青い目覚め
横尾茂明:作

■ プロローグ2

由美は母が父と暮らしてた時より活き活きとし、その生活力旺盛な母を見て頼もしくも思ったのであるが…。

しかしいま由美が心を暗くするのは、父の居ないことも有るが、家に帰っても誰も居ないということだった。母は毎日帰宅が12時を越える。最近はお酒を少し呑んで帰ってくることもしばし有った。

先日も、由紀がうたた寝している時、母は静かに帰ってきて、由美の枕元に座り、長いこと由美を見ていた。

由紀は目を覚ましていたが寝た振りをした。
母が小さく声を出し
「由美ちゃんゴメンネ…」
薄目を開け母を見たら…母の目は涙で濡れていた。

この時、一番寂しい思いをしているのは母だと感じた。
母は大学時代に父と恋に落ち、若いと周囲に反対されたため同棲し、親には勘当扱いにされた。

父も同様で有ったが、祖父の死により一人息子であった父は、それまで勤めていた出版社を辞め、プレス工場の跡を取った。

母は生まれたばかりの由美を連れ、父の実家に来たとき…姑から酷い虐めを受けたと13の時に由美は聞いた。

姑が亡くなり母が明るさを取り戻した時期が、会社が傾き始めた時期でもあった。

今まで勤めの経験の無い母が、昼夜と働くのは大変な事と由美は母の薄倖を悲しく思った。

最近、母は料理旅館で客の酒の相手をさせられているらしい。
母の美貌は周囲を虜にする美しさで有り、母と街に買い物に行ったときは、すれ違う殆どの人が母を羨望の眼差しで見た。
その事を由紀は子供の頃から誇らしくも感じていた…。

39才の母が薄化粧をするとまだ20代後半と思えるほどの、若やいだ雰囲気が有った。

そんな母を割烹旅館が下働きをさせる筈もなく、格好な上客の相手として雇ったので有ろう。

母は2ヶ月前にパートを辞め、割烹旅館一つに絞り、昼の1時より勤めるようになった。
その日から母の帰宅はさらに遅くなり、1時…2時と…たまに帰らぬ日も有った。

由美は朝の1時間だけ母に会える生活が続いていた。
今日も出かけに母は、遅くなるからゴメンネと由美に言った。

由美は電車を待ちながら、あの冷たいアパートに一人帰るのか…
と暗い気持でホームのベンチに腰を下ろした。

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