ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 疑惑の日焼け跡1

 志穂は、胸と股間を帯状の布で隠すワンピースの水着で浜辺を歩いていた。サラサラのロングヘアを風になびかせながら歩く清楚な少女、しかし少し視線を落とせば大きく盛り上がった胸が人々を驚かせる。それも肉球はほとんど視線に晒されれいる。幅数センチの帯が首の下でクロスし、斜めに走り少し幅を広めた帯が肉丘の頂点を隠しているだけだ。胸の頂点を過ぎた帯は腰の横でクロスし、両サイドから股間へ向かった帯が恥部を隠すため股間で一本になっていた。少しずれれば股間を飾る繊毛はおろか縦裂さえ衆人に晒してしまいそうだ。後ろへ回れば、尻肉の隆起に沿ってサイドから回り込んだ細い帯一本になってお尻の割れ目を走り股間に消えていく。お尻の膨らみはすべて晒している。
 当然、浜辺にいるすべての人の視線を、前から後ろから集めている。

「あそこにしようぜ」
「ああ、ちょうどいいんじゃね。パラソルも立てれそうだな」
 志穂の周りを取り囲むように一緒に歩く佐々木たちは、ビーチパラソル、クーラーボックスを担ぎ楽しそうに喋っている。浜辺にいる人々の視線を一人集める志穂だけが顔を真っ赤に染め俯き加減だ。

 パラソルを立て、ビーチマットを敷く佐々木たち、その隣で視線を集め佇む志穂。清純で幼そうな顔立ちに似合わないエロチックな水着が否が応にも注目を集めてしまう。

「ひょうーー、かわいい顔して大胆!」
「オッパイ零れそう。お尻なんて丸出しじゃん」
 志穂の姿を見た男たちが、開放的なビーチの雰囲気も手伝って志穂を囃し立てるように喜声を上げる。その声に呼応してほかの男たちも振り返り、好奇の視線を投げ掛けヒソヒソと志穂をネタに話を始める。

「お前もあれくらい露出しろよ」
 カップルとすれ違いざま男の方が冗談交じりに笑いながら女に話しかける。
「イヤよ。あんなのただの露出狂の変態じゃん」
 女はすぐさま怒ったように男に応えた。
「でも、可愛い顔してるぜ。おっぱいも大きいし……」
「あんた、あんな変態が好きなの? 最低!」
 カップルは志穂に聞こえていることなど気にせずに大きな声で会話を続けた。
(イヤッ……、恥ずかしい。隠れたい……)
 恥辱から逃れたい気持ちが募るが、佐々木たちはそれを許す筈もない。握られた弱みをと盾に……。



 一時間前、志穂と佐々木たちは、海へと向かう車の中にいた。佐々木が家から借りてきた大型の高級ミニバンは室内も広く、暑い外とは対照的に快適な空間をもたらしている。

「志穂ちゃん、安心した? 車だから、知り合いに会うこともなく海まで行けて……」
「……」
 窓の外に顔を向け、志穂は何も答えない。これからまた、辛い恥辱の時間が訪れるのだ。海水浴に行くといっても浮かれた気持にはなれる筈もない。外の風景を眺めながら、時折、運転手の佐々木に目をやる。
「不思議そうな顔してるな。ちゃんと免許は持ってるぜ、俺。俺、四月生まれだから……」
 バックミラー越しに佐々木は志穂に話しかけた。
「免許取る為、こいつ授業サボりまくり。まあ、免許取らなくても授業サボるのは日常茶飯事だけどね。俺たち、へへへ……」
 詰まらなさそうに窓の外の流れる風景に目をやる志穂と対照的に棚田たちは浮かれた会話を繰り返している。
「もう着替えちゃおうぜ、志穂ちゃん」
 ビーチまで待ちきれない棚田たちは、志穂のために準備した水着をごそごそとカバンの中を探し始める。
「どっちにする? こっち? それともこっち?」
 棚田が取り出したのは、先日怪しい店で買ったスケスケのワンピースとただの紐としか思えないV字のワンピースの水着だ。どちらもとても着れたものではない。
「ボク、水着持ってきてるから……」
 しかしそれは許されないだろう。
「スクール水着なんてダメだよ。そんなダサい水着、俺たちの彼女とは認められないなあ」
 案の定、棚田はすぐさま注文を入れた。志穂が持って来たのがスクール水着だと言い当てて……。
「そうそう、早くどちらか選べよ」
 仲間たちも志穂にどちらかを着ることを強要する。
「いままで我慢してきたんだから、それを無駄にするのは勿体ないぜ。あと2週間ですべて終わるんだから……」
 棚田は、志穂に言うことを聞かせる切り札を出した。

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