「―――しゅっ!」 鋭い呼気と共に繰り出された後ろ回し蹴りを、龍斗は右腕で受けた。後ろ回し蹴りは軌道が読み辛いのだが、龍斗は風祭の筋肉の動きでどこに来るかをほぼ読み切っている。 「甘い」 一言そう言ってさっと足を払う。蹴りのために大きく右足を上げた風祭はそれを避けることは難しいはずだったが、風祭は一瞬ニッと笑ったかと思うと左足だけで跳躍し、一瞬で足の位置を入れ替えてわずかに体を沈めた龍斗の頭部を狙って飛び蹴りを放ってきた。 人間の目は上下の急激な動きに対応しにくくできているので、これを回避するのは難しい――が、それはあくまで常人の話だ。 既にその力は人ならざるもの″の域に達している龍斗は、風祭の足が届く前に一歩踏みこんであっさり蹴りの勢いを殺し、空中で受けもかわしもできない風祭の腹に肘を入れた。 「……ぐふっ……!」 大して力を入れてはいなかったが、風祭自身の勢いも利用されもろにみぞおちに入る。 たまらず落っこちた風祭に龍斗は即座に追い討ちをかけるが、風祭は喘ぎながらも転がって避けた。そして体を回転させる動きそのままで龍斗の足を蹴り、その反動を利用して龍斗と間合いを広げながら立ち上がる。 「………」 ぜえぜえと荒い息をつきながら龍斗を睨みつける風祭に、今度は龍斗からしかけた。 「――ふっ」 すすすすっと足の歩みを感じさせない足取りで風祭に近付き、風祭の間合いの外から目にも止まらぬ速さの前蹴りを放つ。 風祭はなんとかそれを受けた。そのまま足の関節を極めてやろうとその足を抱えこむ。 が、龍斗はその動きに逆らわず、足をひねろうとする風祭の勢いを利用して体を空中で一回転させ、風祭の頭を狙った蹴りをしかけた。 「くっ……!」 足をつかんだままではかわせないと判断した風祭は、バッと手を離して転がるようにしてその蹴りを避けた。龍斗は何事もなかったかのようにすたりとその場に着地して、構える。 「……こんのッ……!」 カッとなった風祭は、回し蹴りを龍斗の頭部に放つ――と見せかけて、大きく伸びあがってそこから肩に踵落としをしかけてきた。 ざっと七寸もの身長差がある相手にそんなことができるのは、風祭の並外れて柔軟な体と尋常でない修練の賜物だが、龍斗もそれに劣るような修業は積んでいない。 上体をひねって紙一重で足の軌道から身をかわすと、そのひねった勢いそのままに風祭の腹に拳をえぐりこませた。 「ぐっ……!」 横隔膜を突かれて呼吸ができなくなり、風祭は涙目になる――その表情を見て、龍斗はぞくりと快感が背筋を走り抜けるのを感じた。 もっと、その表情が見たい。 風祭は涙目のまま龍斗をぎっと睨みつけ、右の逆突き、右の膝蹴り、左手での目突きと素早く連撃を行う。 龍斗は逆突きをはたきおとし膝蹴りを受け、一歩退いて目を突いてくる腕が伸びきったところを点穴をついて麻痺させた。 「つうっ………!」 風祭の顔が苦痛で歪む。それも当然だ、わざと痛いようにツボを突いたのだから。神経を直接触られたような激痛が左腕を走り抜けているはずだ。 龍斗の全身の筋肉が、歓喜に震える。 もっとだ。 もっとそういう顔をさせたい。 左腕が使えなくなっても風祭の戦意は衰えなかった。激痛を奥歯を噛み締めてこらえ、わずかに間合いの開いた龍斗に踏みこみと同時に顎を狙った掌底を放つ。 龍斗はそれを右足を引いてかわし、腕が伸びきったところで手首を掴んで自分の方に引っ張った。 わずかに風祭の体が泳ぎかけた瞬間に、左足を踏みこんで風祭の足の甲を踏みつける。 龍斗が全力で踏めば風祭の足の骨は砕けていただろうが、ある程度の手加減はしてあるのでみしりと音を立てただけにとどまる。 腕を引っ張られ足を固定され、進むも退くもできなくなった風祭の顔に、踏みこみの勢いを利用して肘から先を回転させた拳を叩きこんだ。 「がっ……!」 風祭は鼻血を吹いてのけぞり、立ったまま昏倒した。 「………」 地べたに寝っ転がり、鼻を濡らした布で冷やされながらぶすっとしている風祭に、龍斗は冷静な声で話しかけた。 「何度も言ってるだろう、俺たちぐらいの腕がある相手に不用意に飛び上がっちゃまずいって」 「………」 「俺が飛び上がった時も好機だったはずだ。関節を極めようとした判断は悪くないが、あっさり放していてはどうにもならないぞ。あそこでは足を持ったまま自分も回転してかわすのが最良だ。自分も倒れこんでしまうがその一瞬の時間があれば足を使えなくできたはず。圧倒的に有利になる」 「………」 「それからカッとなると大技を出したがる癖、直したほうがいいぞ。最低でも同程度の技量を持つ相手に踵落としみたいな大技出してもそう簡単に決まるわけがない。最小の動きで相手の最大弱点に攻撃するのが最上――」 「うるせェッ!」 がばっ、と風祭は跳ね起きて、龍斗に指を突きつけた。冷やしたおかげか、顔の腫れも引いて鼻血も止まっている。 「大体なんでてめェに俺の闘い方指図されなきゃなんねェんだよッ!」 「指図というわけじゃない。悪いと思った点を指摘しなきゃ修業にならんだろう。お前も俺に悪い所があったらどんどん指摘してほしいんだが」 「………」 風祭は口をぱくぱくさせた後、目を落ちつきなくキョロキョロと動かした。どうやら必死に龍斗の動きに悪い所がなかったか考えているらしい。 「……お前は……お前は……そうだッ! 顔が悪ぃッ!」 「………」 「そ、それだけじゃねェぞ、性格も曲がってるし言うこともいちいちムカつくし、それにだなァ……」 「……澳継。お前、真剣にもの言ってるか?」 真剣な顔を作って言ってやると、風祭は顔を真っ赤にして唇を噛みながらうつむいてしまった。自分が情けなくて、悔しくてしょうがないという顔だ。 その顔を見て、龍斗はまた自分の体がぞくりと震えるのを感じた。 自分の手で風祭が苦しむ顔、心身の痛みに耐える顔、泣きそうな顔を見ると、龍斗はたまらなく興奮し、なんとも言えぬ快楽に打ち震えてしまうのだ。 だが、これは風祭を憎むとか、殺したいという欲望とはまったく異なる。 龍斗は風祭を本当に傷つけたり苦しめたりすることは死んでも嫌だし、風祭に優しくして甘やかすのも大好きだ。 ただ、自分の手で風祭が苦しんでいる姿を見ると、このこの世の何より可愛くいとおしい存在の命も心も魂も丸ごと掌の中に包みこんでいるようで、ぞくぞくするほど幸せな気分になるのだ。 自分でも時々常軌を逸しているなあと思うことはあるが、風祭を本当に傷つけたり血を見たりしたくなるわけじゃないわけだし、まあいいかと思っている。 もし万一そう思うようになったら、自分の腹をかっさばいて風祭に危害を加えられないようにするだけだ。 こいつの幸せのためなら俺は笑って死ねる自信はあるし、と龍斗は風祭を見てこっそり微笑んだ。 最後の闘いから数ヶ月。龍斗と風祭は、共に修業の旅の空の下にいた。 自らをもっと高めたい、という思いが風祭の中にふつふつと滾っているのを見抜いた龍斗は、風祭をけしかけて、修業の旅に出ることを決意させた。 そして出立の時、当然のように風祭と共に出立した。 その時まで龍斗がいっしょに来るつもりだったことを知らなかったらしい風祭は(そのことでいろいろと考えたりもしていたらしい)ぎゃあぎゃあ騒いで暴れ回ったが、それも自分を意識するがゆえだろうと龍斗はうぬぼれている。 村に残っていた鬼道衆全員に盛大に見送られて出発した旅は、順調だった。二人とも鬼哭村に落ち着く前は諸国を旅して回っていた身の上なので、野宿も食料の調達も慣れたものだ。 そして見つけた道場や武芸者には片っ端から手合わせを申し込む。 断る相手もむろん多いが、しつこく頼みこめば少しは相手してくれる者も多い。少しでも手合わせすれば、二人の圧倒的な技量に恐れをなすか、ムキになって挑みかかってくるかのどちらかがほとんどだったが。 どちらにしても(ある程度予想していたことではあるが)龍斗と風祭の相手になるような武術家はどこを探してもほとんどおらず、お互い同士と手合わせするのが一番の修業というあんまり修業の旅に出た意味がないことになってしまっている。 ともあれ、二人は荒行としゃれこむつもりで陸奥の山奥に分け入って手合わせを繰り返しているのだった。 「……ちくしょう……なんで俺ばっかやられんだよッ……」 場所を変えて再び手合わせするつもりで山中の道なき道を歩きながら、風祭がぶつぶつと小声で文句を言う。 龍斗は耳ざとくそれを聞きとって、平然とした口調で口を挟んだ。 「十本に一本くらいはお前が取ることもあるだろう」 「……ッ! てめェッ、勝手に聞いてんじゃねェよ!」 ぎっ、とこっちを睨んで小さく蹴りをいれてくるのを、軽くかわして蹴り返す。 「……十回に一回しか勝てねェんじゃ……話になんねェじゃねェかッ……」 口の中でひどく口惜しげに呟くのを、あえて聞かないふりをして龍斗は言った。 「これは言うなれば経験の差だな。俺はお前より四つ年上だから、四年分余計に経験を積んでいるわけだ。その差をあっさりひっくり返されてはこっちがたまらん」 「………」 「まあ、少なくともそう簡単には追いぬかれてやらん、ってことだな」 「……ヘッ、なに言ってやがる! 見てろ、次の手合わせではぐうの音も出ねェようにしてやるからなッ!」 指をつきつけてわめく風祭に、龍斗はにっこり微笑んでみせた。 「期待してるぞ」 ふんッ、と顔を赤らめてそっぽを向いてしまった風祭を愛しげな目で眺めていた龍斗だが、不意に妙な匂いを感じて足を止めた。 「……? どうしたんだよ、たんたん?」 「……お湯の匂いがする」 「お湯ゥ?」 「たぶんこの近くに温泉が湧いてるんだな」 「ホントかよ? 俺にはンな匂い全然わかんねェぞ?」 「俺はわりと鼻が利く方だからな。……どうする? 行ってみるか? もう陽も沈みかけてるし、久しぶりに汗を流すのも悪くないと思うが」 風祭はちょっと考える風を見せてから、「ま、いいぜ」とうなずいた。 この前に風呂に入ってからもう大分経つし、今日はさんざん手合わせして着ている衣は汗でじっとり濡れている。さっぱりしたい気持ちは同じだったようだ。 龍斗は微笑むと、匂いのする方へ風祭を伴って歩き出した。 「うおっ! 広ェじゃねェか!」 目の前に広がる光景を見て、風祭は歓声を上げた。 風祭の言った通り、その温泉はかなり大きかった。とびとびに突き出ている岩と岩の間にお湯がなみなみと涌き出て、盛大に湯煙を上げている。 「鬼哭村の温泉より広いかもしれないな。……どれ……」 ちゃぷ、とお湯の中に手を入れてみる。 「……ちょっと熱いが、我慢できんほどじゃないな。ひとつ、たっぷり汗を流すとするか」 「おうっ」 風祭は元気に答えて、服を脱ぎ始める。 龍斗も服を脱ぎ出したのだが、脱ぎながら風祭を見ていて、不意にむらっと情欲が湧きあがってくるのを感じた。 汗に濡れた少年らしいつややかな肌が、よく鍛えられたすんなりとしなやかな筋肉が次々と露になってくるのを見ていると、その若々しい肢体をたっぷりと味わいたくてたまらなくなってくる。 ふと、風祭がこちらを振り向いて、龍斗が自分をじっと見ているのに気づき、カッと顔を赤くして怒鳴った。 「じろじろ人の体見てんじゃねェッ! てめェの視線はいちいちイヤラしいんだよ、この変態ッ!」 そう言うと風祭はさっさと裸になって、どぼんと温泉にとびこんでしまった。 やれやれ、と龍斗は微笑んで自分も裸になる――が、その股間の一物は興奮を表して半勃ちになっていた。龍斗の並外れた視力は、風祭が服を脱いで湯に飛び込む一瞬の間に、風祭の引き締まった尻や薄く毛の生えた一物をしっかり捉えていたのだ。 今すぐ押し倒して犯したい、という欲望がむくむくと持ち上がり、龍斗はにやっと笑った。 その欲望をそのままぶつけるほど自分は餓鬼ではないが、相手をその気にさせるよう努力してみせるくらいは許されるだろう。 普通に入ったら腰ぐらいまでしかないお湯に肩まで浸かっている風祭に、いそいそと近付く。 その気配に気付いたのか、風祭の耳がぴくりと動いたが、風祭は振り返らなかった。中腰になって腕で体を抱えこみ、前を隠している。 だがその体勢だと日に焼けた琥珀色のうなじや適度に肉はついているがやはり細い印象を受ける背中から尻への線が良く見えてしまうことにまでは気付いていない。 龍斗は風祭の後ろに立って風祭の体を視姦しながら無言でどう反応するかをうかがっていたが、風祭が意地になって振り向かないつもりのようなのを見て取ると、人の悪い笑みを浮かべ、風祭の体をいきなり一抱きに抱きこんだ。 「うぎゃッ! なにしやがる、たんたんッ!」 驚いて暴れ出す風祭に、まだ俺の性格を掴めていないのか、と龍斗は苦笑する。 「なあ、澳継。こうして夕闇迫る空の下で二人素っ裸でそばにいると……無性にしたくなってこないか?」 言いながらも龍斗の手は風祭の首筋に口付けを落としたり尻や脇腹を撫でたりとまずは体をその気にさせるべくいじっている。 「誰がなるかッ! てめェは……ンッ、そういうことしか……ッ、考えてねェのかよッ!」 風祭は必死にお湯をはねかせて暴れるが、龍斗にがっちりと関節を固められあちこちを愛撫されて既に息を荒くしている。 自分が馴らしたせいもあるが、感じやすい体だな、と龍斗はこっそりほくそえんだ。 「失敬な。他にも色々考えてるぞ。お前と手合わせすることとか、お前に美味い飯を食わせてやることとか、お前と一緒に道場破りすることとか」 風祭はまだ暴れていたが、うなじが赤く染まるのがわかった。 「……俺のことしかッ、考えてねェのか、てめェはッ……」 「まあ(ほぼ)そういうことだな。……それで今は、お前の身体を見てまぐわいたくてしょうがなくなってるわけだ」 「このッ……万年発情期ッ……!」 「褒め言葉として受けとっておいてやるよ。だからこそお前をいつでも悦ばせられるわけだし……な?」 「ンァ……ッ!」 緩く一物を擦られて、風祭は声を洩らした。強弱をつけながら先端をいじられ、竿を扱かれ、皮をかぶせたりムイたりを繰り返されて、風祭の一物からは既に先走りがこぼれ始めている。 「もうお前もかなりその気になってるみたいだな? ……いいだろ、このまま……」 「……ぜッてェ……ヤダッ……!」 「頑固な奴だな。お前のここはもうしたい、したい″って泣いてるぞ?」 我ながら恥ずかしい台詞を口にしながら、風祭の一物を握りこんで絶妙な愛撫を加えてやる。 「ヤなもんは……ヤなんだよッ……!」 「……本当に強情だな。どうしてそこまで嫌がるんだよ、昨日やってないからお前だって溜まってるだろ?」 龍斗は風祭の恥じらって言葉に詰まる姿が見たくてこんなことを言ったのだが、予想に反して風祭からは(息を荒くしながらも)しっかりした答えが返ってきた。 「……見られてる……だろッ……!」 「は?」 まさか自分が気付かないうちに風祭の肌身を垣間見ようとする不届き者が現れたのか、と龍斗は辺りを見回してみるが、どこにも人の気配はない。 「誰もいないぞ?」 「……いるだろッ……」 「いないって」 「だからッ……サルがッ……」 「………は?」 もう一度辺りを見回してみると、確かにサルがいた。温泉につかりにきたのだろう、家族らしき数匹のサルが固まってこちらをじっと見ている。 「……なあ、澳継。念のため確認しておくが、お前はサルに見られてるから、恥ずかしくてヤりたくない、と言いたかったんだな?」 「………」 風祭は顔を真っ赤にして、こくり、とうなずいた。 ――ごおっ、と耳元で炎が燃えあがるような音がした気がした。 情欲の炎だ。 可愛い。 なんて可愛いことを言うんだこのクソ生意気な餓鬼は。 可愛がりたい。なんとしても可愛がりたい。 怒涛のように燃えあがる情欲を必死でなだめて風祭に微笑みかける。こんな可愛いことを言う奴を一息に味わうなんてもったいなさすぎる。じっくりたっぷり、よがり狂わせながらその姿を堪能させてもらうとしよう。 「――じゃあ、見せてやろうじゃないか」 「へ?」 きょとんとした顔。 「あのサル達に、俺とお前がまぐわってよがるところを見せつけてやろうじゃないか」 「なッ……なに考えてんだてめェはァッ! ヤラしいこと言うなッ!」 カッとなった風祭は、龍斗に肘打ちと膝蹴りを放ってきたが、龍斗はそれをあっさりさばいて、両肩と両腿の点穴をトントントン、と突いた。 「………!?」 「これでもう、しばらくお前の体は動かないぞ?」 「なッ……」 四肢の神経を一時的に麻痺させるツボだ。ここは突いてもまったく痛みはない。 これからやることは風祭がまともに動けるとまず大暴れ間違いなしなので、とりあえず動きを封じることにしたのだ。言葉にすることによってより暗示力を高め、ますます動けないようにさせる。 龍斗は、にやにや笑いながらいったん岸の荷物を置いたところに戻り、あるものを持ってすぐ戻ってきた。 身体を動かせずに、突っ立ったまま顔を真っ赤にして龍斗を睨んでいた風祭は、怪訝そうな顔になった。 「なんだよ、そりゃァ……」 「縄だ」 龍斗のもってきたのは、縄だった。 荒縄ではなく、布をよじって作られた肌触りのよいものだ。 「ンなこたァ見りゃわかる。何でンなもん持ってんだよ」 「山ではいろいろと重宝するから、山に入る前に買っておいたんだよ」 「そうじゃなくてッ! それ、何に使う気なんだよッ」 龍斗はにっこりと満面の笑みを浮かべてやった。 「お前をこれで縛るんだ」 「なッ……何考えてんだてめェはッ! 頭沸いてんのかッ!」 風祭は身体を動かそうと必死に力を入れるが、無駄なことだ。後しばらくは何をどうやっても風祭の身体は動かない。 龍斗は笑みを浮かべたまま風祭に近付いて、縄を見せつけるようにした。 「これからこれでお前を縛って、動けなくしてヤる。たっぷり味わえよ、抵抗できなくなっていく気持ちをな」 「この……ッ」 ギッと射殺さんばかりの目付きでこちらを睨んでくるが、龍斗にとっては蛙の面に水。むしろ風祭の気持ちが自分に向けられているのを感じて心地よいくらいだ。 まず胴体を亀甲縛りに縛る。ややきつめに縛り、風祭のしなやかな筋肉に縄が食い込むさまを楽しむ。 手は後ろ手に縛って一まとめに。拘束されているという感覚をより強めるために。 そして一物の周りも縛ってやる。玉と竿が縄で圧迫されて、萎えていたのが少し勃ってきた。もちろん縛りながら適度に刺激していたせいもあるのだが。 「お? 澳継、勃ってきたな? 縛られて興奮してるのか?」 「てめェッ……!」 言葉で軽く苛めてやると、即座に反応して顔を真っ赤にしこちらをにらみつけて来る。龍斗は背筋にぞくぞくと快感が走り抜けるのを感じた。 最後に両足を縛ると、余りを温泉の上に大きく張り出した枝にかけた。枝振りがしっかりしていることを確認し、縄の端を引っ張って、滑車のようにして風祭を宙に吊り上げる。 端を引っ張る度に縄が風祭の体に食い込み、より強く風祭を拘束する。刺激されて風祭の一物が少し大きくなるのを、龍斗は楽しんで眺めた。 ついに、風祭は完全に宙に吊り上げられた。手は後ろ手に縛られ、股を大きく開き、縛られて半勃ちになった一物も尻の穴も思い切り龍斗の眼前にさらしている。 「お前の恥ずかしいところが全部丸見えだ。いい格好だな、澳継?」 「てめェッ……ぜッてェぶっ殺してやるッ……」 怒りのあまりか恥ずかしさのあまりか、わずかに涙をにじませながら風祭は龍斗を睨み据えた。 龍斗はもう嬉しさに震えだしそうになりながら、あらかじめ持ってきていた潤滑用の薬の入った小さな壷を手に取る。 普段なら風祭の後孔は龍斗自身の舌で思う存分ねぶりまわして馴らしてやるのだが、今回はあまり時間をかけたくないし、風祭に奉仕されているという感覚を与えてはまずいのだ。 たっぷりと薬を手にとって、一気に二本風祭の後孔に指を突っ込んでやる。 「ンアッ……!」 風祭は苦しげに喘いだが、この一年で馴らしに馴らされすっかり柔かくなっている後孔はわりとすんなり龍斗の指を受け入れた。 龍斗は普段よりやや乱暴に風祭の後孔をまさぐり、薬を何度も指にとっては塗りたくる。風祭の後孔はすぐにぐちゅぐちゅという淫らな音を立て始めた。 「後ろの穴が濡れてきたぞ? ほら、もうこんなにぐちゅぐちゅだ。さんざん抵抗しておきながら、意外に淫乱だな、澳継?」 「ざけんなッ……ハァッ……薬塗られてるんだからッ……ンッ……当たり前だろうがッ……」 「口ではそう言っておきながら……ほら、前の方も濡れてきたぞ? 縛られて尻の穴いじられて感じちまったんだろう?」 言いながら龍斗は空いている方の手で風祭の一物を握り、軽く扱く。龍斗の言葉通り、風祭の一物は完全に勃起し既に先走りをしとど洩らしていた。 「……ッ!」 涙目になって喘ぎながらも、風祭は全身の気力を振り絞って龍斗を睨みつける。 その目を見ると、ゾクゾクゥ! と指先から蕩けそうになるほどの快楽が龍斗の体を走った。 いとおしい。 その思いに身体中を満たされて、龍斗は微笑みながら指を突っ込んだまま風祭の後ろに回り込んだ。 「……澳継。見てみろよ」 「……ンだよッ……」 「サル達が、こっちを見てるぞ」 「!?」 風祭ははっと顔を上げた。龍斗の言う通り、サルの群れはさっきと同じように固まってこちらをじっと見ていた。こころなしか、さっきより数が増えている。 サルの表情はわからないが、どのサルもこれといった表情を見せず、ただじっとこちらを見ている。 風祭の顔がカッと真っ赤になった。さっきまで自分がされていた行為を見られていたのだと思うと、たまらない羞恥に襲われたのだろう。 後ろから見えるその表情を楽しみながら、龍斗は風祭の後孔と一物を徹底的にいじりまわしてやる。 「ンアッ……アゥンッ……ンハァッ……フゥンッ……!」 「お前の一物も尻の穴も、全部見られてるぞ、澳継。そこをいじられてよがってるところも、な」 「……てめェッ……!」 「お前のここ、もうビンビンだぞ? 見られて興奮したのか? お前って結構変態だったんだな」 「殺すッ……ぜッてェぶっ殺してやるッ……!」 と言いながらも風祭は半泣きだった。風祭の一物は完全勃起、先端から先走りをだらだら流し、後孔も指を三本も四本も咥えこんで、もっともっとと物欲しげにひくひくしているのが自分でもわかっているのだろう。 そしてそれを見られている。 十匹以上のサルの無表情な視線で、じっと見られている。 「……さて、それじゃそろそろ犯してやるとするか。お前ももう我慢できないだろう? しっかり見てもらえよ、俺の一物に尻を犯されるところを」 「……この、野郎ッ……!」 風祭は必死に首を振るが、身体は動かない。むしろ必死に抵抗しようとするその姿は、猛烈に龍斗の情欲を刺激した。 挿入した。 「ン――ッ……!」 風祭が嬌声を押し殺したような声を上げた。風祭の腸内を、龍斗の一物がゆっくりと満たしていく。風祭の身体を抱え上げ、後孔のあちこちを抉るようにしながらじわじわと奥へ進み――最奥をえぐった。 「ンハァッ……!」 「どうした澳継、そんなに気持ちいいのか? 尻に俺の一物を咥えこんで、腰振ってるところをみんなに見られて?」 「ンッ! ンッ! ンッ!」 ゆっくりと律動を開始しながら言う龍斗に、風祭は涙目で顔を真っ赤にしながら、ぶんぶんと首を振る。 最奥を突かれる度に、声にならない呻き声を上げ、首から上を大きく動かした。その度にぎしぎしと縄で吊り下げられた体が揺れ、縄がより深く風祭の体に食い込む。 「お前の尻の穴キュウキュウ締まるぞ? 縛られて、尻の穴犯されてるのをみんなに見られるのがよっぽどイイみたいだな?」 言いながら何度も何度も最奥を突く。体重がかかるために普段よりさらに深く挿入されている。 ぐちゃっぐちゅっ、ぴたんぴたん。龍斗が抽送を行うごとにお互いの体液が交じり合う音、体と体がぶつかり合う音が辺りに響く。 サル達はいつのまにか十数匹にまで増えていた。二人の行動にも特になんの反応も示さず、ただじーっとこちらを見ている。 風祭を言葉でいたぶりながら、龍斗自身その視線に高ぶっている自分を感じていた。 風祭はこれ以上ないくらい顔を真っ赤にして、涙を目にためながら必死に首を振っている。もはや声も出ない様子だ。 ふいに、風祭の体がぶるぶるっと震えた。 絶頂が近いと感じた龍斗は、抽送をさらに激しくしつつ、風祭の一物を勢いよく扱き上げた。 「ンアッ……ンアッ……ンンッ……!」 「よし、イケッ、澳継! 縛られて尻を犯されながらイクところをみんなに見てもらえ!」 風祭がぐいっと首を捻じ曲げてこっちを見た。泣きそうに目を潤ませながらも、負けまいという必死の意思をたたえてこちらを睨む。 その目にゾクゾクゥ! と背筋が震えた龍斗は、一物を風祭の体内に打ち込みながら風祭の唇を奪った。 「………!」 嬌声も唇に封じられたまま、風祭はサルに見られながら、勢いよく龍斗の手とお湯に向けて精液を放った。 「……誰が、インランの変態だって、アァ?」 「淫乱なのも変態なのも全部俺ですすいません」 風祭に死ぬほど殴られてジャガイモのように膨れ上がった顔で、龍斗は頭を下げた。まだ風祭に胸倉を掴まれていたので頭しか下げられなかったが。 龍斗が三回、風祭が五回イッた頃、そろそろ点穴を突いた効果が消えると思った龍斗は、風祭を縛った縄を解き、立たせてやった。 やいなや殴られた。 まあ、龍斗自身今日はちょっとやりすぎたかなー、などと思っていたので抵抗はしなかった。風祭があんまり可愛いことを言うのでつい暴走してしまったのだ。俺もまだまだ修業が足りない、と心の中で苦笑した。 「よくもまあさんざん好き放題やってくれたな、オイ? まさかただで済むと思っちゃいねェだろうな、俺の拳をこれから死ぬほど味あわせてやるぜ。……最低でも十回はぶっ殺す!」 青筋を立てた殺す気満々の顔で透徹した怒りを見せる風祭においおいまだ殴るのかよ、と龍斗は思ったが、その実まんざらな気分でもなかった。 実は龍斗は風祭に怒られたり殴られたりするのも好きなのだ。この愛しい生き物の中が全て自分に対する思いで満たされているのだと思うと、たまらない幸福感に包まれる。 よーするに俺はこいつだったらなんでもいいんだなー、と思うとちょっと笑えてしまったが、そうしたらなに笑ってやがんだと怒られてさらに五、六発殴られた。 |