亜樹と亜美
木暮香瑠:作
■ 出会い系サイトの罠5
その日、亜樹は遊び歩くことも無く自分の部屋で『レイプ魔』と名乗る彼とメールをしていた。土曜日の夕方のことだった。お互いに名前こそ明かさないが、日々の出来事や勉強の話をメールでしていた。彼が友達と出かけるということで、メールのやり取りは一時休止ということになった。亜樹の心に、また暇な空間が出来ていた。なぜか虚無感を感じる。そして、身体の奥が疼いた。
(どうしたんだろ? 昼間から……)
身体を捩ると乳首がブラジャーに擦れ、疼きを感じる。
(いやっ、どうして? どうしてこんなに……)
スカートの中に手を忍ばすと、淫芽がしこり始めていた。
「ああっ、ううっ……」
指が触れた途端、背筋がピクンッと仰け反り声が漏れた。
亜樹は、理性を抑えきれずに指を亀裂に這わせていった。
「ああん、あん……、どうして……? どうなっちゃったの? わたしの身体……感じちゃう……。まだ、昼間だというのに……」
昼間からオナニーにふける自分が、とてもイヤらしく感じてしまう。しかし、動かす指を止められない。
「あん、だめ……。まだお昼よ、亜樹……」
亜樹は、甘美な刺激を求めパンツの中に指を忍ばせていった。
官能の渦から開放され、嫌悪感の中、亜樹はぼんやりとタバコを吹かしていた。どうして昼間から感じてしまったのだろう。そんな疑問を抱きながら、窓の外に煙を吐き出していた。
ふと、亜樹が窓の外を覗くと、前の道に見覚えのある二人を見つけた。夕闇の薄暗い中、俯く亜美と、亜美の肩に手を置く健吾だった。通りには、二人以外誰もいない。いつもとは違う緊迫感が、二人を包んでいる。緊張した二人は、二階からの亜樹の視線にも気付かないようだ。健吾が何か喋っているようだが、小声で呟いているのだろう。亜樹の所までは聞こえてこない。俯いていた亜美が、瞳を閉じたままゆっくりと顔を上げた。上を向いた唇に、健吾の唇が重なっていく。数秒のキスが、亜樹には何分にも感じられた。
二人の唇が離れ、亜美は再び俯いた。亜美の頬が赤く染まり、口元が嬉しそうに微笑む。遠目からでもその幸せそうな表情が見て取れた。何かに満ち足りた至福の表情に思えた。
「亜美……」
亜樹は、窓から顔を背け部屋の壁に目をやった。なぜだか判らないが、大粒の涙が頬を伝った。
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