ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 狙われる志穂6

 案の定、校長室での話は土曜日の乱闘事件のことだった。ただし、佐々木達が志穂をレイプしようとしたことは伏せられていて、ただ佐々木達と宗佑がケンカをしたということになっていた。
「後藤! 本当に佐々木達とケンカしたのか!」
 顧問の先生が宗佑に怒りと心配の篭った顔で問いただす。全国サッカー選手権の予選を控えている学校としては暴力事件はご法度である。心配してるのは宗佑のことではなく、選手権予選のことだ。
「本当だって。ほら、この歯、後藤君に殴られて折れました」
 棚田が宗佑が返事をする前に答える。
「本当か?」
「はい……」
 宗佑はケンカをしたことは認めたが、それ以上のことは言わない。
「ケンカしたんで、どんな処分も受けますよ」
 佐々木もケンカをしたことを認めるが、なぜケンカになったかは曖昧に濁し明確には答えなかった。

 校長もサッカー部顧問も宗佑を庇うことはなかった。それどころか、宗佑は先週金曜日付けで退部していたことにされてしまった。もし暴力事件が外に露見しても、退部後に起こしたことにする算段だ。そして、両方に一週間の停学処分が下された。
 宗佑に反論することは許されなかった。反論すれば、志穂はいたことが知られてしまう。それ以上に、志穂のバージンを奪ったのが宗佑だと知られることは耐え難いことだった。宗佑は、佐々木達が敷いたレールに沿って進む処分に従うしかなかった。



「どういうつもりだ? 俺をサッカー部を辞めさせるだけで済ませるとは思えんが……」
 校長室を後にした宗佑は、佐々木達を睨み付けた。佐々木を気絶させ棚田の前歯を殴って折った仕返しがサッカー部の退部だけで済むとは思えない。
「なに疑ってんの? 俺たち、お前とお友達になりたいだけだよ。だからお前のレイプ事件は秘密にしてやったんだよ。サッカー部辞めて、俺達と遊ぶ時間を作ってやろうと思っただけさ。仲良くしようや」
「そうそう」
 佐々木の返答に棚田達も軽い相槌を打つ。
「そして、中田志穂ちゃんともお友達になりたくてね。ほら、俺たちあの娘から警戒されるだろ? 濡れ衣で……」
「そうそう、あの娘の中では俺たちに犯されたってことになってんだろ? それって酷くねえ?」
 佐々木と棚田の言葉に他の二人も頭を縦に数回振って同意する。
「何回か抱かせて貰えればいいんだよ。それにすごい名器らしいじゃん。ビデオ見てたら、お前が言ってたカズノコ天井ってのを味わってみたくなってね」
 佐々木はそう言うとニヤッと微笑んだ。
「それにあのオッパイ、あんな大きなオッパイ隠してるとは思わなかったよね」
「パイズリもしなくちゃ。する前に邪魔が入っちゃったからな」
 佐々木の仲間たちも口々に卑猥な言葉を発する。
「ずっと好きだったんだって? 一途だね……」
 佐々木は、俯く宗佑の顔を覗きこむ。
(知られている……。全部ビデオに撮られていたなんて……)
 宗佑は、奥歯を噛み締めた。そして、ビデオが廻っていたことに気付かなかった自分の不注意に対する怒りに、どこにもぶつけられない怒りに握り拳に力を込めた。

「俺たちは沢山の女と寝たいタイプなんだよね。俺たちにもちょっと貸してくれるだけでいいんだ……。俺たち、別に女に困ってるわけじゃねえし」
「そうそう、飽きるまで暫く玩具として……。そうしたらお前に返すから……。後はお前次第で恋のライバルから奪うのも自由だぜ」
「ライバルって、幼馴染じゃん。リアル寝取りゲーじゃん」
 佐々木達のふざけた会話に宗佑は血が頭の上る。
「ふざけたこと言ってんじゃねえ!!」
 宗佑は低く押し殺した声を上げた。
「好きなんだろ? 志穂って女のこと……。あの娘と彼氏にばらしてもいいんだぜ、あの日のこと……。証拠のビデオもあるからさ。それはマズイだろ?」
「いいじゃん、しばらくの間でいいんだから……。お前の秘密も守れるんだし……、昏睡レイパーさん!」
「俺たちに傷付けられた心の隙間に忍び込み、癒してやったら惚れるかもよ、お前に……。女って、そういうのに弱いからね」
「あの娘と彼氏って言うヤツ? セックスするまでの仲じゃなかったんだろ? じゃあ、お前の方が進んだ仲じゃねえ? なにせバージンを頂いた仲じゃん、へへへ……」
 佐々木達は、宗佑の弱みに付け込んで畳み掛けてくる。
「そうそう、俺達が悪者になってやるからさ。どうせ俺たち、悪い噂で一杯だし……、今更一つや二つ悪い噂が増えてもなんともねえし、へへへ……」
 高校になってから違う学校に通うようになった宗佑には志穂と会う機会も減ってしまった。佐々木達の提案には、宗佑の心を揺さ振った。オレが志穂を慰めれば……、志穂の気持ちが俺に向く?
「ばれると誰が一番悲しむかな? 宗佑? 志穂って娘? それとも幼馴染のヤツ? 誰も得しないじゃん」
「最後はお前に返すからさあーー。ちょっとの間貸してくれるだけでお前のものになるかもしれないんだぜ。秘密は守れて、お前にもチャンスはあって……。悪い条件じゃないだろ?」
「初めての男は忘れられないっていうぜ。意識は無かったとしても、身体が覚えてるかもな。初めてのチ○ポの味を……」
 宗佑に佐々木達の提案を断ることは出来そうに無かった。志穂を昏睡レイプしたビデオが佐々木達の手の中にある。その秘密だけはどうしても守りたかった。
(俺は志穂と秘密を守ると約束したんだ……。それに……絶対ばれちゃいけない! 志穂がレイプされたことは……。それに、レイプしたのは俺なんだ、志穂は知らないんだから……。知られちゃいけないんだ。志穂の為にも……)
 宗佑は、佐々木達の提案を受け入れる理由を自分に言い聞かせ、放課後に会う約束をして別れた。

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