『娼品』梓
matsu:作

■ 1

私は今、とあるオフィスの応接間にいる。この会社の説明と、ある契約を結ぶためだ。

「それでは宮本梓さん、私があなたの担当となる藤田と申します。さっそくですが、説明に入らせていただきますね」
「はい」
「私どもの会社は性的な仕事をする『娼品』を開発しております。あなたはその『娼品』となるべく、これから一ヶ月間、開発担当の人間によって開発されていただきます。そしてわが社の『娼品』として適格であると私どもが判断した場合にのみ、さらに一年間の契約を結んでわが社の『娼品』となっていただきます。と、これがわが社についての簡単な説明ですが、何か疑問点はありますか?」
「いいえ、ありません」

 こんないかがわしいところになんか、ふつうは絶対に来ない。それなのになぜ私がこんなところにいるのかと言うと、簡単に言ってしまえば身売りだ。私の親が起こした企業が倒産しかかっていた折に、この会社の人間が来てこう言ったのだ。「もしお嬢さんがわが社の『娼品』として開発されるのであれば、わが社からあなたの会社へ援助をして差し上げましょう。さらに『娼品』として働いていくならば、稼いだお金のうちの何割かをさらに援助に上乗せしましょう」と。当然親は反対したが、結局は私の説得に負けて認めてくれた。

「それでは、契約に入らせてもらいます。詳しいことは契約書に書いてありますが、簡単にご説明しますね。あなたがこの契約を結んだ場合、その瞬間からあなたは人間として扱われなくなります。つまりあなたが有するあらゆる人権を放棄して、完全に『生きている道具』となっていただきます。といっても、当然わが社の『娼品』となりうるものですから、身体的に欠損させるようなことはありませんので安心してください。」

私は説明を聞きながら契約書を読んでいた。そこに書いてある内容を簡単に説明するとこうだ。

・完全に「モノ」として扱われる
・一ヶ月間外部との連絡を取ることも、外出することも許されない
・もし健康に異常をきたした場合は療養のために開発は中断されるが、中断した日数分開発期間が延長される
・開発期間終了時に適格と見なされれば『娼品』として契約できるが、不適格である場合はそこで開発をやめて日常に戻るか、開発を継続するかを選択できる。継続した場合は親の会社への援助も継続されるが、やめた場合にはそれまでに援助した分と開発にかかった費用などを請求される

といったところだろうか。私は契約書を読み終えると、渡されたボールペンでサインして捺印した。するとさらにもう一枚書類を渡された。

「それは宣誓書です。これからビデオを撮りますので、その宣誓書の全文を読み上げてサインと捺印をしてください。それをもって正式に契約となります」

 私は毅然とした態度で、男が構えたカメラに向かって誓約書を読み上げた。

「宣誓書。私、宮本梓は自身が有するあらゆる権利を放棄し、貴社の『娼品』として一ヶ月間開発されることを宣誓し、この宣誓書にサインします」

 読み終えた私は、契約書のときと同じようにサインをした。そしてその宣誓書をカメラに向けて開示した。

「結構です。では、これからあなたは人間ではなくなります。しかし、まだ『娼品』でもありません。あなたは現在『娼品』未満ですので、余計な飾りはまだ不要です。ここで身につけているものを全て脱いでください」
「はい」

当然恥ずかしくないわけがないが、私は恥ずかしがるそぶりも見せずに、身につけているものを全て脱いだ。今まで誰にも見せたことのない裸身が白日の下にさらされた。

「少しは恥ずかしがるかと思いましたが、大変結構です。それではついてきてください。これからあなたの詳細なデータを計測します」

 そうして私は医務室に連れて行かれることになった。行く途中で何人か会社の人に会うことがあったが、私は自分の体を隠すことなく堂々と挨拶をした。会社の人は口々に「もう計測は終わったのか」と聞いてきたが、藤田さんがまだだと言うと少しがっかりした様子で去って行った。

医務室に入ると、すでに様々な道具が用意されていた。

「それでは私が計測しますので、藤田さん、記録をお願いします。まず身長と体重から……」

 そうして一時間後、私に関するあらゆるデータが計測された。

「では、データを確認しますね。身長161cm、体重50.2kg、トップ87cm、アンダー65cm、ウェスト54cm、ヒップ86cm。次に乳首直径0.6mm、勃起時1.2cm、乳輪直径2.3cm。
クリトリス直径0.8cm、勃起時1.8cm。膣の奥行8.3cm、膣口径4.3cm、膣圧平常値21mmHg、最高値43mmHg、よって膣圧22mmHg。肛門直径1.3cm、肛門の皺10〜12本、肛門内圧69.27mmHg。オナニー経験あり、男性経験は六回ほどでフェラチオの経験はあるが、アナルセックスやSMなどの経験はなし。主要な性感帯の感度はいたって普通。健康に関しては身体的にも精神的にも問題なし。こんなところですか。まあ、割と平均的ですね」
「……」

 私はさすがに恥ずかしくなって、顔を赤面させて俯いた。現時点での私の詳細なデータを知るためとはいえ、肛門の皺まで数えられるなんて……。

「さて、計測も終わりましたし、そろそろあなたが一か月を過ごす部屋に行きましょうか」
「……はい」

 私は気を取り直して藤田さんの後をついて行った。途中で一人の社員に会った。その社員は藤田さんに「もう計測は終わったのか」と聞き、藤田さんも終わったと答えた。この会話に何の意味があるのかと考えていると、突然その社員が私の胸を鷲掴みにしてきた。私は突然のことに驚いて短い悲鳴をあげ、咄嗟にその手を外そうと抵抗しようとしてしまったが

「何を抵抗しようとしているんですか?」

 という藤田さんの一言で、私は自分の立場を思い出し、抵抗しようとした手を素直に下ろした。

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