夕歩の入院はかなり長引きそうだった。 検査や入院の手続きなどで二、三日はごたごたしたが、それも一段落してくると順はすぐに見舞いに行った。 「あたしもここに泊まろっかなー」 「何言ってんの。ダメに決まってるじゃん」 今までずっと、夕歩が側にいる生活を送ってきた。一緒に登下校したり、道場で手合わせをしたり、互いの家に泊まりに行ったり。 夕歩の入院という形でその生活が乱されると、とたんに順の調子は狂いはじめた。 「もー、なんで学校とかあるのかなー」 せめて毎日見舞いに来て、夕歩と一緒にいる時間を少しでも増やしたい。そう考えた順だったが、平日は午後まで学校がある。学校が終わった後は道場にも通わなければいけない。 毎日は見舞いに来れないことにじりじりとした思いを抱きつつ、それでも順は、できる限り夕歩の顔を見に来ようと心に決めたのだった。 * 「順、また来たの?」 「うん、また来ちゃった。明日も来るよ」 待ちかねた夏休みを迎えると、順は毎日毎日夕歩の元へ通い続けた。病院の看護婦さんとも、もうすっかり顔なじみだ。 「暑いんだから、毎日来てるとバテちゃうよ」 「バテたらここで診てもらえるじゃん」 「…………」 夕歩は次第に呆れた様子を見せはじめたが、順はまったく気にしなかった。 * 夏が終わる頃には、通っていた道場はやめていた。 やはり父の稽古の方が自分には合っていたし、それに道場に通う暇があるのなら、夕歩の見舞いに行って少しでも長く一緒にいたかった。 だけど「稽古よりも夕歩の見舞いが大事」などと言ったら、きっと夕歩は怒るだろう。 最近では夕歩の身体を心配して何かと世話をしようとする順に、夕歩は憮然とした表情をするようにもなっている。特に「姫」だの「お庭番」などという言葉で自分達の関係を喩えると、あからさまに不機嫌になる。 だから道場をやめてしまったことは、しばらく内緒だ。 そうして家と病院とを往復する日々が始まって、一年ほどが過ぎていった。 |
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