楽園の果てで愛を叫ぶ君と俺

「集落のみんなは無事に、ここまで避難できたってさ」
 ナップの言葉に、俺はほっと胸を撫で下ろした。
「そっか……」
 事態は深刻だった。ディエルゴ――狂ったエルゴ。壊れたハイネルさんの精神を核にして生まれた怨念の結合体。
 再封印をかけたおかげで精神支配は免れたものの、島の自然そのものを武器にすることさえできる。
「そんなものを相手にいったい、どうやって戦うんだよ!?」
 方法はただひとつ。遺跡の中枢部に乗りこんで直接封印の剣の力を叩きこむ。昔の戦いで無色の派閥がとった作戦と同じ。
 簡単じゃないだろうけど――やるしかない!
「オレたちだってみんな、先生と同じ気持ちなんだぜ?」
 ナップ………。
 俺たちは行動を開始した。ただ一つの目的のために。自分たちの居場所を守るために……。
 だが、その前に。俺にはやっておかなくちゃならないことがあったのだ。

「先生……話って、なに?」
 俺は準備の合間をぬって、ナップを部屋に呼び出した。警戒されるかな、とも思ったんだけど、他にいい場所が思いつけなくて。
 俺はめちゃくちゃ緊張しながらナップに向き直った。ナップも緊張をはらんだ、真剣な面持ちでこっちを見ている。
 ううう……怖い。怖い怖い怖い怖い。ディエルゴと戦うことは別に怖くないけど(負けるつもりなんて全然ないし)ナップに嫌われちゃうんじゃないかと思うともうめちゃくちゃ怖ーいっ!
 だけどこれは、人としてやっておかなくちゃならないことだろう。俺はじっとナップを見て言った。
「ナップ。……君も一緒に最後の戦いに来るんだね?」
 俺の言葉に、ナップはカッと顔を染めた。
「当たり前だろっ! 先生、まさか、来るなとかいうんじゃ……」
「言わないよ。君はもう一人の立派な戦士だ。君が自分で考えて決めたことなら、俺は口出しできないと思う」
「…………」
「でもね。君の気持ちを大切にしたいのも本当だけど、君を危険な目にあわせたくないっていうのも本当なんだ。君のことを信頼してる、欠かせない戦力だとも思ってる。それでもね」
「…………なん、で…………?」
 ナップの瞳はなぜか潤んでいた。紅潮した面持ちで今にも泣きそうな、あるいは叫び出しそうな、そんな顔で俺のことをじっと見つめる。
「………それはね」
 言え。
「俺が、君のことをね……」
 言うんだ。
「誰よりも――、誰よりも、大切で………」
 男として大人としてきちんとけじめをつけろ。
「大切で―――――……………大切な、生徒だと思ってるからだよ」
 うああああああああ………。
 俺ってやつは……俺ってやつはあぁぁぁぁっ!
 最後の戦いの前になんでキスしたのかとか説明して、告白して、断罪されるつもりだったのにーっ! この期に及んで……この期に及んで俺ってやつは………!
 ナップの顔から表情が消えた。そしてそのどこか呆然とした顔のまま、瞳を潤ませたままで俺を見上げる。
「……じゃあなんであんなことしたの」
「………え?」
「大事な生徒だから? 先生は大切な生徒なら誰にでもあんなことするのかよ」
「あ……あんなこと、って……?」
 俺がおそるおそるそう言うと、ナップの顔がふえっと歪んだ。今にも大泣きしそうな顔で、ぽろぽろと声を立てずに涙をこぼす。
「………………!! ナ、ナップ……」
「先生は……先生は、なんの気なしにしたことかも、しれないけど……オレは、オレは……オレは! ずっとずっと、気にして、考えて、必死にこうでもないああでもないって……なのに、先生は……先生にとっては、あんなこと、全然、大したことじゃ……」
 うっく、としゃくりあげるようにして、ナップは涙をこぼしながらむりやりに笑う。
「なんだ、先生にとってはただのスキンシップだったんだ……ばか、ばっかみたいじゃんオレ……」
 落ちてくる涙を必死に拭いながら、しゃくりあげながら、懸命に笑おうとするナップ―――
 その姿を見たとたん、俺の奥底にある、男としての部分が一気に奮い立った。
「ナップ!」
「………!?」
 俺はナップを抱きしめていた。少し痛いくらいに、ぎゅっと、強く。
 ナップは硬直して、目を拭うことも忘れている。驚いた拍子に涙も止まったようだった。
 まだなにがなんだかよくわかってないけど……ここで……ここで言わなきゃ、俺は本当に男じゃないっ!!!
「せ……せんせぇ……?」
「ナップ、聞いてくれ。俺は、俺はね。君のことが本当に大切なんだ。それに君は俺よりずっと小さいし、大人としての責任とかも考えなくちゃいけなかったし。でも――ああ、本当はそんなこと言い訳にすぎないのかもしれない。ただ勇気がなかっただけかもしれない」
「………………」
「でも、でもね、ナップ。俺は――本当に、君のことが――」
「せんせーっ! ナップーっ! もうみんな集まってるよーっ!」
 ドアを盛大にノックされたあとのソノラの大声が響き、俺はがくっと力が抜けて崩れ落ちた。そ……そりゃこんな時にこんな話をしようとした俺が悪いんだろうけど……なにもこんなタイミングでーっ!
「せんせぇ……呼んでるよ?」
 くいくい、と服の裾を引っ張られて、俺は息をつきつつ立ち上がった。
「そうだね、行かなくちゃね」
「うん……」
 部屋を出て行こうとするナップ。俺がその耳にこっそりこう囁くと、ナップは顔を真っ赤にしてうなずいた。
『――全部終わったら、またちゃんと話をするからね』

 核識の間になんとかたどりつき、封印をしようとすると亡霊が襲いかかってくる。ディエルゴをなんとか説得しようとしたが果たせず、俺たちは最終決戦に突入した……。

 ディエルゴが消滅するとこの島も消滅してしまう――その衝撃の事実を俺たちが知ったのはディエルゴを倒してからだった。
「みんなは、ここを出て船の所へ戻ってくれ」
「みんなは、って……アンタは!? 先生はどうするんだよっ!?」
「剣の力を使えばおそらく、共界線をつなぎ止めることができるはずなんだよ。最後の最後まで、俺はあきらめたくないんだ」
 だって、ナップ――君に俺はまだ、なにも言っていないんだから……。
「でも……」
「止めないぜ」
「カイル……」
「ただし、ちゃんと無事に帰ってくること。それが条件だかんね」
「ああ、わかってるよ。無茶な真似をして心配をかけるつもりはないから……」
 勝算はある。なくても絶対引き寄せてみせるけど。
 このくらい、今までやってきたことと比べれば無茶でもなんでもない。
「それじゃあ、みんな。俺、行ってくるからね」
「オレも、連れてけよ!」
「ナップ……」
 俺はちょっと驚いた。ナップがそんなことを言うって事態が、すっかり頭の中から抜け落ちていたから。
「無事に帰ってくるならオレがついていってもかまわないだろ!? 手伝いたいんだよ! 最後まで、先生のこと。だから……っ」
「ピピッ!! ピピッピーッ!?」
 ナップ……。君は、本当に、どこまで俺をメロメロにすれば気がすむんだろう。
 嬉しい……嬉しすぎる、ナップがどこまでも俺についてきてくれるなんて……! ってなにをどさくさにまぎれて無茶なこといってるんだ俺はーっ!
 でも……ナップのその言葉が、本当に嬉しい……。
「連れていっておあげなさいな。アタシたち、みんなの代表として……ね?」
「そうだな……」
 俺はナップに向き直り、手を差し出した。万感の思いをこめて。こっそり『こんな時なんだから手ぐらい繋いでもいいよな……』とか思いつつ。
「それじゃ、行こうか? ナップ!」
「うんっ!」
「ピピッピー!」
 ああ、本当に、笑顔が眩しい……。

「ここにある光の束が全部、共界線……」
「俺の手の上から、強く剣を握りしめるんだ」
「これで、いいかな?」
 ナップはぎゅっと俺の手を握る。ううう……そんな場合じゃないっていうのはわかってるけど、わかってるけど〜〜……幸せ……!
「目を閉じて……想うんだ……この島のことを、みんなのことを、守りたいと願うものを、強く、強く……」
 カァ、と剣が光を発する。俺とナップの想いに反応して……。
「…………っ!」
「ウオオォォォォッ!!」
 光が爆発的に高まり――繋がった! と思った瞬間、ハイネルさんが現れた。
 ハイネルさんの言うことには、アールはハイネルさんと繋がっている召喚獣だったらしい。ナップのそばにいて、ナップを守ってくれていたのはハイネルさんの力によるものだったようだ。
 ……けどアールを通して見てたって……まさかあんなところやこんなところも見てたりしたんだろうか!? うあああああ、恥ずかしすぎる………!!
 ハイネルさんがこの世界から消える前にできることをしていきたい、と言うので、俺たちはハイネルさんに深く感謝をしつつ、みんなのところへ帰っていった……。

 帰り道、俺たちは無言だった。
 もう全部すんだって言ってもいいわけだし、今からさっきの話の続きをやってもいいわけなんだけど……いいわけなんだけど〜〜〜っ!
 だって一回盛り上がってたのが途切れちゃったら復帰させるの難しいだろう!? 言うべきことは決まってるしそれを言えばいいんだろうけど……言えるか! いきなり『君が好きです』なんていい年した大人の男が十二歳の少年に!(逆ギレ)
 でも……さっきのナップはなんだったんだろう。まるで俺がナップを生徒としか思ってないのが嫌みたいなことを言っていたような……。
 ……つまり、ナップは、俺のことを、先生以上に………………
 うああああなにを考えてるんだ俺はそんなことあるはずがないだろう! あれは……あれは、そう! 子供特有の独占欲なんだ! ナップは俺を先生として純粋に慕ってくれているのであって……!
 だけどそれで泣くかな、普通。あんなこと言って。
 うああああ俺よしっかりしろナップが俺を恋愛感情で好きになったりするはずないだろう! 錯覚なんだ錯覚俺がキスとかしちゃったからナップはたまたまそういう気分になっちゃってるだけで!
 じゃあなんでナップは俺がキスしたときに怒らなかったんだろう。
 それはたまたまで偶然でナップはあくまで……!
 ああもうわけわからんどうすればいいんだ俺は………!
「………先生」
 ナップがふいに立ち止まり、言った。俺はどきりとしながらも笑顔を向ける。
「なんだい?」
「―――オレのこと、好き?」
「!!!!」
 お、お、オレのこと、好き、って、ナップ………それはどういう意味でっ!?
 いやいやいやわかってるよわかってる純粋にただ好意を持ってくれているか不安になっただけなんだよね?
 だから俺は必死に笑顔を作って言った。
「もちろん、好きだよ?」
「どんな風に?」
 ど、どんな風に、って……どういう意味だいそれは!?
 言葉に詰まる俺に、ナップは赤い目で、潤んだ瞳で、顔をうっすら紅潮させながら俺を見上げて言った。
「オレ、前に言ったよな? 先生のこと、世界で一番大好きだって」
「―――――」
 あ、あああああああ! そうだ、ナップあの時そう言ってたんだった! そのあと俺がやらかしたことばっかり考えて忘れてた! お、お、お、俺の、馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!
 硬直する俺に、ナップはぎゅっと拳を握り締めて、必死に胸を張って、懸命な顔をして言う。
「オレ、先生のこと――愛してんだからなっ! 世界で一番、一人だけ!」
「――――!」
 そ……んな、まさか――――!
 そんな馬鹿な、そんなことがあるはずがない。親愛の情だ、先生に対する純粋な慕情だ。そう理性は必死にブレーキをかける。
 でも――だったらどうしてナップは今にも泣きそうなんだろう。愛してるっていう一言を言うために、どうしてあんなに目を潤ませているんだろう。
 本当はわかってたのかもしれない。でも、思いきれなかった。常識、理性、そんなものだけじゃなく、ナップと両思いになりたくて、でもなってしまうのが怖くていろんなものを見ないふりをしてきた。
 でも。でも。
「先生はどうなんだよっ。オレのことどう思ってるんだよっ!」
 ナップがこんなに必死なのに、どうしてそれに応えないでいられるだろう。この少年の懸命な想いに応えないで、それで先生なんて、男なんて、大人なんて言えるはずがない。
「俺、は………」
「オレ――めちゃくちゃっ、めちゃくちゃ真剣なんだからな! ちゃんと、答えろよ。応えてよぉっ………!」
 今にも泣きそうな顔で、それでも必死に意地を張って、こっちを睨むように見つめるナップ――
 俺は、ぎゅっとナップを抱き寄せた。抱き寄せるしかできなかった。
「ごめん、ナップ―――」
「………せんせぇ?」
 か細く震えるナップの声。
 彼を俺はここまで追い詰めていたのかと思うと、たまらなく胸が痛かった。
「俺は、怖かったんだ。ナップを傷つけるのが――ううん、ナップを傷つけたせいで自分が傷つくのが。俺はナップが本当に本当に大切だから、ナップの心も体も未来も大切にしたかった。けど……一番大切にしなきゃいけない、ナップの気持ちを……俺、ちゃんと見てなかったね。鈍感で、馬鹿な先生で、ごめん、ナップ―――」
「………先生………」
「それに俺は大人だから。年を取ってるから、常識とか、周りとの兼ね合いとかそういうことばっかり考えてしまって。俺が後ろ指を指されるぐらいはなんでもないけど、君がそんなことになったらとか、君を損なってしまうんじゃないかとか考えると本当に怖かった。俺は、本当に臆病なんだよ。今ですら怖くてたまらない――」
「先生」
「でも。君が辛いと思うなら、俺はその原因を取り除きたいと思うから、そのためならなんだってできると思うから――」
「先生!」
 ばしっ、と叩かれて俺は我に返り、真っ赤なナップの顔を見つめた。
「な、なんだい、ナップ」
「先生――結局、オレのことどう思ってるの?」
「――――」
 俺は一瞬唖然とし、それからちょっと笑った。それは俺にとってはあまりに自明なので説明する必要がないように思えていたのだ。
 だが、そうじゃない。言うべきことは、きちんと言わなくちゃ伝わらない。
「愛してるよ」
 ナップの顔が、ふえっと歪んだ。
「君は俺が世界で一番、ただ一人愛する人だよ」
 俺はナップを抱きしめて、そう耳元に囁いた。
 ナップはうっく、としゃくりあげるような声を出しながら、俺にしっかりしがみついて、少しだけ涙をこぼした。
「ナ……ナップ!? 大丈夫かい、悲しかったり腹立たしかったりしたら俺に当たっていいんだよ!」
「そんなんじゃ……ないよ……」
 ナップは涙を流しながら微笑んだ。とっても健気に、美しく。
「よかった……」
「え?」
「勘違いじゃなかったんだ……先生、オレのことちゃんと、好きだったんだ………」
「…………!」
 ナップ………!
 俺はナップをもう一度思いきり抱きしめた。そうせずにはいられなかった。
「ごめんね、ナップ! 俺のせいで……! 不安にさせちゃったんだね!」
「せんせぇ、オレのこと、好きなんだよな……?」
「好きだよ! 世界で一番、誰よりも好きだよ!」
 ナップはまだ涙をこぼしている。だが顔は嬉しげに笑っていた。
「……すっげー、嬉しい……」
 ナップ……それはこっちの台詞だよ!
「ナップ………!」
 俺はナップをぎゅっと抱きしめて、何度も何度も好きだよと囁いた。ナップもうんうんとうなずいてくれた。
 ……エルゴの王よ。
 ありがとうございます………!
 俺は心の中でそう感謝の祈りを捧げたのだった。

「……だからさ、なんで先生オレのこと好きだって言ってくれなかったんだよ」
「いや、それはね……」
 とか話しながらも俺の顔は笑えて笑えてしょうがなかった。きっと俺は今最高にみっともない顔になってる。
 ナップと。ナップと両思い〜v そりゃ恋人同士v になるにはまだ時間がかかるかもしれないけど、両思いの喜びの前にはそんなの些細な問題にしか感じられない〜v
 あああすごい……ナップと、ずーっと片思い続けてきた子と両思いになれたなんて……あーもう俺は今死にそうなくらい幸せ……。
 は! もしかしたら、ナップ両思いになったっていうことで『やっぱり先生のそばにいる!』って軍学校進学を取りやめてくれるかも……!? そうしたらナップと、ナップとこれからもずーっと一緒に……うわあ考えただけで鼻血出そう……。
 ナップの将来のこととか考えなくてもいいのかって? いや、そりゃ考えるけどさ。でも、ナップがどうしても俺のそばにいたいって言うなら、その気持ちを優先させるべきかなって……それにやっぱりナップへの思いが報われるってわかってなかった状態での発言と今ではやっぱり心情的にズレが……うあー俺色惚けてるぅ……。
「でも、ナップ。なんで俺がその……キスした翌朝、平然とした顔してたんだい? 俺はものすごくうろたえてたのに」
「だって……怖かったんだもん。もし先生にからかわれたんだったらどうしようって、確かめるの怖くてしょうがなかった。オレは先生が好きだったから、嬉しかったけど、先生が冗談でやったんだとしたらってそれ思ったら……。……オレも臆病だったんだな」
「臆病師弟だね」
 俺がくすっとそう笑うと、ナップは立ち止まって、何事か考える風を見せた。
「……ナップ?」
「……先生。オレ、今ちゃんと決めた。軍学校行く!」
「え!?!?」
 ちゃんと決めたって、ナップ―――っ!? まだちゃんと決めてなかったのかいっていうかなんで今!?
 硬直する俺の前で、ナップは瞳をキラキラ輝かせつつ理由を語った。
「オレ、本当はずっと先生のそばにいたかった。先生に広い世界を見ろって言われて、一応は納得したけど、でもまだちゃんとわかってはいなかった。でも、今わかったんだ。先生のそばにいるだけじゃ、先生に欠けたものを学ぶことってできないって」
「…………」
「臆病っていうのは、慎重っていえるかもしれないけど。慎重に考えるのも大切なことだけど――慎重に考えてるだけじゃ動けなくなることってけっこうあるよな。それと同じこと、いっぱいあると思うんだ。先生のいいところが、逆に悪いところになっちゃうこと」
「…………」
「オレ、先生が好きだよ」
 ナップは顔を赤らめながらも、きっぱりと言った。いっそ誇らしげなほど堂々と。
「だから、先生を守りたいって思うんだ。先生の体も心もちゃんと守れる、そういう人間になりたいんだよ。――オレ、これまでずっと先生に守られっぱなしだったから」
 真摯な瞳。一途な表情。俺はそれを眩しいと思った。ナップが、真剣に考えて、真剣に想って決めたことだから。
「先生のそばにいたいよ。本当はずっとそばにいたいよ。でも、今のオレじゃ先生に足りないもの補えないって、先生の言ってたことが正しいって本当にわかったから――だから、オレ軍学校にいく。軍学校で、いろんな経験積んで、先生の持ってないものたくさん身につけて――先生のそばに、帰ってくるよ」
「………ナップ」
 俺はすっと、右手の小指を差し出した。内心ちょっぴり(ちょっぴりだぞ、ちょっぴり!)あんなこと言うんじゃなかったー! と思っていることなどおくびにも出さず。
 ナップは一瞬きょとんとしたが、すぐににこっと笑って小指を差し出し絡める。
「約束だよ、先生。オレ、もっと強くなって帰ってくるから」
「ああ、約束だ。俺も、それまでにもう少し強くなっておくよ」
「えへへ」
 そう言ってナップは笑った――
 あああああああ! ナップ君は残酷だ……俺の内心の夢を秒で否定してくれるんだもんなあぁぁ……自業自得っていやそうなんだけどさ……。
 でも、ナップ……君は帰ってくると言ってくれた。だから、寂しいけど、泣きたくなるくらい寂しくて寂しくてたまらないけど、君がそれを望むなら俺は君を見送れるよ。君の心も体も未来も、大切にしたいというのは本当だから。
 ナップの想いに応えたい。俺も強くなるよ――ナップに見捨てられないように。
 俺は、心の中のその想いをありったけこめて、ナップと指切りをした――。

 本日の授業結果――幸せ?

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