楽しき学舎、そこに俺と君はいる

 工船都市パスティスの、ある宿屋。夜。
 俺とナップは、明かりを消した部屋でお互い隣り合ったベッドに入り、天井を見上げていた。
「いよいよ、明日だね……」
「………うん」
 明日。パスティス軍学校の入学式。
 ナップは新入生総代として挨拶をすることになっている。やっぱりナップは自分では頭悪いなんて言ってるけど本当は優秀な子なんだよなぁ、俺も鼻が高いよ。度胸も他の生徒とは桁違いだしなぁ。試験の日に見た限りじゃ落ち着き具合がまるで違ったもの、他の生徒と。それに可愛さでも他の生徒と比べて頭一つ抜けてたし……そりゃ、惚れた欲目込みでだけど、でもやっぱり一番ナップが可愛かったと思うし……。
 でも。そんなナップと、明日別れなくちゃならない。
 もちろん永遠の別れってわけじゃない。絶対また先生のところに戻ってくるからねってナップは約束してくれたし、俺だってこれっきりにするつもりなんて微塵もない。
 だけど。少なくともかなり長い間、俺とナップは別れ別れにならなくちゃならなくなる。
「……これっきりってわけじゃないよ」
「うん」
「長期休暇になったら絶対島に戻るし、手紙も書くから」
「そうだね」
「またすぐに会えるよ、だから別に悲しいことなんかなにもない」
「ナップ」
 でも、それならなぜ声が震えているんだい、ナップ。感情を必死に抑えている時の君の声。涙を必死に堪えているのがありありとわかる、張りつめて震えた声だ。
 俺はもうたまらなくなって(俺も明日のことを思うと泣きそうなんだよ)、言った。
「ナップ。泣きたい時に無理に笑うことは、ないんだよ?」
「……っ」
「また会えることを疑いはしないけど、明日からしばらく俺たちは会えなくなっちゃうことは確かなんだ。だから、たとえ相手のためでもごまかしたり嘘をつくのはなしにしよう? 俺も本当の気持ちを言うから、ナップにも本当の気持ちを言ってほしいんだ」
「……せんせぇっ……」
「別れがたくなっちゃうのは確かだけど……それでも、俺は君の本当の気持ちが知りたい」
 そう言ったとたんがばっと上掛けを跳ね上げる音がして、ナップの体が俺のベッドの中に飛びこんできた。暗闇の中俺をぎゅっと抱きしめて、悲痛な声で叫ぶ。
「せんせぇっ……せんせぇっ……!」
「…………!!」
 俺はナップがそういう行動に出るとは少しも予想していなかったので、数瞬硬直した。くらあと頭のネジが吹っ飛びそうになりつつも、い、いいんだよな、先生なんだし一応気持ちを確かめあったし抱きついてきた時に応えるぐらい! と必死に確認してそろそろとナップの背中に腕を回す。
 ナップは俺に抱きしめられながらぐりぐりと顔を俺の胸に押しつけていたが、やがて顔を上げた。さあっと窓から差しこんできた月明かりで、ナップの泣き濡れた顔があらわになる。
 ………可愛い。可愛い可愛い可愛い可愛い。可愛すぎるーっ!! 初めて見た時からナップは可愛かったけど、本当にどんどん日一日と可愛くなって……! 単に俺がナップにいかれているだけかもしれないけど、でもやっぱり今のナップはー!
 涙に濡れた瞳、痛ましいほどに悲しげな表情、小さく震えるおとがい――そういうもの全てが俺を誘惑せずにはおかない……!
 俺は一瞬押し倒してキスして最後までいきたいという誘惑に負けそうになったが、ダメだ――――っ!!! と内心必死に叫んでとどまった。
 俺はナップが好きだ。ナップも俺を好きだと言ってくれた。
 でもナップはまだ少年だ。性衝動とかそういうものには縁遠いと思う。
 俺は大人として、先生として、ナップに俺の欲望をぶつけるわけにはいかないんだ。そうしたら、きっとナップを、傷つけてしまうから……。
 耐えろ耐えろ耐えろ俺! 理性理性理性理性!!
 そう必死に何度も唱えて握り拳を作る。ナップにもっと触りたいとわきわきする手を抑えるために。
 ナップに……ナップにこれ以上触っていたら俺はっ……!
 ――と。ふいにナップが潤んだ、ひどく真剣な瞳で俺を見た。
 俺も(力いっぱい拳を握り締めながら)微笑んで見返す。
 その口が動いた。
「先生」
「なんだい」
「オレに……先生の跡を、刻んでくれる?」
「………は?」
 なにが言いたいのかわからず頓狂な声を上げる俺に、ナップは真っ赤になって怒鳴った。
「……っから! オレと、その……っ、愛しあってくれないかって、言ってんの!」
「………………はい………………?」
 俺は一瞬呆けた。瞳孔がかっぱり開いているような気がする。
 愛し合う、って。このシチュエーションじゃまるで誘っているみたいだよナップ、また無邪気に俺を誘惑して……
 ……でもこの状況じゃそれ以外に考えられなくない?
「…………え゛え゛え゛え゛え゛え゛――――――っ!!!!??」
 錯乱して大きく飛び退る俺。思わずナップの前だということも忘れて声に出して必死に落ち着こうといつものごとく否定面を並べ立てる。
「落ち着け、落ち着け俺、これはあくまでナップの無邪気なスキンシップの一環なんだ! 愛し合うっていうのは変な意味じゃなくて、俺に甘えてくれているだけでありっ……!」
「違うよ!」
 叫ぶナップ。俺は、再び硬直した。今度は別の理由で。
 だって、ナップが、真っ赤になりながら、目いっぱいに涙を溜めてこっちを睨んでいたから。
「先生のバカっ、オレ、確かにガキだけど……好きな人と一緒にいて、こんな状況で、無邪気にあんなこと言えるほどガキじゃない! オレだって……オレだって、先生と愛しあいたいって思ったりするんだからなっ!」
「…………」
「先生とっ、明日になったら別れなくちゃならないって、だからせめてっ、はっきりした証がほしいって思うの、そんなに変なことかよ!? オレ、先生が、好きなのにっ……!」
「ナップ……」
「こんなこと言うのむちゃくちゃ恥ずかしいんだからなっ! 少しは考えろよ、バカヤローッ!」
「…………」
 ナップ。
 そんなことを言っちゃいけないよ君はまだ小さいんだからそんなことを考える必要はないんだ――と、本当なら言うべき場面だったと思う。
 でも、俺はしばらく考えて、それを放棄した。
 俺はずっと、常識に照らし合わせて、そこからはみ出さないように必死になってきた。ナップを傷つけたくないから、他の人を傷つけたくないから、なにより――臆病で、ナップに嫌われるのが怖かったから。
 でも。ナップがこんなにまで言ってくれているのに、どうしてナップが大好きな俺が応えないでいられるだろう。
 過ちなのかもしれない、大人として間違っているのかもしれない――いや、間違いなくそうだろうと思う。でも俺は正しいことを理由にナップを傷つけるより、幼い過ちを犯してもナップを愛したい。間違っていたとしても、俺とナップの気持ちを大切にしたいんだ。
 ずっと臆病に逃げ回ってきたけど――今この時だけは、逃げたくない。
 父さん、母さん、マルティーニさん、すみません。俺、犯罪者になります。
 俺はナップに近寄って、抱きしめた。
「……いいんだね?」
「………うん」
 ナップは頭を俺の胸に擦りつけながら、うなずいた。

「……こっちへおいで、ナップ」
「うん………」
 俺は自分のベッドに腰かけて、ナップを招いた。
 おずおずと近寄ってきて俺を見上げるナップを、そっと抱きしめる。
「……緊張しなくていいからね」
「う、うん」
 と言ってる俺の方が緊張でおかしくなりそうなんだが。
 だってー! それなりに経験を積んでるつもりではあるけどナップ相手にきちんとできるかと思うともう心臓がドキバクでー!
 でも、そんな素振り毛ほどにも見せちゃいけない。ナップが不安になってしまう! 大人として、ナップの先生として、ここは余裕な感じでひとつ……!
 俺はナップの唇に口付けた。ごく軽い、触れるだけの口付け。それをそっと何度も繰り返す。
 じんわりと胸が温かくなる。嬉しくなる。どんなに軽いキスだって、ずっとナップの唇を夢見てきた俺には甘露だ(一度はキスできたけど)。
 そうだ、俺はずっと夢見てたんだ。かないっこないと必死に打ち消してたけど、こんな時が来ることをどこかで夢想してた。
 そして今、俺の夢は叶おうとしている。
 潤んだ瞳で俺を見上げるナップを、俺はそっとベッドに横たえた。早鐘を打つ心臓、がんがん鳴っている頭。震えるな俺の手、せめてナップの服を脱がすまで……!
 ナップがひどく不安そうな、緊張でがちがちに硬くなった表情で俺を見上げる。俺はできるだけ自然に、にこっと笑った。
「大丈夫……俺に任せていれば、なにも心配しないでいいからね」
 うああこんな風に喋らない方がいいんだろうか!? 俺の初体験の時先輩はどんな風にしてたっけ!? 俺の無駄に豊富な経験少しも役立ってないーっ、不安で不安でどーすればいいのか途方に暮れそうだーっ!
 でもナップは不安に震える、まるで触れなば落ちんとする花の風情とでも言うべき儚げな表情で俺を見つめ、潤んだ瞳を小さくまたたかせて「うん……」と、うなずいた。
 ………う、う、うおおおぉぉぉーっ! なんて可愛いんだナップっ、君はこれより更に俺の理性を試すつもりなのかっ! 俺のナップは(俺の扱い)、世界一っ、全世界一可愛いっ………!
 この幼い期待に応えないでなにが男だ先生だっ! ちゃんと最後まで、最後までっ理性を保って可愛がってあげなければっ……!
 ……今にも理性ぶち切れそうなんて思ってる場合じゃない。今夜は……今夜だけは! 今までの俺とは一味違う俺にならなくちゃ……!
 俺は(決死の精神力を振り絞って)小さく笑うと、ナップにもう一度ちゅっとキスをした。
 そして(手の震えを抑えながら)ナップのネクタイをしゅるりとほどき(このネクタイゆるゆるでなんだかいやらしいよな。子供が素肌の上に大人の服を着ているかのごときエロティシズムというか……)、ひとつひとつていねいにナップのシャツのボタンを外していく。
 ナップは、緊張のあまりだろうか、ぎゅっと目をつぶってしまっていた。歯を食いしばり体中に力を入れている。
 安心させられなかったか、と悔しい気はしたがそれなら今のうちに終わらせられるところは終わらせておこうとナップの服のボタンやホックを全て外し終えた。
「ナップ、シャツ脱がすからちょっと腕上げて……うん、ありがとう。ちょっと腰を浮かせてくれるかい? ……ありがとう、終わったよ」
 服を脱がせる間もナップはがんとして目を開けようとはしなかった。そんなに緊張してるのか……。俺もしまくりだけど。
 でも俺はそれ以上にナップの可愛いところがあますところなく見たい。自分の服を脱ぐ前に、思わずナップの裸身をまじまじと見つめてしまった。
 ………………………ぶふっ(鼻血)。
 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い(エンドレス)。
 ううう……俺は、俺は涅槃を垣間見た……エルゴの王の境地が見えた! この世にこんなきれいで可愛い、しかも淫靡なものがあったなんて……。
 ぼーっと数分間見つめてしまってから我に返った。いくらでも見ていいなら何時間でも飽かず見入っていたと思うけど。
 俺は慌てて自分の服を脱ぎ捨て(ええいどうしてこう脱ぎ着が面倒なんだ俺の服は!)、一度ごくりと唾を飲み込んでからそっとナップの裸身を抱きしめると、おでこにキスをした。
「……ナップ。目を開けてごらん?」
 かたくなにふるふると首を振るナップ。
「大丈夫、開けても俺の顔しか見えないから。ね? 俺にナップのきれいな瞳を見せてくれないか」
「…………」
 そろそろ、そろそろとナップは目を開けた。目を開けた瞬間目の前の俺の顔にか俺や自分の素肌が見えたせいか真っ赤になって顔を背けようとするが、俺はそっと首を元に戻させて瞳を見つめる。
「大丈夫」
 できるだけ優しく微笑みかけて。
「俺がついてるよ」
「………先生………」
 ナップは真っ赤な顔のまま俺を切なげな瞳で見つめて、がしっと俺に抱きついてきた。
「ナップ……」
「せんせぇ……早く、して……オレ……もう、どうにかなっちゃいそうだよぉ……」
 …………!!
 ぶふっ(鼻血)。
 ナ……ナップ……涙声でそんな誘うような台詞をっ……!
 いや鼻血出してる場合じゃない。ナップの必死のこの訴え、無にするわけにいくものか! 今が俺の人生の勝負時だ……!
 俺はナップを抱きしめ返すと、目の前にあるナップの耳たぶをぺろりと舐めた。
「ひっ……!?」
 ナップの体が硬直する。驚かせちゃったかな、と思いつつも俺はナップの体を横たえつつナップの耳たぶや耳の中を舌と唇で愛撫する。もちろんナップのお尻やら太腿やら胸の先端やらを指で愛撫することも忘れない。
 ああ、ナップのお尻……! 太腿……! キスしたい舐め回したいっ! と欲望が猛るのも確かだが、ナップがこんなに緊張してるのにいきなりそんなことをするわけにもいかない。我慢だ、俺!
「ん、ふ、ん、んん」
 ナップの息が乱れてきた。感じてくれてるんだ……ううぅ、嬉しいっ!
 力が抜けてきたみたいで、目はつぶったままだけど俺にしがみついた手を離してくれた。ベッドにくたりと寝転がるナップの素肌に(また鼻血を出しそうになりつつも)、そっとキスをする。
 首筋、肩、胸、乳首、腹。ナップに怒られるのが怖くてあんまり長々はできなかったけど(できるものならナップの体中を口に含んで愛撫したい! とは思うけども!)、どこも優しく俺の技の粋を尽くして舐め上げたつもりだ。
 そして、いよいよ……ナップの……ナップの、性器!
 ここをやっていいものかどうか正直迷った。けど、俺はどうしてもやりたいっ! ナップのおちんちんを口に含んで、できることなら……その、飲んであげたいなー、とか、思ってたり……
 とにかく! こんな機会次はいつあるか知れないんだ、やらずにおれるか! 誰になんと言われようともやるったらやる!
 俺は早鐘を打つ心臓を必死になだめながらえいっとばかりにナップの性器を口に含んだ。
「ひゃうっ!?」
 ナップが頓狂な声を上げる。
 ……ほぼ先端まで皮を被ったナップの性器は、汗とおしっこの味がした。子供らしいかきたての汗の匂い。赤ん坊の乳臭さに少しだけ似ている少年の匂いがぷんと漂ってきて、俺は思わずうっとりしてしまった。
 口の中で軽く吸い上げつつ舌でナップの性器を動かす。先端をちろちろと舌でいじったり、一度口から出して根元から先っぽまで舐め上げたり。そのたびにナップの性器はびくびくと震えた。
 イかせちゃっても大丈夫かな? と思いちらりと顔を見ると、ナップはなにかに耐えるように(快感だ、と思う)顔を歪めて、体を硬くしていた。
 ああ、わかるよイきそうになればなるほど体に力が入ってイけなくなっちゃうんだよなぁ。辛いんだあれ、気持ちいいのにイけなくて。
 俺はどうすべきか迷ったが、それは本当に一瞬のことだった。もし万一こういう状況になったら、と夢見て用意しておいた香油の瓶をベッド脇の鞄から取り出し、ナップに声をかける。
「ナップ、ちょっと体ひっくり返すよ?」
「………あう」
 ナップの体をひっくり返して(う……! ナップの白くてプリントした桃尻が……!)、香油を手に取る。
「ナップ、ちょっと息を吐いてくれる? 力を抜いて」
「で、できな……やり方、わかんな……」
「………それじゃ、俺と呼吸を合わせてみてごらん? すうって吸って、吐いて。吸って、吐いて。吸ってー、吐いてー……」
 ナップが俺の言葉に合わせて深い呼吸をし始めた――のを見計らって、俺はナップの後孔にそっと指を這わせた。むろん指にたっぷりと香油をつけて。
「……ん!」
 ナップがうめいた。
「ごめんね、ちょっと我慢してね? 少し時間かかっちゃうけど……」
 俺は心臓をばっくんばっくんいわせながら夢にまで見たナップのお尻を、後孔を俺は香油で愛撫する。たっぷりとした粘性の液体でぬるぬるになったナップの後孔は、俺の無骨な指を思ったよりあっさりと受け容れた。
 精神・体力面からいってナップが気持ちよく射精できる回数はたぶん一度が限度。それならやっぱり一緒にイくしかない!
 それもできるなら――俺はナップの中でイきたいっ!!
 標準的な成人男子程度の大きさはある俺のものをナップの中に収めるのは大変だろうけど。でもやっぱり、こんな機会もうないかもしれないんだから、一生に一度かもしれないんだからナップの中に挿れたい!! ごめんナップ、でも無理じゃないはずだ俺はできたんだから、それに俺はどうしてもナップと一つになりたいんだーっ!!!
 ぬるぬるになったナップの性器をイかない程度に愛撫しながら、後孔を広げる。初めてな上にこんなに若いんだから当然だけど、ナップの後孔はひどく固く小さかった。
 ナップを傷つけないために必死に優しく指を動かす。ナップはん、とかあう、とか声を上げながら、俺の愛撫に耐えてくれた。
 三十分近い時間をかけて――ようやくもう大丈夫かな、というくらいまでナップの後孔を柔らかくすることができた。
「ナップ、大丈夫かい? 苦しくないかい」
「……う」
 ナップは懸命に深い呼吸を繰り返しつつも、こくんとうなずいてくれた。
 ああなんて健気なんだ! と俺は思わず感涙しかかったんだけど、今はそんなことしてる場合じゃない。
 ナップと一つになりたい。ナップを気持ちよくさせてあげたい。ナップと一緒に気持ちよくなりたい!
 とうとうこの時がきたんだ。俺は緊張のあまりがんがん鳴る頭を冷静にしようと必死に虚しい努力をしつつ(心臓は当然のごとくものすごい速度で血液を体中に送り出してる)、言った。
「ナップ。ゆっくり息を吐いて」
「う……」
 ナップは真っ赤な顔で(意識がぼんやりしてきてるように思えた)言われた通り息を吐いた。
「大丈夫……痛くしないからね」
 絶対にナップに痛い思いはさせるもんか! 俺の無駄に豊富な経験はこの時のためにあったんだ! 絶対にナップには気持ちよくなってもらう……!
 俺のそんな決死の思いをこめた言葉に、ナップは真っ赤な顔で、目を閉じながらこくん、とうなずいた。
 ナップ……君は本当に、なんて健気でいい子なんだろう。そしてなんて可愛いんだろう。
 俺はそんな君にずっといけないことをしたがっていた不埒な輩だ。でも、そんな俺の想いが少しでも今の君をつくるのに関わっていたなら、俺はなにが起きたって後悔しない。
「………いくよ、ナップ………」
 俺はナップの後孔に、ゆっくりと俺自身を挿入した。
「………アッ………!」
「………くっ………!」
 き……キツ………!
 ナップの中は予想通り、すごい力で俺自身を締めつけてくる。挿れる方は実は初体験の俺は、そのあまりに強烈な感覚にくらくらあっと目眩がした。
 だが男としての本能か、腰は勝手にじわじわとナップの奥へと進んでいく。
「はぁ、は、はぁっ」
 ナップの呼吸が荒い。苦しげに乱れるナップの息。
 だが経験からくるものか、頭のどこかでそれは痛みからくるものではないことを察知していた。体の中を広げられる感覚、それは苦しさをともなうけれども快感にもなりうる。
 ナップにも、気持ちよくなってもらわなくちゃ!
 それを必死に念じつつ、俺は(強烈な締めつけとこれがナップの中……! という感動に惑乱しつつも)腰をゆるゆると動かす。経験から言って一度や二度で後ろで快感を感じられるようにはならないだろうけど、それでもうまくやれば気持ちよさの萌芽を感じさせることはできる。
 腰を動かしつつナップのうなじに雨のようにキスを降らせながら前に触れる。ナップ、ナップ、ナップ。頭の中はその言葉だけでいっぱいだ。
「ん……う、あッ……ん! は、んは、くふぅ」
 ナップの息に少しずつ快感が混じり始めている、と俺はわかった。よし! と内心ガッツポーズを取りながらうまずたゆまず刺激を続ける――
 と、ナップがぐるりと俺の方に首を動かした。目を開けている。もしかして、と思った俺は体を伸ばしてナップと目を合わせ、できるだけ優しく笑ってみせた。
「せん……せ……」
 やっぱり顔が見たかったんだろう、ナップはほっとしたように小さく笑った――
 ………か、か、可愛いいぃぃぃぃぃぃ!!!!
 俺は苦しい姿勢からむりやりナップの唇にキスを落とし、暴走しそうになる欲望にナップへの想いで歯止めをかけながら腰を動かす。気持ちいいとか感じる余裕のない強烈な昂ぶりに、俺は陶酔した。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
 ナップの呼吸から俺はナップの絶頂が近いことを悟った。そんな余裕ないと思っていたのに、腰と手の動きが激しさを増す。
 俺自身の呼吸もイく寸前のものへと変わり――
「あ、はっ、あはあああああッ………!!!」
「くあっ………!!!」
 ナップが射精するのに十秒ほど遅れて、俺もナップの中に精を注ぎこんだ。

「―――最初は、そんな感じだったんだよなぁ」
 俺は、三年前ナップと一緒に歩いたパスティス軍学校への道を歩きながらひとりごちた。
 あれから三年。ナップは長期休暇のたびにあの島へ戻ってきてくれた。
 長期休暇の間のわずか十日程度しか一緒にいられないのは、すごくすごくすごくすごく寂しかったけど――ナップはいつも笑って俺のところに戻ってきてくれた。
 そしてそのたびに、まあ、その……したりしたわけで。
 今ではお互いある程度慣れて、快感を素直に感じることができるようになっている。
 でも、帰ってくるたびに成長していくナップの可愛さに慣れることはなかった。あの島で一緒にいる数日間の間にすら、ナップは見るも鮮やかに成長していく。
 だけど、その笑顔の可愛らしさだけは、変わることはない。
 今日はナップが軍学校を卒業する日。そして――俺のところへ帰ってきてくれる日。
 俺は校門をくぐりぬけると、大きく手を振った。それを見つけて彼が大きく手を振り返してくれる。
 ほら、あんな風に、ナップはいつも俺を見ると嬉しそうに笑ってくれるんだ。
 だから俺も、体中に響き渡る嬉しさを精一杯こめて笑う。
「―――せんせぇーっ!」
「ナップーっ!」

「だからね、スバル。割り算ってものは必ず、割り切れるものじゃなくてさ……」
「でも、きちんと半分にしなかったらケンカになっちゃうじゃないか?」
「そうですよう! 5個のダリマの実を3人で分けるのなら中の実の数まで数えるべきなのです!」
「いや、そういう問題じゃなくてさ……うーん……」
「先生、ここの計算ってこれで合ってますか?」
「ごめんよ、パナシェ。もうちょっとだけ待って……」
「パナシェのほうはオレにまかせてくれよ」
 スバルたちの相手にてんてこまいになっていた俺に、ナップがそう声をかけてくれた。
「ありがとう、ナップ。助かるよ」
 笑顔を向けると、ナップもくしゃりと嬉しげに笑って、パナシェに向き直る。
「ほら、見せてみろよ?」
「うん、ナップ先生。よろしくお願いします」
 授業の途中のそんなひそやかな通じ合いにも嬉しくなって顔が笑ってしまうけど、でもかまわない。
 ナップがそばにいて、一緒に笑ってくれるから。

 今、ナップは俺と一緒に、スバルたちの先生をやっている。
 正確にはまだ見習いなんだけど、その実力はゲンジさんも(今あの人はこの学校の校長という立場に収まっているんだけど)驚くほどで、じきに見習いからも脱出できるだろうと俺たちは話してる。
 ナップが島に戻ってきた時、俺と一緒に先生をやるつもりだって聞いた時は本当に驚いた。でも、ナップは気まぐれで言い出したんじゃなくて、ちゃんと考えて決めたんだってことを言葉じゃなくて行動で示してくれた。
 それが俺は、とても誇らしい。
「明日の書きとり試験の問題、こんなカンジでどうかな?」
 ナップの差し出してきた問題用紙を見て、俺は小さく首を傾げた。
「うん……こことか、ここの部分とかちょっと難しくないか?」
 ナップは頭を掻いて苦笑する。
「うーん……試験の問題作りってさ、結構、大変なんだなあ」
「簡単すぎると意味がないし、難しいと、みんなのやる気がなくなっちゃうからね」
「試験を受ける立場の時は生徒にばっかり苦労させて! とか、思ってたけどさ。受けさせる立場の方も問題作りや、採点なんかで苦労してたんだよなあ」
 ナップの実感のこもった言葉に、俺はちょっと笑いつつも言った。
「でも、そのぶんだけ生徒たちのがんばりを見るとうれしくなるだろ?」
「うん、それは言える!」
 ナップが嬉しげに笑ってうなずく。
「マルルゥが、かけ算を暗唱できるようになった時はホント、うれしかったし」
 心の底から嬉しそうなナップに、俺も嬉しくなりながら空を仰ぐ。
「そういう喜びがあるから先生って、やめられなくなるんだよなあ……」
 ナップも俺と並んで、一緒に空を見上げた。
「ゲンジ校長が言っていたとおりだったよなあ」
 うん、そうだね……。
 しばし幸福に浸りながら空を見上げていたが、首が痛くなってきたので俺は顔を下ろしてナップの肩をぽんと叩いた。
「次の季節の巡りからは他の子供たちも、学校に来るかもしれないってさ」
「ホントに!?」
 ナップがぱあっと顔を輝かせる。
 ああ、その笑顔が。その笑顔が俺を魅了してやまない。
 ナップの笑顔の魅力は、本当に変わらない。
「ああ、ユクレス村や風雷の郷のお母さんたちが、ミスミさまにお願いしに来てるんだって。そのためには、俺たちももっと、がんばらないとな」
「よーし、それまでには、オレも見習いじゃなく、一人前の先生になってやるぞ〜っ!」
「うん、その意気だ!」
 俺も笑顔で、ナップと拳を打ち合わせた。

 夜。一緒に散歩に出て、誰もいない野原に並んで座って、空を見上げる。
 しばらく黙っていたけど、なんだかこみあげてくるものに耐えきれず、口を開いた。
「だけど、こうして星空を見あげていると、すごく実感できるよ……本当に、俺……帰ってきたんだなあ、って」
 ナップの隣に。俺の帰るべきところに。
 ナップも少し照れくさそうに言った。
「うん……それは、オレも同じだよ。不思議だよなあ。軍学校の宿舎でさ、さみしくなっちゃった時、真っ先に思い浮かんできたのは、マルティーニの屋敷じゃなくて、ここのことばかりだったんだよな……」
「そっか……」
 俺のしみじみと返した言葉に、ナップはぱっと顔を上げて早口に言う。
「あ、でもさ! 家のこと、どうでもいいって思ってるワケじゃないぜ。オレの考えに賛成してくれたオヤジには、ものすごく感謝してるし……」
「やりたいことをやりなさい……そう言って、笑顔で送り出してくれたもんな」
 マルティーニさんには、ナップを迎えに行った時挨拶に行った。息子さんをください、ときちんと話をするために。
 蹴り出されるのを覚悟で何度も通うつもりで行ったんだけど、なぜかもう話が通っていたみたいで、思ったよりはるかにあっさりとうなずかれてしまった。
 マルティーニさんには俺も、申し訳なく思うのと同じくらい感謝してる。
「いつか、なんらかの形でちゃんと親孝行しなくちゃダメだなって思ってる。軍人としてじゃなくても、先生として、立派になることで……」
「そうだな……」
 俺も、恩返ししなくちゃダメだよな。恩人でもあるし、俺の義理の父親にあたる人でもあるんだから。
 と俺がしみじみとしていると、ナップがくい、と俺の服の裾を引っ張った。ナップがこういう風に子供っぽいしぐさをする時は、俺にかまってほしい時か話をしたい時だ。
 俺がなんだい? という気持ちをこめて向き直ると、ナップは姿勢を正して俺の顔を見て言った。
「まだまだ、オレは子供だし、色々、迷惑かけちゃうかもしれないけど……いつかは、アンタと同じくらい立派な先生になるからさ。だから……先生……これからも、よろしくご指導、お願いします!」
 その爽やかな宣言に、俺は思わず微笑んだ。
「ああ……こちらこそ、よろしく! ナップ……」
「へへへ……」
 ナップが照れくさそうに笑う。その笑顔は本当に、昔と変わらない。
「……でも、指導するだけじゃないと思うよ」
「え?」
 怪訝そうなナップの顔。
「俺もナップに教えられることはいっぱいあるからね。というかいつも教えられっぱなしだもの。だから、一緒に二人で並んで歩いていこうよ。……俺たちは、先生と生徒で――同僚で、その……恋人同士でもあるんだから。ね?」
 ……ちょっと声が震えたけど(情けない)、俺なりに格好をつけてみたつもりだ。
 ナップは、俺の言葉に、ちょっと顔を赤らめると、小さくうなずく。そして、めいっぱい背伸びをして俺に抱きつくと、甘えた声で言った。
「せんせぇ……キスして」
 ……ぶはっ(鼻血)。
 ほ、本当に君には教えられてばかりだよ、ナップ……いつの間にそんなに誘惑上手に!?
 でも、俺も先生としてナップに押されっぱなしというわけにもいかない。ナップを抱き寄せて、腰が砕けるほど情熱的なキスをさせていただいた。
「ン……んふ、ン……んはあ……」
 口を離すと、潤んだ瞳で俺を見つめるナップ。その中に見える光を読み取り、俺は言った。
「……帰ろうか」
 ナップはちょっと顔を赤らめて、うなずく。
「うん」
 そっと肩を抱き寄せて、歩き出す。
「帰ろう。俺たちの、帰る場所へ」
「うん……」
 ナップはふいに、くいっと背伸びをして、俺の耳に口を近づけて囁いた。

 やっぱり、アンタに出会えてオレ、ホントによかったと思う。ありがとう、先生。
 大好きだよ。

 授業が終わって――幸せはここにある。

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