ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 週末の憂鬱3

 志穂は真昼の公園に連れ出された。駅近くの公園で、緑が多く池や噴水、芝生広場もある街のシンボル的な大きな公園だ。中央を公園を二分するように車の通る道路が通っており、大きな陸橋が二つを繋いでいる。
 週末の公園では、子供連れのパパ、ママ達、熟年夫婦達がお昼の一時を楽しんでいる。また、どこに行く当てもない寂しい男達がコーヒー片手に暇を潰していた。
「結構人がいるね……」
「そりゃあ、休日だからな……」
 会話をしている佐々木達に、周りの男性達の視線が集まる。佐々木達を見ているのではない。男性達の視線は、その真ん中にいる美少女、黒髪ロングのヘヤスタイルにキャミ、ミニスカートの志穂に向けられている。眉を整え、ロングヘヤのウィッグを被った志穂は、清純派アイドル並の美貌を纏っている。さらに身に着けてる服装が露出度の高いものであり、男性達の視線を集めないわけが無かった。キャミを押し上げる双乳、ミニスカートから伸びるすらりとした脚にあからさまに視線を向ける男性も多い。

 カメラを構えている楠木に気付き、数人の男性が近づいてくる。
「新人アイドルの撮影? プロモーションビデオでも撮るの?」
「へへへ、そんなもんだね。エロかわいいってコンセプトでね。邪魔しないでね」
 声を掛けてきた男性に、棚田は曖昧な答えを返した。
「エロかわいいかあ、いいねえーー」
 それを聞いた男達は、興味をも持って遠巻きに佐々木達を見守る。しかし視線の中心には志穂の人並み以上に盛り上がった胸元が、ミニスカートからすらりと伸びた脚が捕らえられている。

「ここ……、イヤッ。ど、どこか他の場所で……、人のいない所で……」
 集まる視線に気付いた志穂は、真っ赤にした顔を俯かせ小声で請う。しかし志穂の声は、誰にも届かない。聞く気が無いのだ。
(本当にこんなところで撮るの? こんなに人が居るのに……)
 不安な表情の志穂の横で佐々木達は撮影場所をどこにするか話し合っている。
「志穂ちゃん、あの歩道橋、上がってみようか」
 佐々木は、公園の中を通る道路に掛かった歩道橋を指差した。
「……」
(あんなところ渡ったら見えちゃう、スカートの中……)
 ただでさえ短いスカートを穿かされている。屈むだけでお尻が見えてしまうほどのミニスカートを……。おそらく階段を上がる時にも、後を着いて行くとスカートの中は丸見えだろう。そしてスカートの中には、後は紐だけのTバッグのはしたないパンティを身に着けさせられているのだ。それだけで恥ずかしさに脚が進まないのに、とても歩道橋に上る勇気が出ない。
「やめよっ、こんなこと……。恥ずかしくて、こんな格好……」
「なに恥ずかしがってんの。いまどきのJKなら普通だよ、このくらいの服装……。それにウィッグ被ってんだし、誰もお前が志穂ちゃんだと気付かないって」
「で、でも……」
 確かに、ボーイッシュないつもの志穂を知っている人が見たら、このロングヘヤの少女を見て志穂と気付く人はいないだろう。しかし露出の高い服装とロングヘアの美少女とくれば、男性達の視線を集めないわけがない。集まる視線が、いつも以上に志穂の羞恥心を擽る。

「俺たちの言うこと、聞いてよ。一ヶ月は俺達の恋人でしょ?」
 棚田は、身動きできない志保に語り掛けるように耳打ちする。まるで、我が儘を言うアイドルを窘めるように……。
「メールはいつでも送信できるようにしてんだぜ。知られたくないだろ? 彼氏さんには……」
「そうそう、昨日の逝った時の表情、あれ良かったよねーーー。あれ、見せちゃう?」
「ッ!? 見せないって言ったじゃない!!」
 志保の表情に一瞬にして曇る。そして怒りがわいてくる。自分達で楽しむだけだと言っていた。約束が違うと志穂は佐々木達を睨み付けた。志穂の抵抗さえ佐々木達は楽しんでいる。
「志穂ちゃん次第だよ。志穂ちゃんが約束を守れば、俺たちも守る。破れば俺たちだって……」
 スマホを弄りながらヘラヘラと笑っている。声が届かない遠目にいる男性達には、言うことを聞かないアイドルを男性スタッフがみんなで説得しているように見えているだろう。

「一ヶ月したら……本当に……、本当に一ヶ月だけなんだよね?」
 俯かせていた顔を上げ、確認するように佐々木たちの顔を伺う志保。
「ああ、俺たち、そこまで女に不自由してるわけじゃねえからな、一ヶ月したら、秘密も守るし、お前も自由だ」
「そうだよ。今諦めたら、昨日の決意も行為も無駄になっちゃうよ。志穂ちゃんの恥ずかしい写真ばら撒かれて……、彼氏も悲しむなあ」
 佐々木たちは笑顔で志穂を追い込んでいく。
「わ、判った……」
 志穂は、グッと唇を噛み陸橋の階段に第一歩を進めた。一歩階段を上るたび、軽い生地でできているミニスカートの裾はふわりと揺れる。
(一か月の我慢……。私は圭一の夢、守るんだから……)
 足の運びが重い。男性達の粘っこい視線が足元に、膝に絡みつく。そして太腿に……。
(ボ、ボク……、なんでこんなことしてんだろう……)
 覚悟を決めたつもりでも、不安と恥ずかしさが心を、決意を揺さぶる。
(圭一の夢を守る為……。宗佑の夢、破ったボクだから……、圭一の夢だけは守らなくちゃ……)
 志穂は、繰り返し決意を心の中で唱え歩を進めた。

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