて、好き放題にいじられているという気がした。 やがて、二本目の触手が挿入された。さして間をおかず三本目も挿入される。そして三本の触手が、風祭の腸内で絡み合い、うごめき、体液を分泌しながら跳ねまわり……。 「んぐぅっ! ひぐぅっ! ふぬぐぅっ!」 ぐちゅぐちゃずぶぬぷ。 くぷくちゅずぷかぷ。 にちゃぬちゃぬりゅくちゃ。 体中からいやらしい音が立つ。風祭は頭の中にわずかに残った理性の部分で羞恥に涙ぐみそうになった。 しかし体のほうは理性など無視して頭のほとんどを真っ白にするような快感に支配されている。 後孔を、口内を、一物を徹底的に愛撫され、腰から一物へ熱いものが噴出していこうとする――が、一物の根元をしっかり締めつけている触手のせいでそれは果たせない。 ぬぷぬぷぐちゃにゅりゃ。 ずぷくちゅくぷぴちゃ。 ずりゅぬりゃくちゃにちゃ。 「……ふっぐ……うふぅっ……!」 出したい。 イキたい。 でも、出せない。 体中から絶えず快感は送られてくるのに、それを放出することができず、気が狂いそうな状態がえんえんと続く。 もう……ダメだ……! 風祭が何度目かにそう思った時、またぴたりと触手の動きが止まった。 快感の波が、少しずつ、少しずつ去っていく。 だが風祭はなんにも考えられずに、ただ空気を求めてはあはあと息をついた。腰は刺激を求めて勝手に動いているが、それにも気付かない。 苦しい。この体の中の熱を、どうにかしてほしい。 今の風祭にはそれしか考えられなかった。 「このままだと、いくらきつく縛っても漏れちまうな」 龍斗の楽しげな言葉に、風祭は顔を上げた。 確かに、風祭の一物からあふれ出る先走りには精液が混じり始めていた。 「もったいないから、栓してやるよ」 栓? その言葉に風祭の頭に一瞬理性が戻った。 ――まさか。 風祭の一物に巻きついていた触手の一本が、一物から少し離れ、鎌首を持ち上げた。当然ビンビンに勃起している風祭の一物を上から覗きこむようにする。 と、その形が変わった。先端から針のように細く長い、トゲのようなものが伸びてくる。その触手は先端を亀頭の先の尿道に当てた。 ――まさか! ずっ。 触手の先端の細く長いトゲが、尿道から風祭の一物の中に挿入された。 「……っひぃ―――ぐぁ――――っ!」 目の前が真っ赤になった。 とんでもない感覚だった。一物を襲う凄まじい疼痛感。一物の奥の、精液を放出する部分を直接ぐりぐりと刺激されている。 触れられるはずのない場所に触れられる痛み。それと同時にある神経を直接わしづかみにされているような快楽。 その二つが渾然一体となって、射精する時のような感覚が体を襲う。 そしてそれがいつまで経っても終わらない。射精したくても尿道を塞がれているから絶対に出せない。 痛みなのか快感なのかもわからない、神経が焼き切れるほどの強烈な感覚がえんえんと続く。 「ひぃ――――うぁ―――――っ!」 更に動きを止めていた他の触手も動き出す。体の内側も外側も、全て触手に犯される。 精神が崩壊しそうになるほどの刺激――――風祭は喉が枯れるほど叫んだ。叫ぶしかできなかった。生理的な涙がボロボロとこぼれ落ちた。 どれだけその責め苦が続いただろう。尿道の奥をえぐっていた触手の動きがぴたりと止まり、一物の半ばまでするすると抜け出てきた。 息をつくことすらできずぐったりする風祭に龍斗は声をかける。 「イキたいか? 澳継」 風祭は顔を上げることもできなかった。尿道に突っ込まれた触手の動きは止まったが、他の触手はまだ絶えず動きまわり風祭に刺激を与え続けているのだ。 「『イかせてください』って言ってみろよ。ちゃんとお願いできたら思いっきりぶっ放させてやるぜ」 体中が熱い。どんなにこの熱を放出したくてもこのままでは絶対に出せない。 「………」 スルスルと口中から触手が抜かれる。 風祭は震える口を開いた。 「い……」 龍斗はひどく楽しげにこっちを見ている。 「イかせ……」 龍斗の笑いが深くなる。 次の瞬間、どんっ、と龍斗の体から音がした。風祭が一瞬で練った氣をぶつけたのだ。 「てくださいなんて誰が言うかッ! 死んでもてめェの思い通りになんてならねェぞ、この変態野郎ッ!!」 瞳からボロボロ涙をこぼしながら、風祭は龍斗を睨みつけて叫んだ。 ギリギリの意地だった。このまま責め続けられたら本当に自分は壊れてしまうかもしれない。 イキたい。 出したい。 火照る体をどうにかしてほしくてたまらない。 だけど、こいつの思い通りにあんなこと言うくらいならそれこそ死んだほうがマシだ。 龍斗は少し後ずさっただけだった。こんな状態で練った氣がまともに通じるわけはない。 その顔が、苦笑した。 「お前って本当に……死ぬほどの意地っ張りだな。お前それでいつか命落すぞ。……まあ、そういうとこが可愛いんだけどさ」 そしてふいに、この場にそぐわない優しいと言っていいほどの微笑に変わる。 「……まあ、いいか。ずいぶん楽しませてもらったし……お前の可愛い泣き顔も、しっかり見れたことだしな」 するする、と尿道に突き刺さっていた触手が抜かれた。 そして、その触手はまた形を変えていく。今度は逆に先端が引っ込んで、ぐわっと太く広がり、一物より少し太いくらいの大きさの筒のような形になった。 「メチャクチャにイかせてやるからな……」 言うや再び風祭の口に触手が二本挿入される。同時に体中の触手が動き始め、たちまち風祭を再びのぼりつめさせていく。 「ん――っ、ぐぅっ……ひぎっ……!」 ずぶずぷぬぷぐちゃ。 ちゅぴくぷかぷくちゅ。 後孔を、口内を触手が犯す。絡み合いながら腸内を、口の中を隅から隅まで満たしていく。 風祭がこれ以上ないほど昂ぶった瞬間、かぽっ、と穴付き触手が穴の中に風祭の一物を包み込んだ。 じゅっぷじゅっぽじゅぱじゅぷじゅぽ! 腸内を、口腔をめちゃくちゃに犯しながら、なんともいえない音を立てて穴の中のひだひだで亀頭から玉までを濡らしながら愛撫し、締めつけ、吸い出す……! 「ん――っ………はぁ―――――っ………!」 どくどぴゅどぷぶりゅっ。 溜まりに溜まった精液を、最後の一滴まで搾り取られるようにして触手の中に放出する。 同時に口内に、腸内に、体中に触手からおびただしい体液が注ぎこまれる。 それすらも快感に感じながら、風祭の意識はすぅっと遠のいていった。 風祭は目が覚めたとたんがばっ、と跳ね起きた。急いで自分の姿を確認する。 夜着を着ている。体も濡れていない。 しかし腰のひどいダルさと辺りに漂う栗の花の香りが、さっきまでのことが夢ではないということを証明していた。 「お、目が覚めたか、澳継? どこか痛いとことかあるか? 按摩しといてやったから大丈夫だとは思うけど」 呑気な声をかけてきたのは、当然のごとく龍斗だ。こちらも夜着を羽織って、風祭と一緒の布団に寝ている。 風祭はばっ、と龍斗に覆い被さると、夜着の前を開いた。 「おお、積極的だな。まだ足りないのか? 俺としてはもうニ〜三戦やっても全く構わないが」 軽口に注意を払う余裕もなく、龍斗の一物を確認する。 ――普通だった。異常なまでにでかかったり、分かれたりはしていない。 ほーっと息をつく風祭に、龍斗はおかしそうな声をかけた。 「まだ俺の一物が触手になってるんじゃないかって怖かったのか?」 「………」 「おいおい、お前まさか本気で俺のがあんな触手になったって思ってたのか?」 その言葉に、風祭がぴくりと反応した。 「なんだと……?」 「劉から教わったって言うのはホントだけどな。さっきのは幻術だよ。精神に直接侵入して、擬似感覚を与える型のな。でなきゃあんな事何の準備もなくできるわけないだろ? ちなみに俺の方にもその効果を還元させてたから、俺も同じものを見て感じてたんだぜ。ヤる方として、だけど」 「…………」 「なかなか刺激的だったろ? やっぱりお前ってこういう精神攪乱系の術に弱いんだなー」 「言いたいことはそれだけかよ」 風祭は立ちあがってぼきぼきと手を鳴らした。 風祭は本気で気が狂うかと思ったのだ。気色悪くて、そのくせ体はたまらない快感を訴え、これまでにない刺激を与えられた。 それが……全部幻で、ただ龍斗の掌の上で踊ってただけで……しかも言うに事欠いて『なかなか刺激的だったろ?』だと!? 龍斗は爆発寸前の風祭を見て、ぽりぽりと頭を掻いた。 「あ、やっぱり怒ってるか。そうだろうなー、ちっと意地悪しすぎちまったもんな。……でも、気持ちよかったろ?」 ぶっちーん。風祭は切れた。 「全殺す!」 その後龍斗は風祭に本気で死にそうになるまでボコボコにされたあと外に蹴り出されたが(土下座して謝られても中には入れてやらなかった)、自分で傷を治して翌朝には元気に店に立っていた。 しぶとい奴め、と風祭が舌打ちをしたのは言うまでもない。 また、店主に食事を持っていった風祭が、「仲良くするのも喧嘩するのもいいがもう少し静かにやってくれ。眠れやせん」と言われ恥ずかしさのあまりブチ切れ、てめェのせいだと再び龍斗を半殺しにしたのは、まあどうでもいいことである。 |