ボヘミアの深い森
横尾茂明:作

■ 国境4

そう、トラックはプルゼニの街を走っているのだった。

「オジサン…ねっ、プルゼニでしょ」

「そーだ、プルゼニだよ…荷は降ろしたから寮に向かってんだよ!」

「オジサン、このことは誰にも言わないから…ねっ、降ろして! …ねっ、降ろしてよー」
少女は体を曲げ、顔でカーテンを押しながら男に訴えた。

「………………」

男は何も応えない…少女の胸奥に渦巻くような不安が澱む。

角を幾重にも曲がり、煉瓦塀すれすれにトラックは疾走する、やがて大きな菩提樹の幹の横で車はやっと停まった。

「おい! 着いたぜ、さー降りるんだ」

男はカーテンを引きニヤリと笑いながら少女の顔をのぞき込んだ。

ロープを解かれ、男に襟首を掴まれて車から引きずり降ろされる。

街路灯もないプルゼニ市外の寂しい小径を引きずるように歩かされ、さびれたアパートの様な長屋風の前に立った。

「さー寮に着いたぜ、今月は俺しかいねーから気兼ね無しに使えるんだ、ほら…中に入んな!」

古ぼけた扉の鍵を開け軋む音をたてて扉が開けられた。
入った正面は廊下になっていた、そして左側に扉が四つ並び薄暗い照明がまるで煉獄のような雰囲気を演出していた。

男は二つめの扉を開け、少女の背中を押した。

中はベット1つとカーテンに仕切られたお皿のような浅いバスと便器、それと小さなガス台の横にテーブルと椅子2脚が有るだけの殺風景な部屋だった。

「さー座れ、お前も腹が減ってるだろう」

男は言うと腋に抱えた袋から大きなサンドイッチを取り出し少女の手に握らせた。

「さー食いな!」

男も座りながらサンドイッチをほおばった、そして袋の中からビールの瓶を取り出すと王冠を歯で外しラッパ飲みに喉を鳴らしはじめた。

少女は暫し部屋を眺め回し…気付いたようにサンドイッチの端を小さく囓る。

震えは収まっていた、もう殺されずに済みそうと感じたからか…。

男はビール2本を立て続けに飲み、汚いゲップをすると少女を舐め回すように見始める。

「お前…もう俺のもんだ、いいか逃げるんじゃねーぞ」
「ここで当分暮らすから…そのつもりでいろや」

「クククッ、これから2日間たっぷりとその体に俺のペニスを馴染ませてやるからな」
「いいか! おれのペニスをじっくりくわえ込んで俺の女になるんだ、そーすりゃ街にもつれててやるし…こんな汚い寮じゃなくプラハの小綺麗な部屋に住まわせてやってもいいんだ」

「それともお前…まさか田舎に帰ってまた娼婦まがいの情けねー行商に行くのかよ?」
「俺はなー…女房はいねーんだぜ」
「おかげでなー金はそうとう貯まってるんだ…お前が俺のもんになってくれたら贅沢な暮らしがさせてやれるんだがなー…なっ、その辺りちょっと考えりゃガキでも分かるだろう」

「なっ、歳はだいぶ違うが…俺のもんになれや…なっ」

男は急に優しい口調で少女の肩に手を置き、項垂れる少女の顔をのぞき込む。

「どうよ…」

少女はためらいがちにコックっと頷いた。

「そーか、聞き分けのいい子だ、そーと決まれば車からお前の荷物をおろさにゃーな、ちょっと待ってろや」

男は言うと嬉しそうに部屋を出て行った。

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