ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 夏休みの恥辱3

 佐々木たちが待つ場所、佐々木の住むマンションの最寄り駅の駅前噴水に志穂は着いた。
「おお、来た来た。志穂ちゃん、こっちだよ」
 志穂を見つけた棚田が大きな声で呼ぶ。
「な、名前で呼ばないでください。知ってる人に気付かれたら……」
「ばれやしないよ。そのウィッグ着けたら、別人みたいだもん。清楚なお嬢様になるもん、志穂ちゃんは……」
「だ、ダメッ! 絶対ダメ……」
 志穂は慌てて周りを見渡した。幸い、志穂に気付いた人はいないみたいみたいだ。
「判った判った。じゃあ、何て呼ぼうか?」
 佐々木たちはニヤニヤしながら話し合う。
「すぐ逝くからイク子でいいじゃね」
「イクちゃんか。呼びやすいからこれでいいか。本当にすぐ逝くもんな」
 色々上がった候補の中から、他人には普通に聞こえる名前が選ばれた。

「あれえ? 顔が赤いよ。もう欲情してる?」
 棚田はニタニタしながら志穂の顔を覗き込む。
「ち、違う! こんな服……、恥ずかしいだけ!!」
 ミニスカートの裾を引っ張り、下着が覗かないように気を配りながら顔を背ける。イク子という名前の意味が志穂に恥辱を覚えさせ顔を赤くしていた。しかしそれを認めたくなかった。顔を赤くしているのは服の所為だと言い張った。
「似合ってると思うけどなあ、スタイル良いし、脚だって綺麗なんだから巨乳の志穂ちゃんには、へへへ」
「ダメッ、名前……」
「そうだったね。イクちゃん」
 棚田は周りに聞こえるように大きな声で志穂をからかった。

「なあ、夏休みに入ることだし、こんど海行こうぜ、みんなで……」
「いつ行く? 明日、明後日?」
「お前、いつでも暇だろ」
「そうだけど、イクちゃんだって心の準備ってもんがいるよね、俺たちみたいないい男と行くんだから。それにどの水着着るか選ぶ時間も……」
「そうだな。じゃあ、水着買わないとな、イクちゃんの……」
 棚田たちは志穂の意見など聞こうともせず盛り上がっている。
「そうそう、みんなで選んであげようぜ」
「ああ、じゃあ買いに行くか」
 棚田の提案に佐々木は同調した。
「あの店? あそこならイクちゃんに似合うのいっぱいあるでしょ」
「ついでに買いたいものもあるしな。イク子が楽しめるものを……」
 佐々木は意味深な言葉を残し繁華街の裏路地に向かって歩を進めた。

 佐々木たちに連れられ、繁華街の裏路地にある店に着いた。とても流行りの水着を売ってるファッションショップには見えない。何か如何わしい雰囲気が漂っていた。楠木はいつものようにカメラを操作し、志穂をレンズで捕らえている。
「なんなの? この店……。買い物するだけなのに、どうしてカメラで撮影するの?」
 志穂は怪訝な眼差しを佐々木たちに向ける。
「入いりゃ判るさ」
「そうそう。俺たち、イクちゃんとの付き合いをすべて記念に残したいだけ。一ヶ月だけの恋人なんだから……。最後にはデータも写真も破棄するからさ」
 そんな話信じることはできない。でも信じるしかない、圭一の為にも、宗佑の為にも……。何かあったら自分が悪者になれば……。志穂には佐々木たちの言うことを信じるしかなかった。

 店に入ると、スケスケのドレスやランジェリー、ボンテージウェアが所狭しと並んでいる。そして水着も……。早速、佐々木たちは水着コーナーで物色している。そこにいるだけで恥ずかしくなるような衣装に囲まれ、志穂は視線を床に落とした。それともう一つ気になることがある。店にいた客たちが志穂に纏わりつくような視線を投げ掛けてくる。頭の先から胸、腰、足の先まで舐め回すようなねっとりとした中年男たち視線を……。志穂は愛撫されるような視線に身体が熱くなる。

「いいね、この水着。イクちゃんに似合うんじぇね?」
 棚田が見ているのは、極端に生地面積の少ないビキニだ。トップは乳輪を隠す程度しかない三角形の布地が紐で結ばれているだけだ。アンダーも幅5センチほどの布地が紐と繋がっているTバックだ。それを着た自分を想像すると、恥ずかしさのあまりこの場を逃げ出したくなる。
「ワンピースじゃなきゃ着ない」
 志穂は佐々木たちに背を向け、強い口調で言い放った。
「ワンピースねえ。おおっ、この水着、いいんじゃね?」
 今度選ばれたのは全身シースルーで胸と股間の僅かな面積だけが花を模したレースで隠されているものだ。
「こっちがいいんじゃね? これもワンピースだよな」
「おおっ、これ、あの色気ムンムンのグラビアアイドルが着てたやつじゃん。いいねえ!」
 とても水着と言える代物ではなかった。ただのV字の紐としか思えない。胸と股間の部分が僅かに幅広になっただけの水着だ。股間を覆う布がV字に分かれ腰の横でお尻からの紐とクロスし一方はそのまま胸へ一方は背中へ、そして肩へと伸び背中へ回った紐と繋がっている。
「こ、こんなの着れるわけないじゃない。隠れないし、裸同然じゃない!」
「そう? イクちゃんは乳輪も小さいし、お毛々だってちょこっとしか生えてないから十分隠れるんじゃない?」
 棚田はわざと大きな声で喋った。その声は店の客に聞こえるほど大きく、店中に響き渡る。その声を聴いた客が好奇心に満ちた視線を志穂に投げかける。
(イヤッ、みんなこっちを見てる……)
 志穂は顔を真っ赤に染め俯く。
「どれがいい。イクちゃん!」
 店内に飾られている水着は、どれも男たちの欲情を掻き立てるものものばかりだ。
「どれもイヤ……」
 志穂は真っ赤な顔を俯かせたまま、消え入りそうな小さな声で答えた。
「そうはいかないんだな、海水浴に行くんだから。俺たちと……」
 佐々木たちは、布地の小さなビキニと紐同然のワンピースを手に取った。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊