(夕歩、どうしたんだろ……) この頃は日が落ちるのも遅くなったが、とうとう西の空が赤くなりはじめた。 もう病院は終わっている時間じゃないのか。 それとも、大きな病院は夜遅くまでやっているのか。 学校帰りに直接ここに来てしまったので、今頃家では自分の帰りが遅いことを心配しているかもしれない。だけど今にもこの道の先に夕歩の姿が見えるかもしれないと思うと、順は帰る気にはなれなかった。第一、自分のことよりも夕歩のことが大切だ。 「順」 道端をうろうろするのにも疲れ、暗くなりはじめた玄関先に座り込んでいると、誰かに声をかけられた。 聞き覚えのある声……。 「父さん……」 うつむいていた顔を上げると、そこには父が静かな表情で立っていた。夕焼けの赤い光が逆光になる中で、大きな手がのばされる。 「順、帰るぞ」 「でも、夕歩がまだ……」 どこか不安げな顔で見上げる順に、父は一呼吸おいて話し始めた。 「夕歩はな――」 その日、夕歩は帰ってこないことを知らされた。病院から順の家に電話がきたのだ。順はそのことを聞くと、父に連れられて大人しく家路についた。 「夕歩の検査はもう少し長引くそうだ」 帰る道すがら夕歩は病院に泊まることになったと聞かされて、順は内心動揺した。夕歩の病気は、ただの風邪ではなかったのだ。 夕歩のことが心配だったが、父からは夕歩は検査のために一時入院するのだと説明された。 (検査が終われば、帰ってくるよね) 二、三日もすれば、検査も全部済んで帰ってくるだろう。落ち着かない気持ちを抑えて自分にそう言い聞かせたが、順の期待とは裏腹に、夕歩はそのまま入院することになってしまった。 |
前へ 次へ はやてSS目次へ戻る 現白屋トップへ戻る |