ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 夏休みの恥辱1

 月曜日、いつもと変わらない通学風景。週末の悲惨な二日間の疲れが残る志穂だったが、圭一に悟られまいと気丈に明るく振舞っていた。
「圭一、明日から夏休みだね」
 黙っていたら心が折れそうになる。何か喋っていないと心の中を見られそうで志穂は、圭一に話を振る。
「ああ、でも今年は練習と遠征試合がみっちりだよ。今年こそ選手権出場にチャンスだからな」
「そ、そうだね……」
「すまないな。デートにも行けなくて……」
 圭一のすまなそうな顔に、誤るのは自分の方と志穂の心が痛む。
「そんなこと良いんだよ。ボクの夢は圭一が選手権に出ることだから……。選手権が終わったら今までの分、デートしてもらうから……」
「おいおい、まだ選手権出るとは決まってないぞ。まだ予選も始まってないんだから」
「でも、今年はチャンスなんでしょ? 絶対出れるよ。そのためだったらボク、会えなくても我慢できるよ」
 志穂は決意するように胸の前で両手を握りしめた。



「昨日、宗佑に会ってきた。割と元気にしてたよ」
「そ、そうなんだ」
 宗佑の名前が出てきたことに動揺するが、悟られないように志穂は顔を背けて答える。幸い、圭一も志穂と犬猿の仲の宗佑の話題とあってあらぬ方向を向いて話していた。一瞬曇らせた志穂の表情に気付くことはなかった。
「選手権には出れないけど、卒業したら社会人チームに内定してんだって。そこでプロを目指すって……」
 幼馴染の動向を、志穂もきっと心配してるだろうと話す。その時ふと気になった。
「志穂、何かいつもと感じが違うね」
 服装も笑顔もいつもと変わりはない。しかし圭一は、志穂にいつもと違う違和感を覚えた。志穂は佐々木達に、眉を普通の女の子かするように整えさせられていた。女性の化粧とか髪型とかに疎い圭一には、眉が整えられていることは気付かず違和感を覚えただけだった。
「そ、そう? ボク、何か変?」
 志穂は、ある心配が芽生える。セックスすると女は変わると女の子同士の会話で聞いたことがある。普段どおりにしていても、膣中出しされた身体や表情に変化があるのではと……。志穂は、そのことが圭一に変化を見抜かれたかと不安が募る。
「ボク、何も変わってないよ。ほら、いつもと一緒だよ」
 志穂はしっかり見てと言わんばかりに、圭一の方に向いて両手を広げた。そして、ボクはどんなことがあっても変わらないから、好きなのは圭一だけだからと心の中で呟いた。



 教室に入ると、クラスメートが志穂に声をかける。
「おはよう! 今日も元気だね、志穂」
 いつもの挨拶をかわすクラスメートだったが志穂の異変に気付く。
「あれっ!? 志穂、どうしたの? やっと女に目覚めた?」
 クラスメートの女の子が不思議そうに志穂の顔を覗き込む。
「!? 何が……?」
「だって、眉、整えたでしょ。目元が華やいだよ」
 女性の変化に目聡いクラスメート達が志穂の周りに集まってきて顔を覗き込む。
「本当だ。志穂、いいじゃん。かわいいよ」
「こりゃあ、敵わないな。ただでさえカワイイのに、志穂に女に目覚められたら私たち敵わないよ。志穂は隠れ巨乳だし……」
「何言ってんのよ。あんた、素のままでの志穂でも負けてるでしょ」
「まあね。へへへ……」
 女子たちはちょっとした変化を夏休み前のうきうきした気持ちと共に、格好の話題として楽しんでいる。
「でもどういう風の吹き回し? 急に女に目覚めて……」
「何でもないよ! ボク、女に目覚めてなんかないから!!」
 ムキになって志穂は反論した。そのしぐさを見てクラスメートは微笑ましく言う。
「ムキなる志穂、可愛い。図星だね」
「ムキなんかなってない! ボク、女に目覚めてなんかないんだから!!」
 志穂は掴み掛らんばかりに反論するが、周りの女子たちは微笑んで受けかわすばかりだ。

 女子たちの会話に圭一は改めて志穂の顔に眼をやった。確かに眉毛がすっきりと形よく整えられている。
(志穂が女に目覚めた? これが朝に感じた違和感?)
 圭一の心臓はなぜかドクドクと高鳴った。明日から高校生最後の夏休みに入る。志穂も何か期待するもがるのだろうか。
(すまん、志穂……。絶対選手権出るから……)
 圭一は、自分がサッカー中心で志穂の期待に応えられていないことにすまない思いが胸を刺す。



 終業式の終わった午後、志穂は大きな手提げ紙袋を手に家を出た。ロングヘア・露出の高い服で来るように言われている志穂。しかし、言われた通りでの服装で家を出ることは憚られた。いつもと同じGパンと下着の透けない生地の厚いTシャツ姿だ。どこか途中のトイレで着替えればと思い手提げ袋に入れて出かけることにした。露出度の高い服で知った人に会いたくない。知り合いの少ないところまで行って着替えればと思い隣町に向かって歩く。

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