ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 罠に囚われた志穂7

「ううん……」
 沈黙の中、心配そうに見詰める男達の視線の先で志穂が吐息を吐いた。
「お、起きろ!!」
 佐々木が志穂の顔を、掌でパンパンと叩く。
「ううっ、ううん……!?」
 頬を叩かれ志穂が目を覚ました。
「おっ! 生きてる生きてる!! ふう……」
 男達は安堵の息を吐いた。
「!? ボ、ボク……」
 志穂は自分の置かれてる状況が判らず、開かれていたシャツの胸元を合わせ、戸惑いの表情で身体を捩った。
(どうしちゃったの? ボク……)
 身体が重い。何か激しい運動をした後のような気怠さが志穂を包む。

「すごい逝き様だったな、お前……」
 佐々木達にとっても初めての出来事であった。今までの女は、絶頂を迎えてもその後は、はあ、はあと大きな息を吐く程度だった。エクスタシーを迎えた上、痙攣を繰り返し気絶する女を見たのは……。
「イク? ……?」
 志穂は、疑問を問いかけるように佐々木達の顔を見上げた。
「失神するもんだから、死んだかと思って驚いたぜ。そんなに良かったか? セックス……」
「びっくりして萎えちゃったじぇねえか、俺たちのチ○ポ……」
「初めてみたいなもんだからな、志穂ちゃんには今日が……」
「感じすぎだぜ。頭がパニクっちゃたんだろな、気持ち良すぎて……」
 志穂が意識を取り戻したことに安心した男達は、急に口が饒舌に声は高くなる。それと裏腹に、股間で倒立してた分身は、いまだショックを隠しきれずだらりと垂れ下がったままだ。
(気持ち良くなっていた? ボクが? 感じてた? 逝った?)
 志穂にとっては初めてのことであり、また、失神した為、途中から記憶がなかった。男達の言ってることも今の自分の状況も判らない。
(逝く? 気持ちいい? あの時……、ふわふわと浮いたり落ちそうになったり……)
 朧に残る最後の記憶に、ある今まで感じたことの無い感覚があった。
(……、あれが逝くってこと?)
 志穂は虚ろな瞳を宙に泳がせた。
「初めてにしては刺激が強すぎたんじゃね、佐々木のチ○ポは……。俺ならもっとじっくり、気持ちよく逝かせてやれたのにな……」
「なんかする気しなくなちゃった、今日はもう……。ビックリしすぎて、もう勃ちそうにねえよ」
 男達は志穂の不安な気持ちなど知る由もなく、ただ自分達だけで会話が盛り上がっていた。



 その頃、カラオケボックスの受付の奥にある管理室で宗佑は、無言のままモニターを眺めていた。モニターを自分の方に向け、他の人には見えないようにして……。
 画面に映し出される志穂の戸惑う顔、困り顔に胸を締め付けられる。しかしそれは、志穂が可哀想と思うとか、心が痛むという感情とは違うものだった。
「おい、君も佐々木さんの仲間なんだろ? どうして一緒に部屋に行かなかったんだ? 今日も女とやってるんだろ?」
 アルバイトの問いかけにも答えない宗佑。しかし、股間ではズボンがテントを張っていた。そして、ハア、ハア、ハアと荒い息を吐いていた。



「今日はもう帰れ!」
「本当、心配させるからもう勃ちそうにもねえや」
 男達に言われ、のろのろと気怠い身体を起こす志穂。下着を拾おうとするが足元がおぼつかない。
「腰に来ちゃった? フラフラしてるね。このまま帰したら、どっかで倒れちゃうんじゃね」
「宗佑、呼んでやるから連れて帰って貰いな」
 佐々木はそう言うと、スマホを取り出し宗佑にメールをした。



 俯いたまま無言で宗佑の後を歩く志穂。
「シャツ、汗でビショビショだな。そのまま帰ったら怪しまれるだろ。俺んちで乾かしてけよ。水洗いして乾燥機にかければすぐ乾くから。それに足もふらふらしてるし……、俺んちで休んでいけよ」
 宗佑は、志穂を自分の家に連れて行った。

 宗佑から借りた、華奢な志穂には大きなTシャツを着た志穂。シャツを洗濯機に放り込み、乾燥が終わるまでの間、宗佑の部屋で時間を潰していた。
「親が帰ってくるもは夜遅くだから……」
 宗佑は気兼ねが要らないと伝えたいが、大きなTシャツ姿で床に体育座りする志穂を見ると、後の言葉が続かない。床の一点を見詰めている志穂、何かを考えているのか、声を掛けにくいオーラを醸し出していると同時に、儚く色香が漂っている。
 そんな志穂は、突然、口を開いた。カラオケボックスを出てから一言も喋っていなかった志穂が……。
「逝った……って言われた、あいつ等に……。ボク、変なのかな? 人と違うのかな? ボク、淫乱なの?」
 大きな瞳に、今にも零れ落ちそうなくらいに涙を浮かべ、ポツリポツリと喋り始めた。
「あれが逝くってことなの? 身体がふわふわして……、頭が真っ白になって……、訳、判んなくなって……」
「気持ちよかった……のか?」
「判んない……。始めてだもん、あんな感じ……。気持ちいいとか、悪いとか、判んないよ」
 戸惑いを帯びた弱々しく答える志穂の声が痛々しい。
「お前は感じやすいだけなんだ。他の人よりちょっと感じやすいだけなんだ」
 志穂を慰めようと言葉を掛ける宗佑。しかし志穂の涙顔を見ていると胸の鼓動が速くなる。
「人より泣き虫なヤツ、ドラマを見て感動してなくヤツ、ちょっとしたことで人より笑うヤツ、それと同じでお前は人より感じやすいだけなんだ。気にするな」
 宗佑は、自分の気持ちを抑えて慰めの言葉を続けた。
「……、でも、圭一以外で感じるなんて……、感じちゃいけないのに……」」
 瞳に溜めた涙が一気に零れ落ちた。それと同時に宗佑も押さえ込んでいた気持ちを抑えることが出来なくなった。
「志穂……。オレ、お前が好きなんだ」
 宗佑は後ろから志穂の背中に抱きついた。
「!?」
「お前が好きだ。お前が誰と寝ようと、誰に犯されようと俺はお前が好きだ」
 志保の柔らかい身体をギュッと抱き締める。手を押し返す柔らかくて張りのある二つの肉球が宗佑の欲情を駆り立てる。
「い、いつも意地悪ばかりしてたじゃない」
 志穂は困り顔で振り向く。
「お前の困った顔、泣きそうな顔を見てると……胸がキュンッとなって……。でも、からかうことしか出来なくて……、意地悪しか出来なくて……。でも、好きなんだ……」
 目を閉じた宗佑は、腕にさらに力を込め志穂の身体をギュッと抱き締めた。
「我慢できないんだ! 抱きたいんだ。好きなんだ!!」
 宗佑は力強く言葉を吐いた。

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