この作品には男同士の性行為を描写した部分が存在します。
なので十八歳未満の方は(十八歳以上でも高校生の方も)閲覧を禁じさせていただきます(うっかり迷い込んでしまった男と男の性行為を描写した小説が好きではないという方も非閲覧を推奨します)。



おまけ
「今日はつっかれたよなー」
 ぼふん、と自分のベッドに倒れこむハヤトに、ガゼルは顔をしかめて軽く小突く真似をした。
「人のベッドで寝てんじゃねぇよ。自分の部屋帰れ」
「なんだよ、冷たいなー。もう七年以上も付き合ってる親友に」
「それとこれとは話が別だろーが」
 自分の拳を受けてわぁ、と慌てるまねはするものの、ベッドから下りようとはしないハヤトに、ガゼルはチッ、と小さく舌打ちをして自分の机にかけた。仕事の指令書を確認しておこうと思ったのだ。
 ガゼルの現在の表向きの仕事は日雇い労働者兼フラット≠フ世話役で、裏向きの仕事はサイジェント議会直属の諜報部を統括する密偵で、しかしてその実体はどちらの仕事もさして内容は変わっていない。どちらも結局はガキの世話だ。
 現在サイジェントの政府は、もともと存在していた領主とその周りを固める貴族――騎士や文官たちと、民間の代表者から選出された議会が対等の立法・行政権を持つ、というひどく危うい平衡の上に成り立っている。過去の事件で領主が力を失っていたところに、自分たち――フラットのメンバー、というかハヤトを中核とした面々が街を救い、そのどさくさに(主に騎士たちの提案で)議会の存在を法的に成立させたのだ。
 この議会の理念やら構成やらにはハヤトも一役買っており(なんでも故郷で学んだ知識らしい。こんなところで役立つとは思わなかったと笑っていた)、そのせいで議会の相談役として役職をもらっていたりする。それに仲間が議会の設立に協力している、というので自分たちと議会の距離は近かった。
 議会の面々は街を復活させるために自分たちに協力を求め、自分たちはそれに応える。ハヤトやキールが町をちゃんと立て直すのに力を使ったり、あの事件で親や家を失った子供たちをリプレが引き受けたり。そういう関係を自分たちは議会と築いてきたのだ。
 そして気がついたら、ガゼルは議会直属の密偵たちの頭になっていた。
 最初の頃は議会の奴らに頼まれた調査やらなにやらに普通に応えていただけだったのだ。それが何度か仕事を引き受けているうちに、そしてその依頼にもっとちゃんと予備調査をしろとかいちいち突っ込みを入れているうちに、身が軽く人から話を聞くのに慣れていてどこにでも忍び込める、早い話が盗賊としての経験を積んでいるガゼルはそういう依頼を一手に引き受けるようになってしまった。
 アカネにもときおりは手伝わせていたがあいつはそういう気配から逃げるのがうまいし、そうなるとどうしたって手が足りない。もっと手伝いをよこせと要求すると人手がないから自分で調達しろと返され、そうなるとガゼルの伝手は自分と同じスラムの不良少年たちしかいないわけで。
 そいつらに手伝わせ、逃げ出すような根性なしを叩きのめし、自分が生き延びるために技術を教え、なんとかかんとか依頼をこなして。そのうちにそういう奴らも少しは使えるようになってきて。でもそういう奴らが羽目を外すと自分のところに文句が届けられるので(周囲に先輩格として見られてるから)、リプレに飯抜きの刑を受けないために面倒ながらもきっちりしつけて根性を叩き直し。
 そういうことを繰り返しているうちに、自分、というかサイジェント議会諜報部は不良少年の更生所のようになってきてしまったのだ。手のつけられない不良息子がいたりすると、自分のところに鍛え直してやってくださいと親が連れてくる。自分はそんなのは自分の仕事じゃないと思うのに、リプレに厳命されて仕方なく密偵として使えるように技と根性と最低限の誠意というやつを叩き込む。
 そうして鍛えられた奴らが密偵として、サイジェント議会のために他国や他の町やサイジェント貴族たちの情報を収集し、議会に届けている。そして自分はその頭として、諜報部を統括し、後進を教育する役目を公的に(いや諜報部の存在は一応部外秘ということになってはいるのだが)負ってしまっているのだ。
 ガゼルとしては、そもそも密偵になりたかったわけでもないのになんで俺がこんなことしなきゃなんねぇんだ、と不満に思ったりもするのだが、議会の連中にはそれなりに義理もあるし、慕ってくる下の奴らをいきなり放り出すわけにもいかない。それにきっちり給料が出る。タダ飯喰らい呼ばわりをされずにすむ、それなりに自由に買い物ができる、これはその身分になってみるとかなりおいしかった。
 そういうわけでガゼルは渋々ながら、ガキどもの根性を鍛え直したりそこそこ使えるようになってきた奴らにあれしろこれしろと指示を出したり、とせこせこ働いているのだった。一応子供たちには日雇い労働の仕事だと言っているけれども。
 なので、少なくとも現在のところ金をもらっていたりなんだったりするので、ガゼルは任された仕事に手を抜く気はない。建前上はサイジェント領主子飼いの密偵たちとも協力して仕事をすることになってはいるが、事実上はそいつらがもっとも身近な敵として熾烈な諜報戦を繰り広げる相手なのだ。領主が、あるいはその子供が、また馬鹿な考えを起こさないためにも、領主たちの密偵に情報を隠されないようきっちり情報は得ておかなければならない。
 そういうわけで今日一仕事終え報告書を提出したばかりのガゼルは(ちなみにスタウトと一緒の仕事だった。あいつはラムダ直属の密偵ということで時々手を貸しつけてくる)、今日部屋に届けられた定期指令書を、仕事を終えたばかりだから新しい任務が来たりはしないだろうと思いながらもとっとと確認しておかなければならないのだった。
 さっさと封を切って中を確認する。そして『現状維持』とだけ書かれているのにふ、と息を吐いて、軽く椅子の背もたれに身を預けた。
 ――と、後ろからするり、と体に腕が回された。
「……ハヤト。なんだよ、寝てたんじゃねぇのか」
「仕事、終わったか?」
「仕事ってほどじゃねぇよ。仕事の予定の確認……つかな、ベタベタすんじゃねぇよ、暑っ苦しいな」
「疲れてるか?」
「……それほどは、疲れてねぇけど」
「じゃ、さ」
 にかっ、と会った頃と変わらない、悪戯っぽい笑みを投げかけて。
「えっちしないか?」
「……………………」
 ガゼルは思いきり眉を寄せ、唇をひん曲げ、全力で嫌そうな顔を作った。
「なんだよー、その顔ー。嫌なのかよー」
「嫌っつーか……めんどくせぇ。なにも今日じゃなくてもいーだろが、客いんだし」
「今日でもいいだろ。それにさ、ここんとこガゼル仕事が忙しくてなかなかできなかったじゃないか。だからさー、久々にたっぷりと」
「一人で抜けよ。俺はとっとと寝る」
「一人でやるのと二人でやるのは全然違うだろー。俺は、ガゼルと、えっちしたいんだよ」
 真剣な顔で言ってくるハヤトに、この状況の阿呆らしさを思ってガゼルは嘆息した。本当に、なんでこんなことになったんだか。
 ハヤトと初めてそういうことになったのは、もう七年以上も前、会ってからさほど時間が経っていない頃になる。
 その頃はこいつしかいなかった、自分と同じ年頃の同性の友達。それに柄にもなく少しばかりはしゃいで、秘蔵の酒を出して酒盛りに誘ったのが間違いの始まりだった。
 予想通り気軽に乗ってきたハヤトにこちらも調子に乗って杯を乾し相手に勧め、まだ一瓶も空けないうちに二人ともほどよく酔っ払ってきて。その年頃の男の当然の帰結として、アッチの方に話は進んでいった。
「げっ、ガゼル経験あんのかよっ!」
「べっつに経験ってほどのことでもねーけどよ、まぁ男として一通りのことはなー」
 実際当時のガゼルに自慢できるほどの経験はなかったのだが、それでもまるで経験はないというハヤトを前にするとつい自慢げな態度になってしまう。それが妙に心地よかったりする自分を奇異に感じながらもふんと鼻を鳴らすと、ハヤトがむーっと頬を膨らませて自分を押し倒してきたのだ。
「ぶっ、てめっなにしやがるっ」
「本当に経験済みなのかどうか検査してやるーっ」
「ばってめざけんなっぶん殴るぞっ」
 そんな風にじゃれあっていたらいつの間にか本気になって、相手を傷つけないようにと思いながらもどんどん頭に血が上って――そうしたらいつの間にかお互い下半身を露出して、息を荒げながら性器を擦りつけあっていた。
 そこらへんの記憶がいまいち判然としないのだが、なんだか頭がカーッとしてお互い懸命に相手を押さえつけようとしているうちに、お互いの服が乱れ、あちらこちらが露出していることも相まってなのかどうかは知らないが、とにかくなんだか欲情してしまったようなのだ。どーいう繋がりなんだと我ながら思うが、喧嘩やらなにやらの興奮が下半身の欲情に繋がるというのは、男にはわりとよくあることらしい(そのあとの経験も踏まえて)。
「はっ……く、あっ」
「ふ……ぅ、うっ」
「ヤバいっ……出、るっ」
「お、れもっ、で……っ」
 睦言なんぞかけらもない擦りあいで、お互いほぼ同時に出すものを出して。体と頭の熱が一気に冷えて。なんとなく気まずい雰囲気で身づくろいをしながら、ハヤトが照れたようにこんなことを言ってきたりもした。
「なんかさ……男同士でなんだかんだなんてありえないと思ってたし、擦るぐらいなら自分でやるのと変わらないだろうと思ってたけどさ、すごい気持ちよかったよ。新しい世界の発見、みたいな?」
「バカかっ」
 一向に変わらないハヤトにこっそりほっとしながら、怒鳴って小突いてじゃれあって。その時もそのあとも、そうしてふざけ半分に済ませるべき、済ませて当然のことだと思っていたのに。
「なー、ガゼル……アレ、やんないか?」
 その時の快感に味を占めて、ハヤトは何度もその手の行為をねだるようになってしまったのだ。
「バカなこと抜かすんじゃねぇっ、んなことやるわけねーだろっ、なんでんなこと何度もやんなきゃなんねーんだっ」
 いつも最初はそう怒鳴って喚いて暴れたけれど、お互い喚きあい押さえ込みあっているうちに、二回に一回ぐらいの割合でうっかりその気になってしまうことがあって。そうすると、いまさら一人で抜くのも間抜けすぎる気がして、死ぬほど恥ずかしい気持ちになりながらも二人一緒に互いのものを擦りつけながらの行為に及ぶことも(ハヤトが毎日のように誘ってくるので)少なからずあり。
 そうこうしているうちに、うっかりそんな気になってキスとかしてしまったり、うっかりそんな気になって(ハヤトと会うまでの経験から)尻の方を弄ってみたり、それを注目されて自分に倍する熱意と勢いで尻を弄られたり。
 そんなこんなで、出会ってから季節が一巡りし、自分とハヤトが出会うきっかけになった事件にかたがついてしばらく経った頃には。
「く、ぅっ……ガゼルっ、すごい、締ま……っ、イイっ」
「ばっ、あっ、そこっ……あ、やめろばかそこ……あぅっ」
 などと息を荒げあう関係になってしまっていて。
 なのでこういうあれこれをすることはもはや慣れた仕事というか、よくあることではあるのだが。自分たちの間でのこういう行為がなんというか、獣じみたというか欲望が勝ちすぎるというかいい年こいてというか、どーにも後ろめたいものに感じられてしまうガゼルとしては(少なくともリプレには絶対言えない)、つい行為を始めるのに気後れしてしまうのだった。やり始めると気持ちいいのだが。
「なにぶつぶつ言ってんだよ、ガゼル?」
「あー、別に……おいこらっ、なに脱がしてんだっ」
「だってヤりたいじゃんか。いーだろ、ガゼルだって別に嫌いじゃないだろ、気持ちいいのは」
「そーいう問題じゃねーだろ……んむっ」
 ちゅ、と唇で言葉を遮ってきたハヤトに、抗議の視線を向けるも笑顔を返されてまたちゅ、とキスを落とされる。そしてまたキス。ちゅ。ちゅ。何度も何度も唇を吸われつい自分からもちゅっとキスを返すと、嬉しげな笑顔を送ってきたと思うとれぢょっと舌を唇の間に差し込んできた。
「ん……む」
 このやろーいっつもこの手でごまかしやがって、と腹を立てつつもハヤトの熱い舌の感触は心地よく、つい自分も舌を出してれろれろぢゅっちゅっと舌を絡めあい吸いあってしまう。そうなるとやはり気持ちよくてうっかり下の足が勃ち上がってしまい、その気配を察したハヤトににやっと笑みを浮かべられながらその辺りをまさぐられてしまう。
「て……っ、クソ」
 文句を言おうと口を開いても、ハヤトはその隙間に舌を差し込んでくるし、間断なく股間の辺りを揉んだり撫でたりさすったりしてくるので、悔しいがついムラムラしてきてしまった。これはもう一回出さないと収まりがつかない、と舌打ちし、ガゼルは立ち上がってがばっと上着を脱いだ。
「お、やる気になったな」
「うるせぇ、黙ってヤりやがれ」
「はいはい」
 ハヤトもにっと笑ってさっさと服を脱ぐ。ここら辺の思いきりのよさというか、雰囲気の無視っぷりというか、女だったら確実に怒鳴られてるだろう気持ちよくヤれればいいや的感覚は、気楽といえば気楽だが時々ものすごく空しくなるものがあるのだが、そういうことを言ったことはない。我ながら女みてーじゃねーか俺と思えてしまうからだ。
 だがとにかく今はさっさとヤって終わりにしなければならない。複雑な思いは押し込めて、お互い素っ裸になって立ったままキスを繰り返し股間のものを押しつけあった。身長はどちらも同じくらいなので、そういう行為に苦労はないし、そうするとお互いの股間の熱さが直接的に伝わってきてつい興奮してきてしまうのだ。
 れろねろちゅっぢゅっ、とキスを繰り返して、ハヤトが思わずといったように呟く。
「俺、初めて会った頃はガゼルに背ぇ越されるとは思わなかったなぁ……」
「はぁ? それ何回目だよお前」
「だってさー、初めて会った頃ってさ、ガゼルって俺より拳一個分近く低かったんだぜ? バスケ部の中でも背ぇ低かった俺より。なんていうかちんまくってさー、ころころしてる感じっていうか、転がしたくなるような可愛さがあって、こーいうことやってても別にオッケー、みたいな感じだったっていうか……」
「うっせーな、文句があんならヤらなきゃいーだろーが。お前が言い出したくせしやがって」
「文句なんてないって。たださー、こーいう時におでこにちゅっ、とかキスできた方が男としてカッコつくじゃんか」
「俺も男だっつーの」
「そーだけど……ガゼルのおでこって可愛いしさ」
「……アホか」
「お、ガゼル、照れてるのか?」
「照れてねーよ!」
「あははっ」
 楽しげに笑いながらハヤトはぐっとガゼルを押し、ベッドの上に押し倒した。横たわったガゼルの上にのしかかるような体勢で、両脇に手をついてこちらを見下ろす。
 ガゼルもついつられてハヤトを見返す。ハヤトの会った時とあんまり変わらない童顔と茶色がかった黒の髪と瞳が見えた。
 それと働いてもいないくせにしっかり引き締まってきれいに割れた筋肉も。稽古してるから、と本人は言うが、どうだかとガゼルは思う。誓約者としての謎の力でどうにかしてたってガゼルは少しも驚かない。こいつのむちゃくちゃっぷりは実際何度も思い知らされているし。
 それでも、というかどういうことをしようとどう変わろうと、こいつはたぶん、俺の一番のダチなんだろうけど。
 ふいに、その顔がにやっと悪戯っぽく笑った。
「……なんだよ」
「いや、なんかガゼルが俺のこと好きで好きでたまんないって感じに目ぇ潤ませてこっち見てるからさ。男冥利に尽きるなって思って」
「は!? ざけんななんでそーなんだよ俺は別にっ」
「はいはいそう怒るなってだから。可愛かったぜ」
「可愛いってお前なっ……む、ぅっ」
 またキスを落としてくるハヤトに、またつられてキスを返してしまうガゼル。ぢゅっぢゅっ、れっれっ、何度も角度を変えながら唇を交わらせる。
 お互いの唇の周りをよだれでべとべとにしてから、ハヤトはひょい、とガゼルの胸の先に唇を移した。ハヤトは胸を吸うのが好きだ。こいつ、女は胸がでかいのが好きだからかもしれないとは思うがそのせいで自分の乳首がやたらでかくなってしまったのはどう責任を取ってくれるのか。というか。
「また俺がヤられんのかよ……」
「いいじゃんか、一回ヤったあとちゃんと突っ込ませてやるって」
「何回ヤる気だ、てめーは」
「とりあえず精根尽き果てるまで」
「おい」
「だってガゼル、しばらく仕事ないんだろ? 明日起きられなくなっても困んないじゃないか」
「リプレにどやされるだろーがっ」
「あー、それはなー……まぁ、鍵閉めといたから放っておいてくれ……たらいいなってことで」
「お前な……」
「まぁいいじゃんか、とりあえずこっちに集中集中! ガゼル胸弄られんの好きだろ、ほら……」
「別に俺が好きなわけじゃなくてお前が……っ、んっ」
 先端を軽く噛まれてつい声が漏れる。どちらが先にしろ、今の自分が胸の先がかなり敏感になってしまっているのは悔しいが事実だ。
 しばらく乳首を吸ってから、ひょいと口を股間に移される。基本的にハヤトは前戯というのを胸、股間、尻の三つぐらいでしかしない。わかりやすいし別に嫌ということはないのだが、自分がそれこそ体の隅々まで愛撫してやっているのを考えるとちょっとなんだかなーというか、面白くないものが……
「んっ……!」
「ひゃはら、ほっひひひゅうひゅうひほっへいっへふひゃほ(だから、こっちに集中しろって言ってるだろ)」
「ば……っか、咥えながら喋んなっ!」
「んっぷ、えー、でもガゼルさー、こーいう風に咥えられながらー……ふひほははへふひふひはへふほ、ふひはほ(口の中でぐりぐりされるの、好きだろ)?」
「だ……っからっ、別に、好きじゃ……んっ、玉のそこやめろって、いっつもっ」
「ぷぅ……はは、ガゼルすげーやらしい顔してる。今度は先っぽ舐めてやろっか?」
「てめぇ……っ」
 きっと睨みながらも、宣言通りに先端をれろんと舌を伸ばして舐められ、ついぞくりと背筋を震えさせてしまう。ガゼルは口舌奉仕は女にされるのは好きではないのだが(顔が不細工になるし、なんとなく悪いことをさせているような気分になる)、ハヤトにされるのは実はかなり興奮した。自分のそんなところをこいつが嬉しそうに咥えたり舐めたりしているのを見ると、ごくりと唾を飲み込んでしまうのだ。
 だが一方的に喘がされるのはやはり腹が立つので、ぢゅぅっと先端を吸ってくるハヤトに、ぼそっと告げる。
「俺もやってやるから、股出せ」
「お、69だな。お前それ好きだよなー」
「好きじゃねぇっ! ただお前にやられっぱなしっつーのがなぁっ」
「はいはい、まぁどっちにしても俺は嬉しいけど。やっぱりえっちってお互いが気持ちよくないとつまんないもんなー」
「……そりゃまぁ、な」
 だから他の女とヤるよりも、ハヤトの方がいいななどとたわけたことをつい思ってしまうのだが。体がどちらが気持ちいいかとかそういうことではなく、楽しくこういうことができるという点において。
 ハヤトが横たわる自分の上に上下を逆にして手と膝をつく。体型も身長も同じくらいなので、すぐ目の前にハヤトの半勃ちになった性器が突き出された。
 小さくごくりと唾を飲み込んでから、いやなにを唾飲み込んでんだ俺と自分を叱咤しねろりと先端を舐める。年齢と経験を表してそれなりに黒ずんだ、自分と大きさも形も似たり寄ったりの、もう七巡り越しのつきあいになる咥え慣れたものを舐め口に含むと、悔しいがぞくり、と腰から背中にかけてが泡立った。
「ん……う」
 ハヤトが気持ちよさそうな声を上げる。よし、とこっそりほくそ笑んで、れろんと亀頭から根元までを舐めてからまた口に含む。幹を顔に、先端を舌に手で押しつけ擦りながら、れろれろと口の中のものを舐めてやり、時にはちゅうっと吸ってやる。顔に触れる男根がどんどん固く、熱くなってくるのに笑み、そして腰の奥のたまらない熱が疼き――
「んっ……あっ!」
 思わず声を漏らしてしまってからしまった、と奥歯を噛みしめる。ハヤトにぢゅっ、と口の中に含んだものを吸われてぞくっときてしまった。負けるか、と目の前の男の証を口に含み、吸いながら唇と頬の肉でしごく。ハヤトが「んっ……く」と気持ちよさそうな喘ぎ声を上げ、腰を揺らめかせ始める。
 一瞬勝った、と思うがその直後にガゼルも「ぁぅっ……」と喘いで腰を揺らしてしまった。ハヤトも同じように調子を早めてきたのだ。同時に玉のあたりをぐりぐりと押され揉まれたので、正直かなりぞくっときてしまった。
 こうなればもうどちらかが先に相手をイかせるしかない。ガゼルは本気で仕掛けた。尻の狭間に指を這わせ、幹をしごき、頭を小刻みに動かしつつ吸ってしゃぶってハヤトに嬌声を上げさせる。
 だがハヤトがよがり声を上げながら腰を自分の口の中に打ちつけるように動かし始めるのと同時に、ハヤトも本気で仕掛けてきた。玉、尻、竿、先端、すべてを全力で弄りながらぢゅっちゅっと吸って頭を動かす。そうなるとどうしてもガゼルも喘いで腰を動かさずにはいられない。
「ふっ、く……ぁっ」
「ん、ぁ……っ、くっ」
 快感に支配されそうになる頭と体を必死に動かしてハヤトに奉仕する。そして同時にハヤトに奉仕される。えずきそうな勢いで喉に性器が打ち込まれる。目の前のハヤトの男の形、揺らめく腰、道具のように扱って、扱われて、気持ちよくて、気持ちよくさせていて――もう。
「イ、くっ……!」
「ぅ、あぅっ……!」
 どくんどくんっと口の中のものが脈打って、びゅっびゅっと口の中に精液を放射した。青臭くねっとりとした独特の匂いを感じながら、自分もどくん、どくんと精液を放つ。ハヤトの精液の味を感じながら、ハヤトの口中に精液を放つ。いつも通りのことではあったが、ガゼルはしばしぽうっとその余韻に浸ってしまった。
 ハヤトが自分の上からどき、精液をぺっと懐紙に吐き出す。それを見てはっと我に返り同じように吐き出す。ハヤトがははっと明るく笑った。
「なんかさぁ、こういうのって妙に照れるよな? いつものことだけどさ」
「お前が言うな」
 そんな風に明るく笑って言う台詞ではない。ガゼルが全力でそう渋い顔をしていると(なんというかヤっている間は興奮しているからともかく、出してしばらくして我に返ってしまうと、なんだかものすごく恥ずかしいことをしているような気分になるのだ)、ハヤトはまたははっと笑ってちゅっとキスをしてきた。
「……おい、口の中に出したあとはくせぇから口へのキスはやだって……んっ、こらっ」
「これで終わりだってば。ガゼル、好きだぜ」
「ん……む、ぅ」
 なに馬鹿なこと抜かしてやがんだこいつ、と思いつつも少しだけ胸の辺りがくすぐったいような疼くような気分にならないでもない。そしてハヤトとのキスは(精液くさくても)嫌いではないというか、けっこう興奮する。なのでついその気になってしばし(精液くさい)舌を絡め合わせていると、ハヤトがすっと口を離して笑顔で言った。
「じゃ、まぁお互い気持ちよく一回イったところで、挿入といくか!」
「……へいへい。どっち向きでやるんだよ」
 仏頂面でそう言うと、ハヤトはんー、と少し考えてから訊ねてきた。
「ガゼルはどっちがいい?」
「俺は……別に、どっちでも」
「じゃあ正常位な。はい寝てー、ちょっと腰上げてー。はい枕入れたぞ、ちょっと足開いてー」
 てきぱきと作業を進めるように準備を整えるハヤトに、小さくため息をつきながらもガゼルは言われた通りに足を広げる。別にいいんだが、こいつ本当にこういう奴だよな。別にいいんだが。
「ん……」
 潤滑油を入り口の周りにたっぷりと何度も塗りつけてから、指が中に入ってくる。思わずぞくりと身を震わせた。
 ハヤトとヤるようになって初めて知ったのだが、自分は後ろがかなり感じてしまうらしい。指を挿れて抜き差しされると思わず声が出てしまうし、舌で中を舐められたりすると下手をすると前を舐められるより感じる。
 そして、ハヤトの熱いものを挿れられたりすると、本当に――
「ぅあっ!」
「お、気持ちいいみたいじゃないか。やっぱりここらへん、いいんだよな」
「そ……じゃねぇ、ってっ」
「ふーん。じゃーこうしてここらへん突きながらー、こーして……んむっ」
「ばっ……それ、やめろっつってんだろっ!」
「ふわへはへふほひっひゃふはは(咥えられるとイっちゃうから)?」
「ちっ……く、ぅっ、あっ」
 後孔のイイところを中指でぐりぐりとされながら、人差し指と薬指で入り口を弄られながら性器を咥えられ、ガゼルは本気で切羽詰った声を上げた。悔しいが、ハヤトはやはり自分のイイところを誰よりもよく知っている。自分が教えてきたのだから当たり前だ、一番数をこなしている相手だ、それにハヤト相手に気を遣ったってしょうがないと、そう普通に思える間柄だったから。
 だから、ハヤトとヤるのは、悔しかったり頭に来たりするのはしょっちゅうだが、それでも、本当に。
「……っいい、からっとっとと、挿れろっ」
「えー、もう一回イっていいぜ? んむっ」
「っからお前のブツでイかせろっつってんだよこのクソ間抜けっ!」
 頭にカーッと血が上って怒鳴ってから、はっと我に返った。ハヤトはぽかんとした顔でこちらを見ている。なにを言ってんだ俺はぁぁぁっ、と数瞬前の自分を縊り殺してやりたい衝動にかられながら、ガゼルはきっと、自分の股座からぽかーんと、ひたすらこちらを見ているハヤトを睨んだ。
「………っだよっ」
「や、その、なんていうか……」
 ぽりぽりと頬をかいて、珍しくちょっと照れくさそうに言う。
「男として生まれてきて本望な台詞を言われて、ちょっと、その。感動した」
「なっ……」
「で、すげぇ興奮した」
「っ!」
 ずいっ、とのしかかられて腰をつかまれ、ぐ、ぐぅっ、と挿入される。ハヤトのものが、入ってくる。
「っく、ぁ……!」
 体を震わせて呻く。悔しいが、この感触を自分が待っていたのは確かに、否定できない事実だ。ず、ずっ、とゆっくり自分の肉襞をかきわけ、ハヤトが奥へ奥へと入ってくる。
「っふ、ぅぁっ……」
「ガゼル、すげぇ気持ちよさそうな顔してる」
「ばっ、なに、言って……あっ、ふぁっ……」
「ほら、ここんとこかき回されながら前しごくのとか……っ、胸のとこ、触るのとか……っ、気持ち、いいんだろ。中、きゅうって締まる、もんなっ」
「な、に言ってっ、ばか、あ、ぅっ」
「気持ちいい時は、イイ、って言えよっ、俺、すげぇ気持ち、いいんだからさっ」
 目の前のハヤトの顔。表情を歪めながらも微笑むハヤトの顔。それが本当に気持ちよさそうな、快感を必死に堪えている時の顔で、そんな顔であくまでゆっくりと、こちらの快感を優先しながら腰を動かしてくるから――
「ぅ、ぁ、イ……イイ……っ」
「はは……っ」
「……っと、速く、動かして、いい……っ」
「え、けど、っ」
「こっちが速くしろっつってんだから、すんだよ、この、ボケ……っ」
 言いながら後孔を締めたり緩めたりとハヤトを煽る。ハヤトが苦味の混じった笑みを浮かべ、「知らないぞ」と呟いて本気で腰を動かしてきた。
「あ……っ、は……っ、ぅ、ぁ、ぁ……っ」
「ガゼル……ガゼルっ、イイっ、すげぇ……っ」
 ずん、ずんっ、とハヤトのものが奥を突く。ぱんぱんと音が立つほど体と体がぶつかり合う。ちゃっちゃっ、と交わりあった箇所からいやらしい水音が立つ。
 ちゅうっとハヤトが自分の鎖骨を吸う。ぞくぞくぅっと体が震えた。唇に舌を差し込んできた。自分も必死に舌を絡めた。
「………っ………!」
「んぁっ! ぁっ、はっ、やべぇっ、もっ……イく……っ」
「はは、俺も……っ。一緒に、イくぞっ」
 ハヤトがさらに腰の動きの速さを増す。自分の中の肉が引きずり出されまた中に打ち込まれる。前を勢いよくしごかれ、キスを何度も落とされ、体と体が擦れあい――
「イく……イくイくっ、っぁ、あーっ……!」
「くうっ、はぁっ、出るっ、出る……っ!」
 そして数瞬の爆発。目の前が真っ白になって、なにもかもが消えて、ただ自分とこいつだけの、気持ちいいだけの世界に恍惚としながら漂って。
 そして数瞬ののちに、現実が戻ってくる。体の感覚が戻り現実認識が戻り、頭と腰がすっきりして我に返り。
 するとハヤトが荒い息をつきながら自分を抱きしめているというこの状態がひどく気恥ずかしくなってくる。かぁっと熱くなりかける頭を必死に冷やしながら、ハヤトを突き飛ばした。
「どけっての、暑苦しいんだよっ」
「てっ……ったくもう。ガゼルってほんと余韻とか情緒とかないよな」
「てめぇに言われたかねぇ」
 仏頂面で言って机のそばの水差しに口をつけ水を飲んで人心地つく。ハヤトがベッドの上にあぐらをかいて手を伸ばしてきた。
「俺にもくれよ」
「ん」
 当然ながら間接キスだなんだということなど気にせず水を煽るハヤト。なんつーかこういうヤったあとの空気ってどーしてこう間が抜けまくってんだ、といつもながらの悪態をつきながらそれをぼんやり見つめていると、はっとあることを思い出した。
「なぁ、ハヤト……」
「ん?」
「お前さ、さっき……イくちょっと前ぐらいに、なんか声聞こえなかったか? 他の奴の」
「え、声? 別に聞こえなかったけど。気のせいじゃないか? っていうか、気配感じたらやめてるって」
「……そうか」
 確かにそれもそうだ。いくらこいつでも、他人に見られながらこんなことをするような度胸を持ち合わせているとは思えない。気のせいだったんだな、とうなずいて、ガゼルはにやりと笑んで水を飲み終わったハヤトの隣に腰を下ろした。
「さって、じゃー今度は俺の番だな。突っ込ませてやるっつってたもんなぁ?」
「う……覚えてたか。まぁ、いいけどさぁ……」
「んっだよ、顔赤くしやがって。照れてんのか?」
「そうじゃないって! たださぁ、なんていうかこう、独特の、オンナになっちゃうみたいな恐怖っていうか、心はいつも処女よっていうか椿の花を落とさぬほどにどうか優しくしてくださいっていうかさ……わかるだろ?」
「わかんねーよ」
 抱き寄せて阿呆なことを呟くその唇を塞ぎ、そのまま体中にキスを落としながら押し倒す。相手の体を開き、挿し貫く、男としての本能を満たす作業に没頭する。
 なので、ガゼルは(ハヤトも)、自分たちの行為を垣間見た者がいることには、全然まったく気付かなかった。

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