アイノカタチ
白楽天:作

■ 2章「調教開始」7

蝶は舞う。その優美さが捕食者を引き付けるとも知らずに。


それから章介の家に着くまでは、実際に掛かった時間よりも佳奈には長く感じられた。
心臓はまるで走ったあとのように強く、早く鼓動を響かせ、内側から己の仕事ぶりを佳奈の耳に伝え続けている。

章介の、‐独身男性にしてはやや広い、殺伐としていて無機質な‐部屋に通され、ゆっくりと室内を見渡す。
(男の人の部屋って散らかってるってよく聞くけど…)
「落ち着かないかい?」
「えっと……その…………」
口角を軽く上げて微笑む章介を見ると少し救われる気がする。
(身体を売るわけじゃない……)
(章介さんのこと……たぶん……好きだから……だから…………)
オドオドと所在なさげに瞳を彷徨わせる佳奈に、章介はゆっくりと近づき、そして手を緩やかに這わせながら抱き締めた。
「あまり固くならないでいいんだよ。佳奈はそのまま委ねてくれればいい。」
耳元で諭すように呟かれた言葉に、佳奈はぎこちないながらも力を抜いて章介に身体を預けていった。
「まずは……シャワー浴びようか。」
そう言いながら章介は佳奈の腰を抱き抱えるようにエスコートし、洗面所に案内する。
「バスタオルはここに入ってる。ドライヤーはここ。着替えはないんだけど……洗濯したければ洗濯機の中いれといて。」
てきぱきと棚を開けながら説明する章介に、佳奈はただひたすらその一挙一動を眼で追いながら小さく頷いた。
そして一通り説明を終えると、章介は満足気な様子で、お先にどうぞ、と言い残すと後ろ手に洗面所の扉を閉めて立ち去った。

「………………ふぅ…………」
胸の高鳴りを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐きだす。
洗面所の鏡に映る自分の姿を改めて見ると少しおかしくなった。
少し潤んだ両瞳。
茹で蛸のように耳まで赤く染めた顔。
そして…若干引きつったように笑う、ぎこちない表情。
緊張していますと顔中に書いてある。
だが、その緊張の中に興奮と期待が押し混ぜになったものが確実に存在していた。
両頬を手で包み込むようにマッサージして表情の緊張を解し、そして摘んで横にひっぱってみる。
「いたっ」
(ひっぱりすぎた……)
痛みから少し涙がこぼれる。
たが、痛みを代償として表情のこわばりは少しはマシになったようで、表情も普段のそれに近い柔らかみが出てきた。

頬をさすりつつようやく気持ちを落ち着かせたところで、ワンピースの胸のボタンに手を伸ばし、上から順に1つずつ外していく。
ボタンを外すにつれ、袂からしっとりとしたレモン色のブラが顔を覗かせ、そしてそれに包まれたなでらかな谷間が晒される。
腕を胴に寄せるようにして裾から抜き取り、両腕とも抜き取ったところでワンピースを押さえていた手を離すと、はらりと軽い音とともにワンピースが床に落ちた。
佳奈は足元のワンピースを拾い上げ、きれいに畳んで洗面台の横に置き、鏡に映る自分の身体を見る。
ほんのりと赤みがさし熱を持った白い身体と、大切な一部を外敵から隠すレモン色の下着。
年相応の瑞々しさに、普段はない、華やかさや艶やかさが浮かび、“女”らしさを出していた。
(章介さんとこれからHするんだ……)
(リツコさんみたいに大人っぽくない身体けど……)
(ちゃんと愛してもらいたい…………私も……章介さんにできるだけ応えたい……)

佳奈は再び小さく深呼吸すると背中に手を回し、ブラのホックを外す。
肩からストラップを抜きとると、双乳がこぼれ落ちるように顔を出し、うっすらと桃色に色付いた小さな蕾が解放されて前を向いた。
ブラをワンピースの上に置き、残ったショーツに手を伸ばす。
(あ…………)
(湿ってる…………)
鏡に映る佳奈のそこはほんのりと水気を帯び、小さな染みができていた。
その他の部分よりやや濃い黄色をした場所はごく小さなものであるものの、佳奈が“女”であることを示すには十分であった。
意を決しショーツをゆっくりと下げながら、頭のなかにリツコの言葉が浮かぶ。

「女の身体は男の人を受け入れるようになってるの。逆に濡れてないとすごい痛いのよ。」
「佳奈ちゃんは敏感なほうみたいだけど、不感症じゃなきゃみんな濡れるんだから。いやらしいとか自分を責めちゃダメ。ね?」

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊