ボヘミアの深い森
横尾茂明:作

■ ミュンヘン5

ボーイに車を出して貰いミュンヘンの観光に出発する。
少女ははしゃぎ、早口に方向を指示するがチェコ訛りが酷く龍太には聞き取れない。

「もう少しゆっくりと説明してよ、それと…ちゃんとしたドイツ語で喋って」

「ごめんなさい…つい嬉しくって」
「こんな素敵なお洋服着るの初めてだもん…ありがとう」
「ねっ、ボーイさんの顔みた?、私の姿…ポカーンと口を開けて見てたでしょ!」
「私って…そんなに素敵に見えるの?」

「うん、すごく綺麗! 着る物替えただけでこんなに見違えるなんて…女性は怖いな」

「でも…いつ買ったの?」

「さーねー…」
少女が服を着替え、部屋から出てきたときは龍太も正直驚いた…これほど美しく変貌するとは思わなかったのだ、少女はどう見ても二十歳前後の美しい女性に見えた。

ハイウエストマークのシンプルワンピース、そのエアリーな質感と甘い色使い…
そしてフェミニンな素材のレイヤードが少女のスィートを最上級に演出していた。


少女が最初に案内したのが…てっぺんがネギ坊主のようになっている15世紀ゴシック様式のフラウエン教会であった。

二人は散策しながらゆっくりと教会を一周する、そしてそこから遠くないマリーエン教会の仕掛け時計を見に行った。

龍太は時計を見た…12時を過ぎている、時間の経つその早さに驚く。

少女は街の歴史、教会での不思議な出来事などを面白おかしく説明し、時間の経つのを龍太に忘れさせた。

(この子って…本当はすごく頭のいい子なんだろうな)…と龍太は感心する。

「お腹空かない?」と少女に聞いてみた。

「お兄ちゃんたら…いつもお腹空いてるんだね」とくすくす可愛く笑う。
「この角を曲がると…有名なビヤホールでホーフブロイハウスが有るけど…行く?」と…龍太をのぞきこむ。

「うん! イクイク」

二人はハウスのビヤホールに向かう、相変わらず通り過ぎる男達は二人に羨望の眼差しを向けてくる。

そこは昼間なのに、赤ら顔の地元の老人達がパンを囓りながら、巨大なジョッキを傾けて談笑していた。

「お兄ちゃん、車だからあまり呑んじゃダメよ!」と少女が小声で諭す。
「うん…でもちょっとぐらいならいいじゃない…ねっ、君も呑むんだよ」

ウエーターに、ピルツナーを小さいジョッキで二つと言い、少女がホールの中央に盛り上げられたパンを取りに行ったのを見計らい、シュヴァインスハクセのザウアークラウト添え、ヴァイスヴルストそれにレーバーケースなどのバイエルンの名物料理を注文した。

少女は塩パンを持ってきた。
「ビールの通人は塩パン囓って呑むものよ!」とエラソウに言う。

「俺…そのパン…嫌いなんだ」
「こんなに美味しいのに…」少女は目を丸くして驚く。

「君に一度日本のパンを食べさせたい、それを食べて今の言葉がまだ言えたら俺の舌は腐っているかも」

「日本のパンって…そんなに美味しいの?」
「そりゃーもう…あと数日でそれが食べられるんだ、今から楽しみ」

それを聞いた少女は少し曇った表情をする、しかしウエーターが次々にテーブルに並べる料理を見…
「お兄ちゃん!、またー…バカみたいに注文して…誰が食べるのよ!」

「いいじゃないか食べれなかったら残せば」
少女は龍太の金銭感覚の無さに呆れ…苦笑いを浮かべた。

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