「プロンプト・オンッ! ぶっとばしなさい、ゼルギュノスっ!!」
 無限回廊最深部で、最後の敵を倒す時響いたそんな声に、ライは目をぱちぱちさせた。

「なぁ、ぷろんぷと・おんってなんなんだ? お前、時々言ってるよな」
 戦闘終了後、とりあえずの休憩時間にライが聞くと、リシェルは肩をすくめながらあっさりと答えた。
「ああ、あれ? 呪文よ、機属性の召喚術の。決まり文句みたいなもんね」
「けっこう変わった響きだよな」
「まぁねー。機属性の召喚獣っていうのは生きてる人間とは根っこの動かしてる言語……っていうか原理……っていうか……あーとにかくいろいろ違うから理解できる言葉も違うわけ。他にもいろいろあるわよ、アクセスとかエンターとかスクリプト・オンとか。あたしはたまたまうちに伝わってる召喚術でそう唱えるのが多かったから言ってるだけ」
「けど言ってる時と言ってない時がないか? その呪文。召喚術使う時は呪文が絶対必要なんだろ?」
「……あんたね、いまさら言う? あたしたちはともかく、あんたたちなんかそれこそ呪文とかめちゃくちゃじゃないの」
『あ………』
 思わずといったように数人が声を揃えた。
「……あんたらね。気がついてなかったわけ?」
「い、いや気がついてなかったっていうか! もともと俺は召喚術は専門じゃないし!」
「おいらの知ってる召喚師たちも、みんな呪文とか時によって違ったからいいのかなって思っちゃって……」
「つ、つか、それならなんで召喚術が使えるんだよ。俺たち別に全然不便じゃないぜ?」
「だっからねぇ……! あーもう、説明めんどくさい! ミントさん、任せた!」
「え、私? そうだねぇー……」
 ミントは可愛らしく小首を傾げると、にこっと笑って訊ねてきた。
「みんなは、誓約の儀式って、どういうものだと思ってる?」
「そっからか……」
「え? だって、ミントねーちゃんもリシェルも、あとリビエルとセイロンもガンガンしてるじゃん。道具とか場合によっちゃ武器とか媒介にして、召喚獣と誓約するんだろ?」
「そうだね、みんなにはそう思えてるかも。でも、普通召喚師が誓約の儀式を行う時、道具は必要ないって知ってた?」
『え?』
「ついでに言うと、あんなにちょろっと呪文唱えてはいできた、みたいに便利に使えるもんじゃないの。長い長い時間かけて試行錯誤してかなきゃならないもんなのよ」
『えぇっ!?』
 思わず声を上げた無知な戦士群に、召喚師陣は入れ替わり立ち代り説明する。
「まず、今私たちが置かれてる状況が相当に特殊なものだってことから説明しなきゃならないよね」
「そりゃわかってるさ、至竜や半妖精を巡って空の城で戦おうってんだもんな」
「そーいうんじゃないの! あのね、今まで一回も疑問に思ったことない? 死ぬほど高価なサモナイト石が、なんであたしたちの場合戦うたびにがんがん手に入るのか」
『……あ』
「私たちもきちんとわかっているわけではないのですけれど。これは俗に召喚師たちの夜≠ニ呼ばれる状態に違いないのですわ」
『……は?』
「世界に満ちるマナ、個々人の持つ魔力、そういったものの流れが重なって魔力が飽和状態になっている現象のことでな。様々な超常現象が頻繁に起きる」
「それはたとえば、戦ったり地面から出てきた宝箱を壊したらサモナイト石が手に入ることだったり、すごい力を持った特殊な道具がどんどん手に入ることだったり、簡単に誓約が済ませられることだったりするわけ」
『……はぁ』
「私は最初にこの一件に巻き込まれた時、リシェルちゃんにそうなんじゃないか、って相談を受けたの。サモナイト石が手に入った、道具を媒介にした誓約もできた、って」
「召喚師たちの夜≠フことは知ってたからね……なんでも古くはエルゴの王の時代からあったことだったらしいし」
「エルゴの王……それはすごい」
「道具を媒介にした誓約ってなんだよ」
「もう、しょうがありませんわねぇ。いいですこと? まず本来の誓約というのは、サモナイト石と魔力と呪文だけで界の狭間を越え召喚獣に働きかけるもの。つまり界を超える魔力と界全体を観る°Z術が必要ですわ」
「それに対して私たちが今よくやってる誓約はね、道具に対して魔力と呪文で働きかけて、ただそれだけで界の狭間を越えて召喚獣の魂に直接接触することができるの。道具によって働きかけられる召喚獣の種類は決まっているけどね」
 ミントの言葉に、戦士群はきょとんとした。
「え? 誓約って、決まった召喚獣にしか働きかけられないんじゃないんですか?」
「そんなわけないでしょ。それなら用途に応じた召喚獣を呼び出すことができないじゃない」
『……あ』
「召喚師たちの夜≠ノおける誓約は、特定の道具を使用することで特定の召喚獣とごく簡単に結ぶことが可能なのだが」
「当たり前ですけれど、それはそう強力なものではありませんの。召喚術のもっとも基本的な使い方……魔力で一瞬だけ喚び出してその召喚獣の持つ最強の力を叩きつける、そういうほぼ戦いでしか役に立たない使い方しかできない程度の強さの誓約でしかないのですわ」
「え、召喚術って、そういうもんじゃないのかい?」
「……あのね、なら考えてみなさいよ。今リィンバウムにいる召喚獣たちのほとんどは、召喚術以外のなにで呼ばれてきたわけ?」
『あ』
 ぽかんとする戦士群に、リシェルとリビエルははぁ、とため息をつきミントとセイロンは苦笑した。
「まぁ、たいていの人は戦いで使う召喚術とそれ以外の用途に役立てる召喚術を分けて考えがちだからね。でもどちらも同じ召喚術だもの、根本は一緒なんだよ」
「召喚術というものは、基本的に喚び出す一瞬に最大の魔力を消費する。そして最も強力な威力を出すことができるのもこの一瞬だ。なので戦いの中では最大魔力を消費して一瞬だけ喚び出し即送還する。これが召喚師召喚獣双方の安全、威力と消費する魔力の釣り合い、すべてにおいて最も有効だと考えられているのだよ」
「ていうかね、召喚師だって喚び出した召喚獣をいくつもいくつも常に完全に制御できるわけないでしょ? 周りにも召喚獣にも安全なように、きっちり誓約かけて呼ぶだけでもそれなりに魔力使うってのに」
「……? 周りにも召喚獣にもってどういうことだ? 周りにもってのは、まぁわかるんだが」
「もう、不見識ですわよ。いいですこと? 誓約できちんと制御せず喚び出したりしたら、状況がわからないままに呼ばれた召喚獣が暴れ出して召喚師を殺して逃げ出してしまうかもしれないじゃありませんの。そうしたらはぐれ召喚獣を作ってしまいますのよ?」
『あ』
「そういえば、おいらの仲間に召喚師を叩きのめして逃げ出して元の世界に帰れなくなったって人がいたっけ……あれは、ちゃんと誓約かけてない召喚師に喚び出されたってことだったのか」
「そ、真っ当な召喚師なら絶対しないことよ。ほら、前に会った悪者兄弟がやたらいっぱい召喚獣喚び出したりしてたでしょ? ああいうのは最悪ね。あれだけ大量に喚び出してほとんど魔力消費してないってことは、全然制御してないってことだもの。まぁそもそもかける技術がないってのも外道召喚師にはいるらしいけど。教授の場合は全部スクラップ召喚してそこから再生するなんてとんでもないことやってたから、全然別次元だけどさ」
「あー、あのあと召喚獣たち全部送還させなきゃなんなかったもんな……けどさ、それならいったん喚んじまったら、召喚術って全然魔力使わないもんなのか?」
「基本的には、そうだね。召喚獣に強い力を出してもらう時に、魔力を送ったりはするけど。送還にも魔力は使わないし。そうじゃなかったら、護衛獣っていう存在ができることはなかっただろうね」
「ああ……じゃあさ、召喚獣の制御ってのは、魔力使わないのか?」
「魔力というか……一度結んだ誓約の使い方というか、向き合い方の問題ですわね。無理やり召喚獣の意思に逆らったことをやらせるとかなら魔力を無駄に使うこともあるでしょうけど」
「ただ、人間……だけじゃなく四界のどの生き物であろうと、戦いの時とかに反射的に使えるほど完全に制御できる数は、四つが限界だって言われてるけどね。だからあたしたちもそれ以上の召喚石は戦闘時に持ち歩いたりしないでしょ?」
「四界と数が同じことからなにやらややこしげないわくをつけるものもおるな。まぁもちろん、それは最大でも、の話で普通はそれより少なくなるのだが。訓練を積んだ召喚師やあまり訓練を積んでおらぬ力あるもので三つ、普通の戦士ならばひとつというところだろう」
「あ、もしかして時々おいらたちが召喚術使う訓練させられたりしてたのは、そういうのを調べたりしてたのか?」
「うむ、その通りだ。まぁ、我のように制御力に秀でるには鍛錬を積まねばならぬというわけだ、あっはっは! ……しかし、なぜそのようなことを聞く、店主殿?」
「いや、それなら長い間喚び出しといて、いつでも使ってやろうって奴がうじゃうじゃ出ちまわねぇかと思ってさ」
 ライの言葉に、ミントは顔を曇らせ、リシェルは顔をしかめてはぁ、と息をついた。
「あんたね、いまさらそれを言う? これまで何度そういう問題とぶつかってきたと思ってんのよ」
「あ……」
「実際、そういう風に召喚術を使う召喚師も多いわ。一応ならわしとしては、用が済んだら即送還するっていうのが召喚師の心得なんだけど。荷物を運ばせたり遠距離の移動に使ったり、そういうのは長い時間喚び出しっぱなしじゃないとできないから」
「いや、けどさ。そんなに長い間喚び出しっぱなしじゃ召喚獣の奴らだって逆らうだろ。隙を見つけて召喚師叩きのめして、送還しろって迫ったりすることだってねぇかと思ったんだけど」
「……鋭いのか鈍いのかわからない人ですわね」
「なんだそりゃ」
「実際そういう風にして自由になった召喚獣もいるそうですわ。でもそういう時のために召喚師は誓約を結ぶんですもの、召喚獣の魂とね。呪文一言で召喚師は召喚獣に強烈な苦痛を与えることができる。意思に逆らった行為をさせるのも不可能じゃないわ」
『…………』
「そして多くの召喚師たちは、たやすく制御できるように長い間喚び出す召喚獣は比較的魂の力の弱いものにするものなの。私たちだって戦いの時実際に戦ってもらうために呼ぶ召喚獣は、みんな小さなものばかりでしょう?」
「……ん? ちょっと待てよ。じゃあ、強い力持った召喚獣って、召喚師でもずっと制御するって、できねぇのか?」
 ライの素朴な疑問に、召喚師陣は揃って難しい顔をした。
「できないってことないけど、したくないわね。一瞬でもそれなりに制御に気使うんだから、長時間完璧に制御なんてどんだけ疲れるか想像しただけでうんざりするわ」
「巨大な召喚獣を喚んで大きな荷物を運ばせる、っていうやり方も確かにあるんだけど、そういう場合は長い時間をかけてよほどしっかり誓約を結んであるか、他の召喚術を併用するか、その召喚獣専任の召喚師を使ってるか……なんにせよ、暴走を防ぐために幾重にも安全措置がとられているものなんだよ。さもなければ、そもそも使役されることに慣れていたり、そういう風に作られた存在だったりとかね」
「まぁ、暴走の危険無視してでかいの長時間呼ぶバカもいるらしいけどね。ちゃんと制御して長時間呼ぶのは、お気に入り、っていうか……護衛獣にできるくらいきちんと絆を結んだ召喚獣ならまだしもだけど、強い召喚獣ほどきちんと絆を結ぶのは難しいし。あ、それと超弩級の召喚獣……あたしのゼルギュノスとかは絶対ムリ、存在の桁が違うから。っていうかいてもらっても困るし」
「ある程度以上の力を持った召喚獣にはね、どんな召喚師でも『お願いする』って感じなの。誓約を結ぶのにもものすごい苦労が必要だから、自然とそうなるみたいね」
「え、けどミントねーちゃん、あのとんでもない力持ってるでかい牛の王様みてーのとかともすげぇあっさり……あ! もしかしてそれが」
「そう、召喚師たちの夜≠フ力ってことだね。どんな強い力を持った召喚獣とも、簡単な呪文だけで結べる誓約。不心得な召喚師とかが悪用したら大変なことになっちゃうんだけど……」
「古代よりそのようなことは起きておらぬ。まぁ、そのような召喚師がいては召喚師たちの夜≠ヘやってこぬということだな」
「本来の誓約には長い時間と手間がかかります。召喚獣の魂をなだめたりすかしたりしながら持てる知識を最大限に使って真の名≠見つけ出さなくてはならないの。魔力の暴発や召喚獣に消し炭にされる危険を冒しつつね」
「え……それって、すごく大変じゃないか?」
「そ、すっごく大変。だから召喚師の家々ごとにある召喚術の秘伝ってものが重要視されるし、誓約済みの召喚石ってものの貴重さも増すわけ。誓約済み召喚石って本来ものすごく貴重なのよ、なにせそれがあればどんな人でも『来いっ』って一言言って念じるだけで召喚術が使えるんだから。まぁ、魔力を注ぎ込む要領がわかってればだけど」
「だけど、自分の力量以上の召喚獣を呼び出したり召喚術を使おうとしたりしてしまうと、容易に暴走や暴発を引き起こしてしまうの。だから、自分の力量を見極めて、制御できるぐらいの召喚獣を呼び出す技術っていうのは、召喚師なら誰もが最初に徹底的に叩き込まれることなんだよ」
「ああ、仲間内の誰かがなんかもっと強い召喚術使えそうってなった時も、お前らすごく慎重だったもんな……」
 召喚師陣は全員揃って深くうなずく。
「あなた方はきちんと召喚術を学んだわけではありませんもの。魔力の集中と注入と制御はきっちりできていましたから、召喚術を戦いに用いる分にはなにも言いませんけれど」
「さすがに召喚した相手をたえず誓約で制御するということは不可能であろう? ゆえに一瞬最大の魔力で力を使わせ、即送還するという戦いの基本的な使い方のみに留まってもらっているというわけだ」
「まぁ、俺は召喚術の使い方ってそういうのしか習わなかったからなぁ……もうそういうのが染み付いちまってるっていうか」
「で、最初のところに戻るんだけど」
「え? ……あ」
 そういえば最初は確か、呪文がどうとかそういう話だったような。
 思い出して目をぱちぱちさせるライに、ミントは教師のような微笑みを浮かべつつ言った。
「呪文っていうのはね、基本的に自分の力を増す≠スめに使うの。強い召喚獣と誓約するためとか、強い召喚術を使う時とかね。自分の精神集中の助けにしたり、召喚獣それぞれの好みみたいなものに合わせて使って召喚獣の力を弱めたり強めたりね」
「はぁ、うん」
「たとえば誓約なら、まずサモナイト石に魔力を集中させて異世界への門を開いて、その一瞬で異世界全体を観る=Bそして目的にかなった召喚獣を見つけて、来て≠ニ念じて呼び寄せながら、呼び寄せた召喚獣が暴れだす前に真の名≠探り当てて、召喚獣の魂と誓約を結ぶわけだけど……どれも普通ならものすごく大変なの」
「そりゃそうだろうな……なんかあっという間にものすごくたくさんのことしなきゃなんないみたいだし」
「でもね、これまでに積み上げられた召喚術の知識を使って、そういう一連の作業を簡単にこなすために作られたものがあるの。それが呪文≠ネんだよ」
「え……どういうことだよ?」
「そうだねぇ……ライくんにわかりやすくいえばお料理かな。お料理を作る時、それはもちろんだいたいこのくらい、っていう目分量で作ることもできるけど、これが大さじ何杯これが小さじ何杯、ってきちんと決まっていたら誰でもその通りにやればその料理が作れるでしょ?」
「……ああ!」
「もちろん経験を積めば手順を省略したりいじったりしてみてもっとおいしい料理を作ったりできる。でもレシピが頭の中に入ってるのとそうじゃないのとでは、やっぱりお料理のできは違うよね? 呪文もそんな感じなの。こうすればきちんとできる、っていう型を自分の中に作る。その型を何度も練習することで実践でも変わらない結果を出すようにできる、っていうわけ」
「うんうん」
「それに言葉っていうものは意識に強く訴えるでしょ? だからそれに魔力を込めれば、召喚師自身や召喚獣の意識、ひいては世界そのものに強く訴えかける力も持つ。つまりさっき言った作業を短縮したり同時に行ったりもできるんだよ。そういうもろもろを合わせて、呪文とそれに伴う魔力の使い方っていうものを学べば、召喚術に必要な工程をひとまとめにして学ぶことができるの。呪文がちゃんと唱えられれば、世界を観て*蛯開いて誓約してっていう一連の工程をまず間違いなくちゃんとこなせる、ってこと」
「なるほど」
「召喚師はそういう風な勉強を基礎的な召喚術から始めて、呪文がなければちゃんと呼んだり制御したりできないような高位の召喚術へと進んで、未知の召喚術のために必要な呪文を開発したり、もっと効率よく魔力を使える呪文を開発したりっていうように先駆者となるべく研究をしたりするっていうわけ。もちろんそこまでいくと難しさや暴走、暴発の危険も大きくなるけど。ここまでは、わかったかな?」
「うん」
「で、ライくんたちが普段使っているような、一声叫んで魔力を集中すれば使える召喚術なんだけど……まずね、さっきリシェルちゃんが言ってたよね? 基本的には誓約済みの召喚石さえあれば、誰でも召喚獣を呼ぶことはできるんだよ。魔力の相性が合ってさえいれば、それこそ五つの子供にもね」
「え……そ、そうなのか!? そういやそんなこと言ってたけど」
「あんたあたしの話聞いてなかったわけ!?」
「まぁまぁ。……もちろん暴走や暴発を防ぐためにはそんなことしちゃいけないんだけど、ちゃんと誓約が行われた召喚石はそれだけの力があるの。だからこそ召喚師は誓約済みの召喚石についての取り扱いは慎重になるし、帝国でも法律で厳しく取り締まられているわけだね」
「うん……」
「でも、そういった誓約済みの召喚石でも、きちんと発動させるには呪文が必要なの。たった一言来て≠チて言うだけでも、ないのとは段違いに使用者の魔力を増して、世界に強く働きかける力があるの。理論的には人間の持てる魔力では呪文なしじゃ召喚術は使えないっていうのが通説になってるくらい。それを覆すような例は、今のところエルゴの王以外確認されてないほどなんだよ」
「……? エルゴの王、ってなんだ?」
「………えーっと、ね……」
「あーもうこれ以上話長くしないでよ! また今度説明したげるから! とにかく! 召喚術とか誓約とか呪文とか、そこらへんについてはわかったでしょ!?」
「お、おうっ」
「勉強になりました、みなさんすいません」
「今までちゃんとは知らなかったからなぁ」
「ご高説、ありがたく承りましてございます」
 口々に言う戦士群に、召喚師陣はよろしい、と深くうなずいた。
「よっし、そんじゃいったん店に戻って、もう一周いくか!」
「今度はさっきよりは楽だよなー、いろいろ武器手に入ったから」
「それにあたしたちも相当腕上げたしね!」
「パパ、今度はミルリーフもっと頑張るね!」
「ヒトカタさんたちも、今度はそんなに酷使しなくてもいいと思うよ」
「ぐらんモ、モット頑張ル!」
「最後の決戦の前に、できるだけの力をつけておかなくてはならないからね」
「よっし、じゃあ、みんな、いいな?」
「……準備万端、かと」
 よっし、とうなずいてライは腕を振り上げ声を張り上げた。
「シャオメーイっ! 悪いけど、もう一周頼むーっ!」
 ……白夜と戦うことになり、数度の戦闘を経て和解し、そののち何十度と戦うのは、これから武訓廊を何周かしたあとの話である。

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