ボクとアイツと俺
木暮香瑠:作

■ 求める肢体2

 志穂はやっと逝くことができた。
「はあ、はあ、はあ……」
 志穂は大きく息を吐き、天井を虚ろな瞳で見つめる。
「ボク、何してんだろ。オモチャで逝くなんて……」
 しかし、頭の中に虚しさともやもやが残る。今まで与えられた気絶するほどの絶頂ではなかった。ナマで逝くのと違い、温かみのないオモチャで逝く絶頂は疲労感だけが残り、膣の中を満たす満足感が得られない。バイブを抜いたあとの膣は、ぽっかりと穴が開いたような空虚感が逝った快感を塗り替えていく。
「どうして? ……」
 それどころか後ろめたさに志穂の心は苛まれる。圭一で行けなかった分をオモチャで紛らわしている自分に……。
「どうしてこんなに切なくなるの? ……どうして?」
 切なさは一層のもやもやした気持ちを志穂に残した。頭の中や心でなく、お腹の奥で悶々と蠢く何かを……。こんな気持ち、だれにも相談できない。ましてや大好きな圭一には口が裂けても……。

 唯一いるとすれば……、今の志穂の状況を知っている幼馴染、秘密を共有してる宗佑だけだった。

 志穂は両親に見つからないよう、そして自分だとばれないようウイッグを被り、家を抜け出した。熱帯夜の暑い空気の中、火照った身体の熱が冷めない志穂は、宗佑の家に向かった。

 志穂は玄関ではなく、明かりの点った宗佑の部屋の窓をノックする。窓をたたく音に気付いた宗佑が窓を覗く。
「!? 志穂、どうしたんだ? こんな夜中に……」
 声を掛けられた志穂は、ただ俯いているだけで何も話さない。
「まあ、入れよ」
 ただならぬ雰囲気に気付いた宗佑は、志穂を自分の部屋に招いた。

 宗佑の部屋に入った志穂。
「宗佑、一人なの?」
 志穂は、宗佑以外人の気配を感じない家で、確認するように聞く。
「ああ、お袋は墓参りに田舎に帰ってる」
「宗佑は帰らなくていいの?」
「俺が帰っても……、謹慎中の身だからな」
「そうなんだ……、あのね……」
 何か言いかけたきり、志穂は口籠った。床に座ったまま何も喋らなくなった。宗佑と目も合わせようとしない。沈黙に耐え切れず宗佑が口を開く。
「どうした? 佐々木たちに何かされたのか? 我慢できなくなったのか?」
 ビデオを見て何をされたのか知っている宗佑は、自分の言葉の白々しさに呆れる。が、他に掛ける言葉が見つからない。
 志穂は何も喋らず顔を横に振った。
「違うのか? じゃあ、言いかけたんだ? 何悩んでんだ?」
 宗佑が問いかけると志穂は、ポツリポツリと喋りだした。
「あのね……、今日、圭一とセックスした。ホテルで……」
 しばらくの沈黙を破って志穂が呟くように声を絞り出した。
「圭一は、……気持ち良かったって言ってくれた。でも……」
「でもなんだよ。恋人同士なんだろ? よかったじゃねえか……」
 宗佑は自分の好きな女が自分の友人と結ばれる悔しさを押し殺して心にもないことを言う。志穂は顔を横に振り言葉をつづける。
「もう一回しようって言ったら、圭一に今度にしようって言われた」
 志穂はふうーーっと大きく息を吐き俯いていた顔を上げ、天井を見つめ話を続ける。
「ボク、魅力ないのかなあ……。気持ち良く……なかったのかな……」
 大きな瞳を潤ませポツリポツリと話を続ける。
「圭一はボクを逝かせてくれなかった……。逝けなかったんだ、圭一とのセックスで……」
 見上げていた顔を俯かせたとき、溜まっていた涙が志穂の頬を伝って落ちた。

「宗佑……、セフレでもいいって……言ってたよね」
「えっ? ああ……」
 志穂の口から出てきた言葉に宗佑は驚いた。志穂を二度目に犯した時、意識がある志穂を初めて犯した後に志穂に言った言葉だ。佐々木たちに犯された後の志穂を見て欲情し、この部屋で志穂を犯し、宗佑が志穂に言った言葉だった。忘れる筈がなかった。
「身体がモヤモヤしてる、ボク……」
 志穂はぎゅっと自分の身体を抱いて訴える。
「どうしようもなくお腹の奥がウズウズしてる、我慢できないほど……。耐えられないんだ」
 背中を丸くし臍のあたりを手で押さえる志穂の声が震えていた。
「オナニーじゃダメなんだ。バイブを使ってもダメなんだ。変だよね、ボク……。でも逝きたいんだ」
 次に発する言葉の恥かしさから頬を赤く染め……。
「宗佑、ボクとセックスしてくれない? セックスして……」
 志穂のまっすぐな目が宗佑を見つめている。
「逝かせて欲しい、ボクを……。逝きたいんだ、ボク……」

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊