ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 夏休みの恥辱2

「おい、志穂……」
「!?」
 突然声を掛けられ、驚き振り返った先には宗佑がいた。
「奴等のところに行くのか?」
 事情を知っている宗佑は、これから志穂が奴等のところに向かうのだとすぐに気付いた。そして紙袋の隙間から、中にあるロングヘアのウィッグが見えた。
「そのウィッグを着けて来るように言われてるのか?」
「う、うん……」
 志穂は目を逸らし、俯いて小さく頷いた。
「それだけじゃないだろ」
 紙袋の大きさからウィッグの下にもその他のものが詰まっていることは容易に想像がついた。
「はははっ、気付くよね。服ももっと女の子らしいもので来いって。男子って、どうしてこんな服装、女の子にさせたがるんだろね」
 志穂は宗佑に心配かけまいと明るく振舞うが、宗佑と目を合わせようとはしない。。
「そんなにHな服じゃないよ。たぶん、都会の女子高生なら普通だと思う……。ボクみたいなおとこ女には似合わないと思うんだけどなあ……」
 怪訝な顔を見せる宗佑の不安を取り除くように志穂は言う。
「着て来いって言われたんだろ? 持って行って大丈夫なのか?」
 志穂の言葉じりの弱さと宙を泳ぐ目線で、そしてあいつ等の考えそうなことを宗佑は察した。
「どこかで着替え用と思って……」
「俺んちで着替えて行けよ。どこかなんて、どうせ公園か駅のトイレで着替えようと思ってるんだろ」
 志穂の視線がクイッと動く。その仕草で宗佑は、自分の思っていた通りだと確信する。
「そんなとこより俺の家の方が清潔だし……」
 志穂は、すべて見抜かれている宗佑いうことを聞き、宗佑の家で着替えさせてもらうことにした。

「久しぶりだね、この部屋……。全然変わってない」
 小学生の頃、圭一と遊びに来て以来の宗佑の部屋を見渡す志穂。好きなサッカー選手の写真が貼られている壁と床に置かれているサッカーボールとサッカーシューズ。写真もサッカーボールもサッカーシューズも変わっているのだろうが、雰囲気は記憶に中にある部屋と同じだった。
「さっさと着替えろよ。遅くなると何か言われるぜ」
「う、うん……」
 志穂は着替えようと床に置いた紙袋に手を伸ばした。しかし、紙袋に伸ばした手が止まる。
「あっち向いててよ。ボクだって……、一応女なんだから……」
 着替えのため部屋を借りている身の志穂は、部屋を出ていてと言いたいところを抑えて後ろを向いていてと宗佑に言った。
「おっ、おお……」
 宗佑は、慌てて志穂に背を向けた。

 衣擦れの音が耳を擽る。宗佑は振り返りたい気持ちを抑えじっと我慢した。衣擦れの音が終わり、志穂の声がする。
「いいよ、着替え終わった……」
 振り返り目に飛び込んできたのは、キャミソールにミニスカートのロングヘアの少女の姿だった。化粧など必要のない整った顔立ちに、ブラが透けるほどの薄い生地のピンクのキャミソール、キャミとブラのストラップが走る丸出しの肩がまぶしい。キャミソールを押し上げる胸にいつものスポーツブラでなく胸元を飾るレースが大人っぽいブラジャー、括れた腰のシルエットが透けて見えている。視線を下に落とすと、風が吹けばヒラヒラと靡きパンツが見えそうな柔らかなフレアのミニスカート、その裾から覗くすらりと長い生脚が刺激的だった。着替え終えた志穂の姿は、宗佑の理想の女性像そのものだった。
「変だよね。ボクがこんな格好するなんて。まるでギャルみたい……」
「へ、変じゃない、似合ってる」
 宗佑は、変身した志穂に見とれた。小学生の頃以来のロングヘアの志穂、いたずらを仕掛けていた相手の志穂、あの時の少女そのままに成長した姿に生唾を飲み込む。
「好きだ、志穂……」
 宗佑は衝動を抑えきれず、志穂を抱き寄せ唇を重ねた。
「うううっ、うむむむむ……」
 志穂は、唇を塞がれ呻き声を上げながら宗佑の胸を両手で押した。しかし宗佑の力は強く、志穂の細い手では押し戻すことはできなかった。
(だ、だめえ! ……だめなんだから)
「ううっ、うぐぐ、うううう……、うぐっ、ううう……」
 口を塞がれた志穂の呻き声が宗佑の部屋に響いた。

 長い呻き声が終わり、宗佑の唇が離れる。志穂はゆっくりと宗佑の胸を押した。
「ダメッ、ダメだよ……。ボクには、圭一がいるんだから……。それに、そろそろ行かなくちゃ。アイツ等が待ってるから。遅れちゃう」
 俯いたまま、宗佑に告げる。
「帰りも着替えるとこ、無いんだろ? 無理にとは言わないが……」
「うん……。着替え、置かせてもらうね」
 志穂は床に着替えの入った紙袋を置き出ていこうとする。
「どうしても我慢できないこと要求されたら……、我慢できなくなったら……俺に言えよ。俺はどうなってもいいから、奴等ボコボコにしてやるから……」
 志穂の背中に宗佑は声をかけた。部屋を出ようとした志穂は足を止める。
「何言ってんの、そんなことしたらサッカー続けられなくなっちゃうよ。圭一だって、宗佑とサッカーしたいって思ってるんだから……」
 振り返った志穂は、宗佑に作り笑顔を残し出ていった。

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