この作品には男同士の性行為を描写した部分が存在します。
なので十八歳未満の方は(十八歳以上でも高校生の方も)閲覧を禁じさせていただきます(うっかり迷い込んでしまった男と男の性行為を描写した小説が好きではないという方も非閲覧を推奨します)。



おまけ
 ハヤトはクラレットと静かに向き合った。横ではキールが汗を幾筋も垂らしながら(新陳代謝の悪いキールにしては相当珍しいことだ)唇を噛み締めつつその様子を見つめている。部屋の外では、ガゼルが気配を殺しながら自分たちの話に聞き耳を立てていることだろう。
 それを意識しながら、ハヤトはまた口を開いた。
「もう一度聞くぞ。君はなんのためにあそこまでの数の屍人たちを作り出したんだ? 手間暇かけてサイジェントに向かわせたのは、いったいなにが理由なんだ?」
 クラレットはふ、と口元に冷たい笑みを佩いたまま嘲るように言った。
「誓約者ともあろうお方が、私のような愚かな召喚師に質問する必要などないでしょう? どんな召喚獣でも喚び出せるあなたなら、読心の奇跡を使用可能な天使の一人や二人、あっという間に喚び出せるのではないですか?」
 ふぅ、とハヤトは小さく息を吐く。クラレットがどれほどの召喚師なのか詳しいことはわからないが、これまでの状況からもキールからの話からも、キール同様サプレスの召喚術を専門としているのはわかる。だからつまり、この台詞は読心のような精神を扱う類の奇跡は、相手に拒絶の意思があれば効力がぐっと落ちることを承知した上での挑発、ということになるのだろう。
「……話す気はない、ってことか?」
「あなたのお好きに判断なさったらよろしいでしょう。無理やり吐かせるのがお好みでしたら拷問でもなんでもお好きにどうぞ。召喚石も杖もすべて取り上げられた無力な捕虜など、どう扱っても問題はないですものね?」
「少なくとも、俺は君を拷問にかけたりするつもりはないよ」
「お優しいことですね。そんな風にして兄上を誑しこまれたのですか?」
「クラレット!」
 顔面蒼白になってばっと立ち上がったキールを手で制し、ハヤトは答える。
「誑しこむもなにも、捕虜に人道的な扱いするのは人として普通だろ。君だって別に拷問されたいわけじゃないと思うし」
「…………」
 その答えに、クラレットは一瞬目を見開き、それからふふっとさも馬鹿にしたように笑う。上品な声音の持ち主である彼女がそういう笑い方をすると、ものすごく自分が馬鹿みたいな気分になると発見した。
「そうしてあなたはいつまでも甘い夢を見続けるというわけですか。世界を守るなどという夢想を、エルゴに選ばれたという幸運をいいことに押し通して」
「別にそういうつもりはないけどな」
「それ以外のどんな風に見ろと? ……そんな幻想では救えない人間など、この世にはいくらでもいるということを知りもせずに」
「そうだな。そうなんだろうな」
 あくまで静かに答えると、クラレットはわずかに顔を歪める。その表情は忌々しげで腹立たしげで憎憎しげで、そしてひどく苦しげだった。
「涼しい顔でよくおっしゃいますね。そうですね、あなたにとってはしょせんこの世界でのすべてはお遊びなんですもの。界すら渡れるエルゴの王が、気まぐれに慈悲を施して人を救い感謝を受ける。お笑い種だわ、ふふ」
「そう思うのかい?」
 じっと見つめ、問うとクラレットはぎっとこちらを睨みつけてきた。ぎらぎらと輝く、憎悪すら感じるほどくっきりとした視線。女の子なのにな、とちらりと思い、もう子って言うのはまずいか、と小さく苦笑する。
「なにがおかしいのですか!?」
「あ、いや、ごめん。君がおかしいとか、そういうんじゃなくてさ……」
 ぽりぽり、と軽く頭をかいてから、きちんと向き直ってハヤトは微笑んだ。
「ちゃんと言っておくけどさ。俺に救えない人間がどれだけいるかはわからないけど、俺は君を救いたいと思ってるよ」
「っ……」
 クラレットが、小さく息を呑む。
「俺さ、昔決めたんだ。今度は俺が助けよう、って」
「今度、は……?」
「俺、こっちの世界にやってきて、それなりに大変なことがあったんだけどさ。その時、いろんな人に助けてもらったんだよ。見返りとかそういうの全然期待しないで、困った時はお互い様ってだけで、すごく親切にしてもらったんだ」
「…………」
「だから、今度は俺ができるだけいっぱいその人たちを助けようって思った。周りの人や、困った人たちを助けてその恩返しをしようって思った。そうしてこの世界を知って、その問題も歪みもきれいなところも優しいところも知って、この世界とここに住む人たちが大好きになっていって、いつの間にかその対象が世界になっていったって、そんなもんなんだよ。俺が人を救う理由なんて」
「……子供のような、ことを……」
「まぁ、俺自分のことそんなに大人だって思えないからなぁ。やっぱりたまにしか働いてないからかな?」
「っ、ふざけないでくださいっ」
「別にふざけてないって。……俺はガキっぽい奴かもしれないけどさ。世界のことをなにも知らないガキではないつもりだよ」
「っ………」
「必死になって頑張っても、結局救えないまま死なせてしまった奴もいた。俺の力が届かなくて救えなかった、救えない相手なんて数えきれない。けど、やっぱり生きてる限りはやれるとこまでやりたいじゃないか? 誓約者として選ばれた分も、ハヤトっていう人間の分も、できる限りは。だから君のこと、放っておきたくないし、君が笑顔になれるよう頑張りたいなって思う」
 静かにそう言って、にかっと笑ってクラレットの顔をのぞきこむ。
「それに、君はキールの妹だろ? 大切な相棒の妹が辛そうなのに、黙って放っておくって法があるかい? 俺はそんなに薄情じゃないよ」
「………っ………」
 クラレットはうつむく。ハヤトは黙って反応を待った。キールは顔面蒼白なまま、せわしなく自分たちの顔を見比べる。
 しばしの沈黙ののち、クラレットは口を開いた。
「……私の目的はあなたの魔力でした」
「……魔力?」
「魅魔の宝玉に、至源の魔力を受け止めさせること。それが私のここでの目的だったんです」
「……っ! 魅魔の宝玉、だって……!?」
 キールがまた勢いよく立ち上がる。がたん、と音を立てて椅子が倒れた。
「馬鹿な、あれはすでに消滅したはずだ! サプレスから召喚した魔王ごとバノッサと同化して、ハヤトの力を受けて砕け散ったはず……!」
「ええ、砕け散りました。ですが、消え去ったわけではありません。呪具としての用を成せなくなっても魔力は残っている。魔王の魔力と、誓約者の魔力を共に受け止め、結界に穴を開ける魔力をかすかに秘めてね」
「しかしあれはもうこの世界には、リィンバウムには存在しない! ハヤトが魔王の存在を界から強制的に吹き飛ばした際に、界と界の狭間に落ちてしまったんだ!」
「そう、だからそこから宝玉を取り戻す研究を私たちはずっと続けてきました。――我々、セルボルト家の残党はね」
「………!」
 キールの顔から、さぁっと血の気が引く。倒れないか不安になって、背中を支え座らせた。
「……そんなものが、まだ、存在して……」
「無色の派閥最大勢力のセルボルト家が、党首一人死んだだけで完全に壊滅するとでも?」
「だが……あの人は、父上は……セルボルト家、すべてを完全に掌握していた……だから、魔王召喚の儀に、すべての戦力を注ぎ込んだものと……」
「そうですね、あの方はセルボルト家を、それに従う何家もの郎党を含め完全に支配していました。けれど、それと同時に常に次の戦局のことを考えて手を打つ方だったでしょう。多くはあの方が死したのち離散しましたが、あの方の遺志を継ぎ世界に破壊をもたらそうとする者たちも確かに残っていたのですよ」
「……君以外には、誰がいるんだ? カシスは? ソルは? 生きているのか!?」
 くく、とクラレットは喉の奥で少し引きつった笑い声を立てる。
「気になりますか、兄上? 今まで私たちのことなど思い出しもしなかったくせに」
「――――――」
 キールの顔から、すとんと表情が消える。それでも震える声で懸命に口にした。
「僕は……父上に、オルドレイクに……君たちは、みな、用済みになったから処分したと、聞かされて……」
「それで行方を探すこともなくただ目の前の幸福にだけ浸っていたというわけですか。それはご立派な言い訳ですね」
「――――…………」
 キールはがっくりとうつむく。その背中をそっと撫で下ろしてやりながら、ハヤトはクラレットを見つめた。クラレットはびくりとして、わずかに視線を逸らし、そのままいくぶん早口に言う。
「……至源の魔力を受けた魅魔の宝玉は、すでに長距離転移の力を持つ召喚獣に仲間のところへ届けさせています。今頃目的地の近くで活動を始めているでしょう。あの方の残した最後の研究を完成させるために」
「最後の……研究……?」
 虚ろな声でのキールの問いに、クラレットはふ、と笑う。
「あなたに教えるつもりはありません、兄上。この七年間、私たちをずっと忘れていたあなたなどに」
「………クラ………」
「この七年間、あなたが幸せに生きてきた七年間。私たちがどれだけの苦杯を舐めてきたか想像できますか? 魔王の器の代用品でしかなかった私たちは、人間としての扱いを受けてきませんでした。実験動物だったんですよ、あの方の研究を完成させるための。疲労困憊するまで魔力を無理やり放出させられるなんていうのはまだいい方です。耐久度を上げるために四方からひたすら召喚術をぶつけられるなんていうのも日常茶飯事。普通の人間なら見ただけで気がふれるようなおぞましい実験に使われたことだって一度や二度じゃありません」
「………………」
「そんな中で、私たちは必死に身を寄せ合って生きてきた。そこから出る方法も、それ以外の生き方も知らなかったからです、あなたと違って」
「……すま、ない………」
「謝られても私にはなんの慰めにもなりません。教えてあげましょうか、兄上。私は大層な理想があって世界を滅ぼそうとしているわけじゃありません。ただ、今日を、せめて明日を生きるためのパンがほしかった。カシスやソルと一緒に、少しでも生き延びられるだけの安全な場所がほしかったんです。世界を滅ぼしでもしなければ、私たちにはそんなものさえ与えられないんですよ」
「………っ………」
 がくっ、とキールが崩れ落ちる。椅子に背もたれがなかったら床にぶっ倒れていただろう。ハヤトはそんなキールをなんとか背中や頭を撫でて正気づかせてから、クラレットに向き直り言った。
「っていうことは、君は『生きたい』って思ってるんだよな?」
「……え?」
 クラレットがきょとん、とした。初めて見る、どこか力の抜けた顔。そんな表情だと面差しの上品さやおっとりした感じがよくわかる。
「それは……当然、でしょう。生きている人間なら、誰しも……」
「そうだよな。うん、よかった。それなら少なくともしばらくは、君と一緒にいられるよな」
「…………」
「君がさっき言ってた、目的地ってどこだ?」
「……それを、私が話す、と?」
「話してくれないっていうならしょうがないけど。でも、頼むよ、クラレット。俺は、君に話してほしいんだ」
「…………」
「頼む、クラレット」
 頭を下げ、そのままの姿勢でひたすら待つ。長い沈黙のあと、ぽつり、と呟く声が聞こえた。
「次の目的地は、ゼラムです」
「そっか! ありがとな」
 ぱっと顔を上げて笑いかける。クラレットはなぜか、小さく体を退いて目を見開いたが、気にせず続けた。
「とにかく、今はゆっくり休んでくれ。疲れただろ? お腹はもう空いてないか?」
「……ええ。大丈夫です」
「空いたら言ってくれよな、食事作ってくれる人、あー今二人いるんだけど、どっちもすごい料理うまいからさ。病人食もばっちりだから! あ、あとベッドの寝心地とかは? 窓あるけど、空気悪いとかだったら部屋変わるぜ?」
「いえ……ここで」
「そっか。じゃ、お休み。また来るからな」
 そう笑ってキールの手を引きながら立ち上がり、キールを引っ張ってハヤトは部屋を出て行った。

 部屋を出てすぐに、いかにも不機嫌そうな顔のガゼルと出くわした。
「お前な……なに考えてんだよ。相手は無色の派閥なんだぞ。気を許したらなにするかわかったもんじゃねぇだろうが」
「召喚石も杖も取り上げてるだろ? 大したことはできないよ」
「けど拘束もしねぇで放っておいていいわけねぇだろ! 手も足も頭も動かせりゃ汚い手の一つや二つ簡単に実行できる! ガキどもに被害が出たらどうすんだっ」
「そういうことになったら、俺が止める」
 きっぱり言い放つと、ガゼルは小さく舌打ちした。
「……お前がいねぇ時になんかあったらどうすんだ」
「フラットの中で俺の目の届かない場所なんてないって知ってるだろ。俺、クラレットが落ち着くまではフラットに詰めるつもりだし。キールもフォローしてくれると思うし、取り返しのつかないことにはならないよ」
「しれっとした顔してよく抜かしやがる……」
「それに。ガゼルも、わかってるだろ。こっちが先に向こうを信じてやらないと、誰もこっちを信じてなんてくれないよ」
「…………」
 は、と小さくガゼルは息を吐く。いかにも忌々しげに、面白くなさそうに。だが付き合いの長いハヤトには、これは『しょうがねぇなぁわかったよ』という意味なのだとわかっていた。
「……ヘマしたら承知しねぇからな」
「わかってるって」
「キール。気持ちは……あー、クソっ……いいか、気ぃ抜くんじゃねぇぞ」
「……ああ……」
 いかにも心ここにあらず、という顔でうなずくキールにガゼルは舌打ちし、すっと踵を返す。たぶんクラレットを気づかれないように見張りながら議会への報告書を作成するつもりなのだろう。クラレットのことは適当にごまかしてくれるだろうことはわざわざ言わなくてもわかっていたから口にせず、「じゃ、お休み」と言って手を振った。もう夕食の時間も済み、フラットの消灯の時間、すなわち寝る時間が近付いてきているのだ。
 ガゼルは「ああ」と言って軽く手を上げ去っていく。それをしばし眺めやり、ハヤトはキールがじっとこちらを見つめているのに気がついた。
「どうしたんだ? キール」
「……いや。なんでもないよ」
「なんでもないって顔じゃないだろ」
 苦しげで切なげな、辛い辛いと全体で訴えている顔で、キールはのろのろとかぶりを降る。
「本当に、なんでもないんだ。すまない」
「…………」
 ハヤトは、一瞬考えたが、すぐにキールの手を握り引いた。
「! ハヤト……?」
「キール、俺の部屋来いよ。寝る前にちょっと話そうぜ」
「……いいのかい?」
「ああ、もちろん」
 にっと笑いかけてやると、キールの顔がほっとしたように少し緩んだ。微笑みというには少しばかり固かったけれども。
 ハヤトは笑顔でぐいぐいとキールの手を引き、自分の部屋へと引っ張り込んだ。当たり前だけど、キールは今すごく辛いんだ。相棒として、しっかり慰めてやらなけりゃ。

「っ……ちょっと待ってくれ、ハヤトっ」
「ん……っ、なにが?」
 重ねた唇をこちらの体を押しやって離したキールに、ハヤトは目を瞬かせて訊ねた。キールは息を荒げながら、必死に潤んだ瞳でこちらを見つめながら訴える。
「話そう、と君は言っていたように思うのだけど……それがなんで、こういう状況になるんだい……?」
「へ? だってそりゃー」
 ハヤトはきょとんとして、ぱっと天井を指差した。
「夜の部屋」
 次いで自分とキールを順番に指差す。
「もうすっかり肌の馴染んだ男が二人」
 それからキールが(自分が押し倒したので)腰掛けているベッドを指差す。
「昨日布団干したばっかりのふかふかベッド」
 そしてつい、と顔を近づけてちゅっ、と唇にキスを落とし。
「男の一人は生き別れになってた妹と再会して、いろいろあって落ち込んでる。だったらこりゃもうヤるしかないだろ?」
「……それは、かなり、極端な意見だと思うんだが……」
「嫌なのか? なら、無理強いはしないけど……」
 けど正直かなり下半身盛り上がっちまったからここで終わりっていうのキツいなー、と思いつつじっと視線を合わせて訴えると、キールは困ったように眉を寄せ、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「君は……本当にいつも、僕の想像を超えたことをやってくれる……」
「そうか? こんなに長く付き合ってるのに」
「これまで君ほど僕の予想を超えてきてくれた人はいないよ」
「それ、褒めてるのか?」
「……ああ」
 キールはゆるゆるとうなずいて微笑む。この七年間何度も見てきた、柔らかく優しい、そして不安になるほど儚げな笑みだ。
 思わず胸がきゅんとして抱きしめようと腕を伸ばすと、逆にぐいっ、とこちらを引き寄せて抱きしめられた。そしてそのままキスされて、ベッドの上に押し倒される。
 しばらく何度も唇を交わしあってから、息をつくように唇を離され、ひどく切なげな瞳で囁かれる。
「……抱かせて、くれるかい?」
 きゅんっ、と胸と腰の奥に響く疼きに一瞬身を震わせながらも、ハヤトはにこっと、できるだけ優しく笑ってみせた。
「当たり前だろ」
 言うや、先ほどに倍する勢いで口付けられた。何度も角度を変えながら唇を落とされ、顔を舐められ耳をしゃぶられ首筋にかぶりつかれ。震える手で服を脱がされる。
 ハヤトはそれに協力しつつ、何度も落とされるキスに応えた。ちゅ、ちゅ、ちゅ。繰り返しやってくる、キールの薄い唇の感触。
 キールはキスが好きだ。あと、キールはなんというかこう、脱がしながらたびたびキスしてくるとか、体のあちこちにキスしてきたりその合間に名前を囁いたりとか、そういう風に妙なムードを作ってくるのがうまい。
 もうそれなりにいい年こいた男であるハヤトとしては時々うぎゃーと叫んで走り出したくなってしまうような時もあるのだが、それでもキールにされるキスは嫌いじゃない、というかかなり好きだ。そして、そういう妙というかロマンチックというか、そういうムードもハマるとクるものがある。
 そして今回はハヤトとしてもキールを慰めてやるぜと気合が入っていたので、キールに「ハヤト……ハヤト」と溺れそうになった子供のような頼りない口調で囁かれながら胸やら首やらにすがりつかれキスマークをつけられると、心臓と腰の奥がぎゅくんとときめいたりしてしまった。
「キール……大丈夫だ。俺は君のそばにいるから。ずっといるから」
「ハヤト……ハヤト、ハヤト……」
 唇にキス。首筋にキス。胸元にキス。鎖骨にキス。乳首にキス。脇腹にキス。へその下にキス。舐められねぶられ吸い上げられるたびに、ぞくぞくぞくぅっ、と体が痺れ、震える。
 次はあそこだよな、と期待しつつキールの頭を見つめていると、キールの舌は今度は太腿に触れた。
「っえ」
 太腿にキールの舌が走る。ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い上げられる。それからさらに下へ。ふくらはぎを吸われ、足の甲を舐められ、さらにその先の足の指を――
「ってちょ、キール! タンマ、タンマっ」
「……どうしたんだい、ハヤト?」
 体を起こして域を荒げつつ掌を突きつけると、キールは素直に止まってくれた。それにほっとしてまくしたてる。
「やめろって、それはまずいだろ! 足はいいけど、足の指とかさぁ……変態ぽいじゃん!」
 一応ノーマルな男性のつもりであるハヤトは(男性同性間性交が変態であるという意識はハヤトにはまったくない)、そういうSMっぽいのはちょっとカンベンなのだ。そりゃ、何度かガゼルと試してみたことはあるが、そして相当に興奮してしまったが、やっぱり普通にやるのが一番いいよな、という結論に達していた。
 それにキールにそういうことをやられるというのは、なんというかこう、ひどくこっぱずかしいものがあるというか……
「っひゃん」
 唐突に掌を舐められ、ハヤトは飛び上がった。キールは薄く微笑みを浮かべながらこちらを見ている。
「そんなに嫌なのかい? ……これが初めてというわけじゃないのに」
「や、それはっ、そーだけどっ」
「僕は、君を愛することができるのなら、他人にどんなことを言われようとかまわない」
「え……って、そーいう話じゃないだろ! 俺はただ、せっかくあーいうとこまできたのにあそこじゃなくて太腿というのはどうかと思うというか、いやそーじゃなくて」
「どういう意味かよくわからないんだけど」
「だからさっ、ひゃっ」
「……ハヤト。愛してるよ」
「ちょ、キー……ん……」
 すい、とキールの頭がハヤトの股間に下りてくる。えっ、と不意を衝かれて、それからうぎゃあぁぁと言いたくなるほど恥ずかしくなった。期待するようなことまで言っておいてなにをいまさら、と我ながら思うが、キールがその、口で自分の性器を舐めたりしゃぶったりするところをまじまじ見るのは初めてで、キールがあの儚げな顔でなんかうっとりした顔とかしながらあそこにちゅ、とキスしたりれろれろとアイスキャンデー舐める子供みたいに舐めたり口の中に含んで幸せそうに頭前後に動かしてたりするの見ると、もうなんというか俺たちものすごく恥ずかしいことしてるんじゃないか!? と思えてしまうというか。
 そして股間のアレはすごく気持ちいいから、脳味噌の回線がぶち切れそうになる。キールが、口が、俺のアレを、れろって、くちゅとかじゅぷとか音してて、キールのあの柔らかい顔が変な顔になって、だけどすごい、嬉しそうに、出し入れ――
「っぁ……!」
 どぴゅっ、と自分の管から精液が飛び出た。それをキールはごくり、と喉を鳴らして呑み込む。
「な、にも、呑まなく、たって」
「嫌だったのかい?」
「そ、じゃ、ないけど」
「君の体から出たものなら、僕は残さず受け止めたいと思うんだ。君のものなら、全部ほしいと」
「……キール」
 微妙に変態っぽいよなその表現、と心のどこかが突っ込みつつも、ハヤトの胸はぎゅくんと高鳴ってしまった。キールのこういう、自分のことが好きで好きでたまらないっぽい感じというか、世界に頼れるのはあなただけ、みたいなひたむきな顔で口説くというか想いを伝えてくるようなところは、やはり男としてぐっときてしまうものがある。
「……え、えとさ。俺も、やろっか?」
「いや……今日は、僕に君を愛させてくれないか」
「えと……つまり、マグロ……っていうかなんにもしない方がいい、のか?」
「ああ。……力を抜いて」
「ひゃっ!?」
 つぷ、と尻の穴に指が入ってくるのを感じ、思わず体をびくつかせる。小指だったし、痛いということはないのだが、なんというかこう、突然だったし、自分が妙に受け身になっている感じが恥ずかしいというか……
「んぁ……ぅっ」
「ハヤト……ハヤト。僕は……君が、君がいてくれる、それだけで……」
「や……あ、そこ、駄目だって……っ」
 なんてことを考えている間にどんどんとキールは指を増やしていく。一本、二本、三本。人差し指、中指、薬指の三本を抜き差ししたりしながらちゅ、ちゅ、と太腿に、尻に、前のあそこにキスを落とす。やばい。それはやばい。本気で、どーしよーもないくらい、気持ち悪いんだか気持ちいいんだかわからなくなるというか、体中が爆発しそうになるというか、感じてしまうというかなんというか。
「キール……ぅ、も、挿れて……」
 もうこのたまらないむず痒いような感覚をどうにかしたくてそうねだると、キールはくす、と自分と二人きりの時にしか出さない悪戯っぽい笑声をこぼす。
「挿れて、いいのかい?」
「いい……からっ。やっ、あっ、やっ」
「今日は、乱暴にしてしまうかも、しれないよ?」
「いいよっ。そんくらい、いい……ていうか……頼む……からぁ」
「……わかった」
 言ってキールは指を抜き、ハヤトの耳元に小さく「ありがとう」と囁いてぐいっとハヤトの腰を持ち上げ、挿入した。
「……ふ、ぅ」
 ガゼルとは違って、キールに挿れられる時は、激しい快感というよりも、ゆったりとした気持ちよさ、というようなものを強く感じる。キールの優しい挿れ方と動き方のせいだろうか、それともキールがすごく優しく自分のことを抱きしめるせい?
 とにかくキールに挿れられている時は、動かれている時は、抱かれる≠ニいう言葉がぴったり来るくらい、優しく甘やかされているような、母親の胸の中のようなゆったりした感じで、なのに股間の辺りには確かに性的な気持ちよさもあって、耳元で「ハヤト、ハヤト」という囁き声が、息遣いがだんだん荒くなっているのを感じているとその境目がどんどん曖昧になっていって。
「キール……キールぅ」
「ハヤト、ハヤト……ハヤト……っ」
「キールぅっ……!」
 たまらなくなって思いきりキールを抱きしめ、尻に力を入れて締め上げる。キールへの好きだという気持ちが溢れそうになって、頭の中が蕩けそうになって、キールが気持ちよさそうに呻くのが嬉しくて、キールが体中を愛撫して、股間のアレもしっかりしごいてくれるのが(どちらの意味でも)気持ちよくて――
「あ……あー……あー……っ」
「ハヤ、トっ……!」
 キールの精液が自分の中に注ぎ込まれるのを感じてすぐ、いつものような穏やかな快感の中、ハヤトは達した。

「……僕が、魔王の器として育てられたことは、知っているよね」
「ああ」
 ベッドの中で(まだ後始末も終わっていないのだが)自分を抱きしめながら語るキールに、ハヤトはキールの顔を見上げながら(体勢的にキールの胸の辺りに頭がくるようになっているので)うなずく。ようやくキールが泥を吐く気分になったようなので、できるだけ言いたいことを言わせようと思ったのだ。
「オルドレイクは……あの人は、数えきれないほどの女性と子供を作っていた。あの人は妙なカリスマ性があったから、相手をする女性には不自由しなかったらしい。実際、愛人も多かったようだしね。……だけど、それはすべて、魔王の器となりえる人間を作り出すためだった」
「うん」
「あの人の中にあるのは理想を達成するための情熱と手段を考え出す知性だけだった。あと、魔力とね。品性や良識なんてものはかけらも存在していなかった。行為の際に、薬やら道具やら術やらを使って、魔力の高い子供が生まれてくるよう仕込むなんていうのは序の口。母体そのものを改造して、子供を人ではありえないものに変えてしまうなんてことも一度ならず行われたらしい」
「……ひどいな」
「そうだね……ひどい。だけど僕たちは、それをひどいと思うことすらできなかったんだ。僕と、僕の兄弟たちは」
「兄弟……か」
「弟妹、と言った方が正確だろうけれどね。もちろん、他にも多く存在はしていたんだろうけど……魔王の器の最終候補として残り、一緒に育てられたのは、僕と、三人の弟妹たちだった」
「それが、クラレットなのか?」
「ああ。クラレットと……カシスという妹と、ソルという弟だ」
「へぇ……どんな奴らなんだ?」
「クラレットとカシスが僕より一歳下、ソルが僕より二歳下だった。クラレットは魔力が僕たちの中で一番高くてね、みんなで受けた授業ではいつも教師に褒められていた。カシスは召喚獣との共感性が高くて……暇があれば召喚獣を呼び出して一緒に遊んでいた記憶がある。子供の頃から特殊召喚術を使えたりして、教師に驚かれていたよ。ソルは魔力制御が上手かった。頭の回転も早くてね、術の正確さでは間違いなく兄弟一だったと思う」
「へえ……」
 性格を聞きたかったんだけどなぁ、と思いつつももちろんそんなことは口にせず、優しく笑ってキールを見上げる。キールは珍しく、懐かしむような顔で言葉を綴った。
「僕は、オルドレイクの一応の正妻で、セルボルト家の総領娘だったツェリーヌの子供で、他のみんなは愛人の子供だったけど、そんなことを意識したことはなかったな。みんな分け隔てなく、厳しく育てられた。みんな優秀な召喚師になることに必死だったよ。……そうすれば、魔王の器として、オルドレイクの――あの頃は父上と呼んでいた人の役に立てる、とそれだけを考えてね」
 キールの声が低くなった。目に暗いものがちらついた。ハヤトは黙ったままキールの顔を見上げる。
 ハヤトの背中を抱くキールの腕の力が強くなり、キールは呟くようにまた語り始めた。
「あそこは、本当にどこまでもオルドレイクに支配されていた場所だった。僕の母も、教師たちもみなオルドレイクの理想に、あるいは人格に熱狂的なまでに魅せられていた。僕も、クラレットたちも母親からも周囲からも、まともな子供扱いを受けたことは一度もない。せいぜいがオルドレイクのために必要な道具、くらいの扱いだった。そんな中で僕たちは育ってきたんだ」
「そうか……」
「カシスは、共感しやすい子だから、周囲の望むままにオルドレイクに心酔したようだった。ソルは、逆に……ひどく懐疑的になったようだった。僕たちにもその内心を漏らすことはなかったけれどね。彼は一番幼いのに、すでに確固として独立した自己というものを持っていた」
「……クラレットは?」
 口を閉じ、生まれた数秒の間に、聞いてくれと言われているような気がして口を開け言うと、キールは視線を自分からわずかに上方にずらし答えた。どこか途方に暮れたような仕草だ、となんとなく思った。
「彼女は、ひどく怯えていた……と思う」
「怯えてた?」
「ああ。彼女はひどく怖がりだったんだ。想像力が豊かでね。この先自分がどうなるのか、そういうことをいつも考えて怖がっていた。……僕は、それを励ますことも、慰めることもできなかった」
「キールは?」
「え?」
 目をぱちぱちと瞬かせるキールに、再度問う。
「キールは、どう思ってたんだ? オルドレイクのことを」
「……僕は……」
 途方に暮れたような顔で、首を振る。これまで聞いたことのない、聞く必要のないことだった。だけど、今、彼はたぶん言いたい、と思っている。
「僕は……一番、だらしがなかった」
「だらしがないって?」
「よく、わからなかったんだよ。あの人が」
「…………」
「僕は君と会うまで、世界がどういうものかよくわかっていなかった。すべてが曖昧模糊としていて、なんというか……正直、ぴんとこなかった。みんながあの人を正しいと言うから、たぶんそうなんだろうなぁと思って、それが間違っているのかどうかすらまともに考えないまま命令に従い、召喚師としての修行を積み、実験に参加したんだ」
「……そうか」
「僕が魔王の器に選ばれたのは、僕が最終候補の中で最も魔力保有量が高いからだった。努力で磨かれた能力でも感性でも技術でもなく、ただ、生まれつきたまたま魔力を蓄えやすい魂をしていたという、ただそれだけが理由なんだ。そんな風に、僕はずっと、ただいつも周りに流されて、なにも感じず考えず、ただ曖昧な存在のまま、誰かを、愛することさえなく……」
「今は、違うだろ?」
「っ、ハヤト……」
 きゅ、とキールの手を握りながら言うと、キールはたじろいだように身じろぎしてから、おそるおそるという感じで、けれど深々とうなずいた。
「ああ……今は、違う。君が、いてくれるから」
「……うん」
「君と出会って、僕は初めて世界を知った。愛することを、愛されることを。陶酔を、懐疑を、恐怖を幸福を、思考することを、求めることを、なにかのために死力を振り絞り戦うことを、生きることを。すべて君に教えてもらったんだ」
「すべてってわけでもないだろ? そんなに俺ばっかり褒めるなよ」
 少しおどけた顔をしてみせると、キールは苦笑し、それからわずかにうつむき加減になりながら呟くように言う。
「僕は、ゼラムに行くよ。クラレットたちの考えていることがなんであれ……それが、オルドレイクの残したものだというのならば、なんとしても止めなくてはならない。償いのためにも、世界のためにも。僕は……そんなことを言う資格はないとわかっているけれど……クラレットたちの、兄なのだから」
「わかってるって。俺も行くよ」
「……え?」
 当然のことを、というつもりで言うと、キールは目を大きく見開いた。
「なぜだい? 君は、この街を……」
「この街のみんなを守る人間が必要なのはわかるけどさ、それは俺でなくても大丈夫だろ? イリアスたちだって弱いわけじゃないし、エドスやスウォンもいる。ジンガにもしばらく留まってくれって頼むつもりだしさ。だけど」
 ぐいっ、と顔を近づけて真面目な顔で。
「キールのそばで、お前の心も体も守ってやれるのは俺しかいない。だろ」
「……ハヤト……けれど……」
「実際さ、オルドレイクの残したものって言ったら、やっぱ俺としても黙ってるわけにはいかないしさ。やっぱ戦いになるだろうし、それなら前衛必要だろ? 召喚獣がいるにしてもさ。俺がいた方が絶対いいって」
「けれど……クラレットはどうするんだい。彼女がなにを考えているか、僕にもよくはわからない。君がいなくなったら、なにを始めるかわからないんだよ」
「んー、それはさ、その……一緒に連れてったらどうかなー、とか考えてるんだけどさ」
「………!?」
 目を大きく開いて固まるキールに、ハヤトはごまかすような照れ笑いを浮かべながらまくし立てる。
「いや、もちろんあの子次第だけどさ。静養が必要とは言われてるけどさ、セシルの話聞いた限りじゃせいぜい数日でいいってことだからさ。だったら一緒に連れてっちゃった方がさ、いろいろよくないかなー、って」
「いろいろって……彼女を連れていったらなにをするか」
「その時はその時! っていうかさ、実際今のところ手がかりとかろくにないわけだろ。だったらあの子連れてった方がさ、動いた時すぐわかっていいんじゃないか?」
「それは……でも」
「もちろんなんにもしないならしないで、キールも妹と一緒に話とかいろいろできるんじゃないか? 兄妹仲良く暮らすには、やっぱり楽しい会話からだろ?」
「……な……」
 キールは目を大きく見開いて、こちらをまじまじ見つめそう一声漏らすと、ふぅ、と深く息をついてじっとこちらを見つめ訊ねた。
「本気で、言っているのかい?」
「当たり前だろ?」
「それにどんな厄介事がつきまとうかわかっていて?」
「そんなの、いまさらだろ。俺が誓約者だって時点で、厄介事なんていつも山のように押し寄せてくるってわかってるんだから」
「……そうだね」
 キールは静かに、そして儚げに笑んで、それからぎゅっと、すがるようにハヤトの体を全力で抱きしめてきたので、ハヤトはぎゅっと抱き返し、それからキスを落としてやった。額に、頬に、唇に。キールが幸せになるようにという祈りと、ハヤトなりの愛を籠めて。

「……で、なんでお前がお膳立てするんだよ」
「別にしたくてしたんじゃねーよ。仕事だ仕事」
 召喚獣鉄道の駅のホームへ向かう階段を上りつつ、ハヤトはこっそりガゼルをつつく。ガゼルは鬱陶しげにそれを払いのけた。
「なんでもかんでも仕事で片付ける奴はモテないぞ」
「うるせぇな。別にモテたくて仕事してるんじゃねぇんだ、ほっとけよ」
「……ライたちのこと、利用してんじゃないだろうな」
 じろっと横目で睨むように見て言うと、ガゼルはふんと悪者っぽく鼻を鳴らす。
「さぁな。どっちにしろお前には教えてやらねぇよ」
「ったく……しょうがないなぁ、お前は」
 ハヤトは小さく息をつく。実際、この旅路のお膳立てをすべてガゼルがこなしていることに、キールが妙に警戒心を働かせているのは確かなのだ。
 ゼラムまで行くにはいくつか方法があるが、一番早いのは召喚獣鉄道だ。自前で召喚した召喚獣に乗せていってもらうという手もあるのだが、さすがに聖王都に竜やらなにやらで突撃するのはギブソンやミモザの手前気が引けた。
 なのでどうしようかと考えていたところ、ガゼルがなにやら旅支度をしているので聞いてみると、『ゼラムに行くんだよ』なんてことを言う。どう考えてもクラレットたちに関係することだ。問い詰めても『仕事だ』と言うだけでどんな仕事か教えてくれないし、だったらついていっちゃうぞ、と言うとものすごく険しい顔で舌打ちして切符を取ってくれるし。しかもライたちと一緒の便だ、とか苦虫十匹まとめて噛み潰したみたいな顔で言うし。
 これは議会の人たちになにか厄介な命令をされて、さらに自分たちのことを引っ張り出すように言われていたところに自分たちが葱を背負って飛び込んできたので、仕事への誠心と自分たちへの友情の板ばさみになって苦しんでいるんだろうなぁと見当はつくのだが、なんというかちょっと面白くない。自分たちに正直に話せばいいのに、頑固親父みたいに頑なになっちゃって。ライたちのことまで巻き込んで。
 水くさいというかガキっぽいというか。きっと自分たちには迷惑はかけたくないとか自分が悪者になればとかしょーもないことをいちいち考えているに違いない。これは絶対今夜ベッドで白状させてやらなければ、と決意しつつ、ぱーん、とガゼルの尻を叩いて「ってぇな!」と叫ばせておいてから、キールの少しあとから歩いてくるクラレットの方を向いて笑いかけた。
「クラレット、体、辛くないか?」
「……ええ。平気です」
「そっか。気持ち悪かったら言ってくれよな、乗り物酔い対策は万全だから。クラレットとの旅は初めてだから、楽しい旅にしたいもんな」
「……あなたは……」
 呟いてから、クラレットは首を振る。なにかひどく、苦しげに。
「いえ、なんでもありません。……行きましょう。発車時刻が迫っているのでしょう?」
「そうだな。行こう!」
 笑顔でみんなに向けて言うと、キールは困ったような顔で、ガゼルは険しい顔で、そろそろ学校が始まる時期だからついでに一緒に行くモナティとエルカとガウムは様子をうかがうような顔で、クラレットはひどく苦しげな顔で、それぞれうなずいた。

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