ボヘミアの深い森
横尾茂明:作
■ ロマンチック街道4
見るたびに美しさが変化する少女…龍太はその美に神秘的なものを感じた。
「ゴメンネ待たせちゃって」
「お兄ちゃんたら…あんなもの見るなんて」
少し怒ったような顔で龍太を見る。
(怒った顔も可愛いい…)
「せっかく立ち寄ったんだからもう少し街を見て歩こうか」
「うん…」
「私たち…いつもここは素通りするの、だから一度は寄ってみたいと前から思ってたの」
二人は中世のロマンチックな建物郡を見ながら、たわいもない会話を囁きゆっくりと歩く、握り合う手は次第に汗ばみ互いの鼓動が甘く伝わってきた。
城壁内の旧市街に再現された中世の街並みを歩き…ブルグ公園の塔に立ち寄り、歩く人にカメラを渡して写真を数枚撮って貰った。
そして城壁の西に突き出た公園に行き、ブラジュウス礼拝堂からタウバー川を望んだ。
眺望の素晴らしさに暫し二人は酔いしれ、時折顔を見合わせては共感の想いを微笑みあった。
この時…龍太の心に奇妙な感覚が芽吹く
(この少女とは以前に出会ったような…?)
(この感覚って…)
西日を背にし、公園を振り返りながら龍太はまた少女の横顔を見つめた。
少女は視線を感じたのか…可愛くはにかむ。
刹那、少女の目の奥に自分と同様の感覚を少女もこの時感じたんだと…何故か思った。
「それで君たちはこれから何処にいくの?」
「お婆ちゃんはここで降りてね」
「バスでアルトミュール川沿いのアンスバハっていう小さな町に行くの」
「そこで1ヶ月ほど行商するのよ」
「私はミュンヘンからビンペルクの家に帰るの」
「ビンペルク…聞いたことがないけど何処にあるの?」
「チェヒの森」
「チェヒ…?って」
「ええーと…ドイツ語だったらベーメンかな」
「ベーメンって言ったら…ボヘミア?、エエーそんなに遠くまで一人で帰れるの?」
「お兄ちゃんたら…ウフフ、私もう17ですよ」
「ええー17才だったの、俺はてっきり13〜4と思ってたよー」
「…私ってそんなに子供ぽく見えるのかなー?」
「でもヒッチハイクでチェコまで行くなんて…どう考えても危ないんじゃないの?」
「もう慣れてるもん」
「しかし…」龍太は心配になる。
こんな美少女がヒッチハイク…それも一人で。
(まるで小羊が食べて下さいと、言ってるようなものじゃないか)
「お婆ちゃんが目を覚ます頃、お兄ちゃんもう車に戻らないと…」
少女は龍太の手を取って快活に歩き出した。
龍太は手を引っ張られて歩き出すが少女の一人旅を思うと、何故か暗い気分に沈んでいった。
ローテンブルクの町はずれのバス停で婆さんを降ろす。
婆さんは少女のことを頼みますといつまでも手を振っていた。
龍太と少女は一路ミュンヘンを目指した。
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