アイノカタチ
白楽天:作

■ 2章「調教開始」8

(私の身体……章介さんを待ってるんだ…………)
不思議と昨日のような恥ずかしさはなかった。
むしろ、“女”として章介を迎える準備ができている身体が誇らしかった。
だんだん胸が膨らみ始め下腹部に翳りが見え始める第2次成長期のような、羞恥の裏に嬉しさだとか、こそばゆさのような何かがある。
(悩んでも始まらない……)
佳奈は意を決し、するっとショーツを一気に下げ、ブラと一緒に小さく纏めてワンピースの間に隠し、浴室に入った。

頭から全身に勢い良くシャワーを浴びる。
心の底にわずかに残る迷いも一緒に洗い流すように、己の決意をより強固なものにするために、ただただお湯を浴び続ける。
章介が気を利かせてくれたのだろう。
湯加減は熱すぎず温すぎずと、まさに適温だった。
そしてシャワーヘッドを片手に持ち、身体を撫でながら全身を軽く流す。
シャンプーを適度にとり、髪を優しく梳きながら洗い、身体もスポンジを何度も往復させて、いつも以上に丁寧に洗った。デリケートなところは指で時間を掛けて‐かといって刺激しすぎない程度に‐殊更に気を使った。
最後に全身にシャワーを浴びて浴室を出て、章介の言っていた棚からバスタオルを取り出し、全身の水分を拭ってから再び下着と服を着る。
ドライヤーを掛けて軽く髪を乾かし手櫛で整えてから洗面所を出た。

「章介さん……」
そろそろとリビングのほうに足を運ぶと、章介は麦茶を飲みながらソファーでテレビを見ていた。
グラスを傾けるたびに氷がカラカランと小気味よい音を立てる。
「ああ、佳奈。お湯はどうだった?」
「ちょうどよかったです。……先使わせてもらっちゃって……ありがとうございました。」
章介は佳奈の声に気付くとすぐに振り返り、こちらにおいでと手招きした。
佳奈もそれに招かれるようにソファーに向かい章介の横に軽く腰掛ける。
「そっか。じゃあ次は俺が入ってくるから、麦茶とか飲んでテレビ見て楽にしてて。」
隣に腰掛けた佳奈を見てうれしそうに微笑む章介は、グラスに残っていた麦茶を勢いよく流し込むと、用意しておいたもう1つのグラスに麦茶を注ぎ、すっくと立ち上がって洗面所へと向かった。

それから章介の家に着くまでは、実際に掛かった時間よりも佳奈には長く感じられた。
心臓はまるで走ったあとのように強く、早く鼓動を響かせ、内側から己の仕事ぶりを佳奈の耳に伝え続けている。

章介の、独身男性にしてはやや広い、殺伐としていて無機質な部屋に通され、ゆっくりと室内を見渡す。
(男の人の部屋って散らかってるってよく聞くけど…)
「落ち着かないかい?」
「えっと……その…………」
口角を軽く上げて微笑む章介を見ると少し救われる気がする。
(身体を売るわけじゃない……)
(章介さんのこと……たぶん……好きだから……だから…………)
オドオドと所在なさげに瞳を彷徨わせる佳奈に、章介はゆっくりと近づき、そして手を緩やかに這わせながら抱き締めた。
「あまり固くならないでいいんだよ。佳奈はそのまま委ねてくれればいい。」
耳元で諭すように呟かれた言葉に、佳奈はぎこちないながらも力を抜いて章介に身体を預けていった。
「まずは……シャワー浴びようか。」
そう言いながら章介は佳奈の腰を抱き抱えるようにエスコートし、洗面所に案内する。
「バスタオルはここに入ってる。ドライヤーはここ。着替えはないんだけど……洗濯したければ洗濯機の中いれといて。」
てきぱきと棚を開けながら説明する章介に、佳奈はただひたすらその一挙一動を眼で追いながら小さく頷いた。
そして一通り説明を終えると、章介は満足気な様子で、お先にどうぞ、と言い残すと後ろ手に洗面所の扉を閉めて立ち去った。

「………………ふぅ…………」
胸の高鳴りを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐きだす。
洗面所の鏡に映る自分の姿を改めて見ると少しおかしくなった。
少し潤んだ両瞳。
茹で蛸のように耳まで赤く染めた顔。
そして…若干引きつったように笑う、ぎこちない表情。
緊張していますと顔中に書いてある。
だが、その緊張の中に興奮と期待が押し混ぜになったものが確実に存在していた。
両頬を手で包み込むようにマッサージして表情の緊張を解し、そして摘んで横にひっぱってみる。
「いたっ」
(ひっぱりすぎた……)
痛みから少し涙がこぼれる。
たが、痛みを代償として表情のこわばりは少しはマシになったようで、表情も普段のそれに近い柔らかみが出てきた。

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