ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 狙われる志穂5

 裸に服を被せられた志穂がソファーで横たわる脇で、宗佑は身動ぎ一つ出来ずに座っていた。志穂が処女だったことを知り、そして冷静さを取り戻した宗佑は、その処女を自分が奪ったことに罪悪感が募っていた。先日、会ったときにどうしてあんなに顔を真っ赤にして照れてたんだ。絶対やってると思うじゃないか……。10年以上の仲じゃなかったのか? お前たち……。それとも、そこまで進んだ仲じゃなかったのか? …………。



 どれほど時間が過ぎただろう。

「ううんん……、!?」
 志穂が身体を捩り、寝起きの声を上げる。
「えっ!? いやああっ……」
 目を覚まし正気に戻った志穂が、自分が裸であることに気付き悲鳴を上げた。そして部屋の中を見渡す。マイクスタンドが倒れ、食器や食べかけの食べ物などが散らかった只ならぬ様子に目を丸くする。意識がなくなる前との様子の違いに訳が判らなくなった。
「どうして? どうなったの、ボク……?」
 自分が裸であることも、宗佑が居ることも、部屋が荒れていることも驚きだった。
「眠らされてたんだ、あいつ等に……」
 志穂の疑問に、自分のした過ちは隠し戸惑いながら宗佑は答えた。
「他の娘たちは……?」
 志穂は一緒にいた友人達が居ないことを心配する。
「俺が来た時には志穂と男達しか居なかった、眠らされたお前しか……」
 宗佑の返事を聞いて、自分がどうして裸なのか不安を恐怖が湧き上がる。

 股間に感じる違和感と残る痛み、そして茂みからお腹にかけてへばり付く乾きかけの白濁液……。
「こ、これ……、何……?」
 恐る恐るゆっくり指を割れ目に這わしてみる。志穂は、イヤイヤッとショートヘアの髪を揺らし青ざめた顔を横に振る。指先にも秘孔から漏れた鮮血混じりの白濁液が張り付いていた。志穂は悲壮に顔を染め、今現在の自分の境遇を理解し悲鳴を上げた。
「いやああああ……」
 志穂は両手で顔を覆い、悲鳴を上げた。
「ううっ、うううっ、ボク……、犯られちゃったんだね、あいつ等に、ううっ……。は、初めては圭一とって決めていたのに、うううっ……」
 大きな瞳が涙に歪み、溢れ出た大粒の涙は頬を伝い志穂の太腿にから落ちる。声を詰まらせ志穂は咽び泣いた。その泣き顔に宗佑の胸がキュンッと締め付けられる。小学生の頃から、志穂をからかったり苛めたりしていた。そのたびにする志穂の困り顔、涙顔を思い出す。
(かわいい……。この顔が……好きなんだ、俺……)
 宗佑の胸の中でゾクゾク血が騒いだ。

 一頻り泣いた志穂が声を詰まらせ、脱がされていた服で胸を隠しながら宗佑に話しかけてきた。
「宗佑……、ボクを助けに来てくれたの? あいつ等とケンカしたの? ボクの為に。あいつ等を追い払ってくれたの?」
 マイクスタンドは倒れ、テーブルの上に有った筈の食器などが床に散らばっている。部屋の様子を見て志穂は、ここでケンカが行なわれたと察しが着く。
「すまない、俺がもっと早く来ていれば……」
 罪悪感に苛まれながらも宗佑は、自分が志穂の初めてを奪ったとは言えない。
「ううっ、ううう……。もう……、圭一に初めてをあげられないんだ、ううう……」
「気にするなよ。男って、そんなこと気にしてねえよ。初めてかどうかなんて……」
「ひうっ、うううっ、でも、でも……、好きでもない他の男としてるってことだよ? ボクが好きなのは圭一だけなのに……」
 涙を流し続ける志穂に慰めの言葉を掛けるが、志穂はそれでも泣き止まなかった。そして宗佑は志穂の言った、『好きなのは圭一だけなのに』という言葉に嫉妬さえ覚えた。
「誰にも言うな、犯されたこと……。言わなきゃばれないって。ヤツラはオレが何とかする。絶対喋らせない!」
 宗佑は、強い言葉で志穂を勇気付けた、俺だってお前が好きなんだ、お前にとって頼れる男でありたいという気持ちを込めて……。また、自分が志穂のバージンを奪ったことがばれないようにとの考えも加わっていた。
「う、うん……。絶対喋らない。絶対喋れないよ、こんなこと……。圭一に知られたらボク……、生きていけない」
「ふん! 女の子みたいなこと言うんだな。いつものナカダシ・ホじゃねえみたいだな。とにかく服着ろ。ヤツラが仲間連れて帰ってくるかもしれないから……」
「う、うん……」
 宗佑に背中を向け恥ずかしそうに服を纏っていく志穂、その華奢な後姿はどう見てもかよわい女の子の姿だった。



 月曜日の朝、宗佑は登校するなり校長室に呼び出された。

 校長室に向かう途中、佐々木達と会った。
「だるーー。朝から校長室か……。宗佑、お前も呼ばれてんだろ? まあっ、俺達が呼ばれる理由なんだけどな。へへへ……」
 無視する宗佑に佐々木は、土曜日のことなど無かったかのように、いつもどおりに話しかけてくる。しかし、『俺達が呼ばれる理由なんだけどな』という言葉で、土曜日の乱闘であることは察しがつく。
「お前、あの女、好きなんだろ。でも、あの女、彼氏いるんじゃね? お前の幼馴染だろ? あいつの彼氏……」
「この写真見たら、もう友人って訳にはいかないな」
 土曜日のケンカで前歯を失った棚田が、間が抜けた笑顔を見せポケットから一枚の写真を取り出し宗佑に差し出した。
「うっ!!」
 写真を見た宗佑は言葉を飲み込んだ。宗佑が志穂を犯してる場面が写し出されていた。
「どうしてかって? あの部屋、ビデオが廻ってたんだよね。本当、いい絵が撮れてたよ」
 佐々木が宗佑の驚きの顔に答える。そして続けて言う。
「いいか、センコーに何を言われても、俺たちに逆らうんじゃねえぞ。逆らったらこの写真、ばら撒いてもいいんだぜ。判るよな……」
 そう釘を刺した佐々木達は、宗佑を従えて校長室に入っていった。

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