淫――剃愛
 頭の上で一まとめに拘束された両腕が痛くなってきた。強制的に開かされ、縛られた足が苦しい。むき出しの床に素っ裸でずっと転がされていたから背中がひどく冷たくて、気持ち悪い。
 だがそんな状態になっても――レックスは、自分にそんなことをした、目の前の相手を睨みつけることができなかった。
 ――なぜなら、それは最愛の生徒だったのだから。
「ナップ……」
 レックスは掠れた声で名前を呼んだ。ナップは表情を変えずに、レックスを見下ろしている。
「なんで……?」
 言えたのはそれだけだった。だが正確に意味は伝わっただろう。
 ナップは表情を変えないまま、口を開いた。
「先生。アンタ、軍学校にいた頃男にしょっちゅうヤられてたんだって?」
「…………!」
「そうなんだ」
 硬直するレックスを見て、ナップはくくくっとどこか虚ろな笑みを浮かべた。
「こんな顔してるのにさ。あんた淫乱の変態だったんだ? オレ、そんな人を先生って呼んでたわけ? おっかしー」
 ナップは恥ずかしさに耐えきれず必死にうつむくレックスの髪をつかんで、ぐいっと頭を持ち上げる。
「色情魔。淫売。オレと会ってからは相手がいなくて、体が疼いて仕方なかったんじゃないか? それともカイルあたりに掘らせてたわけ? 先生は男なしじゃ生きてられない変態だもんな」
「そ……んなこと……!」
 必死に首を振って否定しようとするが、ナップに予想以上の力で捕まれて果たせない。
「嘘つけよ。オレに見られてちんこ勃ててるくせによ!」
 ピシィッ!
「ひ……っ!」
 レックスは性器に細い一本鞭を振り下ろされ、びくんと体を震わせた。鞭が細すぎて強烈な痛みとまではいかなかったが、性器に、しかもナップにやられているという事実に、レックスの体は勝手に震えてしまう。
 ナップの言ったことは事実だった。ナップに縛られて、自分の体を見られていると考えるだけで、レックスの体ははしたなくも反応してしまっていた。
 そんな自分が、たまらなく恥ずかしい。レックスは顔を真っ赤にして、うつむくこともできずナップから必死に目を逸らそうとし続ける。
 ナップはまたくくっと笑った。その笑いに色欲を感じ、レックスは驚いたが、ナップはそんなことを気にした風もなく壊れたように笑みながら言う。
「じゃあさ。オレでもいいわけだよな?」
「え……?」
 レックスは自分の耳を疑った。ナップ、今、なんて?
 ナップは冷静に、冷酷に笑みながら告げる。
「オレがアンタを満足させてやるよ。その淫乱な体を、さ」
「な……なに、言って……!」
「アンタは俺の先生なんだろ? だったらオレに教えてよ。気持ちイイこと」
「…………!」
 笑うと、ナップはレックスの髪を離し、レックスの顔のすぐ前に膝立ちになると、ズボンを下ろした。ナップの幼いながらも自己主張している雄の証があらわになる。
「咥えてよ。―――先生」
「…………」
 レックスは、その冷たいおねだりの声にぞくりと体を震わせた。むろん本来ならこんなこと許されることではない。必死に抵抗してナップを説得するべきなのだろう。だが―――
 レックスは震える唇を開いて、舌を伸ばした。犬のように首を突き出し、ナップの幼茎を――舐めようとする。
 ナップがごくりと唾を飲む音が聞こえた。興奮してくれてるんだ、と思うとこんな状況だというのにひどく嬉しい。
 ナップが腰を突き出して、咥えやすいようにしてくれて――ようやくレックスの舌が、ナップの幼茎に触れた。
「………ッ!」
「ン、ん……はぁ、ンハァ………」
 夢にまで見たナップの幼い性器――その先端から根元まで、必死に舌を這わせる。予想通り、ナップの幼茎は小便と汗が混じった味がした。
 ふぐりを口の中に含んで、愛撫する。時には片方を、時には両方を。そのコロコロした感触を思う存分堪能した。
 幼幹を唇で挟んでしごき上げる。先端を舌でいじりながら頭を前後に動かすと、ナップは高い声を上げて喘いだ。
 最後にはふぐりと幹を同時に口に含んで吸い上げた。吸いながら舌で思いきり舐めまわし、頭を前後左右に動かして愛撫する。
「あっ……アッ、アッ、あああっ、あッ、ア―――――ッ!」
 叫び声と同時に、レックスの口中に青臭く苦塩辛いねばねばした液体が放出された。レックスは、幸福感すら感じながらそれを飲み干す。
 ナップの、精液だ。
 ナップはしばらく荒い息をついていたが、やがて勢いよく性器を口から抜くとレックスを睨みつけた。びくりとするレックスに、冷たく言う。
「本当に、男好きなんだな」
「………! ちがっ!」
「いいよ。言い訳なんかしなくても、満足させてやるよ。もういやっていうくらいにな」
 ナップはレックスの下半身の方へと移動した。レックスは開かされっぱなしで痛くて苦しい足をもじもじと揺らす。
 ナップはしばらくレックスの下半身を見つめていたが、やがてくくっと笑った。
「アンタ、ここの毛も赤いんだな」
「そ……そりゃ……」
 なんだかひどく恥ずかしくなってレックスはうつむいたが、ナップの次の言葉に仰天した。
「でも、オレは生えてないのにあんたがこんなに生やしてるのは気に入らない。剃ってやるよ、全部」
「え……ええ!?」
 必死になにか言おうとしてでも言葉が見つからないレックスに、ナップは冷たく笑った。
「この状況じゃ、アンタに選択権はないだろ?」
「…………」
 なにも言えなくなって、うつむくレックス。
 ナップは薄笑いを浮かべながら、泡立てた石鹸と剃刀の入った壷を取り出した。石鹸を手に取り、レックスの陰毛につけ、さらに泡立てる。
 その状況だと、当然軽く勃起したレックスの性器にナップの手が何度も軽く触れることになる。先端や根元をナップの手が掠めるたび、レックスの体はびくびくと跳ねた。
 ナップはそれを楽しむように薄笑いを浮かべつつ、何度も何度も石鹸を塗りつける。
 もっと触って。
 そう考えて腰を揺らめかせてしまう自分がたまらなく恥ずかしいが、体の疼きは止まらない。
 レックスが興奮しすぎて疲れてきた頃、ナップは剃刀を手に取った。
 レックスの幹をそっと押さえて、柔らかくなった毛に剃刀を滑らせる。
「………んッ………!」
 冷たい刃の感触とナップの手の感触。その二つの刺激に、息が荒くなる。
「動くなよ。動いたら切り落としちまうかもしんないぞ」
「…………っ」
 言葉で心を縄で体を拘束され、動けなくされて、自分より一回り年下の生徒に陰毛を剃られている。情けない状況。だが、レックスはひどく――興奮していた。
「先生、またちんこ大きくなったぜ。やらしいな。少しは大人しくしろよ」
「………ぅ………」
 背徳の快感。服従の快感。被虐の快感。そんなものが混じりあい、ナップに怒られるたびにレックスの幹はますます固くなってしまう。
「……終わった」
「………」
 濡れタオルで股間を拭かれたあとに残っていたのは、大きさをのぞけば子供のような自分の性器だった。
「見てみろよ先生。つるつるだぜ。オレとおんなじ。こんなにでかいのに子供みてえ」
「………ぅっ………くぅぅ」
「なに? 毛剃られて興奮してんの? ホントやらしいな先生。この変態」
「………ぅぅっ、く」
 ひどい言葉を投げつけられても、むしろそれゆえに昂ぶるレックス。そんな自分を情けなく思いながらも、勃起するのは止められない。
 ナップはにやりと笑うと、レックスの後孔に指を滑らせた。
「………っあ!」
「へぇ、ここで感じるってことは男同士はやっぱりここ使うんだ。柔らけぇの。相当使いこんでんだ?」
「…………」
 恥ずかしくて答えられずうつむくレックスに、ナップはふふんと笑って薬壷を取り出し、指にたっぷり塗った。
「ちゃんと準備してきたんだぜ。心配しなくても傷つけたりしねーよ」
「……ん、あ、ぅあ、っん!」
 ナップの細い指が後孔に入れられる。子供だけあって当然細いナップの指は、レックスの後孔にスムーズに挿入された。
 そしてレックスの中を遠慮会釈なしに掻き回し、孔を広げていく。ナップの愛撫は無遠慮だったが的確で、まるでレックスの孔のことをよく知っているようだった。
「ふぅ、んふ、はぁ、んん、んは、んあ!」
「……そろそろいいか」
 ナップの指が後孔から抜かれた。刺激から解放されて激しく息をつくレックス。
「先生。先生は何十人って男にヤられてきたから、俺のちっちゃいのじゃ満足できないだろ?」
「……そんな、こと………」
「だから、これを挿れてやるよ」
 ナップが懐から取り出したのは――張り型だった。それもかなり大きいサイズの。
「………ナップ………」
「何十人って男にヤられてきたんだろ? こんくらい入るよな? それともこれでもまだ物足りない?」
「そんな………」
 自分はナップの熱を直接体で感じたいのに……。
 その本音は口にされることはなかった。口にしたらナップに嫌がられるかもしれないと思うと、怖くてとても口には出せない。
 ナップはくくっと笑うと、レックスの後孔に張り型をねじこんだ。
「………っは!」
 久しぶりの感覚に、息がつまった。
 ナップはぐちゃぐちゃくちゅくちゅ音を立てるはしたないレックスの後孔に、何度も何度も勢いよく張り型を抜き差しする。
「んはあっ、んくあっ、あはぁっ、ひぐぅっ、くふっん!」
「盛大に喘いじゃって。そんなに気持ちいいんだ? こんなに前も後も濡らしちゃってさ」
 それはナップだから。ナップにしてもらってるから。
 その言葉はとても口に出せない。レックスはしつこく攻め立てられ追い上げられ、強烈な快感と泣きそうな心に混乱し、気が遠くなってきていた。
 ぼんやりした頭の中で、レックスはナップの声を聞いた。
『先生……オレ、ホントは知ってるんだぜ』
 なにを?
『先生、ずっとオレのこと見てただろ』
 ………知ってたの?
『オレも先生のこと、ずっと見てたんだぜ……知らなかったのかよ……』
 ナップ………!
 その言葉にレックスは燃え上がった。凄まじい勢いで張り型が後孔に出入りする。体中が熱い。溶けそうだ。ナップの荒い息使いが耳元で聞こえて――
「あ――――っ!」
 レックスはあっという間に達した。

「………………俺って………………奴は………………」
 レックスはどっぷりと落ち込みながら目を覚ました。
 もう三回目なので目覚める時には確認するまでもなく状況はわかっていた。
 また夢で愛する生徒を汚してしまったわけである。しかも、今度はナップに攻めさせるという形で。
 しかも見ないでもわかった。今朝も自分の股間は濡れている。
「俺って奴は……俺って奴は……」
 レックスは本格的に落ちこんでいた。自分がここまで変態だったとは。ナップに責められたい願望まであったなんて……!
 もうこんな自分のままナップの先生なんて続けてはいられない。どこか見つからないような森の中へ入っていって、そこで人知れず死のう。
 脳内で遺書の文言まで考え始めてしまった時――
「せんせーっ! 起きてるかーっ……って、またなんかやってんの?」
 部屋に入ってきて、なぜかどこか悲しげなまなざしでレックスを見つめるナップ。
「………………ナップ………………」
 レックスはナップの眼差しに気づきもせず、目を逸らした。ナップと一緒にいることに耐えられなかった。
 自分はそばにいるだけでナップを汚してしまいそうな気がする。どこか遠くへ行こう……そしてそのまま死のう……。
 島の中という閉鎖空間にいることなどすっかり忘れた思考にとりつかれ、レックスがふらふらとベッドから立ち上がったその時。
「先生!」
 ナップがひしとレックスの腕を抱きしめて叫んだ。
「………ナップ………」
 普段なら舞い上がってしまうところだが、今のレックスは否定的思考真っ盛りである。ナップに触れることが怖くて、振り払おうとした。
 だが、ナップはがっしりと腕をつかんで離さない。困惑するレックスに、ナップは訴えるように言った。
「先生……オレ、頼りないけど。先生からしたら全然助けにならないかもしれないけど」
「ナ………ップ?」
「オレに相談してよ! 苦しいこととか悩んでることがあるならオレに言ってよ! そりゃ、オレはなんにもできないかもしれないけどさ……先生の役に立ちたいんだ!」
「ナップ………」
 自分を心配してくれるのは非常に嬉しいが、こんなことを相談するわけには……と首を振ろうとした時、ナップが泣きそうな声で叫ぶ。
「お願いだから、一人で苦しまないでよ! アンタはオレの先生なんだろ!? オレはアンタの生徒だろ!? だったら! どんなに苦しい時だって、一緒じゃないか………!」
「………………!」
 一緒。
 その言葉に、レックスは震えた。
「………一緒?」
「そうだよ、一緒だよ!」
「一緒に悩んで、一緒に苦しんで……」
「そうだよ!」
 ……自分は。今まで、ナップと一緒になにかをするという考えがあっただろうか。
 もちろんずっと一緒にいたいな、とか思ってはいた。だがそれも、あくまで自分の一人相撲として、自分の心の中だけに抱えこんでしまっていたのではないか。
 一緒にいるっていうのはそういうことじゃない。なにもかも話すことなんてできないし、そうあろうとするのは危険だ。でも自分が相手に求めるものを伝えて、相手が自分に求めるものを知ろうとするのは、共に生きる上でごく当たり前のことじゃないだろうか。
 レックスはなんだか胸がいっぱいになった。ナップに向けてそろそろと手を伸ばす。
 ナップは抵抗しなかった。それどころか、レックスの体に自分の頭を持たせかけてくる。
 レックスは泣きそうになりながら、ナップを優しく抱きしめた。
「一緒、だね?」
「うん、一緒だよ」

 その後、レックスはナップと一緒に青空教室へ向かい、いつにも増して張り切って授業をした。
 ナップは結局レックスがなにを悩んでいたのか少し考えたが、今は先生元気そうだし、ま、いいかという結論に達した。

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