淫――絡愛
「――今日の授業は、召喚術の訓練をしよう」
 レックスは、今日は何を教えてくれるんだろう? と体中を好奇心でいっぱいにしたナップに微笑みながらそう言った。
「どんな召喚術なんだ?」
 わくわく、と目を輝かせるナップ。
「ちょっと大きな召喚獣を呼んでみようかと思うんだ。だから一緒に船の外に出よう」
「やりっ! こんないい天気なのに部屋ん中いるなんてもったいねーもんな!」
 歓声を上げるナップに、レックスは優しく微笑んで言う。
「ただ、今日はアールは連れてこないでほしいんだ」
「へ? なんで?」
 ナップはきょとんとしたが、レックスは動じず説明する。
「ちょっと魔力が大規模に動くからね、召喚獣にはどんな悪影響があるかもわからない。サモナイト石も置いていったほうがいいな、勝手に発動してしまう危険性があるから」
「そんなすげー召喚術なのか……なんか、わくわくしてきちゃったよ」
 興奮のためか頬を赤く染めるナップに、レックスはくすり、と笑みを浮かべた。
「ああ、楽しみだね――本当に」

 レックスとナップは森の奥深く、いつも外で訓練する時に使う場所よりさらに奥まで進んだ。ここまで来ると島の住人が近くを通ることはまずありえない。
「さあ、このへんでいいだろう」
 レックスは言うと、ナップに正面から向き直った。
「それじゃあさっそく始めようか――まず、俺が手本を見せるからね。よく見ておくんだよ」
「うん」
 ナップは素直にうなずくと、じっとレックスの口と手元を見つめる。レックスはサモナイト石を取り出すと、流れるような口調で呪文を唱えた。
 サモナイト石がかぁっと緑色に光り、魔力が動いて異界への門が開く。その様子をナップはじっと見つめ、ふと違和感を覚えた。
(……緑色?)
 自分がメイトルパの召喚術を使えないことはわかっているはずなのに、なんでそんな召喚術を教えるなんて言い出したんだ?
 だが、その疑問を言葉にするより早く、レックスの呼び出した召喚獣は現出していた。
「…………!?」
 それはイソギンチャクを巨大にしたような生物だった。ピンク色の肉肉しいぬめぬめとしたレックスよりも大きい体に、先端から絶えず妙な匂いのする液体を滴らせるぬらぬらと光る触手が何十本、いや何百本も生えている。
 それがなにかということを考えるよりも先に生理的な嫌悪のため反射的に一歩下がったナップに、その巨体からは想像もつかない速さでその触手が伸び、絡みついた。
「うわぁっ!」
 あっという間に何本も手足に絡みつく触手に、悲鳴を上げながら吊り上げられるナップ。
 ほとんどパニックに陥りそうになりながら、くすくす笑いながらこちらを見ているレックスに必死になって叫んだ。
「これ、なんだよ、先生!? 俺になにする気だ!?」
「心配しないで、ナップ。痛かったり辛かったりすることはしないから」
 レックスは微笑んでいた。いつもと同じはずのその笑みがなぜかひどく恐ろしく、常軌を逸しているように思え、ナップは震える。
「むしろ気持ちいいことを教えてあげようとしてるんだよ。初めてでこれはちょっときついかもしれないけど、大丈夫、すぐにこのくらいじゃないとイヤだって体にしてあげるから」
「なに言って……うわっ!」
 ナップはレックスの眼前にまで持ってこられた。触手は一本一本はわりと細いが案外に力がある上、それが何十、下手をしたら百数本という数ナップに巻きついているのだ。ナップは必死にばたばたと暴れるものの、触手の一本も引き千切ることはできない。
「さて……まずは、この召喚獣の説明からしようか」
 恐怖と混乱と哀願が等分に込められたナップの視線に、レックスは笑顔のまま口を開くことで答えた。
「この召喚獣はメイトルパの魔獣ヴォボスと言ってね。メイトルパの亜人の間では『森沼の淫獣』と恐れられている、亜人を主な獲物にしている魔獣だ」
「い……いんじゅう……?」
 ナップの声はまともな神経の持ち主なら思わず哀れを催すほど震えていたが、レックスは眉一つ動かさず言う。
「そう。この魔獣は奇妙な構造をしていてね。獲物を捕らえる能力には長けているのに、咀嚼し消化する力がおそろしく偏っている。生きているものしか消化できないんだ、こいつはね。つまり服を着ている者は、食べることができない」
 そう言ってナップの服の裾をくい、と引っ張る。
「それなら消化能力を強化すればいいものを、こいつは違う発想をした。絶えず触手から滲み出ている体液を変化させることによって、服やなんかを溶かしてしまうように自らを変化させたんだ。……こんな風にね」
 レックスが数語複雑な呪文のような言葉を唱えると、触手の動きが変わった。それまではただ締め付けるだけだったのが、締め付けながら先端をナップの体に擦りつけるような、まるで愛撫するかのような動きに変わっていく。
 そして何度も先端を擦りつけているうちに、ふいにぼろぼろっと、ナップの服の裾が崩れた。
「ヴォボスの触手から出る体液は決して獲物を傷つけることはない。ヴォボスは獲物ができるだけ元気のいい、生まれたまんまに近い状態の方が消化しやすくできてるんだ。だから肌は少しも傷つくことなく――服だけがぼろぼろになっていく」
 そんなことを言っている間にもナップの服はどんどん溶けていった。裾がぼろぼろになり、肌のあちこちが露出し、乳首や局部を辛うじて覆っているだけのひどく卑猥な格好になる。
 これからなにをされるのかという恐怖のためか小さく震えているナップの肌に、レックスがつつっと指を滑らせた。
「そして、ヴォボスにはもう一つ奇妙な特性があるんだ。捕らえた獲物をこいつはすぐに食べることをせず、体中に服を溶かす時のとは違う、性的興奮を高める効果のある体液を塗りこめるんだ。そして体中からにじみ出る性的に興奮した人間の体液を啜るのさ。それがこいつには至上の美味と感じられるらしい。――こいつが淫獣と呼ばれる所以だ」
「ひっ……!?」
 ナップの露出した肌に、触手がぬるりと絡みつく。わずかに残った服の布を引き裂きながら、陽に焼けた琥珀色の肌をにゅるにゅると締め付ける。
 耳、肩、二の腕、指先、脇の下、太腿、足首。体のほとんどありとあらゆる部分を触手が体液を塗りこめながら這い回る。
 そして、やがて――
「はぁっ……はぁっ……ふぅっ……」
 しだいしだいにナップの息が荒くなってきた。顔が赤くなり、目が蕩けたように潤み始め、体が悶えるかのごとく自分の意に反して蠢いてしまう。
 ヴォボスの体液が効いてきたのだろう、幼いナップにはおそらく初めての感覚――性感が、どうしようもないほど高まっているのだ。
 ナップは体内の感覚に翻弄されまいと首を振りながら、必死にレックスに訴えた。
「なんだよ……なんか、変だよ……やめてくれよ、せんせぇっ……」
「どう変なんだい?」
 レックスは変らぬ微笑みをたたえながら言う。
「体が……熱いよ……なんか、むずむずするよぉ……なんか……おかしくなっちゃいそうだよぉっ……!」
「ふぅん……むずむず、か」
 レックスはまた小さく呪文を唱えた。とたん、触手がナップの体をひょいと持ち上げ、レックスの眼前に持ってくる。
「や……な、なに!?」
 ナップが小さく悲鳴を上げるが、そんなことで触手の動きが止まるはずがない。触手はナップの足を曲げさせたまま大きく左右に開かせ、俗に言うM字開脚の形にしてレックスのすぐ目の前で固定した。
「やっ……やっ、だ! やめてよ、先生!」
「なにが嫌なんだい?」
 顔をさらに赤らめてじたばたするも身動きの取れないナップの肢体を、レックスは指一本触れないままひたすら見続ける。
「そんな風にっ、見んな……っ、よ!」
「なんで?」
「は……恥ずかしいよ……」
 顔をうつむけてナップが言うと、レックスはくすりと声を立てて笑った。
「じゃあ、そんな風に気にしている暇なくさせてあげるよ」
 レックスがまたも呪文を唱える――すると、触手はナップの足を大きく開かせたまま、ぼろぼろになったズボンの切れ端がしぶとくかぶさっているナップの股間にするすると先端を伸ばしていく。
「! んっう、あ……!」
 ナップは喘いだ。今まで誰にも触れさせたことのない幼い性器に、ぼろぼろになった服の上から、そして服の下にもぐりこむようにして触手が巻きつき、這い回る。
 体が意思に反して震えた。背筋に、腰に、体中に、今まで味わった事のない感覚が走り回っているのだ。
 ぴちゃ、ぬちゃ、とナップの股間から音が立つ。愛撫され締め付けるようにしてしごかれたナップの若茎から漏れ出した先走りが、触手の体液と交じり合って淫猥な音を立てているのだ。
「や、ひん、はぁ、やぁっ……!」
 もはや完全に露出したナップの幼茎は幼いなりに全力で勃起していた。睾丸を、皮を被った陰茎を、皮の中の小さな亀頭までぬるぬると体液を垂らす触手で愛撫され、先走りをだらだら漏らしながらひくひくと震えている。
 だが射精には至らない。羞恥のためか、初めてゆえの抵抗感か、それとも触手が微妙な手加減をしているためか、喘ぎながら左右に身をよじらせるほど性感に浸っているというのに絶頂に達することはできないのだ。
「ひぁっ……!」
 ふいにナップが呻いた。今まで触られたことはもちろん他人に見られたことすらほとんどなかった肛門に、触手が触れたのだ。
 入り口に体液を塗りつけ、門がぐちゅぐちゅに濡れてきたところを見計らってつぷり、と内部に侵入する。
「やっ……! やぁ、や、やだっ……!」
 必死に体をよじるも完全に体を触手で固定されているナップには抵抗のしようがない。触手はじわじわと、時間をかけてナップの内部に侵入し、ナップの中を蹂躙する。
 入り口のあたりを何本もの触手でつつき、舐めるように触り、体液でぐちゅぐちゅにしながらいじくりまわす。
 奥まで入った一本の細い触手が、上に、下に、右に、左に、縦横無尽に動き回り、むろんいまだ開発されていない、それどころか触れられるのも初めての、ナップの性感帯を、前立腺を、何度も、優しく、押して回る――
「ひんっ! は、んっ! やだ、あ、や! おれ、やだ、あ、ん、オレ、変に、変になっちゃうよぉ!」
「変になってしまえばいいじゃないか」
 レックスは微笑みをたたえたまま、眼前で乱れるナップを観察しながら言う。
「俺の見てる前で、めちゃくちゃに、変になってしまえばいい」
「…………!」
 その言葉に、『レックスが見ている』ということを再認識させられたナップの顔からさあっと血の気が引いた。
 人に見られながら乱れている自分に耐えられなくなったのか、先ほどに倍する勢いで暴れようとするが、その程度のことで触手が外れるわけがない。触手は肢体をしっかり固定しつつ、体の隅々まであますところなく這い回る。
「ひっ、やっ、んっ、やっ、あっ、はっ、ひんっ、はんっ、やだやだ、や、やぁぁっ!」
 心に反して体は愛撫に反応する。中も外も、体中の、今までそんなところを触られて感じるなんて思ってもみなかった場所を性感帯に変えられ、ナップは喘ぎながらのたうちまわる。
 そしてその様子を、レックスが微笑みながらじっと見つめていた。
「やっ、変っ、出る、出る出る、変っ、ションベン出ちゃうよぉっ、出る出る出る出ちゃうぅぅっ!」
「出していいよ」
 そう言うとレックスは微笑んだまま、触手ににゅちゃにゅちゃと締め付けられしごかれている幼茎の蟻の門渡りのあたりをつい、と撫でた。
「ひ……っ、あ、ああーっ!」
 どくっ、ぴゅ、どぴゅっ、どくん。
 それが最後の刺激になったか、ナップは体中を不気味な触手に愛撫され、肛門にも触手を突っ込まれながら、初めての射精を迎えた。

「うわあぁぁぁぁっ!」
 レックスは悲鳴を上げながら跳ね起きた。
 ベッドの上で左右を見渡し、そこがいつも通りの自分の部屋だと言うことを認識して、荒い呼吸を整える。
「………夢………」
 はーっと溜め息をつくレックス。
 よかった。夢でよかった。もし本当に自分がとちくるってあんなことをしてしまっていたら、ナップはきっととんでもなくショックを受けていただろう。それどころか完全に心を閉ざして二度と口も聞いてくれなくなる可能性が大だ。
 本当に、現実でなくてよかった。
 その時、はっと気づいた。
 夢に見るということは、自分にはそういうことをしたい気持ちがあるということであり、ということはそういうことをする危険性が存在するということではないか?
 ナップの教師として、ナップをいたわっていこう大切にしていこういとおしもうとか理性では考えていたくせに?
「………うわぁぁぁっ! あ、あぁぁぁっ! 俺は、俺は、最低の人間だぁぁぁっ!」
「せんせーっ! 朝飯できたってよー……って、なにやってんの?」
 部屋に入ってきて、のたうつレックスを訝しげな眼差しで見つめるナップ。
 そのごく純真な眼差しを見て、レックスは思わず涙ぐむと、部屋の窓から外に飛び出していってしまった。
「せ、先生!? なにやってんだよ!?」
「ごめんよ、ナップぅぅぅっ! 俺は、君の先生として、いや人間として失格だぁぁぁっ!」
 泣きながら走り去るレックスを、ナップはただ呆然と見守るしかなかった。

 結局レックスは昼には戻ってきて、ナップの授業をした(青空学校は休みの日だった)。
 なにがあったんだよ、というナップの問いに、レックスは「ごめんよ、ナップ……」といきなり涙ぐむので、ナップは首をかしげながらも口を噤むしかなかったという。

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