ボヘミアの深い森
横尾茂明:作
■ ボヘミアン12
少女はここまで語り龍太の胸で号泣し始めた。
「もういい…もうわかったから…これ以上話さないで」
龍太は少女を強く抱きしめ頭から背にかけて優しく撫でる、まるで泣きじゃくる子供をあやすような仕草だった。
少女は嗚咽を懸命に抑えようと握った拳で口を押さえ体を震わせる。
そして時間と共にその震えは少しずつ弛緩していった。
ミハエルブックのS字カーブに入ったとき、その向こうにハイウエーの立体交差が見えた。
それを越えればダニューブ橋が有りデッケンドルフの街に入いっていくはず。
少女は涙を拭いて、鞄を足元から引き上げ自分と男の間に置いた。
トラックは速度を落とさず立体交差を直進し、ダニューブ橋を渡り始めた。
前方にデッケンドルフの街が大きく広がりを見せ始める。
少女は腰を浮かせソワソワし始めた、もうすぐ叔母さんの家が右手に見えるはず…。
その時トラックは急に左に曲がり始めた、少女はあぁと声を洩らし男を見つめる。
「オジサン…ここで停めて下さい」
男は知らんぷりに前を見つめたままである。
「オジサンたら、ここで停めてよ!」
「やかましい!、オメーは降ろしゃしねーよ」
「今日から俺のもんだ、もうあきらめな」
「イヤです…あぁぁイヤです…降ろして、降ろしてったら!」
少女は泣きながら男につかみかかりハンドルを握る手を掴んで揺すった。
「このー!危ねーったら、離さねーかバカヤロー」
言うと男は少女の頭を思い切り反対のドアに突き押した。
少女ははじき飛ばされるように鈍い音をさせてドアに叩きつけられ…床に落ちた…。
意識が朦朧とし…やがて深い闇にのまれていった。
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