「はぁぁ……っ、はぁっ!」
 ずだだだっ、と迅雷のような速度での突きの連打、そして最後に敵の真芯を突き通すような重い一撃。裏庭の稽古場で見せたグラッドの妙技に、ライたちは惜しみない拍手を送った。
「すげぇよなぁ、兄貴のその技。『我流・紫電槍』だっけ? ギアンの奴も、ほとんど一撃でぶっ倒してたもんな」
「はは、ありがとな。まぁ兄貴分としてお前に負けてばっかりじゃいられないからな、こっそり修行してたんだよ」
「へ? 負けるって、なにがだよ」
「いや、実際お前の戦いについての勘には負けたとか思うこと多いけどな……あれだよ、ほら。お前と子供たちの必殺技……召竜連撃、ってやつ」
「あぁ!」
 言われて初めて思い出す。竜の子たちが力を目覚めさせた時に自分が突然習得してしまった、竜の子たちと協力して一人の敵に普段とは桁違いの打撃を決める技。確かに技の威力としては、あれに似ているかもしれない。
「けど、あれって俺、リュームたちがそばにいないと出せねーぜ?」
「まぁそりゃわかってるけど、お前のあの技に助けられたこと何度もあっただろ。俺もそういう技が使えたらいいなと思ってな、セイロンに相談して、特訓積んだんだ。一応、イメージらしきものはあったからな、アズリア将軍の伝説とか聞いて」
「……セイロンに?」
 思わず自分たちの背後で優雅に扇を使っていたセイロンに視線をやると、にっこり笑顔を返された。否定しないということは、セイロンとしても相当に気合を入れて取り組んだ、ということだろうか。
「あ、実はおいらもそうなんだ。おいらも必殺技とかほしいなと思ってセイロンや……あとシンゲンにもちょっと教わったかな。昔、サムライの居合斬りの技を自分なりに昇華した剣士の人とか見たことあるからさ……この戦いでそれなりに自信もついてきたし、おいらなりのそういう技、見つけられるんじゃないかと思って」
「ああ、そういやアルバもなんか重い一撃ぶっ放してたよな」
「うん、ブレイブアタックっていうんだ! 大剣を使った必殺の一撃さ!」
「ぶっちゃけその名前どーかと思うぜ、アルバにーちゃん」
「え!? な、なんでだよっ、カッコいいだろっ!?」
「まぁカッコいいかどうかは好みとして……そうなのか、シンゲン?」
「ええ、その通りで。自分も、以前に教わった居合斬りの技を、本物として実戦の中で使えるほどに技が成長してきちまいましたからな」
「本物って? 今まで使ってた居合斬りとは違うの?」
「ええ、まぁ。自分の流派に伝わる本物の居合斬りは、心技体すべてを気の流れの中に合一させ、瞬速のうちに敵をみな薙ぎ払うという……まぁ要は、ストラのような技術を使って広範囲をまとめて斬る、という技なんです。それをさらに極めれば剣閃を『飛ばす』こともできるという……まぁ、そこまではうちの親父殿たちも達しちゃいませんでしたがね」
「へぇ……ストラの。ああ、だからセイロンなのか、セイロンはストラを使った武術の使い手だから」
「うん、おいらもストラを実戦の中で使えるようになったし、なんとなくひらめくものがあって」
 へぇ、と思わずセイロンを見ると、セイロンはにっこり笑顔で言う。
「シルターンの武術は気と機の合一についてはリィンバウムはもちろん、他の界をも凌駕しているのでな。仲間の中で素質がある、と思った者にはこちらから声をかけ、導くことにしていたのだ」
「む……なにを言う。我々メイトルパの者の強固な心身による技は、けっして他の界にひけは」
「確かにメイトルパの者の身体能力は大したものだが、技は個々人それぞれのものになりがちであろう? 武術として万人に学べるようにされてはおらぬ。事実、そなたも我の忠言により新たな技を身につけたのではないのか?」
「わ、バカ、それは」
「えっ、アロエリもこういう必殺技身につけたのか!?」
「すげぇなアロエリ、見せてくれよ」
「む……し、仕方あるまい。いくぞ! はぁ……はぁぁぁぁーっ、はぁっ!」
「うわっ、すげぇ、的が粉みじんだ!」
「え、えーと、あの。実は、僕も、その、必殺技、みたいなもの使えるようになったりしたん、だけど……」
「え、マジかルシアン! すげぇじゃねぇか、見せてみろよ!」
「う、うん。じゃあ、いくね……でぃっ、はぁっ!」
「おお〜……確かに今までのルシアンの攻撃とは桁違いだな!」
「えへへ、ムーン・アルクスって名前をつけたんだ」
「わ、ずりぃ、なんか名前かっけぇ……くっそー、ルシアンにーちゃんができてオレができねーって、なんかすっげー悔しーな……くそー、オレももーちょい修行してみっかなぁ」
「いや、御子殿はあのような技を使えるようになるにはまだ体が成熟していませんからな。今はむしろ健やかに成長することを第一に考えるべきかと」
「うー」
「ぐらんモ、ヒッサツワザ、使エナイ……ぐらん、ヤッパリ役立タズ?」
「いや、今でもけっこう敵狩りの時なんかには役に立ってるけど……どうだセイロン?」
「むぅ……さすがに機械兵士にシルターンの武術が通ずるものなのかどうかはわからぬが。グランバルド殿も確かに経験を積むことで能力が上がっているのは確かなこと。以前敵として戦った時に強烈な砲撃を行っていたであろう、あれを体に負担をかけず行えるようになったりすることもあるのではないか?」
「ホントニ? ジャア、ぐらん、頑張ル!」
「あとは、ポムニット殿なども素質があるように見受けられるな。身体に気がどんどんと充溢していっている。このような技を自然のうちに体得するのもそう遠いことではなかろう」
「ポムニットさんが!? え、でもセイロンさん、別にポムニットさんに修行つけたりとか、してないよね?」
「うむ。彼女の戦いの技は、仲間を思う心がその響界種としての力を引き出したことで生まれたもの。もとより武芸の訓練を受けたわけではないのだからな、今から中途半端に訓練を施すより、そのままの生活を送らせる方が彼女のためにもよいと思ったのだ」
「へぇぇ……」
「……さっきから偉そうに言ってるけどよー、そういうセイロンはどうなんだよ? なんかこういう技、使えんのか?」
「ふ……ならば見るがよいっ! ふっ、はっ、やっ、はっ、たっ、でりゃあっ!」
「おおっ! すげぇ、目にも止まらぬ連続技……!」
「なになにー? なんか楽しそうなことしてんじゃない。あたしにもやらせなさいって! 分身……こいつでどうだっ!」
「うわっ、すげぇ、本当に分身したっ!」
 そうしてみんなでわぁわぁと騒いでいたが、ふいにアルバがぽそりと口にする。
「だけど、こういう技を使ったあとって、すごく疲れるんだよなぁ……体力的にじゃなく、精神的に」
「さもあろう。こういった技の力は、召喚術と同じように体内の魔力を燃焼させることで生まれるのだからな」
「……そうなのか!?」
「うむ。そもそも、リィンバウムにおいても四界のいずれにおいても、魔力を操ることは戦いの基本となることなのだよ」
「え、な、なんでだ?」
「我々が戦いの始まった時と比べ、桁違いの身体能力を手に入れているのはみな承知しているだろう? それは実戦経験と訓練を怠りなく積んだせいもむろんあるが、強烈な魔力の絡み合うこの場で命を懸けて戦ったことで魔力が上がったせいでもあるのだよ」
「え、け、けどおいら、別に召喚術の腕はほとんど上がってないけど……」
「ああ、少し誤解を招く表現であったな。魔力というのは召喚術のみならず、この世のいきとしいける者すべての内にあり、生命の基本ともなる。万物の至源たる想いの力を、世にもっとも直接的に顕現する力なのだよ」
『? ? ?』
「まぁわかりやすく言えば、呼吸法により魔力を生命力に変えるストラのように、生物、特に人や亜人などは魔力を体内に巡らせることで身体能力を上げることができるのだ。岩より固く機械や獣より強い体を得るのも、けしてできないことではない」
「そ……そーなのか?」
「うむ。岩をも砕くような召喚術の直撃を受けても我々は生き延びてきたであろう? それは体内に魔力を巡らせて耐久力を上げ、本能的に膜を張ることで術に対する防御力を上げているからなのだ。こういった純粋に魔力だけを操る技は本職の召喚師のような存在の方が上手なものだが、身体を動かすことが本分な人間は、身体能力を爆発的に強化することができる」
『はぁ……』
「このような技はその最たるものだ。ストラのような身体を操ることで魔力を燃焼させる技の習得が武術の上達に繋がるのも、そういうことだな。魔力を操る術を知り、魔力で身体に力を得る方法を知るわけだ。魔力によって上がった身体能力は体に馴染めばそれが基礎の力となる、これよりさらに経験を積めばそれこそ竜にも至れるかもしれぬぞ。無限回廊などでは、特にな」
「ふーん、そういうもんか……お?」
「パパぁ! そろそろご飯の時間だよー、ミルリーフお腹減ったー!」
「……リビエルとか、みんな、集まってきてる」
「お、もうそんな時間か。じゃーみんな、俺先にメシの準備してるな!」
「おう、楽しみに待ってるぞ!」
「うむ、食は心身を保つもっとも重要な要素のひとつであるからな」
「うまいメシ喰いたいなら素直にそう言えって」
 そう笑って、ライは自らのもうひとつの戦場である厨房へと突撃していったのだった。

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