亜樹と亜美
木暮香瑠:作

■ 出会い系サイトの罠7

 亜樹は、境内の脇の大きな木の陰にそっと隠れて亜美を待った。静寂と生い茂った木の葉の影が、亜樹をそっと包んでいる。後ろの黒々とした森と大きな茂った木の影が、亜樹の存在を包み隠した。遠くからは幹線道路を走る騒音が流れてきている筈だが、亜樹には聞こえなかった。緊張と柔らかく降り注ぐ月明かりに包まれて、そこだけが音の無い世界のように感じられた。ドクン、ドクン、ドクン……と、自分の心臓の音が時を刻んでいる。どのくらい待っているのだろう? 時間の流れが止まったかのように永く感じられる。

 しばらくすると、コツッ、コツッ、コツッと足音が境内に響いた。
(亜美だわ、この足音……。亜美に間違いないわ)
 十八年間も一緒に育ってきた亜美の足音だ。聞き間違う訳も無かった。

「あれっ? まだ亜樹ちゃん、来てないのかな?」
 亜美の声が聞こえる。亜樹は強く瞳を閉じ、木の陰で身動きもしないで身を堅くした。亜樹がまだ来ていないと思った見は亜美は、亜樹を待つことにしたようだ。狛犬の石垣に凭れ、ぽっかりと浮かんだ満月を眺めていた。真っ白な膝丈のワンピース姿の亜美が、月明かりに浮かび上がっている。サラサラの背中まである黒髪が夜風に靡くたび、薄明かりに天使の輪が揺れていた。

 しばらくして、もう一つの足音が聞こえてきた。男性の足音だ。
(来た! 間違いないわ)
 亜樹が待ち続けた足音だ。亜美が佇む境内に、その男の足音が近づいてくる。

 亜樹は、境内に目を向けた。暗闇になれた目には、そこだけがスポットライトを浴びているようにはっきりと見える。

「こんなところで何してんだい?」
 男の声が、静まり返った境内に響いた。舐めるように視線を、顔からワンピースをツンッと押し上げた胸、裾からスラリと伸びた脚へと這わした。
(写真より可愛いじゃないか……。スタイルだって良いし……)
 男は、亜美を見て驚いた。
(こんなにかわいい娘がレイプしてくれだなんて……。めちゃめちゃにしてくれだなんて……)
 驚きと共に、こんな幸運に恵まれたことを喜んだ。
(彼女が望んでるんだ。思いっきりレイプごっこを楽しもうか)

 亜美から三メートルほど離れて、男が話し掛けている。異様に目を輝かせている。
「こんな人気の無いところで、危ないじゃないかい? それとも、レイプされたくてこんな所にいるのか?」
「えっ? ち、違います。人を待ってるんです。あなたは何をしてるんですか?」
 突然、知らない男に声を掛けられ、驚いたように亜美は振り向いた。人の来ないようなところに現れた男に、疑問を抱いた。
「俺か? 俺はやりたくてここに来たんだ」
「えっ?! やっ、やりたくて……?」
 亜美の顔が強張り、一歩後ろに下がる。亜美は、女の本能で男に危険を感じた。
「やりたいんだろ? こんな所に一人でいるなんて……」
 男は、亜美が後ろに下がるたび、少しづつ距離を詰めてくる。
「ち、違うわ……。人を呼ぶわよ、変なことしたら……」
 亜美は眉をキッと結び、声を大きくした。
「呼んでみろよ。誰もきやしないさ、こんな人気の無いところに……」
 男は、ゆっくりと亜美に近づいていく。亜美はじりじりと後ろに下がった。

 亜美は、段差に躓き後ろに倒れ尻餅を付いた。それ以上後ろは、社に上る階段になっている。
「こ、来ないで……。近づかないで……」
 地面に両手を着き後ろ向きにじりじりと下がるが、階段のところまで来た亜美は、これ以上は下がれない。
「叫んでみろよ。誰も来ないぜ、こんなところ……」
 男は、地面に倒れ込んだ亜美に覆い被さっていった。

 男は亜美の太股の上に跨り、両手を抑え万歳の格好にした。男の尻の下で、亜美は両足をバタバタとさせ身体を捩るが男の力にはかなわない。男は、必死でもがく亜美を嘲笑うように微笑む。男は、亜美の態度に満足していた。約束どおり、本当に嫌がる演技をしてくれている。
(じゃあ、俺も思いっきりいくか)
 嫌がる亜美の態度を演技と信じた男は、嫌がる女を容赦なく嬲る気持ちを味わうことにした。

「犯されたいんだろ。めちゃくちゃにされたいんだろ。お望み通りにしてやるよ」
 そう言い放つと男は、亜美のワンピースの胸元を握り締め、思いっきり左右に開いた。
「キャアーー。いやあああぁぁぁ……」
 亜美の叫び声と共に、ワンピースのボタンが弾けとんだ。

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