ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 週末の憂鬱1

 翌日の土曜日、志穂は佐々木達の呼び出しに家を出た。
「おい、志穂! どっか出かけるのか?」
「圭一……」
 後から声を掛けてきたのは、これからサッカー部の練習に出かける圭一だった。圭一に会わないよう、ちょっと遅めに出た志穂だったが、運悪く寝坊した圭一とばったり会ってしまった。
 志穂は圭一の顔をまともに見られない。昨日は、圭一以外の人に二度も絶頂を迎えてしまった。その自分が初めて圭一との初体験の時、恐がって最後まですることが出来なかった。なのに昨日は……。自分の秘密を守る為、しいてはそのことが圭一の夢を守ることになると必死で我慢していたが、身体は意とは裏腹に感じてしまった自分が情けなく圭一に対する罪悪感で胸が締め付けられる。
「どうしたんだ? 何か元気ないなあ」
 いつもと違う雰囲気に気付き、圭一は志穂の顔を覗きこむ。
「なんでもないよ。元気だよ、ほら!」
 志穂は作り笑顔で手を大きく振って元気なことを見せようとする。しかし作った笑顔は強張っている。圭一は怪訝な表情で志穂の顔を見詰める。志穂は圭一の視線に居た堪れなくなり、視線を外す為、腕時計に目を移す。
「それより、サッカーの練習なんじゃない? 時間いいの?」
「あっ、やべえ。遅れる! じゃあな」
 志穂の言葉に圭一も時計を確認すると、慌てて走り出した。
「練習、がんばってね。選手権、絶対行ってよ」
 遠ざかる圭一に後姿に向かって志穂は叫んだ。
(圭一が選手権に出るのが夢なら、それがボクの夢でもあるから……)
 遠ざかる圭一の後姿を見詰める志穂。
(圭一とのセックスでも逝くこと、出来るよね……。あの時……、恐がってゴメンね。そして今も……)
 圭一に嘘をつき、佐々木達の呼び出しに出掛ける自分情けなく惨めだった。



 志穂は棚田とファッションブランドが入ったショッピングモールに買い物に来ていた。昨日、冗談のように佐々木が言ったことが実行されていた。
 チャライ格好の棚田の後を、厚めの生地のTシャツにGパン姿の志穂が着いて行く。
「これなんか似合うんじゃね。ほら、胸の谷間が見せられて……」
 胸元のざっくり開いたワンピースを手に取り、棚田が志穂の意見を聞く。
「ボク、そんな服着ない!」
「じゃあ、お買い上げ。これは買いだな、へへへ……」
 棚田は、志穂が嫌がるものを中心に買っていく。初めから志穂の意見など聞く気はない。
「このスカートもいいな」
「スカートなんて……、絶対履かないからね、それにそんなミニ……」
「はい、じゃあこれも買い……」
 棚田は露出の多い服、シースルーの服ばかりを選んでいく。
「志穂ちゃんさ、かわいいしスタイルいいんだからさ、こういう服似合うぜ。巨乳でおっぱいの形もいいんだし。それ、お前の魅力じゃん? 積極的に利用しなきゃ。胸強調して、足見せて……」
「魅力なんかじゃないッ! 恥ずかしいだけ……」
 棚田の言葉に志穂は即座に否定する。志穂も気付いていた、胸が大きいのも、男好みのするスタイルも……。しかしそれが、男達の視線を集めることが恥ずかしいのだ。小学校の頃から目立ち、ちょっかいを出されたり意地悪された。だからあえて男っぽい格好をしている。女を感じさせないように……。
「そんなに買ったら……」
「大丈夫、全部佐々木から預かった金で払うから。ヤツの親父、成金でさ、息子にも甘いって来てるから、俺たち大助かりって訳。志穂ちゃんが心配することはないから……」
 棚田はそう言って、大量の服を買っていった。

 ファッションモールを後にした二人が向かったのは、大通りから外れたところに店を構えるブティックだった。裏路地にはキャバレーやパブ等の水商売の店が連なっている。その店で働く女性達向けの際どい男好みするドレスやランジェリーを扱ってる店だ。

 ディスプレイされてるドレスやランジェリーにドキドキする志穂。胸の鼓動が鳴り止まない。自分の今まで選んだ服とは真逆の衣装たち。それらを目にするだけで恥ずかしさが湧き上がってくる。
「うひょーーー、これはエロいねえーーー」
 棚田が手にしたブラジャーは、総メッシュ生地で出来た黒のブラジャーだ。肌を守る機能など無視した代物で、乳首はおろか乳輪まで透けて見えることは明らかな代物だ。
「これは買いだな、上下セットで……」
 同じ生地で出来たパンティは翳りともども縦裂も透かして見えるだろう。
「スケスケ生地にTバックだよ。どう? 志穂ちゃん……」
 棚田が、ヘラヘラと卑猥な笑い顔で志穂にパンティを広げてみせる。志穂は真っ赤に染めた顔を背けた。



「このマンションも佐々木の親父が持ってんだぜ。あのカラオケも佐々木の親父の経営……。俺もあんな金持ちの親父、欲しいな……」
 買い物を終え、帰ってきた志穂と棚田。目の前のマンションを指差し棚田が言う。二人の手には、大量の紙袋が下げられている。

「遅かったじゃねえか。どこかで犯って来たんじゃねえだろな」
 ドアを開け入ってきた棚田に佐々木は声を掛けた。
「犯りたかったけどね。コンドームがねえからヤダってさ。残念、へへへ……」
 佐々木と棚田は、笑いながら冗談を言い合う。

 ヘラヘラと笑いながら入ってきた棚田の影から志穂が部屋に入ってくる。
「へえーーー、見違えちゃうね、可愛いじゃん。素材が良いってこと?」
 マンションに来た志穂を診て、男達は歓喜の声を上げた。キャミソールにミニスカート姿、顔を真っ赤に染めた志穂がそこにいた。脚のほとんどを出している為、足の長さが際立っている。まるでモデルのようなスタイルに、男達は感嘆の眼差しを向けている。
「アイドル顔負けじゃね?」
「かわいいだけじゃなくスタイルも良くて巨乳だし……」
 男達は驚きを口々に声にした。

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